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コバリ・アオヤマの華麗なる黙示録(疾風編)  作者: マツモト・ユウイチ
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美しい人

一方、その頃、 

 ほぼ要塞と言っても過言ではないセキュリティを誇る、中央教会本部宿泊施設のVIPルーム、コバリとアズマが滞在しているその部屋。

「こっちッスかねぇ」

 2つある寝室のうち、アズマの荷物が広げてある部屋のほうへ入り、ベッドの枕元にある小卓の上に薄い本を2冊置く少女。

 その薄い本の無駄にスタイリッシュなデザインの黒い表紙からは、生憎と内容を窺い知ることはできない。

「新しい扉を開いてくれるといいんスけどねぇ」

ゲッゲッと下卑た笑いが他に誰もいない室内に響く。

と、次の瞬間には、室内から少女の姿も消え失せる。

もちろん、ドアや窓に施された警報装置は一切反応しない。

「世界最強」のポテンシャルを無駄遣いしまくり、である。



 中央技術研究所は、今から約100年前に設立された。

トマス博士が顕現したのは150年前、その後50年は火の玉のように働いて、様々な分野で一定の成果が実り、ようやく落ち着いたところで、正式な研究機関を発足した、という流れだ。

 今現在も研究所はセクション1から7に分かれて様々な分野の研究を推し進めている。そして、各セクションのトップ、7人は俗に「七賢人」と呼ばれている。

 基本的に、研究所で直接トマス博士とコンタクトできるのは、この七賢人と一握りの研究者だけだ。

 明日は久々にこの7人が一同に介する、なんといってもトマス博士に新たな稀人2人が絡むプロジェクトだ、航空、通信、天文などは専門外の研究者も興味津々なのだ。

 現在、この中央技術研究所の所長であるモンダ・ラカビナは、セクション4のトップも兼任しているが、専門は医療だ。

 もちろん所長として、今回の件についての内容は把握しているが、今回は主に新しい機関立ち上げのための調整役として働くことになるだろう。

 研究所の中には専門分野の研究にのみ傾注し、人事や交渉・折衝などは不得手なものもいるが、今のご時世そのような人材はトップにはなれない。

 100年前の立ち上げ当初、博士が全世界から集めた、突出した才能を持つ7人、俗に「最初の7人(ファースト・セブン)」と呼ばれる面々は、突出していたが故にエキセントリックな人物が多かったようだが、今はもうそんな大らかな時代ではない。

 そんな7人の中でも、博士と互角に議論できる傑出した才能を持っていたと言われる、初代研究所長こと最初の伴侶、レムルス・エアル。

 彼女は社会的なバランス感覚にも優れ、博士や、天才鬼才6人の仕事をコントロールし、中央技術研究所の基礎を築いた。

 ラカビナは研究所に入って25年、現在は所長の地位に就いているが、到底その域には達していない、と思っている。研究所のホールには、初代から研究所長の肖像画が飾られているが、今のところまだその資格は無いと、固辞している。

 謙虚であること、これは入所時にトマス博士より受けた薫陶だ。


「謙虚さ」というのは「自己懐疑」でもある

自分の言っていることは正しいのだろうか?と問い続ける

これがまさしく知的である、ということそのものだ。


自分が無謬であると考えるのは最も知的では無い、ことだ。


 この世界で、最も神に近いと言われる最高の知性を持つトマス博士が、まだ自分は不完全であると言っている。これで慢心なぞ、できる筈も無い。

 代々簡素な造りで統一されている所長室のシンプルで機能的な机にて、明日の会議の出席者、席順など再確認。議題と関連資料に目を通す。

 思わず笑みがこぼれる。まだまだこの世界には学ぶべきこと、考えることがある、トマス博士と共にあると、自然と高みに連れて行ってもらえる。

トマス博士のみならず、6番目と7番目の稀人に感謝だ。

これからやらねばならない事は山積しているが、それはいつもの事だ。


「ありがたいことだ」思わず目を瞑り、呟く、ラカビナであった。



 どうやらこの仮住まいの家にはメイドはいないらしい。執事であるマカグナが準備してくれたお茶のセットを、後は私たちが、とマレッサとゲンマが引継ぎ、お茶を淹れる。

その間にも、明日以降、全体会議から個別の打ち合わせの予定などについて話が続く。 

 専門的な話はほとんどなく、特に問題なく理解できる内容なのは、気を遣われているのかな、と思うゲンマ。時折、脱線してゲンマには全く理解できない話を博士とコバリが始める時もあるが、その場合は諦めて、お茶を楽しむ事にした。

 マレッサはそんな難解な話題にもついていけているようで、時折、何やら質問などしている。初対面の挨拶から、ここまでの立ち居振る舞いは、ほぼ完璧だ。と、少し安堵するゲンマ。トマス博士のマレッサに対する評価も上がっているだろうと推測。

 アズマはずっと泰然としているが、これは例によって、言われた事だけやろう、と考えるのを止めているからである。

 それにしても、と改めて博士を見るアズマ

 元の世界で博士号を4つも持っていた、ということで、勝手に白髪の壮年、をイメージしていたが、実際の博士は、どう見ても30代で、身長も180cmを超えるガッシリとした体格だ。国籍はドイツだったらしいが、父はドイツ、母はスウェーデン、そして母方の祖父がインド、父方の祖母が中国と様々な民族の混血で、浅黒い肌に金色の巻毛とエキゾチックな容姿。もちろん瞳は右は深い青、左は濃い緑、虹彩異色だ。

端的に言うと、イケオジというやつだ。

コバリが「博士はモテモテらしいよ」と言っていたが、大いに頷ける。

 

 話題が人工衛星による天体観測、深宇宙探索についての話になる。

「大気圏外からは」

「地上からとは比べ物にならないくらい、クリアな観測が可能になるだろう」

「ああ、美しいのでしょうね」

「早く見てみたいです」

「そうかね」

「ゲンマ君は夜空を美しいと思うのか」

「?博士は違うのですか」

「そうだね」

「我々が観測できる範囲は、概ね140億光年で」

「もっと遥か彼方、少なくとも450億光年の範囲までこの宇宙は広がっていると考えられているが」

「おそらく、現在の我々にはその果てまで見ることは叶わない」

「あまりにも広大なこの世界に対して、我々はほんの一瞬、存在するだけの塵のような存在だと思い知らされているようでね」

「美しいというよりは、ゾッとする感じかな」

ちょっと考えて、カップを置き、マレッサ

「観測により得られた情報から、博士ならば、我々が見ることのできない世界も思い描けるのではないでしょうか?」

「そう思うかね?マレッサ君」

「はい、必ず」

「知性は暗闇を照らす」お澄まし顔でお茶を飲むコバリ

「でしょ?マレッサ」

「その考え方は」

「美しいね」

美しいって!!と現在、脳内がお祭り騒ぎだが、表面上は上品に微笑み会釈するマレッサ。


「君達4人は美しいが」

え、俺も入るの?とちょっとテレるアズマ

「見る人によっては、評価が別れることもあるだろう」

どうやら柔らかめの話題にシフトしたかな、と合の手を入れるゲンマ

「人種、性別、年齢、育ってきた環境により、変わるのではないですか?」

そうだね、とゲンマに頷く博士

「中には君達ではなく、私を選ぶ酔狂な輩もいるかもしれない」

 表面上は微笑みながら小首を傾げるだけだが、ええ、それは私のことですね! と心の中でブンブン首肯するマレッサ。

「さて、ここで」楽しそうに博士が問う

「美しいとは何だろう?」

 そう言われてみれば、何だろう、と考えるゲンマ。我々は人以外にも、動物、風景、文学、音楽などに対しても美しいと感じる。そこに共通の基準はあるのだろうか。


「哲学的、心理学的、文学的に、いろいろ考え方や定義に近いもの、はあるだろうが」

「端的に言えば、美しい、とは好ましいと思うものだ」


「先程、博士はこの4人は美しいとおっしゃってましたが」コバリを指差すアズマ「コイツは別に好ましくは無…グヘッ!」

 博士の前だから滅多なことはあるまい、と油断していたアズマの脇腹に、コバリの繰り出す超高速移動での手刀が突き刺さる。

 そんな2人を仲の良いことだ、と微笑ましく見守る博士。

「先程も言ったように、コンテクストにより評価が変わる場合もあるが」

「ヒトや生物の外観に関しては、普遍的な評価基準が主に2つ、存在する」

「ひとつは対称性が高いこと」

ああ、なるほど、と頷くコバリに、ん?と眉を顰めるアズマ。ゲンマはなんとなく理解出来るが咄嗟に説明は出来ない。

マレッサにチラリと目配せするコバリ。軽く頷くとマレッサは説明を始める

「病気などによる発達異常は往々にして身体の非対称性につながります」

「対称性の高い身体は、神経系、免疫系が健康であることを示唆します」

「また一般的には運動性能も高い、と評価されますよね」

「なるほど」得心した、とアズマ

「生存競争に有利、ということですか」

「そうですね」ニコリとするマレッサ。先生感がスゴイ。

「味覚で言えば、苦いものを忌避し、甘いものを好む、ようなものです」

「もう一つは」何だろう、と考えるゲンマの口からポロッと言葉が零れる

「あ、すいません」

「さて」

「何でしょう?」

 アズマはどうせなんも考えてねぇな、と無視して、卓に両肘を付き、両手首を直角に曲げて組み合わせた上に顎を乗せ、マレッサとゲンマに問うドS金髪。

「…好ましいもの」口に手を当て、考えながらマレッサ

「本能的に刷り込まれた、生存競争に有利な形質を好ましいと判断するというのなら」

「平均的である、でしょうか」

「へえ」

「何故?」楽しそうなドSの様子から、正解らしい。

一方、アズマとゲンマは平均的って、特徴の無い凡庸な感じになるんじゃない?とか思っている。

「例えば狩猟や採集で、物事を判断する際の速度を上げようとする場合」

「対象を素早く分類できるほうが有利になる…」額に手を当て、考えながらマレッサ

おそらく、アズマにも分かるように説明しようとしているのだろう。

「その種の典型と考えられる例、すなわちプロトタイプを確立しておくと」

「判定速度は上がる」

なるほど、と思うゲンマ。プロトタイプはすなわち全平均だ。それを好ましい、と判断するわけか。

「日本に住んでいる場合は、周囲の日本人の容姿で平均するし」

「極東に住んでいる場合は、巻角族の容姿で無意識に平均し、判定する」

「まぁ、自分の容姿に近い姿に親しみを持つ、ということもあるがね」

博士が少し注釈をはさむ。

「アズマはゴリゴリの日本人ですけど」

「褐色肌巨乳美少女が大好物です」シレっと余計な事を言うコバリ

うっさいんじゃ、とローキックを繰り出すが、予期していたか、余裕で受けられる。

「平均的で対称性が高いほうが好ましい、というのは、あくまで一般的なベースだ」

「各人が好ましいと感じる特徴を、平均的な容姿から誇張した外観のほうがより好ましく思うのは当然だね」


外観もですけど、博士の好きな女性のタイプは?とは、到底訊けないマレッサ。

内心はソワソワして落ち着かないが、もちろんそんな様子はおくびにも出さない

と、そんなマレッサの心中を知ってか知らずか、コバリ

「博士は元の世界とこちらの世界でも、ご結婚されてますけど」

「決め手はなんでしょう?」

後学のために教えていただけると幸いです、とペコリと頭を下げるコバリ

もちろん、決め手は外観ではないのでしょう?という質問だ。

いや、特には参考にならんやろ、と無言のツッコミを入れるアズマだが、女性陣が興味津々らしいので放置。

「うーん」

「三者三様でね」

「全員、見た目も性格も違う」

え、教えてくれるの? 超いい人!と、ちょっと博士にホレそうになるアズマ

「元の世界の妻は東洋人で、そうだな、コバリ君に良く似ていた」

「アラ」

「なんか光栄ですね」ニッコリ微笑むコバリ

いや、きっとおめぇみたいなドSでは無かっただろうな!とこれまた心の中でのみ呟くアズマ

「こちらの世界で最初の妻は、中央技術研究所の初代所長だったが」

「見た目はマレッサ君に似ているかな」

「恐れ入ります」

努めて優雅に会釈するマレッサ。

心中では、学生時代から髪型、スタイル、化粧とバリバリ意識しています!

と呟く

「こちらの世界で2番目の妻は」

「比較的、見た目はゲンマ君に似ているかな」

 ゲンマも博士の伝記で読んだことはあるが、この世界で博士は2回結婚している。

その2番目の妻は、元々は博士の教え子で、突出して優秀だったらしい。数々の学術的な功績を残しているが、結構やんちゃなエピソードも多い。初代レムルス所長とは大分タイプが異なる。結婚も彼女から積極的にアプローチし、半分押しかけ女房みたいなものだったらしい。

 書斎の壁に飾ってある、トマス博士との2ショット写真を見ると、小麦色の肌に短いツノ、勝気な表情が印象的な美人だ。


「彼女たちの共通点といえば」

といえば?何々、何ですか!と詰め寄りたいところをグッと堪えるマレッサ

「考え方、が美しかった」

あれ、突出して優秀な頭脳、というわけではないのね、と意外に思うゲンマ

さっき!美しい!って言われたじゃん!私、と体温が何度か上がるマレッサ


「考え方、ですか」と尋ねるコバリ

「そうだね、価値観、と言っても良いかもしれない」

「各人で多少方向性は異なっていたが」


「美しかった」



「なんじゃこりゃ!」

 なんだかんだで博士の家で晩御飯までご馳走になり、すっかり日が暮れてからコバリと教会宿泊施設の部屋に戻ったアズマが、さて着替えよう、と入った寝室にて素っ頓狂な叫び声を上げる。

なんなのよ、とコバリがアズマの寝室を覗くと、アズマがペラペラとスタイリッシュな黒い表紙の薄い本を捲っている。

 コバリはスルリと素早く寝室に入り、小卓の上のもう一冊の薄い本を手に取りパラパラ捲る

「オヤオヤ、旅先にまでこんなモン持参するとは、どういう了見なの?」

「イヤイヤ、とんだ濡れ衣だな!」

 1冊は西方系ガチムチ同士の本格派、2冊目はノンケの北方系細マッチョを開眼させるガチムチ、という内容だ。

 生憎とこの内容でどうこうできるような修業は積んでいないアズマ

「あのヤロ~」

コンシェルジュが気を利かせて置いて行った、なんてことはあるまい。

どう考えてもマリアの仕業だ。

「ふーん」

「あの()、今、中央(セントラル)にいるのね」

意外と気に入ったのか、黒い薄い本を本格的に読み始めるコバリ

そんなモン落ち着いて読んでんじゃねぇよ!とアズマに追い出されたので、自分の寝室に戻り、キングサイズのベッドにダイブ、大の字に寝転ぶ。

 どうかな?と思いながら、ネックレスの先に付いてる紅い勾玉型通信機を握り、話かける。

「マリア」

「今、どこにいるの?」

ちょっと間があく


「呼ばれて飛び出て」

「ジャジャジャジャーンッス」

一瞬にして現れ、ベッドの上のコバリの横でゴロゴロするマリア。キャミソール姿のコバリに合わせたか、フワフワ生地のネグリジェ姿だ。

「アラ」

「出て来るとは思わなかったわ」

エヘヘェと笑うマリア

「なんかもう、いいみたいッス」

「うーん、何が?」

「下手に中央(セントラル)でいろいろ探られると具合が悪いので」

「まずは、お話しましょ、ってコトらしいッス」

フンッと鼻で笑うコバリ

「なんなら、今からでもいいけど」


通信機がブルッと震える

「もう遅いから」

「今日はおやすみなさい」


フーーッと溜息をつき、擦り寄ってくるマリアをナデナデして可愛がる。

「そうね」

「では、また明日」

「おやすみなさい、テンマ」

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