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コバリ・アオヤマの華麗なる黙示録(疾風編)  作者: マツモト・ユウイチ
32/54

中央到着

 北大陸は大まかに言うと、ちょっと横長のひし形をしているが、その中央部分には巨大な内海がある。南北で最大4000km、東西2000km弱、と内海と言うには語弊があるぐらいの巨大さだ。北大陸南端、赤道直下の辺りで外海へ通じ、現在でも中央(セントラル)から極東への船便は、内海を南下しこの海峡を通り北大陸東南端の岬を回り込み、東岸を北上する。

 日本列島なら3列ぐらい丸々浮かべても大丈夫。オーストラリアをタテにして嵌め込むと、東西はちょっとハミ出るぐらいか、と眼下に見えてきた中央の街とその先に広がる内海を眺めながら考えているアズマ。

その内海のほぼ中央の北端、湾に注ぎ込む大河により形成された扇状台地に、中央(セントラル)の市街地が広がる。街の規模はファイバザールと比較しても段違いだ。

 港湾地帯にはジャイアプール同様、貿易港、工業地帯に海上警備隊の基地が見える。

「海上警備隊の基地にも滑走路はありますが」ゲンマが説明してくれる

「本日は、内陸部にある教会警備隊の飛行場に着陸します」

グーーッとシャトルが内陸部のほうへ旋回する。

 飛行場は中央(セントラル)市街から少し西北方向の郊外に位置し、教会警備隊のみならず、中央技術研究所の航空関係の出張所も併設されているとのこと。

出発はお昼過ぎで、かれこれ6時間以上経っているが、フライトは極東から中央へ向け、ほぼ真西へ飛んでいるため、日はまだ高いままだ。

 旋回したシャトルは、そろそろ着陸態勢に入る。隣に座るマレッサが、パッと見は特に変わりはないが、先程から若干ソワソワしているのは、ゲンマぐらいにしか分からないだろう。 

 

 巡航高度に達してからしばらくして、コバリの通信機に連絡が入った。

しばらく、無言でやりとりしているようだったが、通話が終わったのかアズマに話しかける。

「今日は中央(セントラル)到着後、教会の宿泊施設に入ってから、教会とか学校とかを見て回ろう、と思ってたけど」

「予定が変わった」

「へぇ、どんな風に?」

「トマス博士の予定が変わって、今日の午後、時間ができたらしいの」

「到着次第、トマス博士のお家に伺うことにしたわ」 

「お宅に訪問か」

「とりあえずお茶しながら、いろいろお話したいようよ」

「カジュアルな感じでね」「ホントかぁ~?」

と、コバリがソファから身を乗り出し、後ろを振り返る

「あなたたち」ゲンマとマレッサに尋ねる

「今日、午後の予定は?」

「特にありません」食い気味に即答するマレッサ。

 先程から、何気ない感じを装いながらも、コバリの発する言葉に集中していたマレッサに対して、夕方には教会警備隊の技術部に伺う予定にしていたんじゃないの?などという事を言ったりしない、友達思いのゲンマ。

「私は教会警備隊本部へ伺う予定にしていますが、調整はできます」

「何かありましたか?」

「ええ、今、話してたけど、到着後、トマス博士のお宅にお邪魔することになってね」

「あななたちも、一緒にどうかと思って」

 隣のマレッサがソファの肘掛け部分をギューッと掴む。表情には全く変化は無いが、おそらく、叫び出しそうになるのを堪えているのだろう。

「ありがとうございます、私とマレッサの2人で、お供させていただきます」

多分、凄まじい速度で今後の展開について脳内シミュレーションをしているため、フリーズ気味のマレッサに代わり、ゲンマがまとめて返答する。

「そんなに畏まった話ではないのよ」クスッと笑うコバリ

「さっきも言ったけど、お茶会だと思って気楽に参加してくれれば良い」

ホントかぁ~、と再びアズマ。ゲンマも同感だ、気楽な会話が楽しめる気がしない。


 シャトルは全く衝撃もなく教会警備隊飛行場の滑走路へ、文字通り滑るように着陸する。

「おぉ? 全然着地の衝撃が無い」窓外を眺めながら、ちょっと驚くアズマ

「着陸態勢に入って減速してからは、重力制御を発動してコントロールしている」

「腕の良いパイロットね」後ろのゲンマに声をかけるコバリ

「ありがとうございます」自分のことではないが、ちょっと嬉しいゲンマ。

シャトルはゆっくりと滑走路から駐機場へ向かう。ほぼオンタイム、予定通りだ。

チラリと横のマレッサを伺う。外見上は特に異常はない。フリーズ状態から復帰したようだ。

「マレッサ」ちょっと声を掛けてみる

「あなた、今日の夕方から…」

「私は、今日の午後は何も予定が無かった」食い気味に言葉を遮って、ソファから立ち上がり、グーーッとゲンマに顔を近付けるマレッサ。目が怖い。

「けど、あなたは教会警備隊本部に連絡しないと、ね」

「そうね」

「あなたも一応、技術部に連絡しておいたらどう?」

「そうね、到着の連絡はしておかないとね」

超至近距離から、真顔のまま、マレッサがゲンマの鼻先にチュッと口付けしてきた。

ヤバイ、超浮かれモードだ。

まだ少し時間はあるから、その間に落ち着かせねば、と思うゲンマ。


 駐機場前、停止したシャトルのタラップから、コバリとアズマ、ゲンマ、マレッサと降り立つ。既に2名の教会警備隊隊員が待機しており、敬礼で4人を迎える。

警備隊員は2名とも男性で、色白ツノ無しのシュッとした北方系と、赤銅色の肌に短い額のツノ、ガッシリした体格の西方系、の対照的な容姿だ。2人とも黒い制服を着用しているが、これは中央の教会警備隊本部の中でも、精鋭揃いの別動隊第1班であることの証だ。

ゲンマが「ここから、この両名が教会まで、ご案内いたします」とコバリとアズマに紹介する

「そう、よろしくお願いしますね」艶やかに微笑むコバリ。相変わらず外面は良いな、と思いながら、ペコリとアズマも頭を下げる。

「こちらこそ、本日はよろしくお願い致します」黒服2名も頭を下げる

ゲンマとマレッサは教会警備隊本部に挨拶をしてから合流します、とのことで一旦分かれる。コバリとアズマは黒服に案内され、防弾軽装甲車の後部座席へ。飛行場から教会までは専用レーンを移動、20分程度で到着らしい。

中央(セントラル)の教会エリアは」滑るように走る装甲車の窓から、もうそこに見えてきた城壁を指差すコバリ

「300年前、湾岸部を一望する台地をぐるり囲むよう造られた第一城壁内の広大な敷地に、教会、教会本部、宿泊施設、教会警備隊本部、中央高等学校、図書館、中央研究所などの各施設を擁する」

「教会本部の居住区域にはテンマが住んでる」

「へぇ、トマス博士も?」

「いや、トマス博士の家は、ホントは中央(セントラル)市街から少し離れた郊外にあるのだけれど」

「今日は教会敷地内の別宅にいるみたい」

教会宿泊施設の裏手に広がる庭園には、何軒かそういう別邸のようなものがあるらしい。

「ま、明日から中央研究所で会議三昧、になるしね」

会議三昧かぁ~と溜息をつくアズマ

「私らは全部の会議に参加するワケじゃないわよ」

え、ホント、と喜びかけるアズマに

「他にもいろいろやることがあるからね」

と、スゥッと目を細め、微笑むドS金髪ツインテ

逆らっても無駄なので、フゥっと溜息をつき、あぁ、早く帰ってライラにギュッとしてほしいなぁ、と現実逃避するアズマ。

 そうこうしているうちに城壁まで到達、見上げる石垣は20mはあるだろう。

「この城壁は、もちろん各年代ごとに補強は入っているけど、現役だ」

確かに、所々城壁上に地対空超電磁砲(レールガン)の砲身が垣間見える。

「教会エリアのセキュリティは北大陸でもトップクラスね」

「イチバンではないんだな?」

「うーん、教会と教会前広場のある、フロントエリアは結構、不特定多数の人間が出入りするからね」

 とはいえ、教会エリアの奥に位置する、居住区域、宿泊施設のセキュリティレベルは数段階上がるので、心配ご無用、らしい。

 教会エリア内に入ると、人が多い教会前広場は避けて、教会裏手を車両専用レーンで進む。なるほど、全体が白に塗装された教会の建屋自体は極東の教会と同じ程度の規模だ。

 電気的な何かが施されている、セキュリティレベルが高そうな柵にぐるり囲まれたエリアへ入る。まずは近代的な建築の教会本部がデンと構え、その裏手に宿泊設備がある、予想通り、ファイバザールに負けず劣らずの高級ホテル然とした構えだ。

 車寄せに滑らかに停車、黒服両名にエスコートされ、エントランスへ。

「私共はここで失礼いたします」頭を下げる黒服に、ありがとう、と労いの言葉をかけるコバリ。さすがに2人とも所作に隙が無いな、と去り行く二人を見送るアズマ。

 エントランスでは、ツノ無し、赤褐色の肌にミントグリーン色のストレートロング、艶やかな生地のタイトロングワンピを纏った美人コンシェルジュが「お待ちしておりました」と出迎えてくれる。ロビーを見渡すと、ラウンジで寛ぐご婦人方や、従業員などなど、極東でお馴染みの巻角褐色肌は、ほぼいない。以前、パラマ先生に習ったが中央の人種構成は「北方系が4割、西方系2割、東方、南方系が1割、残りはその他」というような感じらしい。

 既に荷物はお部屋に運んである、ということで、コンシェルジュに案内されて部屋へ

「あれ?」

「何?」

「また一緒の部屋なのか?」

「そうよ、いろいろ手間が省けて良いでしょう?」

案内された部屋は、広いリビングに寝室2部屋のスイートルーム。ま、特に問題は無い。

今回、あの色ボケメガネはいねぇしな!

と、ついキョロキョロして確認してしまうが、さすがに…

「ところでマリアは、こないだまで石机地区にいたけど」念のためコバリに訊いてみる

「今はどこにいるんだ?」

「さあ?」

 基本的にあの娘の所在は、軍事機密だからねぇ、と早速、着ていたワンピを脱ぎ捨て、着替え始めるコバリ

「ああ、アンタはそのままの格好で、いいんじゃない?」

 あ、そう、それじゃあ、とリビングで落ち着き、用意されていたティーポットからお茶をいただく、紅茶かと思ったら、鉄観音っぽいお茶だった。これはこれで美味しい。

 コバリは既にコンシェルジュにより荷解きされ、クローゼットに整然と並んでいる服を眺め、何着か取り出し、ベッドの上に並べて比較検討している。

 お茶を飲みながら、鉢盛の小さな焼き菓子をモグモグ食べていたら、着替えが終わったコバリがやって来て、私にも一杯、というのでお茶を淹れてあげる。

 本日は、襟周りにレースがあしらわれた、焦げ茶色の膝丈ワンピに黒タイツと、露出控えめお嬢様モードだ。

「もうすぐゲンマとマレッサがエントランスに来るから」

「合流して、トマス博士の別宅へ行きましょう」

うーん、ちょっと緊張する、とアズマ

「アンタの緊張なんて」フッと鼻で笑うコバリ

「屁ぇみたいなもんよ」



そう、ここに緊張で吐きそう、と悶絶する女性が約1名。

言うまでもなくマレッサ・ロクメだ。

想定では、初対面は明日以降の会議の場、末席から遠くにトマス博士を見ながら、徐々に慣れていく予定だったのだが、大幅な予定変更となってしまった。

が、もちろん、こんな機会は滅多にない、というかもう二度とないかもしれない。

そう思うと、目頭が熱くなり、胸に熱いものがこみ上げる。

感情が昂り、泣きそうで吐きそう、ということだ。

無論、泣いたり吐いたりしている場合では無いので、鋼の精神力で抑え込む。

もう時間が無い、服装はそのまま。ドレスアップしていくような集まりではない。

鏡の前で、化粧を少し直す。深呼吸、長く長く息を吐き、吸う。

ちょっと落ち着いた。

コンコンッと軽快なノックの音、おそらくゲンマだろう。

フーーッと息を吐き、気合を入れる。

「ヨシッ!」

行くぞ!


 ゲンマは飛行場にて操縦士たちを労った後、高速電動二輪車を借りてマレッサを後ろに乗せ「専用レーンだから大丈夫」と爆走、教会警備隊本部に10分で到着した後、マレッサと共に本部長に挨拶し、「トマス博士と約束がある」と早々に辞して、教会警備隊宿舎の部屋にマレッサを放り込み、自身も部屋で着替える。

 さすがに現在の武装装備で、博士のお宅に伺う訳にはいかない。上着を脱ぎ、銃を保管庫へ仕舞い、ショルダーホルスターを外す。右脛の細身のナイフが装着されているレッグホルスターも外し、胸プレートの入った防弾ジャケットも脱いで、高強度繊維だけで編まれた、一見普通の下着のような軽装用防弾着を着用。そして服はマレッサに合わせ、アオザイ風の制服にする。

 一応、丸腰に見える、がゴツめの腕時計や、胸のペンにはちょっとした仕掛けがある。まぁ、ここで使うようなことにはならないだろうが、念のため、だ。

 姿見の前で身嗜みチェック、ヨシッ、と部屋を出て、マレッサの部屋へ向かう。

大丈夫かしら?もう、大丈夫よね、と扉をノック

一呼吸あって、ドアが開く

そこには、すっかり落ち着いた様子の普段のマレッサがいた。

「さっきはごめんなさいね」「少し気が動転してたみたい」

「いえ、特に問題ないわよ」

「マレッサ」

「なに?」

「今日は、とても綺麗よ」

生来備わっている知性の輝きが内面からにじみ出る、外見だけではない美しさ。

やはりこうでなくっちゃ。

と、手の甲で、優しくマレッサの頬を撫でる。

「ありがとう」艶然と微笑むマレッサ

「さあ、行きましょう」

「博士がお待ちだわ」



 コバリとアズマがロビーへ降りると、既に異質な存在感を放つ美女2人が立ち姿も美しく、待機していた。「アラ」と、ちょっと目を見張るコバリ

「お待ちどうさま、それでは行きましょう」

「はい」「よろしくお願いします」軽く会釈するゲンマとマレッサ

ちょっと首を捻るアズマ。ゲンマは着替えてきているが、マレッサは先程と同じ制服だよな? でも、何か違うなぁ。と考えるが、特に口にも表情にも出さない。

 宿泊施設を出て、美しく手入れされている庭園を徒歩で移動する。あまり目立たない様、配慮されているようだが、一般の警備兵の他、そこかしこで黒服が警戒しているのが目に入る。明らかに警備レベルが上がっているが、現在、このエリアに稀人が4人もいるのだ、それも当然か、と思うゲンマ。

木漏れ日の中、後ろ手に組み上機嫌で歩くコバリが振り向き

「2人とも、今日はキレイね」と目を細め、微笑みかける。

 アズマも然り然りと、ウンウンと小さく頷くが、ま、世界一可愛いのはライラだけどな、とか思ってる。

 私はともかく、今日のマレッサは仕上がってますよ、と思うが、特に何も言わず軽く会釈するゲンマ、一方、マレッサは

「恐れ入ります」と淑やかに返答する。

庭園を抜けると、一軒家がポツンポツンと配置されている、特別居住区域に到る。コバリがズンズン進む先には、少し大きめの2階立ての邸宅。両開きの扉の前に立ち止まると、扉のノッカーをコンコンッと鳴らす。

 数秒と待たず、まるで待ち構えていたかのように、ゆっくりと扉がひらく、とそこには濃紺のシンプルな上下を着た青年が控えていた。

「皆様、お待ちしておりました」

「私、トマス博士の執事、として勤めさせていただいております、マカグナと申します」

「以後、お見知り置きを」

執事と名乗ったその青年は、金髪碧眼色白の典型的な北方系だが、その落ち着いた物腰から、見た目通りの年齢ではないかもな、と推測するアズマ。

 コバリ、アズマ、マレッサとゲンマが「お邪魔します」と館に入ったところで、ゲンマを呼び止めるマカグナ

「ゲンマ様」

「そのペンと、腕時計はこの館では不要かと思いますので、お帰りまで預からせていただきます」

と、トレイを差し出すマカグナ

優秀だな、と思い、フッと微笑みながら

「そうね、お願いします」と素直にペンと腕時計をそのトレイに載せるゲンマ。


「それでは」

「トマス博士がお待ちです」

4人を案内し、書斎の重厚な扉をノックするマカグナ


 外見では、静かに微笑み立っている、だけに見えるマレッサの心拍数は只今、平常時の倍以上あるのでは?という状態だ。

「どうぞ」と室内からの返答を聞き、更に心拍数が上がる。


そして、ゆっくりと扉が開く。







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