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コバリ・アオヤマの華麗なる黙示録(疾風編)  作者: マツモト・ユウイチ
22/54

海獣掃討作戦 2日目午前

 すでに夜明け、時刻は6時前、軽く仮眠をとり、港湾司令塔、指令室に本部長と並んで座り現状確認するベイリー

 沈んだオケアノスは動かない、さすがにもう死んだ、と判断して良いだろう。しかしながら、番のメスと子供2匹も動かない。通常はオスが死んだ場合、メスは危険と判断し、子供とともにその海域を離れるはずなのだが。

「まだ封鎖は解けませんね」

「南西エリアは、な」思案顔の本部長

海峡北東口のエリアにはすでに、大型貨物船、旅客船が20隻以上待機している。

「完全に封鎖を解除、とはいかないが、哨戒艇の護衛付きで入港を許可しても良いのではないかね?」

すでに昨晩、通商担当から非公式ながら、海上警備隊には催促があった。

「もちろん、安全確保が最優先だが」

「昨晩、北東口先の沿岸に停泊中の貨物船から、通報がありました」

「海峡北東部にて、不審な現象が確認されています」

 公式には原因不明、調査中となっているが、この件に関してはゲンマからは非公式に「この現象自体は問題ない」と報告を受けている。しかし続けて「まだ絶対に油断するな」「これはコバリ・アオヤマからの忠告だ」とも告げられている。

「それに、連絡の途絶えた潜水艇も、まだ発見されておりません」

ふむ、と本部長

「封鎖解除の判断は本日午後まで保留としよう」

広報部に、その旨伝えるようにと指示する本部長。

 チラリと時計を見るベイリー、今日の8時から、昨日の結果を受けた今後の対応について検討する会議を開催する予定だ。

「とりあえず、朝メシにしましょう、本部長」


 左腕と右肩が重いなぁ、と目覚めると、昨日同様、左腕にマリアが絡みつき、右肩をコバリが枕にしてスースー寝ている。やはり寝室のカギなど、全く意味はなかった。

昨日と異なり、今日は全員、ちゃんと寝巻を着用しているので、まぁよかろう、と、まんまとドアインザフェイスのテクに引っ掛かるアズマ。

 左のマリアが狸寝入りなのは分かっている。右のコバリは、寝ているのか?

コバリに関しては、子供のころからよく一緒に寝ていたので、特に緊張もトキメキも無いが、改めて至近距離で見ると、キレイな顔だな、と思い、額に軽くキスしてみる。

「何よ」眼を閉じたまま眉間にシワを寄せる。どうやら起きていたようだ。

左のマリアが、グイグイ体を寄せて、眼を閉じたまま顔をこちらへ向けてくる。いや、お前にキスなんかせえへんで。

 時刻は6時半、目覚まし時計のアラームが鳴る。ムクッと起きるコバリ。

「おはよう」「おはよう」挨拶はちゃんとするコバリとアズマ。

ベッドから出て、寝巻を脱ぎ捨て、下着姿で洗面所に向かうコバリ、恥じらい皆無だ。

「いいかげん離れろ」マリアを引きはがそうとするアズマ

「えー、もうちょっとぉ」

「マリア」

「もう支度なさい」

はーい、とベッドから出て、これまたパジャマをポイポイ脱ぎ捨て、そのままの勢いで全裸になるマリア。

「コバリさん、アズマさんがエロい目で見てくるッス」

「うっさいんじゃ、はやく服着ろ!」

イヤでーす、これから朝風呂ッス、と風呂場へ行くマリア

まぁ、いいけどさぁ。とゆるゆるベッドから出るアズマ。

コバリは鏡台の前で髪を梳り、いつものツインテに結っている。

「今日、マリアは」鏡越しに今日の予定を確認

「お昼にファイバザールで、破軍とランチらしいわよ」

「へぇ」

「しかも、教会報道部の生中継付き」

「さすが有名人」

「私たちは、ワイナン島にでも行きましょうか」

「おぉ、いいねぇ」

「お弁当持って、北の海岸かしら」

「なんスか、デートッスか?」

超速で風呂から上がり、頭をワシャワシャとバスタオルで拭きながら、コバリの隣に座るマリア

アズマはもう裸関係のツッコミは放棄。歯磨き、洗顔と身支度に専念する。

「そうよ、邪魔しちゃダメよ」

ホラホラ、とマリアの髪をドライヤで乾かすコバリ

傍で聞いていると、幼馴染同士のリゾート島デート、の話のようだが、3人に全く笑顔は無い。

「…邪魔が入らないと、いいッスね」


 コバリ、マリア、アズマの3人でエントランス横のテラスで軽く朝食を摂っていると、バルイフが迎えに来てくれる。

 おはようございます、と挨拶を交わし、バルイフの運転する車に乗り込む。

「バルイフ」「はい」「今日、12時からファイバザールでニフリス首長と会食します」

「あなたはこのままジャイアプールで待機」「了解しました」

マリアが後部座席から指示する。バルイフは余計な事は訊かない。

「ヒガンテのところにでも、行ってみたらどう?」

「はい、そのように」


海上警備隊本部へ到着、昨日と同じ会議室へ向かう。今日は、マリアも普通にコバリたちと入室する。既にベイリーとゲンマは会議室正面で、低い声でなにやら立ち話している。

コバリ達に気付いて敬礼する2人、

「おはようございます」にこやかにコバリが近付き挨拶する

「昨晩はお騒がせしました」頭を下げるゲンマ

「いいえ、あなたは職務を遂行しただけじゃない」ポンポンとゲンマの肩を叩くコバリ

「今日もよろしくね、ベイリー」とベイリーの肩もポンポンと叩く。

 8時に予定通り会議開始、出席メンバは昨日と概ね同じだが、今日は昨日のような緊張感は無い。

まずは、オケアノスの現状について、索敵班の担当官から報告

現在、深度300m、シベルー島南岸沖に沈むオケアノスは動かず、死亡したものと推定。

一方、深度500mに潜む、番のメス1匹、子供2匹も動きは無い。

また、昨日の超電磁砲(レールガン)狙撃地点を調査。胴体を狙った、港湾基地から発射された徹甲炸裂弾は、胴体部分を貫通し、海底を抉って爆発していた。

「おそらく着弾時に」

「目標が高速回転、体を捻って、弾道を胴体中心から逸らし、表皮に沿って弾は再度貫通、外側へ出たものと思われます」

ディスプレイのオケアノスが回転する図、を指し示しながら説明する。

え、あの速さで飛んでくる弾に反応できるの?とちょっと吃驚するアズマ。

生体回路(サーキット)は電磁波系なので、ひょっとしたら加速、を行っている可能性もありますが」

「今後の研究課題ですね」

まぁ、それは生物学者におまかせしましょう、と次の報告へ

「他のオケアノスについてですが、ジャイパ列島の東、外洋にて、この数週間で目撃例がいくつかありました」

「発見したのは大型貨物船、旅客船でさすがにオケアノスも近付いてこなかったので、特に被害等はありません」

「オケアノスは、危険回避のため、同族の血が一定以上含まれる海域には近付きません」

「従って、現在この海峡南西口エリアは、逆に比較的安全かと思われます」

 今後の予定として、沈んでいるオケアノスの引き上げ、移動をこれから実施、南西部外洋付近まで運び、リリースする、とベイリーより説明があった。

「オケアノスの立ち入らないエリア、を拡大する」

港湾の封鎖については、何事もなければ、本日午前まで、正午には解除する、ということにした。

「教会警備隊は、沿岸部に展開している装甲車などの重装備は、もう午前中に撤収開始してくれ」

「了解しました」頷くゲンマ、ヒガンテ

サルベージなどの詳細は、この後、専門部署が検討するということで、一旦、会議はお開きだ。

最後にマリアから一言。死傷者も無く、物損も最小限で作戦遂行したメンバを称賛し、ベイリーと握手しながら謝辞を述べる。

 内心では、キャア!手ぇ握ってるよ、とはしゃいでるベイリーだが、表面上は落ち着き払って

「もったいないお言葉、痛み入ります」と応ずる

「私はこれからファイバザールで正午から、ニフリス首長と会食の予定です。今回の件についても伝えておきましょう」

 え、もうすぐ10時ですけど?と、聞いていた大半の人が思ったが、相手が相手なので誰もツッコまない。立場上、ベイリーが尋ねてみる

「えっと、なにか移動用に飛行機など、手配致しましょうか?」

「いえ」ニコッと微笑みながらマリア

「歩いていくので、不要です」


 コバリとアズマはバルイフに送ってもらい、教会宿泊施設へ戻る。マリアは途中で「ソロソロ行くッス」と言い残し消えた。

 朝方はワイナン島へ行こう、と話していたが、港湾封鎖中で連絡船はもちろん運休、飛んで行くのも目立ちすぎるしなぁ、ということで、大人しくジャイアプール沿岸、港湾基地の向こう、東北部の海水浴場などある海浜公園エリアに行こう、ということに予定変更。

 フロントで、コンシェルジュから朝方に頼んでおいたお弁当と、飲み物が入った大きめのスクエア型バッグを受取り、一旦、部屋に戻る。大きめサイズの防水ジャンパにパンツと、アウトドアっぽい格好に着替え、変装とまではいかないが、一応アズマはメガネをかけ、コバリはカラコンで虹彩を変えて、お出かけする。

 移動はタクシー、教会前の停留所から乗り込む。VIP用の永久フリーパスはここでも有効だ。

 港湾、および沿岸部は封鎖しているが、内陸部は通常通り、一般人は働いているし、お店も営業している。教会周辺の伝統的な建造物が並ぶ地域を抜けると、近代的な街並みになる。さすがに経済規模ではファイバザールを上回る都市だけあって、人や車の往来も活発だ。さらに東北部へ向け幹線道路を進んでいくと、右手に教会警備隊港湾基地、その先には海に面した工業地帯が広がる。

 そこから20分も走らない内に、周囲を森林に囲まれた、お目当ての停留所へ到着。海岸まではまだ少し距離はあるが、アズマとコバリにとっては特に問題無い。

 海岸までの森林に囲まれた遊歩道には人影はない、コバリとアズマは高度に気を付けて、一足飛びに移動する。ザンッと砂浜に到着。

 防風林の先は、白砂の砂浜が海まで40mから50m、長さ2km程度に広がる海水浴場だ。遠浅の海は100m先まで2m程度の深さなので、家族連れも安心して水遊びを楽しめる。だが、当然4月末はまだまだ泳げるような水温では無いし、平日午前ということもあり、人影はほぼ無い。砂浜の先、海峡北東口方面は峻厳な崖が切り立っており、基本、立ち入り禁止だ。

この辺りから先の沿岸は、建物もほぼ無いので、特に今回は封鎖などされていない。

 防風林と砂浜の境界にある、屋根付き休憩スペースに荷物を置いて、コバリとアズマは裸足になって砂浜を駆け、海へ。まだ4月だが砂は熱い、波打ち際まで小走りで行き、バシャバシャと波を蹴る、水はまだ冷たいが今日は暑いくらいなので、心地良い。2人ともその場でしばらく仁王立ち。波が引くときに足下の砂が持っていかれる感触、を楽しむ。

 2人でちょっと浮き、遠浅の沖、ここから深いので危険ですよ看板、まで海上をフヨフヨ移動してみる。ちょっと飛べるとこういうこともできるから便利だ。

沖にはシベルー島、その後ろのワイナン島もちょっと見える。ここから島まで4km弱、今のアズマならひとっ飛びだが、この地点も定期的に哨戒艇が見回っているので自粛だ。

 一旦戻り、休憩スペースで「やっぱり海と言えば」と、キンキンに冷えた麦の汁をいただく。只今11時過ぎ、ちょっと早いが、お弁当も広げる。

「動くとしたら」

「正午かな」

「そうね」

パクパクとお魚の唐揚げや、鶏肉と野菜のパテ、ひと口サイズのサンドウィッチなど、美味しくいただく2人

「特に何もなければ」

「ごはんの後は、木陰でお昼寝しましょう」

「ああ、いいねぇ」

「誰かさん達のおかげで、ここのところ寝不足だしな!」

「まあ」

「何事も無ければ、だけどね」

本日も晴天、青い空に遠浅の穏やかな海、白い砂浜。

今の2人の絵面は幼馴染同士の海デート、といったところだが、会話の内容には不穏な気配しかない。


 バルイフはコバリとアズマを送った後、ゲンマ、ヒガンテと西岸部沿岸、主に教会警備隊が封鎖している地域にて合流する。

 2人は装甲列車にて移送してきた、超電磁砲(レールガン)を積載している特殊装甲車の設置地点にいた。

「昨日、久々に実戦で使用したからな」砲台の上で、砲身をポンポンと叩くヒガンテ

「ちゃんと整備しておかないと」

「そうだな」とその傍らでゲンマは対重装甲超電磁銃(レールガン)の照準や、銃身、電池パックなど確認している

「次に備えて、仕舞う前にはちゃんと整備しておかないとな」

さきほど、隊員一同に向け、ヒガンテから「午後には封鎖解除の予定、これから撤収開始」と号令がかかっているので、隊員は撤収作業をしているようには見える。

普通の人にはそう見えるかもな、とバルイフは思っている。

 教会警備隊極東地域のゲンマ隊には、隊員にのみ理解できるハンドサインがある。基本的に1人ずつ密かに伝えるそのサインは、傍目には全くわからない。バルイフのように「加速」持ちで、尚且つ、ハンドサインで何かを伝えている、ということがわかっていないと、まず見逃す。

そして、そのハンドサインでは「臨戦態勢維持」が伝えられている。

 昨日は司令塔にいたバルイフ、戦闘ではマリア・クシナダ以外には負けたことが無い、とまで言われる男、そのバルイフが今日は前線に立っている。加えてゲンマのハンドサイン。

 何も起こらない、などと考えるほうが無理だ、と気を引き締めるヒガンテであった。

 

 ベイリーは会議の後、護衛艦へ乗り込み、海峡南西口エリアへ向かっている。

出動可能な哨戒艇も全て出し、南西部を主に、海峡部をパトロールさせている。

本部長からは「そんなに船を出す必要あるのかね?」と聞かれたが、

「はい、必要です」と端的に返答した。  

そう、必要なのだ。


 マリアはファイバザールの極東地域中央庁舎を、案内役の次官に従い、赤いローヒールで闊歩する。服装は若草色の膝丈ワンピースドレスのお呼ばれスタイルだ。

 普段は所在自体が軍事機密扱いのマリアが庁舎内にいる、ということで、ちょっとした騒ぎになっているが、さすがに首長の執務室近くで騒ぐ非常識な輩はいない。

 只今、11時前、首長の執務室隣の控室に通される。ニフリス首長に似た、大柄な美人秘書に淹れてもらった香り高いお茶を上品なお茶菓子と嗜んでいると、執務に一区切りついたか、ニフリス首長が控室に威勢よく入って来た。

「ごきげんよう、マリア・クシナダ、相変わらず可愛いわね!」

「ご無沙汰しております、首長」立ち上がり会釈するマリア。

「本日はお招きありがとうございます」

秘書にお茶をお願いして、マリアの正面に腰掛けるニフリス

「教会報道部が間もなく来る」

「お手数をおかけします」

ニヤリと笑う、ニフリス

「なに」

「こういうのは嫌いじゃない」



 ジャイアプール沿岸との北東部海峡入口を見下ろす、ジャイパ列島の最大の島、ワイナン島の北端、切り立った崖の上。

その先端にある、今にも落ちそうな巨岩の上に強風にさらされながらも、何ということもなく立つ女性。

 黒いフード付の厚手のマントに細かい紋様が刺繍された赤いロングスカート。赤褐色の肌に、ブロンドの巻毛。

「やっと、いなくなった」

 被っていたフードを外し、艶然と微笑む。その眼は、左の瞳は青、右の瞳は金褐色が混じる深紅。虹彩異色。

 暫くの間、彼女は巨岩に腰掛けて、上機嫌で鼻歌など口ずさみ、景色を楽しんでいるようだったが、時刻を腕時計で確認。

もうすぐ正午。

「さて」

「行こうか」


ワイナン島北端からさらに東北方向、大陸棚の深いところ

何か、が動く。

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