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コバリ・アオヤマの華麗なる黙示録(疾風編)  作者: マツモト・ユウイチ
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天一六

「今から300年前」

「世界を滅ぼそうと『暗闇』を操り、『地獄の門』を開くマラヤ・マリナラに」

「北大陸の多種多様な民族を率いて、聖イリヤは敢然と立ち向かい」

「最終的にはマラヤと『地獄の門』を葬り去るため、その身を捧げた」

「その後、戦後当初の混乱を、テンマ様の尽力、トマス博士の叡智で乗り越え」

「そして近年、マリア殿によりほぼ全ての内乱は収まり」

「現在、我々は歴史上、最も安定した社会に生きる幸福を享受している」


 本来なら、今更どうした?というところだが、隣に腰掛けるのは教会警備隊本部本部長。そして、議長、本部長とも先程までコバリ・アオヤマと何やら協議していたと聞いている。何の関係もない話を、この聡明な中央評議会議長が、今ここでする筈もない。とアゲリム官房長官は議長の次の言葉を待つ。

「この10年で」

「3人の稀人が顕現したのは、こちらとしては幸いだ」

「幸いとは?」アゲリムが問う

腕組みして、フーっと長い溜息をつく議長

「今後起こるであろう災厄を祓うためには、相応の備えが必要、ということだ」


「300年の安寧は」

「もう終わり、だ」



 これで3回連続的中。マリアとそれに乗っているアズマの前にチップが見る見る増える。

そして、隣に座る身なりの良い夫妻らしい2人も「こちらのお嬢さんに通り一丁で」と乗っかってきた。

それでも無表情の胴だが、合力に「ゲンなおしだ」と新しい繰札を頼む。

 そして新しい繰札の封を切ると、何回かシャッフルし、その内の1枚を、表を確認せずセットし、ムッツリとしたまま腕を組む。

 要はマリアと同じ様に、ということだ。後ろに控える盆守から、何か指示があったのだろう。フッと微笑み、張札をシャッフルしながら隣の夫妻に尋ねるマリア

「どうします?」

隣の夫婦は黙って微笑みチップを置く。降りない、ということだ。

他の張子は、勝負にならない、と(ケン)だ。このセットは胴とマリアの一騎打ちとなった。

マリアは1枚、例によって表を確認せず張札をセットする。


合力が声を上げる「揃いました!」「開きます!」

全員が注目する中、胴が繰札を捲る。

「サン!」「3です!」

これはいくつでも問題ない、何が出るかはどうせ運任せなのだ。

そしてマリアが張札に手をかけ、

すり替えなどのイカサマはしてませんよ、アピールで努めてゆっくり裏返す。

張子一同に胴や合力も穴が開くほど注視する。何も不審な動きは無い。


そしてもちろん、張札は「3」

わぁ!っと張子側から歓声が上がる。

張子側の盛り上がりに対して、胴と合力は氷点下のように冷たい雰囲気を纏う。

余裕のマリアが落ち着き払った態度で振り向き、敷張を呼ぶ

「私にも新しい張札をお願い」

特に変える必要は無いのだが、胴に対する当てこすりだろう、コワイコワイとアズマ。

チラリと盆守を見た合力が声を上げる

「サア、もう一丁!」

続行だ。新しい張札を受け取り封を切ると、札を改めるマリア。

 張子一同は、マリアに「通り一丁」。皆、席を離れマリアとアズマの後ろを取り囲むようにして並び、勝負の行方を眺めるギャラリーとなる。

 先程同様、シャッフルした繰札から1枚、数字を確認もせず、セットする胴

同じく新品の張札をシャッフルし、表を見ずにセットするマリア。

「揃いました!」「開きます!」

全員がグッと身を乗り出し注視する。胴が繰札を捲る。

「サン!」「3です!」

先程と同じ、だがもちろんそれはどうでもいい。


「さて」と、改めて肘まで袖を捲り上げ、マリアは右手一本でゆっくり張札を捲る

もうここまで来たら、皆が確信していた通り。張札は「3」

オォッと、張子一度から歓声が上がり、憮然とした合力が配当金を張子の前にレーキでスイスイと置いて行く。あれだけあった胴前が一気に減り、ほぼ潰れる。

腕組みして目を瞑る胴、下でも見た光景だな、とアズマが思っていると、ゆっくりと盆守が後ろからマリアに近付く、その迫力に、サッと張子の皆さんが避け道を開けると、振り向くマリアに声を掛ける。

「お嬢さん」先程まで、よりも1トーン低い声だ

「何でしょう?」

「あまり、調子に乗るなよ」

「今日はすごくツイてる、それが何か?」

「いくらなんでも、やりすぎだ」

「私がイカサマをしている、とでも?」

「ま、これから、じっくり話、しようや」

-本性を現してきたッス!

-まぁ、どー考えてもおかしいもんな!

-でも、どうやってるか分かってねぇでしょう

-そりゃそうだろうな!


 フンッという感じで、盆守がマリアに迫る。が、

「予め言っておくけど」全く怯む様子もなく、逆にグッと盆守に顔を近付けるマリア

「私に触るな」

盆守から敷張一同を睨めつける

「お前ら全員畳むぞ?」

なんだこの小娘は、と周りを囲む敷張の殺気が一気に上がる。

あーあ、やってくれるぜ、と下手に手出しもできないので黙って座っているしかないアズマ。

 ジリジリと2人から距離を取って眺める張子一同は、ドスを効かす盆守に対し、正面から睨み返す黒髪の可憐な美少女と、これまた泰然とし動じない少年、という異質な存在を目の当たりにし、これから何が起こるのかワクワクしているようだ。


まさに一触即発、といった雰囲気の中、

まるでタイミングを見計らったかのように、出入口の銀色に輝く大扉がスラリと開く。


「アラ」

「何か揉め事かしら?」

 一同が注目する中、両脇に黒服2人を従え、金髪ツインテを靡かせて、何の躊躇もなくカツカツとフロアを闊歩し、盆守とマリアのすぐ隣まで来て、両名に微笑みかける。

-グッドタイミングッス!

-何言ってんの、分かってたんでしょ?

-モチッス!

見た目は無表情を崩さず、かつ盆守を睨んだままのマリア

「コイツらが、私の勝ちにケチをつけてきたんです」

 盆守の後ろに控える敷張たちは、先程までは今にも飛び掛かってきそうな気配を醸し出していたが、今は明らかに引いている。

 黒服こと教会警備隊別動隊第1班のツートップ、ガンデとメルナはその筋では有名だ。このフロアの敷張や警備員は、街のチンピラではなく、軍人や警備隊くずれなど腕に覚えがある連中だが、逆にある程度の実力があるので、この2人には逆らってはいけない、と分かっている。

 コバリから一歩引いた位置で、周囲に睨みを利かせるガンデとメルナ。鋭い目付きで隙無く周囲を警戒しながらも、内心では、黒髪のマリア様も可憐だな!ちょっと怒ったお顔も可愛らしいな!とか思っている。

「あら、それはいけないわね」盆守に視線を移すコバリ。

「何故そのようなことになったのか、ご説明いただけるのかしら?」

 盆守は体勢を整え、突如現れた少女に相対する。金髪のツインテール、白い肌、そして何より虹彩異色の両眼。スウッと細める右眼が深紅に輝く。

 この場にいる誰しもが概ね、本人を見るのは初めてだが、北大陸に生活している者なら、ほぼ知らぬものはいない。6番目の稀人。

 盆守は内心では、何故、今、此処に?どうして下から連絡がきてないんだ?と憤りながらも、表面上はにこやかに応対する

「お初にお目にかかります、当方は此処の盆守でございます」

「今晩は、私はコバリ・アオヤマ」優雅に会釈するコバリ

「今日はちょっと、この子達と遊びに来ました」

 この子達、ことマリアはコバリに寄り添い盆守に微笑む。アズマは座ったまま、今更だが軽く会釈する。

「こちらのお二人は、お連れ様でしたか」

おやまぁという感じの盆守だが、内心では面倒な事になった、と考えを巡らせている。

コバリの後ろに控えるのは黒服だけではない、やっかいな男も連れてきているな、と。

-後ろのお供は誰だ?

 もちろんそれなりの人物なのだろう、と不躾に視線を送るのは控えて、コバリに問うアズマ

-ああ、彼はこの辺のカオなのよ。

 コバリの後ろに控える北方系の青年紳士は、どう見てもカジノのカオ、というよりは官公庁の高官、といった雰囲気だ。そんな彼が少し前に出て

「盆守」

「立ち話もなんですから、どこかで落ち着いてお話しませんか?」

と穏やかな口調で提案する。

 ああ、なんかこういう人のほうが怖いな、と思うアズマ。目が合ったので軽く目礼する。

そうですね、ではこちらへ、と盆守が一同をフロアの窓際に設えられているラウンジへと誘う。

そこで場内のセキュリティ・センターから、盆守や敷張、場内警備員全員に緊急連絡が入る

『黒髪の女に絶対手を出すな』

『そいつはマリア・クシナダだ』

 無表情を装う一同だが、一気に緊張感が高まる。が、なるほどと納得してもいる。こんな小娘にしてはあまりにも肝が据わっていると感じていたが、実力に裏打ちされた自信からくるものだったのか、と。

 この世界では死刑制度が廃止されて久しいが、凶悪な犯罪者など捕縛時に『行方不明』になるのは今でもよくあることだ。そして基本的に稀人には現行、法律は適用されない、つまりマリアが先程言っていたように、下手に手出しして「畳まれて」も闇から闇だ。

 逆らったところで意味は無い、一瞬で場内全員皆殺しも有り得る。ここで立っている意味はもうほとんど無いが、これも仕事と割り切る敷張と警備員たち。


-正体バレたみたいッス!

周囲の気配を察するマリア

-そりゃ、そうだろうな!

身分を隠すわけでもなく、ドS金髪が普通に入場して来たしな!

「何?」

ソファに腰掛け、細長いグラスでスパークリングなフルーツティーを嗜むコバリ

「いやぁ、別にぃ」

 マリアとともにキンキンに冷えた麦汁を一気に呷るアズマ。異様に美味い、喉が渇いていたようだ。

 ブロミネ補佐官については、先程、席に着いた際にコバリから紹介された。

金融庁から「今は中央銀行に出向中です」と穏やかに微笑む。見た目通りのエリート公務員だ。仕事については「まぁ、いろいろやらせてもらっています」とのこと。なるほど、今日もいろいろやってくれそうだ。

 ということで、ここでの話も進行はブロミネだ。マリアと盆守の話を聞いて、

「如何に勝ち続けていたとしても」

「お客様に対して、明確な証拠も無しに勝負の無効を強制するのは、セリナンソス自体の信頼を損ねる結果となりますので、お控え願いたい」

ピシャリと言い放つブロミネ。理にかなっている。渋い顔で頷く盆守。

 この面子で詰め寄られたら、カジノ側としては引くしかない。公認のカジノは金融庁の下部組織であるカジノ管理委員会の管轄だ。下手に逆らうと業務停止命令が飛んでくる。そういう相手だ。

 まぁまぁ、と話に割って入るコバリ

「あなた達もやりすぎだったと思うわ」

「弁えないと」

ねぇ、と盆守に微笑むコバリ。そうですね、と微笑み返す盆守だが、逆に何か怖いな、と若干引き気味だ。

 テヘッという感じで肩を竦めるマリア。知らない人が見たら可愛く見えるのかもな、と思うアズマの後方、ガンデとメルナは、なんて可愛らしい!と膝をつきそうになるのをグッと堪え、内心では、「写真(ピクチャ)」の生体回路(サーキット)を持ち合わせていない自分達に悪態をついている。


「あなた方も、このままじゃ面白くないでしょう?」

コバリは盆守に正対して、小首を傾げて微笑む。

「この子達の勝ち分に上乗せして、私とサシで勝負しましょう」

口を開こうとする盆守を、制して

「大丈夫、もうこの子らには手出しさせない」と続ける

すかさず、何で勝負されますか? 

と、まるでもう勝負するのは決まっているという体で、ブロミネがコバリに問う。

「そうね」ちょっと考えるフリをするコバリ

「イチロク、でお願いしようかしら」


-イチロクって?

-手本引きの札使った丁半ッス

-サシの一発勝負とかで、良く使うヤツッスね

 「天一六」とも呼ばれるこの賭けは、胴が置いた札の偶奇を張方が当てる、という非常にシンプルなものだ。

張方は奇数と思えば「1」、偶数と思えば「6」を張る。

-なるほど、だからイチロクか

-確率は完全に50%ッスけど、大体は億単位の大口同士の殴り合いになるッス

期待値は高いが、気軽に参加できるようなものではない。

そして今回は相手がカジノになるので、かけ金の上限ナシ、青天井になるようだ。

ブロミネが、一応、確認しておきますが、と前置きし

「慣例通り、負けている側が、止めるまで勝負は続行ということでお願いします」

と薄っすら微笑む。

 まぁ、いつものことだと盆守は頷く。そう、勝ち逃げはよくないのよ、とマリアを嗜めるコバリ。ハーイ気を付けまーす、と特に反省した風もなく元気に答えるマリア。

 これから億単位の博打するんだろ?もっと緊張しろよ、と心の中でツッコむアズマ。


「それでは、早速」一同を誘う盆守

イチロクなら勝負は速い。正直、さっさと帰ってもらいたいのだ。

「参りましょう」ラウンジエリアから更に奥、重厚な木製の扉へ向かう


-さて

-いよいよ、本番ッスね!

-そうね

-博打に強い、とはどういうことか

-嫌と言うほど、分からせてあげるわ


表面上は上品に微笑むコバリとマリアの2人

 うわーおっかねぇヤツらだなぁ、と思いながらも今更どうしようもないので、泰然とした表情で後に続くアズマ


そして扉は開く



「ミロク?」

「そ、コバリ達が付けてくれたの」

「この身体用の、新しい名前だって」

「ふむ、なるほど」

「コバリとテンマは」博士の作ってくれたホットチョコレートを啜る少女

「この名前の意味は、博士には分からないかもって」

「ああ」

「私はドイツ出身ですしね」

「?」

「ドイツ、というのは私たちの元いた世界の国の名前です」

「あなたはコバリたちは違う国の出身ってこと?」

「そうですね、彼ら4人は全員、日本、という国の出身です」

「ふーん」

「日本って、超大国だったの?」

「いえ」クスッと笑う博士

「極東で特異な地位を築き上げていましたが、大国という訳ではありませんね」

そうなの?と小首を傾げるミロク

「さほど大きくは無い特定エリアから」

コポコポと自分のコップにお茶のおかわりを注ぐ博士

「4人の稀人が顕現しているのは興味深いですね」

何か御存じなのでは?とミロクを見る

肩を竦めるミロク

「私があなた達を呼び寄せた、という訳ではないのよ」

内心では本当か?と思いながらも、それ以上は問わずに、ミロクの空いたカップを見て、部屋の隅に設えられている小さなバーカウンターで、ホットチョコレートを作り始める博士

「あ、ありがとう」

空いたカップを差し出すミロク

「遥か未来、末法の世に生まれ出て、世界を救う存在…」

ミルクを温め、チョコを溶かしながら独り言のように呟く博士

「あら」

「知ってたのね」

「あぁ、はい、私は日本にも住んでいたことがあるのですよ」

 日本に住んでいたからといって、ドイツ人が皆、弥勒菩薩に詳しくなる、という訳でもないが、そういうものなのかと納得するミロク

 やはり「日本」に何かあるのか?と考えを巡らせながらホットチョコレートをかき混ぜる博士

そんな博士の後姿を眺めながら

「救世主、か」

と椅子に凭れかかり、目を瞑ってボソッと呟く少女

「私はそんな立派なものではないわ…」


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