海獣掃討作戦 2日目正午
11時45分からのお昼前のニュース、ファイバザールにて、ニフリス首長をマリア・クシナダ中央軍最高顧問が表敬訪問、とのトピックスを教会報道部が生中継で伝えている。
それを指揮通信車のモニタで眺める、ゲンマ、ヒガンテ、バルイフ
ゴージャスな「破軍」と可憐な「世界最強」の2ショットは並んで座っているだけでも絵になるな、と内心ではご満悦だが、表面上は無表情のバルイフ
「マリア殿に同行しなくて良かったのですか」と少し茶化すように聞くヒガンテ
「マリア殿が歩いて行く、となると、ついていけないものでね」肩を竦めるバルイフ
移動速度、が非常に気になるヒガンテだが、そんなものは軍事機密に決まっているので、もちろん問うたりはしない。
アルハンゲスリンクで、マリア・クシナダが素手で50t超の戦車をブン殴って裏返す姿を目の当たりにしているヒガンテ。ヒガンテやバルイフのような西方系鬼族は加速の生体回路に運動性能向上の能力も大体備わっているが、さすがに戦車を殴って壊すなど不可能だ。
基本的にマリア・クシナダの能力、については一切非公開。
「軍の上層部も正確には把握していないはずだ」とゲンマ
「全て分かっているのはテンマ様ぐらいだろう」
ビービーとけたたましい音、指揮通信車に護衛艦から連絡だ。
「オケアノスの番、メスが動いた様です」通信士がゲンマに告げる。
「深度500mの巣から出て、オスのところへ向かっている、とのこと」
「よし、撤収中止、全員に連絡」即応するゲンマ
「ヒガンテ、封鎖状況を警察と確認」
「了解」やはり、動いたかと思うヒガンテ
もちろん、この3人は、まだこんなもんじゃないんだろ?とは思っている。
護衛艦の指令室で状況確認するベイリー
オスを引き上げるため、潜水艇で引き揚げ用のワイヤーを胴体に巻く作業を進めていたが、
オケアノスのメスが動いた、と潜水艇から連絡があった時点で、もちろん作業は即中止。潜水艇にオスから距離を取るよう連絡。
護衛艦は海峡南西口にて待機、万が一に備えて、超電磁砲発射の準備。哨戒艇は護衛艦の前面、周囲に展開し、いつでも対潜魚雷発射できるようスタンバイ。
ソナーでメスの位置を確認する。
「子供2匹も巣から出ました」
「こちらは深度500m維持したまま、西南岸の外洋方面へ向かっています」
「メスは深度300m、オスの方へ、ゆっくり移動しています」
「ふむ」
どういうことだ?と考えるベイリー
「番の安否を直接確認したい、ということか?」
子供はもう気にしなくて良いだろう。メスもこれから浮上して大暴れする、とは思えない。
しかし、嫌な予感はする。
正午のサイレンが港に響く
沿岸にいる、ゲンマ、ヒガンテ、バルイフは瞬間、異変に気付く。
海全体から異様な気配が漂う。気配、というかこれは「音」だ
指揮通信車にベイリーの護衛艦から緊急連絡
『海峡の全域、ソナーが全滅、現在、海中は何も捕捉できません』
「総員戦闘配備」
「ヒガンテ、超電磁砲発射準備、いつでも撃てるように」
言うが早いか、自身は対重装甲超電磁銃を携え、あっという間に飛び立つゲンマ。
「了解」素早く自身が発射台に乗り込むヒガンテ
「バルイフ殿」
「なんでしょう」
「いざという時は、ご協力お願いします」
おそらく砲撃は目視に頼るしかない。バルイフの「加速」はヒガンテのそれを上回る。
「もちろんです」
しかし、海中に潜られるとデカイ的とはいえ、目視のみでは、ほぼ当たらないだろう、と2人とも思っている。頼みの綱はゲンマか。
ベイリーも、状況確認のため港湾基地と、護衛艦から天龍族の隊員を飛ばす。
段違いの速度で、西南岸から港湾基地、工業地帯を飛ぶゲンマからまずは一報が入る。
『海峡北東口から、海峡を横断する波が』
『次第に波高を上げながら、こちらに迫ってきています』
何故?風もないのにこんな波が?
詳細な状況を確認しようと高度を下げるゲンマ。
高波の原因はすぐに明確になる。
『波濤の後方、オケアノスの群れが、横一列に並びこちらへ向かっています』
『数は正確にはわかりませんが、50頭程度』
『等間隔で海峡幅いっぱいに並び、波を起こしながら進んでいます』
『すでに波高は15mから20m』
巨大な海獣が海峡一杯に隙間なく並び、体をダイナミックにうねらせ、お互いシンクロしながら波をどんどん大きくしているように見える。
ドドドドドドッと響く波濤は間近で見ると、凄い迫力だ。
この群れが一斉に、あらゆる波長の音波を発信しているのなら、ソナー全滅もやむを得ないな、と思うゲンマ。
この先、両岸とも崖、海峡は狭まり、波の高さは余裕で30mは超えて来るだろう、崖の先、海水浴場の向うはすぐに工業地帯、そして港湾基地だ。
ジャイパ列島が天然の大きな護岸ブロックとなっているジャイアプールの港、その防波堤は港湾基地でも高さ15m、他の地域では10mも無い。
係留されている船舶は全滅、防波堤を超えた波は工業地帯、港湾基地から貿易港まで沿岸部を襲い、壊滅的な被害となるだろう。
しかもこの高波は自然災害ではなく、意図的に起こされているものだ。1度で収まるなどと考えるのは甘い。この後、何度襲い掛かって来るか分からない。
「港湾全域に洪水警報発令、緊急避難を呼びかけろ」
「沿岸警備の警察官、教会警備隊も飛べる者以外は、速やかに退避」
「哨戒艇は全速で、海峡から離脱」
海峡内で30m以上の高波に襲われたらひとたまりもない、が外洋まで逃げればおそらく大丈夫だ
「護衛艦も海峡離脱。船首を北東口に向け、全速後退しつつ、超電磁砲発射準備」
「潜水艇は海峡出口両岸にて潜航して待機、いつでも魚雷発射できるようスタンバイ」
ベイリーは矢継ぎ早に指示を出す。
ゲンマに追い着いた天龍族隊員から映像が送られてくる。
海峡を横断する高波が凄い早さで迫って来る。両岸との対比で波高はすでに20m超であることが確認できる。
横並びの巨大海獣たちは、浮上と潜航を見事なシンクロ具合で互い違いに繰り返し、波を増幅している。そして浮上の際もほぼ海面上に姿を現すことは無い。
ソナーは全滅、海中なので電波も役立たず、高波でほぼ目標は視認できない。
それでも、やるだけのことはやろう、とベイリー
「各超電磁砲、発射準備」
「港湾基地、向かって右、護衛艦、中央、沿岸の教会警備隊は左」
「空中の警備隊員、を大まかな位置の目安として、基準海水面の高さに連射」
ゲンマと他2名の警備隊員は、眼下にオケアノスが泳いでいる位置へ
「撃て」
せめて足止めぐらいにはならないかと、一斉に砲撃を加える。
港湾基地、沿岸部の装甲車、護衛艦から轟音とともに超電磁砲が連射され、ほぼタイムラグなく全弾、波濤前面の海水に着弾、ズバッと波を切り裂く。
しかしながら、全く勢い衰えず、再度、波が向かってくる。
上から見ていたゲンマには、発射直前、オケアノスが全頭一斉に潜り始めたのが分かった。
おそらく、ほぼ被弾していないだろう。
「砲身冷却後、再度、一斉に砲撃を加える」
効果は薄いな、とベイリーにもわかっている、が何もせず、指を咥えて見ているわけにはいかない。
ゲンマは上空に誰かいる、のは気付いていた。砲撃の後、スルスルと上空からゲンマに近付いてくる。
「ゲンマさん」
「少し手伝っていただけますか?」
「もちろんですよ、アズマさん」
何か良い策があるのでしょう?
北東部海峡入口を見下ろす、ワイナン島の北端、切り立った崖の上
黒いフード付の厚手マントを羽織る女性が、誰かと語らっている。
「マリア・クシナダを例えるなら」
「我々が石ころ、だとしたら彼女はダイヤモンドだ」
「でも」
「今からジャイアプールに駆け付けても手遅れ」
「ダイヤモンド1粒、では」
「津波は防げない」




