表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
コバリ・アオヤマの華麗なる黙示録(疾風編)  作者: マツモト・ユウイチ
27/54

ゲンマ・ビエントの憂鬱

『ごきげんよう、ゲンマ』

通信機から流れる落ち着き払った声

『いきなりお電話してごめんなさいね、今、良かったかしら?』

「はいもちろんです」

ここは、ゲンマの執務室、時刻は19時だ。事前にメールで連絡はもらっていたので予定は入れずに待機していた。

「今晩は、コバリさん」

 ジャイアプールで食事中にアズマから、「マリアが、殿、呼びなんだから、様、呼びはやめて下さい」と言われ「さん」付けに落ち着いた。その流れで「じゃあ私も」とコバリも「さん」呼びに統一、ということになったが、まだしっくりこない。

『今日お電話したのは、ジャイアプールの件ではないわ』

「はい」まぁそうだろうと思っていた。次の言葉を待つ。

『今月末、アズマと中央(セントラル)のトマス博士を訪ねる予定なのだけれども』

『あなたにも同行していただくことになるわ』

「なるほど、飛行機で移動でしょうか」

『そうね、さすがに遠いので、軍用機での移動をお願いしているわ』

飛行機移動の際、ゲンマが要人警護に駆り出されるのは良くある事だが、アズマがいるなら不要のような気もする。

『今回、あなたのお仕事は警護、では無いのよ』

おっと、読まれていたか

中央(セントラル)で、私が何かお手伝いすることがあるのでしょうか?」

『今回の訪問は、基本的にはアズマと博士の顔合わせだけど、今後の計画についてもお話する予定でね』

『その際には、あなたとマレッサ・ロクメにも参加していただきたいの』

「私と、マレッサ、ですか?」

『そう、あなたとマレッサ』

『あなたのお友達のマレッサ・ロクメは、相当優秀なようね』

「恐れ入ります」

そう、私の友は優秀なのだ。我が事のように誇らしく、つい、お礼を口にするゲンマ。

『彼女には、今後、新設される機関に異動してもらうことになると思うわ』

『あなたは、引き抜くと軍から文句が来るから、今回はプロジェクトをお手伝いしてもらう、という形になるかしらね』

「プロジェクト、ですか?」

『そう、主導はもちろん、研究所と軍になるけどね』

「やはり、宇宙開発関係でしょうか?」

『そうね、お察しの通りよ』

おおむねマレッサの言っていた通り、だなと思うゲンマ。以前のファイバザールにおける会食以降、アズマ・テラオの顕現により宇宙開発が進展するだろう、と彼女は語っていた。

『マレッサとも直接お話ししたいのだけれど』

『あなたから、まずはその旨、連絡しておいていただけるかしら?』

「承知いたしました」

 以前、コバリとマレッサは直接、連絡先を交換しているはずなので、特にゲンマを介さずにコバリから電話しても構わないのだが、おそらく何の前触れもなく、中央でトマス博士と打合せ、と切り出したら、マレッサが取り乱すのではないか、との配慮だろう。

 さすが、良く分かっている、と思うゲンマ。何日の何時ごろ直接電話する、と細かい予定を詰める。

また、ファイバザールから中央への飛行機移動については、

『一両日中には、あなたの上から詳細について連絡があるはずよ』とのこと


『ジャイアプールの件は』

『また改めて』

それではやすみなさい、と通話終了。


さて、と一息つき、椅子に凭れて目を瞑る。

とうとう来た、という感じだ。ついにトマス博士にお目通りだ。

電話はキケンね、マレッサには直接会って話をしよう、と思うゲンマ。

ゲンマは何回かトマス博士に会ったことはあるが、主には警護要員としてなので、まともに話をしたことは無い。世界最高の知性を相手に、1対1では恐ろしくて話しもできないかもだが、今回はコバリにマレッサも一緒だ、心強い。

 持つべきものは優秀な友だな、と思うゲンマ。


 生まれた時から虹彩異色の多様生体回路(マルチ・サーキット)持ち、「龍の巫女」として天龍族の英才教育を受けて育ったゲンマ。齢15歳にして、中央と双璧を成す、極東地域高等学校へ鳴り物入りで入学した。編入試験の成績は2位、例年ならダントツトップの点数だったようだが、その年は開学以来初の満点(フルスコア)で合格した化物がいた、と聞いていた。

 総代の話しが来たときに「成績1位の方がなるのでは?」と聞いてみたが、総代は特に成績だけで決まるものではない、と言われ、幼少の頃より代表となるのは慣れていた、ということもあり、それでは、と引き受けた。

 入学式の日、総代として登壇し、新入生を前にした際、前列左側に座る少女に目が行く。

ブルネットのロングヘアに銀縁眼鏡、両眼は鮮やかなコバルトブルー。周囲の新入生より明らかに幼いその姿。ゲンマと同い年の15歳にして、入試満点(フルスコア)の化物。マレッサ・ロクメがゲンマの挨拶に対して、朗らかに拍手していた。

 入学してしばらくは、学業の他にも総代として様々な職務もこなし、人脈も広げていったゲンマだが、勉学一筋、孤高の天才、とすでに噂されていたマレッサとは接点なく、一ヶ月が過ぎた。

 そんなある日、お昼休みに中庭のベンチで楽しそうに本を捲るマレッサを見かけた。 

これは絶好の機会ね、

「こんにちはマレッサ・ロクメ」

と声をかけてみた。一瞬、キョトンとしてこちらを見るマレッサだが、すぐに上品に微笑み

「ごきげんよう、ゲンマ・ビエント」

と返答してきた。噂通り、人当たりは良いようだ。

「おとなり、良いかしら?」

「どうぞ」

マレッサが少し横にズレてベンチにスペースを空けてくれたので、そこへ腰を掛ける。ちょっと考え事をしている風のマレッサに

「マレッサさん、とお呼びして良いかしら?」

と尋ねてみる。

「私達は同級の同い年なのですから、マレッサでよろしいですよ、ゲンマ様」

返しが速く、躊躇いがない。頭の良さが分かるな、と思いながら

「では私もゲンマ、でいいわ」

同級の同い年、ですものね、と返し、お互い顔を合わせニッと微笑む。

ゲンマはマレッサの傍らに積んである本を見る

「それはここの図書館から借りたの?」

「ええ、ここの図書館は専門書が充実していて助かるわ」

専門的過ぎて、タイトルだけでは何の本かわからないものもある。

「少し、見せてもらっても良いかしら」

「もちろん、どうぞ」

マレッサが何冊か渡してくれたので、手に取りパラパラと捲るゲンマ

流体に関する非線形偏微分方程式系の超難解な理論が展開されている、というのはなんとなく分かる。

「…かなり専門的なトマス博士の著書ばかりね」

「そうね」

「今現在、私たちが受講している内容とは違う、というか、遥かに難解な内容ね」

「?講義の時間以外には、講義と他の事を学ぶのは当然でしょう?」

絶句、とはまさにこの事だ。さすが開学以来の化物だ。

「うーん、当然ではないわね」

キョトンとするマレッサ。

可愛い化物もいたものだ、と思いながらゲンマ

「トマス博士といえば」

「去年、北の紅天龍を訪問されてね、私も少しお話させていただいたわ」

「その話」

マレッサがグーーーッとゲンマに顔を近付ける

「もっと詳しく聞かせていただけるかしら?」

ちょっと瞳孔開き気味だ。

異様なプレッシャにちょっとのけ反るゲンマ

「え、ええ、もちろんいいけど、もう時間がないから放課後に改めて」

そう、じゃあ連絡先を交換しましょうと流れるように通信機を取り出すマレッサ。

こうして、マレッサとは友達になった。


明日はマレッサを呼び出して、どう話を切り出そうか、と微笑むゲンマだが、

それはさておき、と腕を組み椅子に沈み込む。


コバリ・アオヤマが中央へ行くのに、トマス博士との打合せだけ、ということは無いだろう。

不穏だな、と先日のジャイアプールでの「お茶会」を思い出すゲンマ。



「何でお前に呼び出されるんだ、とお思いかもしれないけど」

ソーサーからカップを持ち上げ、ひと口お茶を啜る。

「まあ、今回はマリアの代理、とでも考えてくれれば良いわ」

ここはジャイアプール教会警備隊支部のとある小さな会議室。円卓を囲むのはコバリ、ゲンマ、ベイリー、バルイフ。円卓にはティーポット、そして大ぶりな鉢には軽く摘まめる甘いものなどが盛られている。今、一同が集合している一応の名目は「お茶会」だ。

 その当のマリアは、というと「今日はワイナン島でアズマと水族館デートよ」とコバリ。

ゲンマとベイリーに「お昼前後には、警備隊と警察を水族館に近付けない様に」と指示をする。

「だって」

「デートの邪魔しちゃ、悪いでしょ?」

その言葉と裏腹にコバリはニコリともしない。

「…その点については、現在、ワイナン島の中央水族館には通常の警備員のみ配置されているだけですので、心配ご無用です」と、ベイリー、チラリとゲンマを見る。

どういうこと?という感じだ。

「何か懸念でもあるのでしょうか?」素直に尋ねるゲンマ

「あなた方は知らないほうが良い」即答するコバリ

「まぁ、マリアが一緒だし、滅多なことにはならないわ」

そう言われると、もうこれ以上訊けない。肩を竦めるゲンマ。


さて、本題。

今回のオケアノス騒動は明らかに人為的に引き起こされたテロだ

テロリストの捜査はもちろん、軍の情報部が主導で、警察の公安、教会報道部が行うので、ここでどうこう言う事ではないのだけれど。

頷くバルイフ。

「さて、ここで考えてみよう」一同を見回すコバリ


今回の相手、最大の特徴は

生物を操れること

そしておそらくは

記憶の操作ができる


こんなことができるのは誰だ?


「ちなみに」

「私は今回の件については、テンマ・オダギリも信用していない」

「ああ、もちろん実はテンマが黒幕でした、なんて話ではないのよ」

「でもね」

「300年前からこの世界に君臨するテンマと、去年、起きた私では、どちらが信用できるか、という事かもしれないけど」

「水は」

「一箇所に長く留まると、澱むものなのよ」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ