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コバリ・アオヤマの華麗なる黙示録(疾風編)  作者: マツモト・ユウイチ
3/52

典型的な春の星空

「ただいま…っと…」

帰宅すると、玄関に見覚えのある小さめのローファーがキチンと揃えてあった。

両親はもちろん仕事、妹は絶賛部活中であるのはわかっている。

「ふぅ」と小さな溜息とともに、二階の自室へ向かう。当然のようにドアの鍵は開いており、予想通り、我が幼馴染、青山コバリが当然のように居た。

 正確に言うと、俺のベッドに寝転がりながら、上機嫌に鼻歌とともに、パラパラと本を捲っていた。

 本のタイトルは「現代経済学概論」、もちろん経済学など、まだ高校生の身で学んでいるワケではなく、A5変形判にしっくりくるカバーが、生憎と他に無かっただけの話である。

「ひ、他人の部屋に勝手に入ってんじゃねぇよ!」

若干、声が上ずるのは、秘蔵の書を発見された青少年としては、当然の反応であろう。

もちろん、基本的には諸々秘匿しやすい電子書籍派なのだが、ホラ、グラビア印刷の重さを体感しながら、頁を捲る喜びって、あるじゃあないですか。。。

「ミニスカ、ニーハイ生足女子高生が、ベッドに寝転んで、ゴリゴリのエロ漫画読んでるのよ、喜ぶところじゃない?」

「本人と家族以外には開錠不可の生体認証電子ロックを勝手に開けられてるのに?」

あと、エロ漫画とか言うなや! ゴリゴリのエロ漫画だけど!

「ご主人様…、お、お掃除させていただきますね…」

「音読してんじゃねぇよ!」

「何よ、普通のお手伝いさんの台詞じゃない」

面白いよねぇ、とベッドで大胡坐をかき、お掃除しているシーンをこちらに開いて向ける。

「ホント、こういう従順な褐色肌巨乳美少女、スキよねぇ」

「やかましいわ!この貧にゅ…」と「う」を言い切る前に、目の前に件の本が投げつけられ、一瞬視界が奪われる。「フンッ」と、死角からコバリの左フックが鳩尾に炸裂する。

「オゥフ…」

「この、ズルむけXXXX(自主規制)が!!」

仁王立ちのコバリ。他人んちに勝手に上がり込んで、エロ本物色した挙句、ブン殴るっと、まさに理不尽の権化だ。

「さ、試験勉強、始めるわよ」

「現代経済学概論」を放り投げ、テーブルの前に陣取り、そそくさと教科書とノートを取り出すコバリ。

そう、来週から中間試験だ。

もうコイツに成績で負けるわけにはいかない。こんなことで騒いでいる場合では無いのだ…



『…はやく…』

『もう、起きなさい…』


「えっ、何?」

耳元で誰かに呼ばれたようだ、

唐突に目が覚めた。パチンっとスイッチが入ったような感じ。ガバッとベッドから起き上がり、キョロキョロ辺りを見回す。

先程まで眠っていたのが、本当かな、と思えるような覚醒。ブンブンと頭を振ってみる、前髪が目にかかって邪魔だ、ソロソロ散髪せんとな。

ふと、上を見る。

ん?これは、見知らぬ天井だ。

なぜならば、天井に貼ってあるはずの褐色巨乳美少女の美麗イラストピンナップが無いからだ。


まさか、俺が寝ている間に剝がされたのか!

と、ベッドの周りを見回し、状況を確認、把握する。

部屋は洋室だが柱や梁などは木製。ベッドに脇にある円卓、椅子も木製、シンプルな造りだが、滑らかな曲線で構成されている工夫された意匠だ。

インテリアなどは中央アジアっぽいぞ。生憎中央アジアに行ったことはないが。

まぁ、薄々分かってはいたが、ここは俺の部屋では無い。

周囲は薄暗い。部屋に時計が見当たらないので時間は不明だが、どうやら夜半。

いくつかの柱の上部には小さなランプが灯っている、配線は見えないが電灯のようだ。光量は控え目、どこで調整するのかはパっと見、よくわからない。

そういえば、と自分の腹をさすってみる。全然痛くない、と思い寝巻を捲り上げて、腹を見てみる。縫合痕どころか、全く傷跡が無い。

胴体ほぼ両断されたのに、現代医学スゲェ。


薄暗い中、ベッドから降りてみる。フローリングの床には、無地の少し毛足の長めなカーペット。壁に近寄り、掛けてあるパネル状のものに近づく。下部に6行×5列、30マスの模様、その上にはヨコ12マスの模様が書いてある。上は4マス目、下は2行3列目のマスに赤枠が付いてる。さて、ここで問題なのはこのパネルに刻んである文字が、全く見たこともないものだということだ。

コロコロした感じはミャンマー文字に似ていないこともないが、たぶん違う。

このパネル、おそらく暦だ。そう思うとなんとなく数詞は読めるような気がしてくる。

じっくり、パネルを睨んでいると、コンコン、と控え目なノックの音。

ギョっとして、返事を躊躇っていると、そっとドアが開く。

顔を覗かせたのは銀髪碧眼、褐色肌の美少女。

一瞬、己の理想が具現化したのかとも思ったが、そんな訳は無い。あぁ、あんな夢を見たのはこうゆうことか、きっと、意識朦朧としている間にも、この娘を見たのだろう、と得心する。が無論そんなことはおくびにも出さず

「今晩はお嬢さん、日本語は話せるかな?」

と努めて紳士的に話しかける。娘さんはちょっと驚いた後、おどおどしながらも、

「………、…………、………」

と返答する。ああ、予想通り、何言ってるか全然わからん。

ちょっと落ち着いたのか、ドアを開けたまま室内に入り、はにかみながらも微笑む娘さん。どうやら言葉が通じないのは予想していたようだ。

前髪は眉上でパッツン切り揃えたショートカット、七分袖のチェック柄のブラウスに膝丈のジャンパースカートは看護婦というより、牧場の娘さんっぽい。

…てゆうか、頭に羊のような巻角が生えてるな、この娘!

銀髪ショートヘアに象牙色の小さな巻角が可愛らしく映えてるね!

まぁ似合ってるからいいや、って、そうゆう問題でもないけど!

一旦、この件についてはスルー。

部屋の佇まいや、目の前の娘の姿はそれっぽくはないが、おそらく此処は海外の病院だろうと推測。コバリが手配したんだろう。タブン。

彼女のツノも、たぶんハロウィーン的な土着のお祭りがあって、その扮装に違いない。

きっと…


しばしフリーズしていると、

何かしら声をかけながら、テレテレしつつ、巻角褐色美少女が出ていこうとする。

一瞬、呼び止めようかとも思ったが、おそらく医者か誰かを呼びに行ったのだろうと見送った。どうせ言葉わからんしね。お医者様なら英語ぐらいは話せるだろう。

てゆうか、ケータイ持ってきてくれれば大抵の言語は翻訳してくれるけどね。


改めて室内を見回す、ゆっくりと歩き回り壁や柱に触れてみる、そして胸いっぱいに息を吸い込んでみる。

視覚、聴覚、嗅覚、触覚すべてで、この世界はヴァーチャルではなくリアルであると感じられる。

何を危惧しているかといううと、コバリが俺の脳だけ保管して、〇トリックスよろしく、この世界の夢を見させているのでは?ということだ。

うーん、有り得る。けど、今のこの感覚がヴァーチャルによるものなら、もう現実と虚構の区別はつかない。

 それにリアリティを追及するなら、日本の医療施設とかもっとそれらしい舞台設定をするだろう。少なくともツノのある褐色美少女を登場させはしない。

とりあえず、外にでも出て様子を見てみようかな、と考えていると…

廊下からドタドタと派手な足音が近づいてくるな、と思ったらノックも無しに、バーンとドアが開いた。


「ようやくお目覚めのようね」

腕組み仁王立ちで、言い放つ、見慣れた金髪の美少女(笑)。まぁそんな予感はしたよ


「よお、コバリ、元気そうだな」

切り飛ばされたはずの右腕は完璧に元通り、のように見える。

が、パッと見で、すでに突っ込みどころが多々ある

「とりあえず、服、着ろや!」

後ろで褐色美少女がバスタオル持って、あたふたしとろうが!

「ああ、ありがとね、ライラ」

バサっと、バスタオルを羽織り、ちょっと待ってな、確かにこのままじゃ風邪引くしな

と、言い捨てて去っていくコバリ。

風邪とか、そういう問題じゃねぇよ!


はて…今、コバリ、あの娘に日本語で話しかけてたな…

まずは話を聞こうか。


フワフワした白いパーカー風上着に、マイクロミニ、ニーハイソックスで帰ってきたコバリは、ベッド脇の円卓前の椅子に、いやぁ、さっぱりしたわぁ~と、ドカッと座る。

先ほどは風呂上がりだったようだ。

だからといって全裸で来んなや、という話だが、現状、そんな通常営業にツッコんでる無駄な時間は無い。


「ありがとう、ライラ」

「………、……、……」

やはり、聞いたこともない言葉を話す娘さんと、日本語で普通に会話するコバリ。

ライラと呼ばれた褐色美少女は、トレイに乗せたポットとカップを円卓に並べていく。

「あとは私が。今晩はもう、いいわよ」

「……、…………」

ライラは、チラチラこちらに視線を送りつつ、小さく目礼し、はにかみながらトレイを胸に抱き退室していった。

カップにお茶を注ぎ、優雅に堪能しながら、ニヤニヤするコバリ

「可愛いでしょ、ライラ」

「アタマの角が気になるけどな!」

他にも気になることが山積だ。

まぁ、まずは落ち着いてお茶でも飲みな、とコバリがカップを差し出す。

紅茶、ではなく半発酵か。鉄観音よりの烏龍茶風味だが香り高い。

カップも持ち手のない半透明の白磁様で、茶碗といった方が的確か。薄手だが、持っても不思議と熱くはない。断熱仕様か?

ズズっとお茶を啜ってたら、落ち着いてきた。とりあえず疑問点を処理していこう。


「で?」

「ん?」

「なんでおまえ瞳の色が違うんだ?」

コバリの瞳は、左は鳶色でさほど以前と変わりないが、右の瞳は深い紅色だ。

ファッションだとしても厨二すぎだが、たぶんオシャレのためのカラコン、とかではないのだろう。

フッと口の端を上げて、上着のポッケから小型の手鏡をこちらに差し出すコバリ。

「アンタもね、アズマ」


ホンマや!ワシの右目も、なんちゅうか…金褐色や!何してくれてんねん!

まぁ順を追って話すけど、とコバリ

「虹彩異色は多様生体回路(マルチ・サーキット)の証みたいなもんらしいよ」

「ふうん」

…ちょっと、何を言ってるのかわからんのぅ… 


徐にコバリが立ち上がり窓へ、

バーンとクラシックなデザインの両開き窓を開け放つ。

「ちょっと、こっち来てみな」

仁王立ちのコバリに並び、外を眺める。夜半だが寒くはない、ここは2階で眼下にぼんやりと草木が生い茂る庭園が確認できる。その先はどうやら森林、そしてずっと向うには黒々と横たわる山脈が遠くに見える。

「星を」と端的にコバリが言うので、空を眺める。月は遠く青白く輝き、そして文字通りの満天の星空が広がっている。こんなにクリアな星空を見るのは初めてかもしれない。

腕を窓の外へ伸ばし、コバリが夜空を指差し、なぞる

「北斗七星に、春の大曲線から大三角形。典型的な北半球の春の夜空だ」

「でも」

夜空をまっすぐ睨むコバリ

「ここは、私たちの生きてきた地球じゃない」


一瞬、呼吸が止まる。まずは、落ち着こう。フゥーと長く細く息を吐く。

できれば、ここは中東奥地にあるアオヤマの最先端医療技術センターで、私らは違法な技術を駆使して完治したぜ! ぐらいの報告ですませて欲しかったなぁ。

ヤレヤレだぜ。

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