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コバリ・アオヤマの華麗なる黙示録(疾風編)  作者: マツモト・ユウイチ
18/54

海獣掃討作戦 前夜

「あれ?」

 夕暮れの坂道を下り、ジャイアプールの港まで着いたコバリとアズマだが、いつの間にかコバリとはぐれた。キョロキョロ辺りを見回すが、コバリの姿は見当たらない。ま、いよいよとなれば電話すりゃいいや、とその辺をブラブラするアズマ。

 海沿いの堤防、高さは約3m程度か、上は歩道になっているらしく、お散歩している方を見かける。アズマも上に登ってみようと、階段を探すが、少し歩いた先だ。

飛び乗ってもいいんだけどなぁ、と眺めながら進むと、フンフンと軽く鼻歌を歌いながら上機嫌な様子の少女が、堤防の上を軽やかに歩いてくる。

クリクリのショート栗毛、色白でツノは無い。マキシ丈のワンピを纏う姿は小柄で華奢だ。

と、ボウッと陸側からの風が吹き付ける。ワンピの裾を押さえる少女だが、被っていた帽子が飛ばされる。

 アズマは咄嗟に飛ぶ。帽子を海まで飛ばされる前にキャッチし、堤防の上、少女の前に降り立つ。

「あ、ありがとうございます」相対する少女は身長140cm程度、こちらを見上げる瞳は鮮やかで印象的なアメジスト色。まぁ碧眼のカテゴリ内と考えれば、この娘も北方系だろう。10歳ぐらいかな?

 アズマはロリではないが、女性には年齢関係なく優しくすること、という寺尾家の家訓は胸に刻まれている。目線を合わせるため跪き、フワフワのレースがあしらわれている青いベレー帽を少女に手渡す。

「どういたしまして。お嬢さん」

「お空飛べるんですね、すごい」

もう飛ばされないよう、ギュッと帽子を胸に抱き、はにかむ少女。

「今日は非番なんですか?」

あー、肌色薄め、でツノ無しだから天龍族の警官か警備隊と思われてるな、と察するアズマ。有角で褐色肌、多様生体回路(マルチ・サーキット)持ちのゲンマのような存在は稀有なのだ。

「いや、まぁ、そんなとこ」とりあえずお茶を濁す。

「なんか、今日はお巡りさん多いですよね」キョロキョロする少女

「ああ、明日から海獣駆除のため、港湾周辺は閉鎖されるらしいよ」

先ほど聞いた最新情報を披露する。エッ!と少し驚く少女。

「正式な通告は今夜らしいけど、しばらくこの辺には近付かないほうがいいかな」

「あ、ハイ、ありがとうございます」ペコリと頭を下げる少女

外見から推すに、観光客かもしれない、だとしたら気の毒に、と思うアズマ。

「海獣って、この前、漁船を飲み込んだってゆうオケアノスでしょうか?」

「ああ、たぶんね」実のところアズマはその辺の詳細は知らない。

「明日は海獣駆除で出動ですか?」

「いや、俺はタブン港だな」

え、空飛べるのに?という表情の少女だが、何か合点がいったようで

「重力制御できれば、津波とか高潮被害とかも軽減できますしね」

よろしくおねがいします、とペコリと頭を下げる。

え、オケアノス駆除って津波起きるの? と思いつつも、しかつめらしく頷くアズマ。

「でも」

「なんか可哀そうですね」

堤防の上から、海上を眺めながら少女は呟く。

「え?」

「オケアノスも、人のいない沖合で生きていければ、殺されなくても済むのに」

うーん、そりゃそうなんだけど。結局、人は他の動物を殺して生きているようなもんだしなぁ。

アズマが腕組みして、うーんと唸ってると、通信機がブルッと震える

『そんなとこで、なにやってんの?』頭の中にコバリの声が響く

堤防脇の道を挟み、2ブロックほど先に仁王立ちのコバリが見える

「おぉ、どこいってたんだよ」念話が苦手なアズマは普通に通話する

『それはこっちの台詞よ』

「すぐ行く、待ってろ」と一旦通話を切る

「お連れの方ですか?」少女が下から覗き込むように見上げてくる

「ああ、そんないいもんじゃないけどね」コバリのほうをクイッと指差す。

「そうなんですか? キレイな方なのに」つま先立ちになってコバリの方を見る少女

「うーん、一応、外見だけはね」

『聞こえてるわよ』

うっわ、切れてねぇ。

「それでは失礼します、帽子、ありがとうございました」丁寧に頭を下げる少女

「いや、そんな、礼には及ばんよ」

手を振り、来た道を戻る少女を見送る。


「幼気な少女にちょっかい出してんじゃないわよ」

このロリコンが!と、いつの間にか背後まで来ていたコバリがローキックを繰り出す。

寺尾家の家訓は「常に紳士たれ」じゃ!とスネで受ける。

「まぁ、いいわ」「ちょっと港湾基地のほうへ行ってみましょ」「おうよ」

コバリとアズマは並んで堤防を行く。アズマは呑気に桟橋に繋がれた大小の船や、海の向うに霞んで見える島を眺めたりしている。

コバリも周囲の景色を眺めている感じで歩きながら、声を出さずに通信を始める。


さっき、少しアズマとはぐれた

そうみたいッスね

たぶん問題になるとは思わないけど、念のため、その間アズマと話してた女の子を追える?

え?

何?

アズマさんは1人でしたよ

え?

もう少し正確に言うなら、コバリさんと離れていた間、アズマさんの半径3m以内に近付いた人はいなかったッス

…そう

ハイ、近付く人がいれば警戒したッス

そうよねぇ

あれ?

ひょっとして、誰かいたんスかね?


もし、そうなら

それは、ヒト、ではないッスよ


「アズマ!」

「もう帰るわよ」「え、そうなの?」急にどした?と思いながらもズンズン進むコバリの後を追うアズマ。

「アズマ、さっきの女の子」「ん?」「何か言ってた?」「んん?風で飛ばされた帽子を取ってあげて、お礼言われただけやで」「そう」「ああ、そういえば」

「海獣が可哀想って言ってたな」

「そう、優しい子なのね」

「そうだな」

 黙り込むコバリ。今更だが、アズマとはぐれた時点で異変に気付くべきだった。マリアがいるからと、ちょっと油断したな、と反省。

 相変わらずあまり考えないアズマは、ちょっと不機嫌だなコイツ、と思っている。しかしそんなアズマでも、先ほどの少女の帽子を飛ばした突風は、誰かが意図的に発生させたものだろう、と分かっている。急激に変化した不自然な気圧…

 その誰かの意図はわからんが、あの女の子は災難だったな、とか思ってる。

あの子は重力制御を発動していない、とアズマは確信してるので、そう思うのも当然だ。


 特に何事もなく、コバリとアズマは教会宿泊施設に戻る。お昼が遅かったので、あんま腹減らんなぁ、と部屋でゴロゴロしてたら、飲み物と食べ物を携えて、マリアがやって来た。キンキンに冷えた麦の汁に海鮮焼きそば、甲殻類の唐揚げ、などなど。

「よくわかっているわね」とコバリがマリアをギュッとハグする。えへへぇと嬉しそうなマリア。

「アズマさん」マリアがこちらを見上げて腕を広げる

「おお、昼も夜も、お食事ありがとう」ペコリと頭を下げてやる。ハグなんかせえへんで。

フーン、と伏し目がちになりマリアが呟く「バインド」

体がググッと起こされちょっと腕を広げた体勢で固定される。なるほど、こうゆう使い方もあるのか。と、抵抗してもムダなので状況を冷静に俯瞰するアズマ。

ゆっくり近づいて、アズマをギューーッとハグするマリア。

「どうッスか?」「なにが?」ニコニコと至近距離で見上げるマリア

「皆にはちょうどイイねって言われるッス」「ちなみに86のEッス」

「へぇ、着やせするタイプなんだな」いやぁそんなことないッスと胸元でテレテレするマリア。

 絵面的には、金髪メガネEカップ美少女に胸をギュッと押し付けられているというドキドキの状況だが、拘束されていて一切身動きできず、しかも相手が容易に自分を屠れる存在、と思うと、全くトキメキもコーフンもしない。イメージって大切なんだな、と思うアズマ。

「ホラ、遊んでないで」グラスやお皿をテーブルに準備しているコバリ「手伝って」

ハーイ、と一瞬にコバリの元へと移動するマリア。イヤ、バインド解けや!

「何、突っ立ってるんスか、アズマさん」

 っのヤロウ、ならこっちにも考えがあるぞ、と思う間もなく、次の瞬間、テーブル前の椅子に座らされていた。

うっわー、こんなことも出来るのか、これ、初見でやられたら震えあがるな

「?何、アズマ、震えあがってんの?」

「まぁまぁ、いいから、まずは乾杯しましょうや」と上機嫌なマリアがグラスに冷えた麦汁をトクトクと注ぐ。

カンパーイとグラスを空け、ちょっと落ち着いたアズマ。コバリに明日の予定を確認する

「明日は朝ごはんの後、ジャイアプール教会区長にご挨拶して、その後、海獣掃討作戦会議に参加する」

「マリアもね」

「そッスね、自分はバルイフと一緒に、中央軍(セントラル・フォース)最高顧問として臨席ッス」

「へぇ、偉いんだなマリア」

「そッス、自分偉いんス」

「いざとなったら、全軍に指揮権発動できるッス」

「…今回は、そんなことにならないといいわね」グイッとグラスを空けるコバリ

頬杖をつき、フーッと鼻で溜息をつくマリア

「…そうですね」


 

 ゲンマとヒガンテは、ジャイアプール港湾基地に居た。ゲンマ達は地上の警備が主な任務だが、海上警備隊のベイリー大隊長が折角の機会だからと、基地内を案内してくれているのだ。備え付けの大型超電磁砲(レールガン)、護衛艦、哨戒艇、潜水艇などを見て回る。

ベイリー・オクルスは赤褐色の肌、やや前方に捻じれ突き出す巻角、つややかな黒髪は前髪切り揃えのショート。西方と東方の血が混じった、大柄の女性だ。ここジャイアプールの海上警備隊叩き上げで、陰では「女海賊」とも呼ばれている。そんな彼女はゲンマとは気が合うようで、今日も楽しそうにいろいろ説明してくれている。

「そういえば」

「先ほどまで、中央軍の情報担当官も来所していたようだよ」

「ああ、マリア殿の側近のバルイフ情報担当官ですね」

「君と同郷かな? ヒガンテ」

「はい、彼は西方では有名でしたな」

そう、単なる一兵卒だったヒガンテと異なり、彼は西方解放戦線の司令官クラスだった。あの日までは。


 紀元295年7月、北大陸西方の都市、アルハンゲスリンクにて、マリア・クシナダの「世界最強」が噂から伝説になったあの日。

ヒガンテも一兵卒として参戦し、遥か遠くから、休戦協定の調停に立ち合うマリアを眺めていた。

 そして2年前、極東地域にマリアがやって来た。その頃は既にゲンマの元で働いていたヒガンテだが、当然、マリアとは初対面の体で挨拶したところ。間髪入れず、言われた。

「あら?」

「あなた、アルハンゲスリンクに居たわね?」

ゾッとした。あの戦場ではこちらから見ていただけだ、名前どころか存在も知りえないだろう。警備隊員の資料を見たか?いや、そこまでの詳細な記録は公式には無いはずだ。


 後日、バルイフと教会警備隊の宴会で同席した際に、同郷のよしみで話が弾み、ずっと気になっていた、この件について聞いてみた。フッと鼻で笑うバルイフ

「マリア殿にとっては些末な事なので、特に公表していないが」

「彼女は戦場や現場で遭遇した相手は、全て覚えている」

当たり前、のように言われた。

 ああ、そうか、マリア殿や他の稀人の方々を、我々ヒトと同列に考えてはいけないのだな、と改めて痛感したヒガンテであった。


小型の潜水艇が出発準備をしている。そこへ近付きベイリーが整備している隊員を労う。

「この潜水艇は」

「今晩、大陸棚の深海に棲息するオケアノスの塒を探索に行く」

オケアノスは、通常群れで行動する。少なくとも番と子供が一緒にいる場合が多い。しかし、通常、海面近くまで浮上し獲物を狩るのはオスのみ。そこで正確な個体数を把握するため、潜水艇を投入するそうだ。

「ま、もっとも、オスが駆除された場合、もうメスや子供はその海域には近付かなくなるがね」

「明日の会議には、探索結果を報告するよ」


 それから数時間後、オケアノスも寝静まる頃合いを見計らって、小型潜水艇が静かに出航する。乗員は艦長、操縦士、オペレーターの3名。潜水艇はもちろん電動モーター式、出航前に目一杯充電するが、この程度の小型艦なら、実のところ乗組員3人の「発電」の生体回路(サーキット)で500mほど潜って帰って来る程度の任務はこなせる。

 電池切れで航行・浮上不能になった潜水艇はただの鉄の棺桶となる。高い発電能力は潜水艇乗りの必須条件だ。

基地を出航し、しばらくはジャイアプール沖合を航行する。この辺りは水深100mも無いため、40~50m程度の浅い海域を海岸線に沿って慎重に進む。しばらく行くと、陸地部分は急峻な崖となり、それに続く海中は急激に深くなっている。潜水艇はここで潜航を始める。

 深度300mを超える、当然周囲は漆黒の闇だが、オケアノスに感付かれる可能性があるので、ライトは点けない。まずはパッシブソナーのみで周囲を探る。なにしろ対象物が大物のため、見逃す恐れは無いとは思うが、ここで更に「生体回路(サーキット)検知器」を作動させる。

オケアノスは生体回路(サーキット)を備えており、それを用いて同種族内で意思疎通していることはわかっている。

さすがに海上から深海の生体回路(サーキット)の動きは感知できないが、海中でも近付けば、アクティブソナーなどより、よほど精度良く対象を把握できる。

 深度500m、地形的にこの辺だろうと、予めアタリをつけていた海域を探索する。

「艦長、対象、捕捉しました」オペレーターがオケアノスを見付けた。さすがの巨体で生体回路(サーキット)検知と、パッシブソナーでもはっきり確認できる。

「動きません、予想通り、お眠の時間のようです」

「ヨシ、他の個体確認を」

「了解」


その時、ポンポンッと艦長の肩を誰かが叩く、この潜航中に?と振り向くと

 マキシ丈のワンピースを纏った、小柄で華奢な少女が、そこにいた。もちろん海上警備隊員ではない。この狭い潜水艇の中、人が隠れるところなど無いし、途中で乗り込むなど更に不可能だ。驚愕のあまり声も出ない。そして何故か他の隊員達も固まって動かない。

ジッと艦長の眼を覗き込む少女

「もういい」

「基地に帰ろう」


 その後、浮上した潜水艇からオケアノスの個体数、棲息場所に関する連絡があった。しかし、その後、予定時刻になっても潜水艇が帰投することは無かった。



夜半の寝室、

アズマはまだお風呂だ。

 テンマと電話していたら、いつの間にかベッドのコバリの横で、白とピンクのボーダー柄のモコモコパジャマを着たマリアがゴロゴロしている

『あら、いたのねマリア』

「またまたぁ、分かってたでしょ、テンマさん」ベッドにうつ伏せになり、メガネを外すマリア

「それよりも」と改まった口調でコバリ

「今日の午後、港にアズマと行った際の事ですが」

『ああ』

『その件については、特に問題ない』

状況説明の前に、わかってる、皆まで言うなという感じで話を切られた。

コバリとマリアは「んーー?」という感じで眉を顰め、顔を見合わせる。

『今、詳細は説明できないけど、心配は無用よ』

「マリアの索敵で感知できない存在が? 心配無用?」

若干、言葉にトゲがあるコバリ、傍らのマリアはちょっとビクビクしている。

『怒っちゃイヤよ、コバリ。可愛い顔が台無しよ』

『じゃあ念のため、マリアは警戒態勢をランク2にしといてね』

「了解ッス」

『それじゃあ、おやすみなさい』

「…おやすみなさい」「おやすみなさい!」

ベッド上で憮然とするコバリ。

 テンマが心配無いと言うなら心配無いし、詳細を説明できないのには理由があるのだろう、とは理解しているが、やはり面白くはない。

「コバリさん」オドオドしながら擦り寄るマリア

コバリはフッと微笑み、手の甲でマリアの頬を優しく撫でてやる。

「あなたは何も悪くないわマリア」

「明日以降も頼りにしてるわよ」

えへへぇとコバリの左腕に抱きつき甘える。そんなマリアの頭を優しく撫でるコバリ


「アズマが寝たら」

「二人で夜這いしましょう」

「えー、ふしだらッス」

「そうよ、ふしだらなのよ。言ったじゃない」

顔を合わせて、クスクス笑う、コバリとマリア

のんびり風呂に浸かっているアズマは、この悪巧みを知る由もない。

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