海獣掃討作戦 1日目深夜
ジャイアプール沿岸、海上警備隊港湾基地より、さらに東北東へ進むと、列島との海峡の北端に至る。昨晩から、海獣駆除のため、港湾封鎖、海峡エリア立ち入り禁止となっているが、海峡北端の更に先、極東地域の東南岸には、入港待ちの船舶が、多数待機している。
中央からの北大陸東岸航路は、もちろんジャイアプール西岸から、海峡を通り、中央の貿易港へ向かうのが通常の最短ルートだが、西岸部は早々に封鎖されていたため、船舶はジャイパ列島の東の沖、外洋を迂回して、極東地域の東南岸へ向かったのだ。
その内の一隻、中央からの大型貨物船が、海獣駆除の報を受け、明日早々には封鎖解除されるだろう、と海峡付近、シベルー島北端まで、ゆっくり移動していた。
2週間前には、巨大海獣出没により「警告」が発令、5日前には「渡航中止勧告」、そして昨晩から港湾封鎖、だが、中央を出航して、北大陸南岸をぐるりと回り、最後の寄港地から30日前に出航、東岸航路を北上しここまで来た。今更引き返すなどという選択肢は無い。
大分夜も更けてきた、大型貨物船の船長は操舵室から、凪いだ穏やかな海を眺める。
お昼過ぎには、ここまで爆発音が響いていたが、今はもう静かなものだ。
すると、海峡の方向から、高さ20から30cm程度の低い波がザザッと押し寄せ巨大貨物船の船腹に当たる。
風も無いのに、波が、海峡の方向から?
不審に思い、双眼鏡で海峡を見る。すると、ここから西南西に海峡を下った5km程度の地点にて、海峡の幅全体に、一列、パッと水柱、というか水のカーテンのように波が上がるのが見えた。その波が崩れ、海峡一杯の幅で波がこちらに押し寄せて来る。高さは50cm程度、先程より高い。
なんなんだろう?と注視していると、暫くして後、同じような位置に、海峡を横断して、より高い波が立つ、ザザーッと今度は80cmから1m程度の波が海峡全体から押し寄せる。
これは、何かがおかしい。操縦士に方向転換、外洋へ向かうよう指示する。そして自身は教会警備隊に通報する。
主に海峡南西部を重点的に警戒していた海上警備隊だが、通報から5分、高速哨戒艇が通報のあった海域へ到着する。しかしながら、電波、音波、生体回路感知、で周囲を探索するが、特に異常は認められない。だが、ベイリーの指示により、今晩はその海域を哨戒することになった。
実は通報から2分、沿岸を警備していたゲンマは超加速で飛び、いち早くその海域上空に到達していた。
通報の際には、間違いなく誰かがここに居たはずだ。しかし今は全く痕跡も、気配も無い。
「全く何も無い」ことでゲンマは逆に推察する。
眼下では、港湾基地方面から、哨戒艇がこちらへ全速力で向かって来ている。
彼らと合流する前に、
と、ヘッドホンに手を当て、通常回線の通話を始める
『珍しいわね、ゲンマ』
「夜分に失礼いたします」
『何かあったのかしら?』
「先程、ジャイアプール東岸の海峡において異変が起こったようです」
『なるほど、それで?』
「コバリ様および、アズマ様の安否確認のため、一応、お電話させていただきました」
『アズマ』
『今晩は、ゲンマさん、夜遅くまでご苦労様です』
ゲンマはヘッドホンと連動している、腕時計のような端末の画面をチラッと見る。
発信位置を特定、ジャイアプール教会宿泊施設の特別室だ
「いえ、特に何事も無い様で、安心しました」
『異変、というほどでは無いだろうけど』
『何かしらの圧力変動で、特殊な波が立つこともあるでしょう』
『特に問題は無いのではないかしら』
「なるほど」
やはり推測通り、マリア・クシナダかアズマ・テラオが何かしたらしい。
しかし、もちろん証拠は無いし、彼らが、今、この状況下で、起こす出来事は、何かしら意味があるはずだ。これ以上詰め寄る必要もない。
「そうかもしれませんね」
『ゲンマ』
『まだ油断してはいけないわよ』
「承知いたしました」
「夜分にお騒がせしました。失礼いたします」
通話を切る。
何が起こるのか、ゲンマには見当もつかないが、コバリ・アオヤマが油断するなと言うのなら、油断してはいけない。
海上警備隊の高速哨戒艇と合流し、そのまま警戒を続けるゲンマであった。
紅色の勾玉型通信機を、ベッドに放り投げるコバリ
「ゲンマに怒られちゃった」
「え」
「今、怒られてたんスか?」
「この忙しい時に、ややこしいことすんな、ってことだろ」
そりゃそうだろうな、と頷くアズマ
「まぁ」
「無駄骨折っただけ、になればいいんだけどね」
まぁ、いいや、とアズマ「今日はもう寝る」
「え」
「寝る前には、みんな一緒にお風呂ッスよアズマさん!」
「うっさいわ、勝手に入ってこい」
「そんなこと言わずにぃ、私の○○○○で、アズマさんの×××を△△いてあげますからぁ」
あんまりしつこいと、また泣くぞ、と脅して、寝室へ退散するアズマ。
もう、しょうがないなぁ、とアズマを見送るマリア。
ちなみにここへ帰ってきた瞬間、パジャマにお着替え済みだ。
コバリのベッドへ寝転ぶと、通信機を拾い上げる。
「テンマさんと」
「お話します?」
フーッと長く細く息を吐くコバリ
「そうね」
「明日以降の予定を、確認しましょう」
墨を流したような濃くて深い暗闇。
そんな中、囁くような、それでいて明瞭な声
「予定変更といったところかな?」
「お手数をおかけしました」
「なに」
「たいしたことじゃない」
「ご謙遜を」
「マリア・クシナダがいる場所には」
「私は怖くて近寄れません」
「マリア・クシナダは最強ではあるが」
「万能ではない」
「ま、いずれにしろ」
「明日が楽しみだよ」




