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コバリ・アオヤマの華麗なる黙示録(疾風編)  作者: マツモト・ユウイチ
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それはもうマホウでいいんじゃない?

さぁ、話を聞かせてもらおうか、と円卓を挟み、コバリと向かい合う。

「あの朝」袖をスラリとまくり、右腕を晒すコバリ

「私は右腕を切り飛ばされ、アズマは胴体を両断された。そして私はその後の記憶は無い」

うん、俺も記憶は無い、どう考えても死んでるしな!

いや、それは違うね、とコバリ。

「死んだ人間は生き返ったりしない」

「私もアンタも、何らかの高度な治療を受けて、今この場にいる、と考えたほうが良い」

「でもこの世界は俺らのいた世界とは違うのだろ? 死んで転生した可能性は?」

転生?フンッと鼻で笑うコバリ

「生まれ変わりや、死後の世界なんてものは、かつて病気や災厄、理不尽な暴力で死んでいくしかなかった人々を慰めるための単なるおとぎ話だ」

「生まれてきたけど、全く良いこともなく無為に死ぬしかなかった人達の精神安定剤さ」

神や仏はいないし、死後の世界や魂も無い

「日本なら鬼や蜘蛛、天狗に河童は、基本的に征服され、虐げられた人達の事だし、ウイルス性の流行り病とかは、呪い以外の何物でもなかったろう」

「中世の暗黒時代は言うまでもなく、近代、二十世紀前半は全世界規模で殺し合い、そしてジュネーブ条約締結以降も、朝鮮、ベトナム、中東、東欧諸国でどんなことが行われてきたか」

それが地獄で、結局、悪魔や、怨霊も人間以外の何物でもない。

「ホントにいたらありがたいんだけどねぇ、神様」


…まぁ、俺もコバリも、この世に神様なんかいない、いたとしても俺らを助けてくれるほどヒマではないようだ、というのは幼少期に嫌というほど理解したしな。

祈り願うだけでは、何事も思うようにはいかないのだ。


「襲撃者に心当たりは?」 

「心当たりはいくつかあるけど…殺されるほどかなぁ、というのが本音ね」

どこのどいつか知らんけど、きっと、アオヤマが総力を挙げて、そいつら殲滅しているわ!

そうだろうなぁ。タダじゃおかないだろうなぁ。


「実は1ヵ月ちょっと前の5月末ぐらいに、1年生の女子が行方不明になってってね」

ホウ、それは初耳

「病弱な娘だったらしく、ほぼ学校来てなかったし、公表されてなかったからね、それにアオヤマと繋がりがある家でもなかったし…」

「でも、一応、警備レベルは1段上げたのよ」

ま、結局、役に立たなかったけどね!

と自虐気味のコバリ。


まぁいい、いずれにしろ詳細は確認できない、もうこの話は止めよう。

死んだかと思ったけど、とりあえず、今、俺らは生きている。

さて、どういうことだ?

状況を整理しよう。

それもそうね!と、コバリはメモ帳を繰り始める。


まだ不明な点は多々ある、と前置きし、

「とりあえず私が理解している、今まで起きたこと、話すわね」と語りに入る。

時折、ライラや他の人から聞いた話、この世界の一般知識も織り込まれる。


例えば暦について

「1年12カ月、365日強、1日だいたい24時間ってのは、まぁ同じで、春夏秋冬、四節季区分も同様」

ま、星座が同じってことはそうだろうね

「違うのは、月が30日固定で、余った5日は、だいたい冬至3日、夏至2日に振り分けでそれぞれ新年、半年の祝祭日になってる」

月区分とは別枠の扱いね。とのこと、ま、西暦って、2月はなんで28日しか無いねん、と思ってたので、なんかこちらのほうがしっくりくる。

「月30日固定っつーことは、六曜、五週か、仏滅とかあるわけ?」

壁に貼ってあるのは、やはりカレンダーか、と眺める。

「もともと仏おらん。各日、各週には数字と色が割り当てられてるみたいだけど、あんま気にしてないみたい」

ま、基本、毎月おんなじだしね。そりゃ気にしないか。


話を本筋へ戻そう

「私らが発見された際の状況について、こちらの教会の覚書から抜粋するとね…」

メモを読み上げるコバリ。


紀元299年7月某日、

石机教会特区、東3-2エリア

事故により急逝した兄妹の部屋に遺体を安置していたところ、

身元不明の男女二名が忽然と現れる。

両名の意識は無く、深い眠りについている様子

明らかに異質な外観より、家人は稀人(マレビト)であると判断。教会へ連絡。

報を受け、教会より教師を数名派遣。稀人(マレビト)と確認、直ちに回収。

教会の安置室にて両名を保護、観察。

ほどなくして、女性の稀人(マレビト)の意識が覚醒。


「それがアタシってワケ」

それはいいけど、初耳の単語が多いな。マレビトって?

「異界からの来訪者?的なものらしいよ」

俺たちの生きてた地球が異界ってことか…

教会ってのは?警察や救急ではなく、教会が保護するのか?

「そうね、さっそく明日、行ってみよう、教会」

直接、キサンティと話したほうが早い、とコバリ。キサンティ?


「そっか、話すのに不便だから、まずはチューニングしようか」

ピョンと立ち上がるコバリ、チューニング?

「アルフかライラがいたほうがいいわね…てゆうか、アズマ、アンタお腹空いてない?」

そういわれてみると、なんか腹へってきたな。

「ヨシっ、とりあえず下、行こう」

ついてきな!とバーンと扉を開け、ドタドタと階段を降りながら叫ぶコバリ

「ライラ、なんか食べるものある? アズマが腹へったって!」

次から次へとコイツは…と思いながらコバリに続き階段を下へ。さりげなく周囲を観察。階段、廊下も部屋と同じく木造基調で、ところどころ小さな電灯が設えてあり、控え目な照度ながら、移動には全く問題無い。一階へ降りると、廊下に面した1室の扉が開き、ライラがひょっこり顔を出した。と、その頭越しにもうひとつ巻角頭がひょっこり出てくる。

あれがアルフかな?と思いつつコバリに続き、ダイニングらしい部屋へ入る。

 ドアから入ると左手にキッチン、正面には大きめのダイニングテーブルに椅子が6脚、右手は少し床が低めになっており、円形のソファが設えられている。リビングダイニングというヤツだ。パっと見、テレビやディスプレイ的なものは見当たらない。


しばらくするとライラともう一人、続いて入ってきた。

「アズマ、こちらアルフ、御覧の通りライラのお姉さんよ」

 静かに微笑み目礼するアルフ、銀髪碧眼褐色肌の美少女、ではなく美女。前髪は眉上で切り揃え、ショートのライラに対してこちらはロングヘアー。背はライラより頭ひとつ高く、他もいろいろ大きい。つ、角とかね。。。

 凝った編模様の春らしい色合いのカーディガンを羽織り、シンプルなハイネックのロングワンピを着ているのだが、そのワンピ、露出はほぼ無いがシルエットがタイトで目のやり場に…パッツパツ…

「パッツパツとか思ってんだろ」ケッと目を細め睨むコバリ。あれ、俺、アホみたいに言葉にしてた?

 アルフとライラは特に気にせず、食器棚を開け、お皿を準備したり、野菜をちぎったり、お湯を沸かしたりテキパキと、何かしら食事の準備を進めている。あの奥にある黒光りした筐体は冷蔵庫かな? お湯も〇-fal的なポットで沸かしている。オール電化かな。

「…そう、明日教会に行こうと思って」「……」「ホラ、まだチューニングしてなくてさぁ…」「………」「コールドミートのサンド? いいね!私もいただこうかな!」「…」

相変わらず、日本語で謎言語と掛け合いながら、食事の支度を手伝うコバリ。

 こちらは大人しくテーブルについて待機していると、アルフがお茶を持ってきてくれる。

あぁ、なんかいい匂いがする。アルフが。

お茶は先ほどと異なり、香ばしい一品で、浅煎り焙煎のコーヒーのようだ。

 アルフとライラが手際よく、卓上に料理とお茶を並べる。何かの肉と葉物野菜のサンドウィッチ、カップには野菜スープ、木製ボウルには何か甘そうで小ぶりなお菓子。

「いただきまーす」とコバリがサンドウィッチにかぶりつく。ウマそうだな、おい。

手を合わせ「いただきます」とアルフとライラに一礼。言葉は通じてないようだが、ライラもペコリと頭を下げる。アルフは微笑みながら、どうぞお食べなさい、というようなしぐさだ。遠慮なくサンドウィッチにかぶりつく。

おぉ、ウマイ!

 パンはずっしりとした酸味のある黒パン、挟んであるスライス肉は柔らかく、若干スモークの香りがする。ピリっとした刺激もある、まろやかなソースが良く合う。野菜は葉物だが、レタスのようなものとは味が異なり、シャキシャキだがほのかな甘味がある。

味付け、食材に馴染みはないが、ウマイからヨシ。スープも野菜たっぷりで体に良さそうな優しい味…

コバリは早々にサンドウィッチにスープを平らげ、鉢盛のお菓子をボリボリ食べながら、ライラとキャッキャッしてる。楽しそうでなによりだ。


さて、ソロソロ、っとコバリ

「チューニングってのは、私が言ってるだけなんだけど」

お前が言ってるだけなんかい!

「何というか、聞いた言葉の意味を理解できるような経路(ルート)を脳内に構築するってゆうイメージでぇ」

なんだそりゃ、イメージだけで翻訳できりゃ、なんの苦労もなかろうが!

通訳さんに謝れ!

「とりあえず、ライラ、こっち来て」

とコバリはライラを俺の正面に立たせる。

「たぶんすぐに、()()、と思う」

通る?何が?


「まずは、自己紹介しよっか」

えっ日本語で? そう、日本語で

「俺はアズマ、お察しの通り褐色巨乳美少女が大好物」

「ヒトの声真似すんなや!」

ややこしいんじゃ!

「えー、初めまして今晩は、俺はアズマ、テラオ・アズマです」

ライラは、すごいハニカミながらも、こちらを真っすぐ見据え、

「……、ライラ……」

あ、名前が聞き取れた…自己紹介してくれているようだ。

「やあ、ライラ、美味しい食事をありがとう、ところで今夜のオカズ…」

「だからいちいち邪魔すんなや!」

「……、なにか、…」

ライラが何か言っている。あぁ、なるほど、何か通った感覚。聞いてる言葉に変わりはないが、意味が不意に浮かび上がり、そして理解できる不思議な状況

「まだ足りないようでしたら、何かお夜食でも、お持ちしましょうか?」

「いや、オカズってのはそういう意味ではなく…」

ホラ、話がややこしくなったじゃねぇか!ってもう普通に会話できてるな!

バっとコバリを見ると、肩を竦めて、おっと細かい事は訊くなよ、という感じの雰囲気を醸し出している。


スっとアルフが、ライラの傍らに寄り添う

「改めてご挨拶致します。私はアルフ、今後ともよろしくお願い致します」

優雅に会釈するアルフ、ストレートの銀髪がサラサラと流れる。

「ライラです!よろしくお願いします」

ペコリと頭を下げるライラ。

イヤイヤこちらこそですよ、イエイエそんな、イヤイヤ、というやり取りがしばし続いた後、コバリが、今晩はもう遅いので、と締める。

 どんな状況でも場を仕切る、それが青山コバリだ。


アルフとライラにお休みの挨拶をして、とりあえず、コバリと二階の部屋に戻る。

「そういえばさっき、俺ら見つかったのって7月だって言ってたよな」

「そうね」

「そして今は4月」

「そうね」

ひーふーみー、と指折り数える。

「じゃあ、俺は9ヶ月も寝てたってこと?」

「そうなるわね」

その間、さっきの部屋で寝たきりのアンタをアルフとライラがお世話してくれてたわよ。とコバリ

うわー、マジか、明日、キチンとお礼を言おう。

「まぁ、キホンたまに体拭いたり、着替えさせたりしてたぐらいだけどね」


どうやら、この世に出現した稀人は意識が戻るまで「基本的に状態が変化しない」らしい。つまり飲まず食わずで排泄もせず、ただ寝ていただけ、とのこと。

「でも、ホラ、着替えとか寝具の交換は必要じゃない? 」

「ライラ、丁寧にキレイにしてくれてたわよ」

あ、大丈夫よ、()()は変化しなかった、からね。とニヨニヨするコバリ。

あー、あんまその話、深堀したくねぇなぁ。

「将来、出版されるであろう、コバリ・アオヤマ物語の序章の補記に詳細は記しておくわ」

なんじゃその本!どこにもそんな需要ねぇよ!

でもなんか、マジで出版されそうだな!嫌だな!


「あと、ベッドの脇にあるその編み籠には、ティッシュ的な紙が入ってる」

ポンポンと肩を叩いてくるコバリ

「ま、いろいろ、体の機能、確認しないとでしょ?」

おぉ、細やかな気配り、ってうっさいわ。下ネタやめーや。


さて、と徐に立ち上がるコバリ

「この世界も我々のいた世界と、基本的には同様の物理法則に支配されていて、魔法やら呪術やらそんなもんは無いみたいなんだけど、まぁ、お察しの通り、ちょっと変わったところもあるワケよ」


特に力の脈動などは無く、何ということもなく、フワリとコバリの体が1mほど浮く

「こんな感じで、空、飛べるみたいなのよ」

ちょっと昔の、アノ名曲のフシで、ドヤ顔のコバリが口ずさむ

「自由~に~、キミも飛べるはず~」

相変わらず、なんか、ちょっとイラっとすんな、コイツ。

箒もスケボーも無しに空飛べてるじゃねぇか、良かったな。


さぁ、詳しく聞かせてもらおうか、今夜は長くなるゼ。

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