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コバリ・アオヤマの華麗なる黙示録(疾風編)  作者: マツモト・ユウイチ
25/54

水族館へ行こう

 護衛艦指令室にてベイリーはゲンマから、指揮権が発動されている間の詳細について報告を受けている。一瞬にして海峡幅に並ぶオケアノスの大群が爆殺されたこと、アズマ・テラオが高波を堰き止め、逆転させたこと、などだが、これらの出来事はマリアの指揮下で行われた事だ、後ほど、詳細は会議で確認することとした。

指揮権については12時45分に、マリアから、海上警備隊へ戻されている。

 復帰したソナーで海中を確認、海峡内にはオケアノスの姿はなく、西南口に接近していたメスの姿も、今はもう無い。子供たちを追って、西南岸外洋へ向かったようだ。

 洪水警報は解除、しかし念のため港湾封鎖は継続。一応、明日には解除される方向で検討すると、待機している船舶には連絡したが、現在、海峡北東部にはオケアノスの死骸が列を成して浮いている。まずはこれらの処理だ。

 状況確認のため、護衛艦を海峡北東口へ、ジャイアプール沿岸近くの進路で航行する。西岸部、漁港の埠頭にて超電磁砲(レールガン)を積んでいる装甲車から、ヒガンテ、バルイフがこちらに手を振っている。途中の貿易港、港湾基地から工業地帯沿岸の状況を確認しながら進むが、大きな被害は認められない。

 海水浴場の白い砂浜の向う、屋根付き休憩スペースには2人の少女がお弁当を広げているが、それはさすがに護衛艦からはわからない。

 もちろんこんな時に、こんな処で寛いでいるのはコバリとマリアだ。

「お、護衛艦ッスねぇ」

マリアは軍服を脱ぎ、ホットパンツにボーダー柄のノースリーブで、お弁当をパクついている。

まぁ、飲みな、とマリアのコップに麦汁を注ぐコバリ

「北東口の状況確認でしょうね」

「あー、崖の上のおっきい岩、木端微塵にして放置したままッス」

「それは誰も気にしないから大丈夫よ」

そッスかねぇ、と冷えた麦の汁をグビグビ呷り、プハァと息を吐くマリア

「いやぁ、労働の後の一杯は堪えられんッス」

お疲れ、お疲れと、マリアを労い、空のコップを満たすコバリ

「そいえば、アズマさんはまだ北東口辺りッスかね?」

「ああ、護衛艦に乗っけてもらって、ゲンマと一緒に港湾基地から本部入りみたいよ」

15時から海上警備隊本部で会議、との連絡があった。チラリと時計を見るコバリ。

一瞬で何処にでも行けるマリアとは違って、こちらは移動時間を気にしなければならない。

ブルッと通信機が震える

『ごきげんようコバリ、マリア』テンマだ

『お寛ぎじゃない』

「ごきげんよう、テンマ」

「こんにちは、テンマ様」

『今日も大活躍ねマリア、お疲れ様』

なんのなんの、とマリア

「今日の案件は、アズマさん1人でもなんとかなったんじゃないッスかねぇ」

「いや」とコバリ

「今回の件、肝は対応速度だ。少しでもモタつけば、被害規模はケタ違いに変わっていた」

やはりあなたはスゴイわね、とマリアをナデナデするコバリ

えへへぇとコバリに擦り寄って甘えるマリア

「それを言うなら、今回はコバリさんの読み勝ち、じゃないッスか」


 昨晩、コバリは、人気の無い海峡にて、海峡幅全体の重力場を操作する訓練をアズマに課し、ついでに一般船舶を海峡北東口から遠ざけた。

 ニフリスにマリアとの会談を正午に設定させ、教会報道部には100発の対戦車榴弾を、中継前に中央庁舎へ持参させた。

 マリアは正午前、天気予報を流している間に、榴弾を詰め込んだコンテナバッグを持って、その場を後にした。特にお願いしたわけではないが、正午以降、マリアにそっくりな代役を立てて生中継を継続したのは、ニフリスと教会報道部の悪ノリだ。

 

 ちなみに「教会報道部」はその名の通り、出版物、映像などによる報道、広報活動を主な業務とするが、それは表向き。実際は諜報機関であるというのは、知っている人は知っている。


「読み勝ちというなら」

「マリアが極東地域に乗り込んできた時点で、ほぼこちらの勝ちだった」

『そうでもないわ』

『具体的な策と、事前準備無しには、今日の出来事には即応できなかった、さっき言ってたように対応間違い、もしくは遅れで被害は甚大になっていた可能性は高い』

『マリアがいた、としてもね』

「それはそうと」サンドウィッチをモグモグしながらマリア

「今回の件は、どこのどいつが、仕組んだんッスか?」

肩を竦めるコバリ。一応、自然災害を装おうとしていたようだが、今日の一件は人為的に引き起こされたものだというのは明白だ。

『それについては軍と教会報道部が鋭意調査中』

食い気味に答えるテンマ。

「逃がした何か」についても気になるところだが、特にテンマは言及しない。

てんぽこきめ、と思うコバリだが、テンマならN潟弁も解するだろうと言葉にはしない。

『ウソじゃないわよぅ』

いっけね、読まれた。

「ええ、そうでしょうね」


ウソはついてないけど、本当のことを全部喋るワケでもないのでしょう?


『とりあえず、午後の会議では、昨晩の打ち合わせの通りに』

ハーイ、とマリア

あれ、今度は無視された。と、ちょっとふくれっ面のコバリ。

「仰せのままに」

フンッという感じのコバリのほっぺたを、ツンツン突くマリア。

『まぁ、いずれにしろ』

『有識者の間では、金色の聖女、の評判は高まる事でしょう』



以前、アズマはアルフとライラに尋ねた事がある

「なんで、コバリが金色の聖女なんです?」

金色、はともかく聖女ってぇのは納得できない

「基本的には、稀人の能力って公表はされないんだけど…」

「当初、コバリさんは、万能(スーパーマルチ)、って呼ばれてましたね!」

ああ、なんかそれはしっくりくる。

「ある時、コバリが特殊な能力を披露してから、聖女と呼ばれるようになったようよ」

へぇ、その能力って何です?

「ウワサだけどね」

「予言、よ」

この世界で、唯一無二「予言」の生体回路(サーキット)

スゴイですよねぇ、とニコニコするライラ

そうだね、スゴイね。


本当、ならね。



 目の前に見上げる巨大な水槽は、高さ15m以上はあるだろう。建物の中央、地階から最上階までブチ抜きで設置されている円筒形の水槽は、O阪のK遊館を彷彿とさせるが、それよりも一回り以上大きいようだ。小型から大型の色とりどりの魚類が泳いでいるのは当然だが、圧巻は何といっても体長10m以上はあろうかという首長竜だ。

 長い胸鰭に尾鰭、昔、図鑑や映画で見たあの首長竜そのものだ。肉食で小魚などが主食だが、基本的には大人しい性格の種で、エサが潤沢な水族館では、水槽の魚を襲うようなことはないらしい。

 そして大型海獣では、体長5m程度のオケアノスの子供も2匹、悠々と泳いでいる。

「こうやって見ると可愛いッスね」

なんかゴメンねぇ、と水槽に張り付き、すまなそうに眺める黒髪の少女

「お前のせいじゃない、気にすんな」

と並んで、オケアノスの子供たちを一緒に眺めるアズマ


 ここはジャイアプール沖、ワイナン島の水族館。平日昼間だが港湾封鎖も解け、人気観光地ということもあり、それなりの人出で賑わっている。

 北大陸でも最大規模の水族館には1200種類以上の魚類、海獣、海竜、甲殻類などの水生生物が飼育、展示されている。

 昨晩、私はまだ打合せとかいろいろ用事があるから、あんた達はワイナン島で遊んで来なさい、とコバリになかなかの額の現金を持たされた。

「マリアは頑張ったからご褒美よ」と、甘えて擦り寄るマリアをヨーシヨシと可愛がるコバリ

えー俺も結構頑張ったけどなぁ、などと言うと、どうせ猛反発にあうので、言葉を飲み込むアズマ。

そして今日は、大人しくマリアをエスコートして水族館デートだ。

 アズマは例の眼鏡をかけた程度の変装で、細身のスラックスにオーバーサイズのドレスシャツと、どこにでもいそうな若者、スタイルだ。

 一方、マリアは黒髪のセミロング、ぱっつん前髪、ツインの前おさげにして、メガネ無し、両眼の虹彩もカラコンで黒にしている。その姿は、もう誰もマリア・クシナダとは思わないだろう。

 服装は黒髪の清楚系を意識してか、裾回りをタックとギャザーでボリュームを出した、膝丈ミニの白いシャツワンピ。


中央大水槽前にて、オケアノスの子供たちを愛でながら、

「あの子達、操られてたんですよね? 可哀そうッス」

ホント、許せねぇッス、とプンスコするマリア

今は「世界最強」などと呼ばれてはいるが、元々は優しい普通の女の子だったのだろう。

ほのぼのとマリアを見つめていると、テレテレしながら

「え、なんスか、そんな熱く見つめられるとXXXのXXがXXXッス」

ゴメンゴメン、訂正、元々は優しいエロボケビッチだったのだろう。コイツは。

「そんな褒めても、XXXからXXぐらいしか出ませんよ!」

公共の場でそんなもん出すなや! そして褒めてはいないな!

またまたぁ、とアズマと恋人つなぎした手を振りながら、歩くマリア。

ちなみに、アズマは手つなぎを拒否したが、世界最強のポテンシャルに屈して、今に至る。

現在も局所的に重力操作や、加速による攻防が繰り広げられているが、周囲の人々には仲良しカップルがイチャついているようにしか見えていない。

 表面上はイチャイチャしながら、小型から中型水槽に飼育されている日本でも見覚えがある魚や、ウミヘビ、甲殻類など見て回る。屋外のプールではアザラシやアシカのような海獣の他、小型の翼竜なども飼育されている。

「この子は主に小魚を捕食するッス」「ま、ペリカンみたいなモンです」

可愛いッスね、と若干興奮気味のマリア、翼竜はお気に入りらしい。

「もっと大型の翼竜もいます」「昔、極東地域では家畜とか攫われて食べられちゃってましたけど、超電磁砲(レールガン)の対空迎撃システムが完備されたんで、もうこの辺には近付いてこないッス」

ああ、前にアルフとライラから、そんな話聞いたなぁ。

とか思いながら、飼育員が放り投げる小魚を、止まり木の上で巧みにキャッチしパクパク食べる小型翼竜を眺める。先が尖った細長い口の下に魚を溜める袋状のものがある、ホント、ペリカンみたいで可愛いもんだ。


 なんだかんだでもうお昼すぎ、今日はタンマリ銭持ってるゼ、ということで水族館内のフードコート、ではなくちょっと高そうなレストランへ。

 最上階の展望レストランからはワイナン島のリゾートホテルにビーチ、対岸のシベルー島沿岸も一望だ。オーダーは、なんでも好きなモン頼みな、とマリアに一任。どうやら和食ベースのメニュー構成だ。まずは、お約束のキンキンに冷えた麦汁で乾杯。

「昨日のオケアノスは」バリボリと手長カニの丸揚げを頬張るマリア「ここのレストランでもそのうち提供されるみたいッスよ」「へぇ、美味しいのかな?」「なんかクジラみたい、ってテンマ様は言ってました」「そうか、そりゃいいな」「好きなんスか?クジラ」「白身は鯛、赤身はクジラだ」「なんか海原〇山みたいッス」「イルカも捨て難い」「ぽいヤツは一昨日食べましたよね?」「おお、そういえば。ここの店は、どうなんだろう?」

お刺身あるかなぁ、とメニューを捲るマリア。


昨日の会議でも議題になったが、只今、海峡に浮いているオケアノスは52頭

そのうち何頭かは、ジャイアプール漁協が引き取り食用にしたり、油脂を採取したりする、また、水族館や研究機関の調査用にも供する事になっているようだ。

そして、残りは外洋まで曳いていって沈める、とのこと。

一般向けの報道では何頭駆除したか、の正式発表はしない。

なんといっても数が多すぎるのだ。

今回の件、人為的な介入があったのはもはや明確で、テロ行為と言っても良いだろう。

そして現在、首謀者は不明、どのようにオケアノスを操ったかも、要調査だ。

このような状況下では、情報統制も止む無しと判断した。


そしてマリアからは会議冒頭にて一言

「指揮権発動中の作戦内容は、第28特別規定により、一切非公開になります」

第28特別規定とは、稀人の能力に関連する事象の情報公開を制限するものだ。

今回の場合、公式の記録にはマリアの名前は一切出てこない。

 オケアノスを爆殺したのは海上警備隊、津波を止めたのはゲンマ以下、天龍族の隊員、アズマは通りすがりにお手伝いした一般人、名前は記録されない。

コバリも単なる見学者、だ。

 また、オケアノス探索のため出動し行方不明になっていた潜水艇は、メスと子供たちが棲息していたオケアノスの巣にて発見された。隊員の生存は絶望的と思われていたが、発見時、意識は無かったがなんと3名全員無事。オケアノスの状況報告の後、すぐに総員意識不明となったようだが、逆にそれが幸いし、潜水艇内の空気の消費が最小限に抑えられたようだ。

今は警備隊病院へ運ばれ、再び深い眠りについたようだが、命に別状は無いとのこと。

健康状態回復次第、中央に送られ、いろいろ検査されるらしい。一体、何が起こったのか詳細に調査される予定だ。 

 会議が一通り終了した後、コバリがベイリーとゲンマに近付き「ご苦労様」と両名の肩をポンポンと叩く。

 昨日の朝もそうだったが、コバリは触れた掌からベイリーとゲンマに直接、念話で連絡していた。昨日は『正午以降、海峡北東口で動きがある、逆に、それまで近付くな』

そして今日は『今回の黒幕について話そう、メンバーはベイリー、ゲンマ、バルイフ』だ。

詳細は後ほど暗号通信で詰める、と、その場では一旦解散。

2人になったところで、

「まだ、ファイバザールには帰れないようだな」とベイリー

「そのようです」フーッと溜息をつくゲンマ

「とりあえず」

「今晩は飲みに行こう」

「お供します」

顔を見合わせ微笑む2人、今日ぐらいは、少々深酒しても大丈夫だろう。



 マリアが「お花を摘みに行くッス」と言うので、円筒形の水槽がいくつも並ぶエリアで待つアズマ。女性のお手洗いが混むのは、ここでも変わりはない。

水槽にはクラゲやイカなどの軟体動物、オウムガイの親戚のような、巻貝にイカの脚が何十本と生えている謎生物などが、ゆったりと泳いでいる。

 薄暗い照明の中、水槽の柱の間を、ホウホウと眺めながら歩いていると、視線の先には、フワフワのレースをあしらった青いベレー帽を被るショート栗毛の少女が、水槽の中でフヨフヨ泳ぐ貝獣を見つめていた。

「こんにちは、お兄さん」

こちらに気づいて振り向く、小柄で華奢な色白少女。見上げる瞳は鮮やかなアメジスト色。

「昨日はお疲れさまでした」

「いや、大したことはしていないよ」

「津波、押さえ込んでくれたんですよね?スゴイです」

「周りの人間が優秀でね、俺一人じゃ何もできなかっただろう」

「それは、ご謙遜ですよ」

ニコニコと微笑む少女。

情報統制されているのに、何故そこまでの事情を知っている、というツッコミはおそらく無駄なんだろうなぁ。

と、

「お待たせしました、アズマさん」

アズマと少女の背後、一瞬前には誰もいなかった場所に、マリアが立っていた。

「こんにちは、お嬢さん」

口元には微笑を湛えているが、眼は一切笑っていない。

ゆっくりと少女に近付くマリア、途轍もない密度の正粒子がマリアの周囲に集束していってるのがアズマにさえも分かる。バリバリの臨戦態勢だ。


「こんにちは」

あでやかに微笑む少女。

「ご機嫌いかが? マリア・クシナダ」


「黙れ」

スゥッと目を細めるマリア

「アズマさん下がって」


「コイツは、ヒトじゃない」


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