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コバリ・アオヤマの華麗なる黙示録(疾風編)  作者: マツモト・ユウイチ
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文学少女が好きな本

「アルフさんですか、モチ覚えてるッス!」

「石机地区に初めて行った時なんで、もう8年前ぐらいになりますかねぇ」

「あの頃からもうダイナマイトエロボディで…」

グフフッとマリア、いいから涎を拭け、涎を!

「ライラちゃんもチョー可愛かったッス、もう、持って帰りたいぐらい!」

そりゃ、小っちゃいライラはさぞかし可愛かっただろう、今もチョー可愛いしな!

「ああ、でもアルフさんはちょっと怖かったッス」

え?あのアルフが?

「ライラちゃんもひっくるめて、薄い電磁膜みたいなもの周囲に張り巡らせてたんで、加速モードでエロいイタズラしようとしてもできなかったッス!」

ッス!じゃねぇよ!てめぇ、あの二人に手ェ出したらタダじゃ置かねぇぞ!

「だからぁ、なんもしてませんてばぁ、アルフさんとライラちゃんには、クールビューティー戦士キャラを押し通しましたよぉ」


「そんなことより猥談しましょうよぅ、猥談!」

バンバンとテーブルを叩くマリア。うるせぇよ、クールビューティー!


ここはジャイアプールのメガネ屋、マリアの根城。

ワイナン島で水族館デートを堪能した後、なんだかんだで戻ってきたのだが、コバリがまだ打ち合わせから帰ってきていないので、メガネ屋の小部屋でマリアとアズマはワイナン島土産のお菓子などを摘みながら駄弁っている。


「いやぁ、それにしてもアズマさんが、アルフさんやライラちゃんと一つ屋根の下に暮らすようになるとはねぇ」

「なんだよ」

「もうXXXがXXXぐらい、毎晩XXXXしてるんじゃないかと、心配ッス」

「せぇへんわ!」

ワシは大恩あるアルフとライラには邪な気持ちを抱くまい、と誓った漢じゃ!

ま、ライラは将来、俺の嫁だがな!

「でぇーもぉー」

「なんのオカズも無しに、XXXXに耽っていたワケじゃないッスよね?」

「なんで、俺がXXXXに耽る前提なんだよ!」

「コバリさんから聞いた…」

「あーもういい、俺が悪かった、もうそれ以上言うな」

「現代経済学概論…」

「いいかね、マリア君」

「はいッス」

「イマジネイションは重要だ。コバリやお前の全裸を見てもなんとも思わないが、その気になれば、俺はスリッパの曲線を眺めるだけでもゴール出来る」

「おぉ、どてらい(おとこ)ッス」

「遊びをせんとや生まれけむ、が寺尾家のモットーだ」

「さすが、アズマさん、団鬼六先生も嗜んでおられるとは」

よもやよもやですよ、とウンウン頷くマリア

いや、生憎とその巨匠の作品は読んだことねぇよ!

「えっ、『ただ遊べ帰らぬ道は誰も同じ』の話ッスよね?」

違うな!

「じゃあ、『花と蛇』ッスね!」

輪をかけて違うな!そのタイトルを言いたいだけやろ!

「性欲が人間の本能なら、性癖は人間の宿命ッス」

なんかカッコイイ! 惚れてまうやろ!


「ちなみに私の愛読書は『性的人間』ッス」

…いや、別にいいんだけど、おまえが言うとノーベル賞の権威が損なわれそうだな!

「失敬な、エロエロ文学少女の異名を持つこの私に向かって何を言ってるんスか!」

プンスコ、じゃねぇよ、自分でエロエロ言うなや!

「ちなみに好きな作家は、安部公房、ガルシア・マルケス、ミラン・クンデラ、ギュンター・グラス、ウンベルト・エーコ、トー・クン、神瀬知巳、宇能鴻一郎、綺羅光、内山亜紀…」

と、指折り数えながらマリア。世界的文豪から始まり、その先生方はどのような作品を?という方々になっていってるが、華麗にスルー、気にしたら負けだ。

「ここでは、あっちの本が読めないんですよぅ。あぁ、『砂の女』とか『百年の孤独』とか、『凌辱女子学園』とか読みてぇ」

ガンッと机に突っ伏すマリア。とりあえず放置しといたら、ガバッと起き上がり、

「快楽なくして何が人生か!」

何を急にキレてんだよ、怖ぇえよ! あと未成年が『凌辱女子学園』とか愛読すんなや!


「何騒いでんのよ」

コバリがガラッと引き戸を開けて入って来た、後ろにはゲンマが続く。

「ああ、おかえり」

「おかえりなさい」


「とりあえずお茶でもいかがです?」

マリアはシレッと余所行きモードに移行だ。

「ありがとう、いただくわ」

「ありがとうございます」

マリアは普通の速度で奥の戸棚からカップを出したり、ティーポットにお湯を注いだり、お茶の支度をする。コバリとゲンマは、アズマにどうぞ、と勧められテーブルの席に着く。

水族館土産のコラーゲン入りクッキーなどをお茶請けに、見た目は和気藹々とお喋りしている光景だが、内容は不穏だ。

「ちょっと遅くなったのは、港湾基地の監視カメラを再チェックしててね」

「何か不審なものでも?」

「いえ、何も不審なものは映ってはいなかった」ポリポリとクッキーを頬張るコバリ

「ん、美味しい」

どゆこと?と眉を顰めるマリアとアズマ。

「オケアノス掃討作戦の前日、夕方ぐらいの事なんだけど」

港湾基地西側沿岸部、基地周囲を巡回警備していた女性警備隊員の証言に食い違いがあることが、警備隊公安部の聞き取り調査にて判明した。

ある隊員が、巡回警備中、基地に近付いて来た女の子に声掛けしていたが、それを目撃されていた。

しかし、その隊員に確認したところ、巡回中には誰とも話していない、と証言している。

目撃した隊員は「遠見」の生体回路(サーキット)持ちで、かなり遠くから見ていたのだが、小柄な女の子と、目線を合わせるため、その隊員がしゃがんで話していたのは間違いないと証言している。

「そこで、監視カメラ映像を確認したわけだ」

「で、その女の子は映っていなかったのですね?」お澄ましモードでお茶を嗜むマリア

「そうね」

「ただし、何故かその隊員は一人でその場にしばらくしゃがんでいた」

「そして彼女はその事さえも覚えていなかった」

「あぁ、もうクロですね」

「そうだなぁ」

「その隊員さんは?」

「明日、バルイフ殿と一緒に中央(セントラル)へ移動する予定です」ゲンマがマリアへ返答する。

「バルイフ殿より後ほど、報告があると思います」

そして到着次第、救助された潜水艇の乗組員共々、詳細な検査を受ける予定らしい。


ふむ、と腕を組むマリア

「もし記憶をいじれるとしたなら」

「私なら、もっと大規模で直接的なテロを計画しますね」

「あなたなら、そんな小細工必要ないでしょ?」

「まあ、そうなんですけどね」


怖い話をしている、と思うゲンマ。内心の動揺を気取られないよう、お茶をひと口。

マリア・クシナダが、今、その気になれば全人類の抹殺、絶滅は容易にできるだろう。

そして、今はこうして穏やかに一緒にお茶を飲んでいるが、この3人は我々とは違う、神にも等しい存在なのだ。


教会警備隊支部の会議室から、こちらへ向かう車中にて、コバリが問うてきた。

「私が何故テンマについて、あんな事言ったかわかる?」

ちょっと考えるゲンマ

「何事に対しても油断をするな、ということでしょうか?」

「うーん、まあ、そうだけど」


恐らくどの時代の為政者も、世界の安寧と人々の幸福を願っている。

人類滅亡を目論む魔王みたいな悪者を、正義の見方が倒して大団円、なんて分かりやすい構造は、お子様向けの作り話の中だけだ。

「テンマ・オダギリは」

「約300年、この世界を守ってきたけど、その今までのやり方が今後も正解、とは限らない」


「間違いは」

「正されなければならない」


人口増加、科学技術の発展などにより、規定や法律など世の中の仕組みはアップデートされて然るべきだ。

だが、今、コバリが言っているのは、おそらくそういう事ではない。

この世界の、何が間違っているのか?

生憎と今のゲンマには分からない


「あなたは」

「弱きを助け、強きを挫く、清廉な存在でいてくれればそれでいい」

「この先、何があっても、ね」


「私は軍人です」

「正義の味方、ではありません」


「そうね」

「でも、あなたぐらいの存在なら、従う相手も考えなくてはね」

助手席のコバリはゲンマに微笑む。深紅の右眼がキレイだな、と思うゲンマ。

「そうですね」

ヘタなことはもう言わないほうがいいな、とゲンマはその後、黙って運転に専念した。



 ゲンマが教会警備隊支部に戻ります、とメガネ屋から出て行った。只今19時前、晩飯時なので、残った3人は近場のレストランへ。もちろんその店も情報部の御用達だ。

ここのところ和食っぽい食事が続いたので、今日は洋風のお店らしい。個室に通されるが、全ての電磁波が遮断されている特別室だ。店内も開店前に不審物がないか毎日チェックする安心安全なお店だ。

 まずはキンキンに冷えた麦汁でカンパイ。魚介類の煮込みはブイヤベースの様だが香辛料が効いている。一見シンプルな白身のフライも若干クセ強の味付けだ、でも嫌いじゃない、とコバリとアズマはモグモグと美味しくいただく。

「そうそう」

「水族館はどうだった?」

「楽しかったッス!」

「そうだな、首長竜は一見の価値ありだ」

「そう、良かったわね」

「あ、ご馳走様でした!」デート費用はコバリ持ちだったので、ペコリと頭を下げるマリア

「そういえば、現金、余ってるけど返そうか?」

「いや、いいわ、そのまま持ってて」

「あざっす」

「そのうちアズマにも、教会からお金が振り込まれるわよ」

「え、そうなの?」

「昨日のバイト代、みたいなヤツ」

「え、昨日のアレって、バイトだったの?」

「うーん、お駄賃、って言ったほうが良いかしら」

「大規模災害を未然に防いだ、ということでね」

「それを言うならマリアは?」

「自分の場合は仕事ッスから」

「そっか、マリアは軍人だったな」

「正確には嘱託なんで、軍人ではねぇッス」

「え、何が違うの?」

「指揮系統?」

細かいことは良くわかんねぇッス、と生春巻きっぽいものをムシャムシャ食べるマリア。昨日から思ってたが、体躯から想像できないぐらい良く食べる。

「お察しの通り、自分、運動量が半端ないんで」

えへへぇ、とテレるマリア

「いや、お前の運動量は食い物から摂取するカロリーじゃ賄えんやろ」

「それ言うなら、アズマさんもそうッス」

それもそうだな、と考えるアズマ

「ああ、アズマはまだ気付いてないかもだけど」

「私達は食物からほぼ栄養を摂取していない」

「え、そうなの?」

隣のマリアに訊いてみる。そうッスと頷くマリア。

じゃあ、運動量と食事量は関係無いんじゃないかな!


「ところで」飲み干したグラスをトンッとテーブルに置いて

「水族館で、誰か、に会わなかった?」正面の2人を見据えるコバリ


「いや?ジャイアプールに、というか、俺はこの世界に知り合いはあんまいねぇしな」

「自分、変装して行ってたんで、特には…」ポリポリ頭を搔くマリア


「あら」スゥッと目を細めるコバリ

「そう」


「それよりも、さっきコバリさん達が来る前に、愛読書の話、してたんスけど」

「ほう」

「アズマさんが数ある綺羅先生の著作の中から『生贄帰国子女、完全屈服』を選ぶとは」

よもやよもやですよ、ウンウンと頷くマリア

いや、とんだ濡れ衣だな!

それは、お前の愛読書やろがい!

「何言ってるんスか、自分の愛読書は『万延元年のフットボール』『箱男』に『犬の年』とかです」

ん?「性的人間」とか「砂の女」じゃなく?

「SFでは『エンデュミオン』、『夏への扉』とかですかねぇ」

ハインラインとはシブいな、てっきりSFの愛読書は「虎よ!虎よ!」かと思っとったワイ。

「ああ、そうか」ポンッと膝を打つマリア

「アズマさんは『インテリ美人弁護士、堕ちる』派でしたか」

いや、そんな派閥は初耳だな!

「綺羅先生といえば」ちょっと考えるコバリ

「やはり、『凌辱女子学園』ではなくて?」

いや、お前ものってくるんかい!

「まぁ、アズマの好みは褐色肌巨乳だから」

「〇〇先生の○○○○○○シリーズとかね」

コラコラ、それはゴリゴリのエロマンガだぜ、ベイビィ。

「…この世界では残念ながら、自分らの読んでた本は読めねぇッスけど」

「実は我々の同士諸君が、密かに流通させている、薄い本、なるものがありまして」

ホウ、じっくり聞かせてもらおうか、その話。


この世界のベストセラーや、マリアの蔵書について、などなどで盛り上がってたら、

なんやかんやでもういい時間だ

「もう帰りましょう」時計を見ながらコバリ

「折角だから、今日は皆一緒にお風呂入って、一緒に寝ましょう」

「え!何で?」

「旅の恥はかき捨てってゆうジャン」

ジャンじゃねぇよ! なんかその諺、使い処違うで!

「今夜はラストスパートッスよ」

「ジャンだけに」

いや、全然うまいこと言えてねぇよ!


そしてジャイアプールの夜は更ける。果たしてアズマは貞操を守れるのか?

乞うご期待。



ここは、極東より遥か遠い中央(セントラル)の教会本部

 ラタンの寝椅子で、横になって目を瞑り、ゆったりと寛ぎながら、耳に手を当て、何かを聞いているよう、だ。

「愛読書、ねぇ」

まぁ、個人の嗜好というものがあるので、何ともだが、大江は「芽むしり仔撃ち」ギュンター・グラスは「ブリキの太鼓」かな?

「箱男」は、まぁいいか、とも思うが、個人的には「燃えつきた地図」だ。


生贄帰国子女、完全屈服

万延元年のフットボール

箱男

犬の年

エンデュミオン

夏への扉

インテリ美人弁護士、堕ちる


クスクスと笑う。

この世界では4人だけ。日本語を解する人間にしか分からない、暗号。


「イ・マ・ハ・イ・エ・ナ・イ」


なにが、言えない、のかしらね?

と、テンマ・オダギリはゆっくり眼を開き、微笑む。

「あとで聞いてみなくっちゃね」

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