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コバリ・アオヤマの華麗なる黙示録(疾風編)  作者: マツモト・ユウイチ
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それぞれの晩餐

合力2人と敷張は極東の巻角族なので「通話(コール)」で何かやりとりしている。

当然マリアも気付いているはずだが、素知らぬフリだ。

 アズマの持っている通信機は特別性なので、まず、盗聴されるようなことはないのだが、今は、なんとなくマリアとの通信はしづらいなぁ、と特に何も聞かない。

今までの出目は5,3,1,5,2

 胴は無表情で繰札をセットする。この程度で動揺などしないようだ。が、賭場の管理者的にはちょっと見過ごせない状況、と判断したのかマリアの真後ろに敷張が立つ。けん制のつもりだろう。

 もちろん、マリアは全く意に介さず、先程と同じく、軽くシャッフルした後、積んである張札の1番上の札を、表を確認せずにそのままセットする。

 えーマジかよコイツと思うアズマの隣に座るおじさんが、合力に声を掛ける。

「そちらのお嬢さんに、通り1丁」札は張らずに、10万のチップを目の前に置く。

通り1丁、とはツイてる人がいる場合、その張りに丸乗りする、ということだ。

マリアが当たれば、おじさんに同額の配当金が渡される。ちなみに遠慮して半額だけ乗る、場合は、通り半丁、と声を掛ける。

「よろしいですかな?」マリアに同意を求めるおじさん。乗っかる相手に同意を求めるのは、賭場における礼儀だ。

「ええ、もちろん」微笑み返すマリア。マリアには損得関係ないので拒否する必要はない。

テーブルの下でマリアが小突いてくるので、アズマも

「俺も通り1丁で」と乗る。と、「では私も」「俺も」と北方系のこなれた感じの御婦人とその旦那?らしき2人が乗ってきて、マリアによろしくお願いします、と頭を下げる。

 もはや誰もマリアを見た目通りの小娘とは思っていないだろう。

札を全く見てない、運任せですよ、正気ですか?とツッコみたいところだが、無言で自分のチップを置くアズマ。

 どう転ぶのかな、と思っているようで張子の3人ほどは見にまわり、このターン、セット完了

合力の掛け声とともに、胴が札を開く。

「ニ!」「サア、2です!」

え、ここで同じ目続ける?と意表を突かれるアズマ。自分の考えで張らずによかった。

 マリアは袖を肘の上まで捲り上げ、両掌を広げ上に向け卓上に置いている。イカサマなんかしてませんよアピールだ。そして合力に

「なんなら私の札、開きます?」と余裕で微笑みかける。

「いえ、どうぞ」と微笑み返す合力だが、目は全然笑ってない。

マリアはゆっくりと張札を返す。もちろん「2」だ。

 張子からは一斉に「ホゥ」と低い歓声が上がる、一方、胴や合力は氷のように冷たい表情だ。

「サア、次、行こう!」と声を張る合力

 その間もせわしなく「通話」している。外部とコンタクトしているようだ。たぶん監視カメラの画像を確認しているのだろう。

「今日はツイてるな」マリアに微笑みかけるアズマ

-どういうつもりだ?

「そうね、アナタ。こういう日もあるわ」パチッとウィンクしてくるマリア

-こういうコトを続けると、さて、どうなるでしょう?

「楽しそうだな」

-経験は無いけど、コワイお兄さんとかが出てくるんだろ?

「ええ、アナタ」

-正解ッス!

 相変わらず無表情のまま、胴が繰札をセット。こんな得体の知れないヤツと相対しているのに、スゴイ胆力だな、と感心するアズマ。

 張子が全員手を挙げ、告げる。「通り1丁」だ。

マリアは素知らぬ顔で、微笑みながら張札を軽快にシャッフルする。

-ああ、来たッス

何が?と思ったら部屋の入口にいつの間にか人影があった。

 薄くなりかけの金髪をオールバックにした大柄な北方系の紳士。見た目は壮年といったところで口元に微笑を湛えてはいるが、碧色の瞳の視線は鋭い。そして後方には、上下ともシャープな黒装束を身を纏う極東巻角族の戦闘力が高そうな女性型2人を従えている。

 とりあえず部屋へ入ってくる気配は無い、このターンの邪魔はしないようだ。

張子の皆さんは、何も言わないが、一気に場の緊張感が高まるっている。

 しかしながら、もちろん全く動じることなく、シャッフルした張札6枚を目の前に積み、例によって一番上の札を見る事も無く、そのままそっと1枚張るマリア。

ゆったりとした動きに不審な点は一切無い。「どう?」と言う感じでチラリと合力を見る。

「揃いました!」

「開きます!」努めて威勢よく叫ぶ合力

胴がゆっくりと繰札を開く

「イチ!」

正直、もう繰札の出目はどうでもいい。マリアは自身の札を見ずに張っているのだ。

「では、こちらも」ゆっくりと札を持ち上げ

「開きます」皆が注視する中、なんということもなく、張札を捲るマリア


もちろん張札は「1」

オォ!と張子一同から歓声が上がる。

目を瞑り、むっつりとした感じで腕を組む胴、もうお手上げという感じだ。

敢えて無表情の合力が、配当のチップを全張子の前にスイスイと配る。

胴前がほぼ消えた。もう続行は不可。胴が潰れる、というヤツだ。


 そして張子の興奮も収まった頃、入口からゆっくりと例の紳士が入って来て、マリアの斜め後ろで立ち止まる。

「お嬢さん」マリアに見た目通りの渋い声で話しかける。

「胴も潰れたようなので、ここで一旦、休憩でもいかがですかな?」

「そうね」フッと微笑み張札を置くマリア

「ところでアナタは?」

「こちらで、盆守を任されている者です」恭しくお辞儀をする紳士。

 つまりはこの「手本引き」の場における責任者だ。狭い室内で盆守、合力、敷張にぐるりと囲まれるマリア。

 うわーおっかねぇ、と内心ビビりまくるアズマだが、隣に座るのは世界最強、マリア・クシナダだ、オタつくわけにもいくまいと平静を装う。

 周囲の張子はさすがに盆守登場に少しヒヨって、遠巻きにその光景を眺めるだけだ。

「ちょうど良かったわ」余裕の微笑みのマリア

「そろそろ晩御飯をいただこうと思っていたの」

「ねぇ、アナタ」

「…そうだな」

「でしたら、ご案内いたします」

どうぞこちらへ、と盆守。

うわー、不味いメシになりそー、と思いながらもしょうがないので席を立つアズマ

-さ、ゴハン、ゴハン♪

-えー、なんで浮かれモードなんだよ

「チップ、預かっといてね」と合力に微笑み、ピョコンとマリアも席を立つ。

 カジノの強面に囲まれても、全く動揺の色を見せない、年若い美少女と美少年のカップルを、やはり只者ではないな、と興味津々で見送る一同。

 顔馴染みの常連が合力に声を掛ける。

「あの2人は何者なんだい?」

「さぁ」肩を竦める左の合力、右の合力は、目を瞑り腕組みしている胴の肩をポンポンと叩いて労っている。

「堅気じゃあないのは確かでしょうけど…」

アズマとマリアのチップをレーキでスイスイ引き寄せ積む合力。

 イカサマ監視用に天井に仕込んである高精細監視カメラの画像を、保安部に確認してもらったが、何も不審な点は無かった。

 しかしながら、単なる運だけで、あの連勝はあり得ないだろう、とこの場にいる全員が思ってはいる。

「どうやったのかはわからない」胴が重々しく口を開く

「だが連中の目的は明白だ」ただ稼ぎたいだけなら、あんな派手なことはしない。

「というと?」

「上、に行きたかったんだろうさ」




「そういえば、奥様はお元気?」

 ゲンマとベイリーは、予定通り、教会警備隊の宿舎から少し離れたちょっと良いレストランで吞んでいる。

「ええ、娘ともどもね」グイッとグラスを空けるベイリー

 ちょっと考えて、テーブルに並んでいる何本かのボトルから、柑橘系発泡酒を取り、自分のグラスにドボドボと注ぐ。

 極東地域の巻角族は8割以上女性型なので、女性型の同性婚は珍しくは無い、というかむしろ異性婚より多い。ベイリーのパートナーも海上警備隊所属だが、総務関係の事務職だ。大隊長であるベイリーと比較すると、家にいる時間が多くなるので家事全般、自然と彼女がこなすことになる。ベイリーが男前キャラということもあり、ついゲンマも「奥様」と呼んでしまう。

「今後の情勢によっては、どこか他所へ行かせなくてはならないかもな」

開戦、となれば極東の海上警備隊主戦力が駐留するジャイアプールは安全とは言えない。

「うーん、そのことなんだけど」

 このレストランは警備隊御用達、そしてもちろん2人が居るのは個室、ここでの話が外部に漏れることは無い。

「こちらにはマリア殿がいる」

 世界最強マリア・クシナダ。彼女の全能力は公表されてはいないが、あのアルハンゲスリンク戦以降、あらゆる武装勢力は彼女が登場した途端、無条件で降伏するようになった。何故ならば抵抗してもムダ、ということが周知されたからだ。

 マリアは基本、相手を殺さないが、それは圧倒的力量差から生じる余裕だ。殺さない、とはいえ容赦はしない。下手に抵抗しようものなら、四肢を粉々に砕かれ、辛うじて生きているだけの肉塊にされる。

 そしてそういう連中は、大抵、第一級懲役を課せられる。健常者でも5年以内の生存率が50%以下という苛烈な重労働は、ゲンマから言わせると死んだほうがマシ、だが死刑制度はテンマ・オダギリにより200年以上前に廃止されている。

 砕かれた四肢はもう2度と元には戻らず、満足に動けない状態で放り込まれる苛酷な現場では、周囲の囚人にも疎まれ、殴る蹴るの暴行を受け、人間便器にされた挙句、大抵は1年以内に「不慮の事故」で亡くなるらしい。

 これはほぼ真実の話らしいが、積極的に流布されているフシがある。一種の抑止力だ。


「それでも戦争を仕掛けてくるかしら?」

 噂はともかく、少しでもアルハンゲスリンクを知るものが、マリアに敵対しようなどと思うだろうか?

「私なら、そんなことはしない」肩を竦めるベイリー

 時を止める、と言われるマリアには相手の人数など関係ない。そして普通の感性なら、一瞬で100人程度が肉塊になれば、味方が何千人いたとしても戦意など消し飛ぶだろう。

「だから、正面切っての宣戦布告、ではなくテロ攻撃なんじゃない?」

「なるほど」

「しかも、自然災害を装うとか、手の込んだマネをして」

「各地で謎の行方不明事件も頻発していると、聞きますしね」顔を顰めるゲンマ。

相手は、ジワジワ削ってくる策を採っているのか?

どういうつもりか知らないが、嫌なやり方だ。

 

「まあ、この話は止めよう」グッと杯をあおるベイリー

「酒が不味くなる」

「そうですね」

「マレッサは」お店の奥の方を見るベイリー

「うまくやっているかな」

「もちろん」

 博士とマレッサはゲンマ達が今いるレストランの、一番奥にある個室へ入っていった。遠くから邪魔しない様にそっとその様子を2人は見守っていたが、マレッサの外見の仕上がり、立ち居振る舞いは文句のつけようがなかった。

「問題ないでしょう」

ゲンマに、ウンウンと頷くベイリー。

 今日明日でどうこう、という事ではないのは、マレッサもゲンマも重々承知しているが、やはり個室で2人きり、というのは奮い立つ状況ではある。

ゲンマとベイリーは、マレッサの健闘を祈り、再度乾杯、杯を空けた。



 マカグナは現在、そのレストランの個室エリアへの入口が見える、目立たぬ一般のテーブル席に1人座っている。この店は少し中心街より離れるが、料理に定評があるので、満席とまではいかないが、なかなか繁盛している。今週は各方面からのゲストも多いので当然か、と一応、ぐるり周囲を警戒するが、このレストランの個室エリアのセキュリティは信頼できるし、何より個室エリアにはゲンマとベイリーがいる。

 そんなに気張ることもあるまい、とマカグナも、その定評のある料理による晩御飯を堪能中だ。スープは季節のキノコをベース3種類の豆を粗めにすって加えたもの、複雑な香辛料の香りが立つ中、魚介のダシも感じる。一通り味わってから、仔細に食材を確認する。

博士の料理番でもあるマカグナは外食の際に、美味しい料理の分析は欠かさないのだ。

 それにしても、と料理を分析しつつ思い返すマカグナ。

 今日、博士とともに教会警備隊宿舎に迎えに行った際のマレッサは見た目、立ち居振る舞いとも申し分なかった。きっと今頃は博士と楽しいお喋りで盛り上がっていることだろう。もっとも、博士とマレッサの楽しい話、は一般人には理解できないレベルの可能性が高いが。

 マレッサ自身はあまり自覚は無いようだが、一部の関係者には龍の巫女ゲンマ・ビエントと並び、極東の俊英として名を馳せている。

 マカグナも、もちろん噂では聞いていたが、実際に目の当たりにした2人は、タイプは異なるが若くて見目麗しい女性型。特にマレッサについては、マカグナの中で警戒レベルが上がった。

 博士はこの世界で2回結婚しているのは周知の事実なので、時折、博士に言い寄ってくる不埒な輩がいる。父親の代から博士に仕えるマカグナ家はそのような相手から博士を遠ざける責務も担う。

 無論、ある程度の地位と教養がなければ、博士に近付くことも難しいのだが、たまに才気溢れ容姿に優れ、ある程度の地位もある女性が近付いてくる。大抵は野心家で、自分はレムルス初代所長同等と勘違いしていたりする。

 そうゆう場合は、近寄らせてしまうと扱いが面倒になるので、早め早めに対処する必要がある。

 初めてマレッサとゲンマが中央の別邸を訪れた際、マレッサの人となりを確かめようと、食事の支度中など、隙を見て話しかけてみた。

 そして、マレッサが博士の信奉者であることはすぐに分かった。自分と同類だ。


「トマス博士の業績集でしたら、学生時代に全て読みました」

当然でしょう、という表情のマレッサ

「時間があれば、あなた、図書館で読み耽ってたわよね」

それは当然ではないわよ、とゲンマ

「だって、あの分厚い本を持って帰るのは大変じゃない」

簡易版の要約集ではなく、教会出版部発行の全50巻、正規のほうだ、と理解する

「あれを全て、読んだのですか?」

「もちろん。あれは全国民が読むべき著作です」

聖典と言っても良いでしょう、と目を瞑りウンウン頷くマレッサ

 数学、論理学、統計学、物理学、化学、天文学、地学、生物学、医学・薬学から、経済学、文化人類学、心理学、哲学、法学まで、ありとあらゆる分野を網羅し、全ての学問の基礎である、という点では聖典と言っても良いだろう。

 だが、一般人はもちろん、専門家でも自分の専門外の内容は理解できないでしょう、と思って訊いてみると

「理解できない、ということはないでしょう」またまたぁ、という感じのマレッサ

「全て定義や基本から系統立てて説明されているのですから」

肩を竦めるゲンマ

「読んでもわからない、という場合もあるのよ」

フツーの人はね。とマレッサを諭す。

なるほど、とマカグナ。

中央技術研究所の主席クラスと同じだ、何故分からないのかが分からない、というヤツだ。


その日の夜、皆が帰った後、

「今日の4人は」博士がマカグナに語る

「コバリ君とアズマ君は言うまでもないが」

「全員、次代を担う存在となるだろう」

稀人2人に「龍の巫女」は当然として、マレッサについては

「マレッサ君は」

「現在、北大陸ではトップクラスと評価しても差支えないだろう」

頭の良さが、という意味だ。慎重な博士としては、最大限の賛辞と言えるだろう。


もちろん既に、主席クラスも気付いている。彼らレベルなら、少し会話すれば分かるのだ。

 ということで、水面下ではマレッサの争奪戦が繰り広げられているらしいが、当面の業務内容から、今のところセクション3のアルソス主席が一歩リードだ。

 しかしながら、ラカビナ所長は「機械工学など通過点だ」と余裕の笑みだ。

生体回路(サーキット)と、稀人の存在は、博士でさえも解明できていない、この世界最大の未解決問題だ」

「彼女がこの問題に取り組まないわけがあるまい?」

セクション4を彼女に任せて、自身は所長に専念、との目論みのようだ。


 メインの魚と、もう一品、軽めの肉料理をいただいて、食後のお茶を嗜んでいると、個室エリアの入口に博士が現れた。想定よりも早いな、と思いながら素早く席を立ち博士のもとへ向かう。博士の後ろにはマレッサが控える、若干上気した頬。両人とも機嫌は良さそうだ。

「マレッサ君は、この後ゲンマ君たちと帰るそうだ」

淑やかにお辞儀するマレッサ

「本日はご馳走様でした」

 それではまた明日、とその場で別れる。マレッサは気付かれないよう、ハンドサインで「首尾は上々」と知らせてきた。何よりだ。後でメールでも連絡がくるだろう。

 

後部座席に博士を乗せ、マカグナは滑らかに防弾軽装甲車を操る。

先程までの柔らかい雰囲気から一変、博士は後部座席で沈思黙考だ。

何かあったかな?と思っていると博士が声を掛けてきた

「帰ったら、少し執務室に籠る」

「君はもう休んで良い」

「畏まりました」

 マレッサからは、早速、本日のお礼メールが届いている。様々な事柄について貴重なお話が伺えた、と喜色満面の様子だ。しかしながらディナー終盤、博士にどこからか連絡があり、それ以降あまり博士の顔色が冴えない、と、ちょっと心配している。

 予想よりディナーが早めに終了したのは、そのせいか?とチラリと後部座席を見る。

座席に埋まるように腰掛け、腕を組み目を瞑る博士がボソリと呟く

「いよいよか」

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