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コバリ・アオヤマの華麗なる黙示録(疾風編)  作者: マツモト・ユウイチ
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かやせもどせ

 ここは中央(セントラル)の港湾西岸に位置する漁港地域。市街地から離れた西側の海上には養殖用の巨大な生け簀がいくつも設置されており、海藻などの浮流し養殖用の筏も数多く浮かんでいる。

 海苔の養殖が軌道に乗って安定供給されるようになり、はや50年。昔は手摘みの高級品で滅多にお目にかかれなかった海苔を手軽に食べられるようになったのは、中央技術研究所、水産省、漁協の皆さんの努力の賜物だ。

 ありがたいことだな、とパリパリの海苔を巻いたおにぎりを、モグモグと食するマコル・ハイナル。マコルの正面に座る2人も、やはり海苔が違うと断然美味しい、と満足気におにぎりを頬張る。

「さすが本場といったところですね!」

「ジャイアプールでも普通に出回っているでしょう?」

「そうなんですけど、香りと食感がダンチです!」

「まぁ、ここは海苔屋さん直営ですから」

「お土産に、ここの海苔買います!」

 木製の年季の入ったテーブルが10卓程度並ぶ小奇麗な店内に隣接して、ドンと立派な店構えの海苔屋が商売している。専門店だけあり海苔だけではなく、その他海藻加工品なども豊富に並び、こちらも平日の午後にも関わらず、買い物客で賑わっている。

 幹線道路から一本入った路地には、飲食店などが軒を連ね、お昼時には観光客や地元住民で賑わう。マコルの前に座る金髪碧眼北方系美人の彼女は中央軍情報部所属で、この西岸地区の担当、というだけあって飲食店にも詳しい。なるほどねぇ、と、おにぎりをパクつくもう1人の彼女は巻角褐色肌、一見おっとりしたお姉さん、だがこちらは極東の教会警備隊情報部所属だ。

 マコルは東南岸の教会で良く見かける菫色のロングドレス、他の2人も各々教会仕様のスーツを着用しているので、教会勤務のご婦人3人が、港町でちょっと遅めのランチを堪能しているかのようだが、もちろんそれだけではない。

 このお店にいるのは、海苔が美味しい、という理由だけではないのだ。


その日の午前中、このお店に来る前のこと。 

「こちらになります」

 中央警察、西地区の巡査が、港湾地帯より少し奥まった静かな住宅街の、ある一軒の家へ3人を案内する。

 巡査は西方の血が混じる屈強な男性型で、後に続く3人の女性より優にアタマ1つ2つ大きいのだが、少し緊張気味だ。何故なら所属組織は異なるが、彼女たちのほうが遥かに階級が高いからだ。

 港湾地区は昔からの石造りの建物がけっこう現役で残っているが、少し内陸に入った、この辺の新興住宅地は綺麗に区画整理され、方形を基本としたスッキリした外観の統一感のあるデザインの建屋が並ぶ。

 その内の1軒、案内された家は、大きくはないが芝生の前庭もあるダークグレーの外壁の新築2階建てで、塀ではなく胸元までの高さの生垣でぐるり囲まれている。周辺の家もそのような造りだ。

 周囲をさり気なく確認するマコル達だが、この辺は治安も良い地域ということもあり、生憎と監視カメラのようなものは設置されていない。

 庭や窓、外壁に荒らされた形跡は無い。玄関のツーロックドアをガチャリ、ガチャリと開錠しドアを開ける巡査

「玄関のドアは開錠されていたそうです」

 この家には、若夫婦に初等部に通う娘が1人の3人家族が住んでいた。そして通報者は夫の母親。

 漁師である父親にここ数日連絡がつかない、と漁協から連絡があり様子を見に来たそうだ。

マコル達は手袋とシューカバーを着用し家の中へ。玄関から1階のリビング、寝室、2階の子供部屋など見て回る。部屋には何かが物色されたり、荒らされた形跡は無いし、家人が不在、という感じも無く、どちらかというと、今にも後ろから母親や娘がひょっこり顔を出しそうな生活感に満ちている。

「母親や警察の証言によると」

「現金や貴金属など、金目のものを含め、何も盗まれていないのではないか、とのことです」

もしかしたら大量の現金があったのかも、というのは考えられない事も無いが、この家庭の貯蓄額、直近の銀行預金残高から、その可能性は限りなく低いだろう、との事。

 父親は寡黙で不愛想だが、お酒は嗜む程度、賭け事はやらず生活態度に全く問題は無かった、そして母親は評判の働き者。漁船や家のローンはあるが、他には特に借金も無し。夜逃げするような要因は皆無。

 念のため娘の通う学校にも訪れてみたが、先生も同級生の子供達も突如いなくなったお友達を本気で心配していた。優しい良い子たちばかりだ。こちらも何の問題もない。

 

 家族全員が1夜にして行方不明になる。侵入や暴行など犯罪の痕跡は無い。家財道具が残っていたとしても、何らかの理由で家族一同で夜逃げ、と考えられない事も無い。

「もちろん、ここ3か月のうちに」

「中央だけで、同様の一家失踪が100件以上発生していなければ、だけどね」

肩を竦めるマコルに、正面に座る2人はニコリともしない。

「おそらく」低い声で呟く、中央(セントラル)の情報部員。

「把握されていないだけで、もっと多くの人が、いなくなっているのでしょうね」

「そうね」

 状況的に事件性がない、となると警察は動かないし、一家全員失踪、となると、そもそも通報もされない可能性が高い。

 さて、と店内を見回すマコル。もう、おにぎり屋のお昼の営業は終了。卓に残るのはマコル達3人のみ。

「お待たせいたしました」

 店内の奥から、小柄で小麦色の肌の西方系の御婦人が、前掛けで洗った手をぬぐいながら、いそいそとやって来た。彼女はこのお店でおにぎりを握る調理担当。そして失踪した家族の斜向かいの家に住んでいる。 

 残念ながら、住宅街に監視カメラは設置されていなかった、が、この世界には監視カメラと同等の存在がいる。

写真(ピクチャ)」の生体回路(サーキット)保持者、だ。



「先程まで、議長とお話をしていたのですけれど」

 コバリが薄手の陶磁カップからお茶をひと口含む。先程、本部長の秘書が淹れてくれた香り高いお茶は紅茶というよりは烏龍茶に近い風味だ。

「近々、私を中央評議会の顧問に任命して下さるようです」

 本部長室に設えられたシンプルなデザインだが黒光りする重厚な応接テーブルに面した、大きい来客用ソファに埋まるように腰掛けるコバリに、微笑みかける本部長

「なるほど」同じくお茶をひと口

「これから忙しくなる、ということですかな?」

「特に何かの権限がある、というわけではないので」口の端を少し上げ、微笑むコバリ。

「今までと大して変わりませんよ」

 その2人から少し離れた壁際に、ゲンマ、ベイリー、バルイフが後ろに手に組み並んで、彼らの「休め」の姿勢で立つ。本日の仕事は主にコバリの護衛、ということもあり警備隊所属のゲンマ達はもちろん、中央軍(セントラル・フォース)所属のバルイフも、この部屋この状況で腰掛けるなど思いもよらない。

 中央評議会の顧問とは、基本的には各分野の専門家が政策などに助言、提言を行う役割を担うが、明確な定義は無い。便利な立場といえば便利だ。

 今回の件は、教会から、というかテンマから何かしらの働きかけがあったのだろうとは思われるが、今後、コバリが動きやすいよう「お墨付き」を議長が与えた、ということだ。

 まぁでも、コバリの言葉通り、実際、今までと大して変わらないのかもな、と思うゲンマ達だが、もちろん無表情をキープ。

ご謙遜を、と本部長が少し改まって、ジャイアプールの件でお礼を述べる

「そこに控える2人も大変お世話になったそうで」

 ゲンマとベイリーに、ついでにバルイフも休めから気を付け姿勢へ、ザッと揃って礼をする。

「私は特に何もしていませんよ」3人へ鷹揚に微笑みかけるコバリ

「マリアとアズマのお手柄です」

もはや、そんなことは誰も真に受けないが、この受け答えは、お約束みたいなものだ。


 ジャイアプールの騒動については大規模テロとして、教会報道部と軍情報部の捜査はまだ継続しているが、教会報道部からの有力な報告により、ほぼ「南」の仕業と断定されている。その場合「高度に政治的な問題」に発展する可能性もあるため、慎重に裏取りしているところだ。従って公式な発表は今のところは無い。

 動かぬ証拠が揃ったところで、外交ルートを通して「南」と交渉に入るつもりにしているようだが、事と次第によっては開戦も選択肢として有り得る。

 中央軍(セントラル・フォース)が実戦配備を進めようとしている衛星兵器は、南大陸を念頭に置いているのだろうな、と壁際の3人も考えてはいる。


 コバリは軍や警備隊に内通者がいるだろう、と考えている、というか確信しているので、信頼を置く、壁際に立っている3人としか情報共有していない。

 軍の公安、教会報道部が内偵を進めているようだが「内通者は無意識のうちに情報を読み取られている可能性が高いんじゃね?ってコトらしいッス」とマリアが言っていた。

 記憶を読み書きできるのなら、それが正解かもな、とコバリも考えている。


 教会警備隊の中枢ともいえる、本部長室で滅多なことは起こらないだろうとは思っているが、本部長とは人工衛星プロジェクトの進捗具合など、当たり障りのない会話をして、

「近いうちに議長のほうから、何かお話があるでしょう」

「その際は、よろしくご対応ください」とだけ伝える。

「承知いたしました」座ったままだが、軽く頭を下げる本部長。

 先程、コバリが立ち去ってからすぐに、議長のところへアゲリム中央評議会官房長官が緊急で呼び出されている、との情報を、腕に巻いてる端末から得ている。

 何かはわからないが非常に重大な事が起こっている、もしくは起こるのだろう。

フッと小さく溜息をつく本部長に対して、

「あと最後に、ちょっとお願いがあるのですけど」

いたずらっぽく微笑みながら小首を傾げるコバリ

「なんでしょうか?」

 泰然と微笑みながら答える本部長を、流石だなと思いながら、壁際に並ぶ3人は、うわーなんか、怖い怖い、と見ているが、もちろん無表情キープ。

実際のところ本部長も少し緊張しているが、もちろんそんな素振りは微塵も見せない。

少し身を乗り出すコバリ。

「今日、この後なんですが…」



 なんかジャンケンっぽい妙なカードゲームとか、持ちかけられる様なこともなく、今現在、マリアとアズマは褐色肌碧眼の美人支配人の部屋で、冷えた麦汁などの飲み物を嗜んでいる。広い支配人室は白の内装で統一されたデザイン。そして壁の一面は全面大きな窓で、そろそろ夕暮れになろうかという日差しが注ぎ込む。

「キララ様は相変わらず、お強いですね」

支配人は一応、偽名のまま呼んでくれるようだ

「ありがとう」グラスをクイッと空けるキララ様ことマリア

「楽しませてもらっているわ」すかさず後ろに控える黒のロングタイトのお嬢さんがおかわりのグラスを持ってくる。ありがとう、と品良く微笑むマリア。お澄ましモードだ。

「ダン様は」碧色の目を細めて微笑みかけてくる支配人

「いかがですか?」

「そうですね」表面上は落ち着いた様子のアズマ。なんかこういうVIP扱いも慣れてきた。

「カジノは初めてですが、勝っていれば楽しいのでしょうね」

アラ、という感じの支配人が

「ごもっともです」とクスッと笑う

「灰から蘇る不死鳥」マリアが呟く

「え?」

「博打で最大の醍醐味は」頬杖を突き、上目遣いでアズマを見るマリア

「ただ単に勝つ事、ではなく破滅寸前からの一発逆転ですね」

「そうかぁ?」

「4対3で勝つ試合も」

「先制中押しダメ押しで常にリードを保って押し切りよりも、3対0で9回裏2アウト満塁フルカウントからの逆転満塁サヨナラホームラン、のほうがアガるでしょう?」

「まぁ、わからんではないな」

ねぇ?と、薄っすら微笑む支配人に同意を促すマリアだが、ちょっと小首を傾げるのみだ

マリアが直接、脳内に話しかけて来る

-まぁ、最初ドラマチックに勝たせて、後々末永く毟る、とは言い辛いッスからね!

-カジノとはいえ、教会がいっちょ噛みしてる組織がそんなスタンスでいいんか?

-法令でトータルの払い戻し率は95%以上、と決まってるッスけど

-誰がいくら勝とうが負けようが、当局は関知しないッス

-自己責任ってヤツか

-とはいえ、IDでおおまかな年収は把握してるんで、カジノ側も一般人を破産させるようなことはしねぇッス

-生かさず殺さずってとこか

-まぁ、健全な一般人はアミューズメントパークで遊ぶ感覚で来てるんで、生き死にを意識するような博打を打つようなコトはねぇッスよ


「私共は娯楽を提供して対価をいただいております」変わらず微笑みながら支配人

「上質な娯楽には、やはりそれなりの対価が必要となります」

-つまり?

-金持ちは、いい思いをさせてから、ソコソコ毟るってことッス


これから、お食事などいかがでしょうか?と支配人からのお誘いがあったが、

遠慮しておきます、とマリア

「私たちはこれから、『エピクラテシオン』へ行く予定なので」

 ん?それ初耳やぞ、と思いながらも、ま、何かあるのだろう、とすぐに考えるのを止めるアズマ。

 「エピクラテシオン」このセリナンソスの5大企業の内、北方-極東系マフィア傘下の旗艦店。ここからメインストリートを挟んだ斜向かいに位置する巨大カジノホテル。


「せっかくここまで来たのですから」

「博打の王様、を堪能してきます」

マリアの瞳が爛々と輝く、よほど楽しみらしい。


生憎と、一般的な高校生だったアズマには、もちろん経験は無いが、

カードギャンブルの最高峰、博打の王様といえば

「手本引き」だ




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