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コバリ・アオヤマの華麗なる黙示録(疾風編)  作者: マツモト・ユウイチ
16/54

メガネ屋に虎

「ヨシ」

フンッと立ち上がるコバリ

「メガネ屋に行こう」

「いや、だから」

一方こちらは、戸惑うアズマ

「なんでメガネ屋なんだよ」


コバリ、アズマとも視力は高1の健康診断時で両目1.5以上。こちらにきてからは測定していないが、むしろ良くなってんじゃねぇか、ぐらいの感覚がある。

「急に乱視とかにでもなったんか?」

「いや、全然。むしろこちらに来てから、良くなったんじゃないかな」

「いや、だから…」


本日は予定通り、ゲンマ率いる1個小隊とともに、武装列車にてジャイアプールへ。

 教会へはカルマが、例の軽装甲車で迎えに来てくれた。ゲンマはもちろん、武装列車の最終点検に余念がない。厳重警備の教会警備隊本部、敷地内へ軽装甲車で乗り入れると、ノンストップで武装列車の停車場へ向かう。列車は4両編成、全面黒塗装の装甲で車輪まで覆われている。まさに見た目は弾丸列車だ。

 軽装甲車から降りるコバリとアズマを、ゲンマがにこやかに迎える。今日は教会警備隊の重武装仕様の制服だ。列車の脇にはヒガンテ以下、本日の特別編成小隊25名が整列している。

コバリとアズマに、ザッと一斉に敬礼。おっとすごい迫力だ、とアズマは内心ちょっとヒヨる。一方、コバリは全く動じず、優雅な仕草で一同に会釈

「本日はよろしくおねがいしますね」

やはり場数を踏んでると違うな、と感心するアズマ。

ゲンマがコバリとアズマを3両目のVIP用車両の2階へ案内する。

内装はおだやかな暖色で統一。中央には円形卓、非常にゆったりした座り心地のよさそうな1人用大型ソファが4つ配置され、右手の壁面には埋め込み型のキャビネットなど設置されている。また、左手側面から天井にかけ大型窓が設えられていて、眺めもよさそうだ。

「この窓は」コンコンと叩くゲンマ。

「装甲と同等以上の強度です」

「また何かあれば、即座に閉まる防護シャッターも装備されています」

「ああ、そこまで心配はしていないわ、ありがとう、ゲンマ」

そりゃまぁ、戦場に赴くわけではないからな。ウンウンと頷くアズマ。

 ファイバザールまでの特急個室よりも数段豪華だ。わざわざ増結してくれたんだろうなぁ、申し訳ない、と思うアズマ。一方、早速ソファに腰掛け寛ぐコバリ。ま、そういうヤツだよ、おまえは。

「それでは、到着まで、お寛ぎください」会釈して去るゲンマ。小隊は当然、前後3両に分散して乗車するが、ゲンマとヒガンテは2両目に乗車らしい。


発車前、ヒガンテが隊員に気合を入れる

「いいか、貴様ら!」

「今回は戦闘任務ではないとはいえ、我々はこの世界の未来を担う方々と行動を共にする」

「いつも以上に、緊張感をもって任務に当たれ」

ゲンマ隊長の顔に泥を塗るようなマネをしたら許さんぞ、とヒガンテのプレッシャも半端ないが、隊員たちにも極東の精鋭たる自負がある。

 コバリ・アオヤマは既にこの世界では有名人だ、そして、先日、目覚めたばかりというアズマ・テラオについては、ヒガンテから「マリア・クシナダに伍する存在になるだろう」と聞いている。

 先程、目の当たりにした異質な存在感を放つ、若く美しい二人、やがてこの世界を統べる存在。そしてジャイアプールには「世界最強」が控えている。

表面上はいつも通りの平静を装う隊員たちだが、やはり、内心は奮い立つのであった。


 ファイバザールの街から離れると、田園風景が広がり、やがて緑の濃い森林、山間部の渓谷へと景色は移り変わる。ノンストップで爆走する武装列車からの車窓を、備え付けの各種飲料を()りながら堪能していたら、あっと言う間にジャイアプールだ。

 降車時も全員ではないが隊員達に見送られる、幾名かはすでに次の準備に取り掛かっているようだ。

「快適な旅でした。ありがとう」上品に微笑むコバリ

「海獣駆除のサポートもよろしくお願いしますね」ザッと敬礼する隊員。

えぇ。お前どの立場でモノ言ってんの?と思うアズマだが、表面上はスンッと控える。

 もっとも、昨晩のような場では、コバリが一緒だと正直助かる。ニフリス首長以下、教会区長、政務次官など居並ぶ晩餐。ニフリスがアズマの目覚めを寿ぎ、アズマがお礼を述べる。

何を隠そう、前日の非公式会食で、コバリ、マレッサにあーだこーだ言われながらのリハ済みだ。

その甲斐あってか、恙無く晩餐は進行し、アズマも無難な受け答えをしながら食事を楽しむ。1皿ずつ供される上品な逸品に舌鼓。食材など、中身は正直良くわからんが、美味いからヨシ。

 一方、首長以外のメンバーとも、様々な話題で談笑するコバリ。本日のお料理から食材、農作物の収穫量、近年の天候の変動から、北大陸東沿岸の話になり、今回問題になっている巨大海獣の話になる。「明日以降、本格的な掃討作戦を展開するようです」と農業担当の次官

「明後日に予定されている掃討作戦のミーティングには私とアズマも出席させていただきます」とコバリ

あれー、高みの見物じゃなかったんかい、と思うアズマだが、ここで文句を言っても仕方がないので、考えるのを止めた。

晩餐は続く。

「いずれにしろ」

「更に高度で、かつ強力なセキュリティを備えたネットワークの構築が不可欠でしょう」

 今は電子通貨から、ブロックチェーン技術などについて、首長や、通信、財務、情報各担当次官と語らうコバリ

「極東地域のエリア限定で、先行して実証実験を行っても良いかもしれませんが」

「グローバル展開については、トマス博士と今後のロードマップを確認していかないといけませんね」

「すでにトマス博士とはお話しているのでしょう?」今日は首長モードのニフリス。

この面子の前でする話なんだから、目鼻はついてるんだろ?ということだ。

「ええ」

「こちらのアズマが」チラリと見るコバリ

「今後、いろいろ役に立ってくれると、トマス博士も期待しております」

もう考えるの止めて、ゴハンをモグモグしていたアズマだが、まぁ、なんとなく言いたい事の見当はつくので、それっぽい感じで頷いておく。

 中央に出向かなくてはならんのかぁ、やだなぁ。と、もう既に、アルフとライラが待っている楽しい我が家に早く帰って、一緒にゴハン食べたいなぁ。とか考えているアズマであった。



 ジャイアプールの教会警備隊支部は教会、教会施設と同一敷地内なので、ゲンマが構内移動用の小型電気自動車で、教会宿泊施設まで送ってくれる。

 極東地域第二の都市、経済規模では首都を上回る、港湾都市ジャイアプールだけあって、港町のリゾート感溢れる宿泊施設はファイバザールに引けを取らない。

 エントランスでゲンマとは一旦お別れだ。明日の10時から、海上警備隊本部でミーティングだが、列車が到着した教会警備隊支部と海上警備隊本部は同じ敷地内のお隣である。

ゲンマはこれから支部、本部でいろいろ業務をこなし、しばらくは支部に滞在らしい。明日の朝、またお迎えに来てもらう。

 エントランスで、シュッとしたコンシェルジュに迎えられ、お部屋へ。もう面倒なので一緒の部屋で良い、とコバリから伝えてあるので、一応ベッドルームが2つある、高層階の広い部屋へコバリとアズマは案内される。もちろん、ファイバザールからの荷物はすでに荷解きされ、衣装はクローゼットに納まっている。

コンシェルジュが淹れてくれたお茶をいただき、一息つく。

と、「ヨシ」

フンッと立ち上がるコバリ

「メガネ屋に行こう」


 ちょっとお出かけしてきますね、とフロントのコンシェルジュに、にこやかに挨拶しながらエントランスを闊歩するコバリ。

 まぁ、どうせ街へ出かけるつもりだったからいいや、と既にコバリに対して「説得」という行為を諦めているアズマが後に続く。

 教会周辺は、石造りの歴史ある建屋が連なる。ヨーロッパの古い街並みのようだが、もちろん下水道などは完備されており、ファイバザール同様、原則、自動車は専用レーン。歩道はゆったりとした幅で、歩きやすい舗装が施されている。教会は高台に位置し、なかなかの斜度で下る坂の先には、ジャイアプールの港、その先には海が広がる。

まだお昼すぎなので、海からの潮風が吹き上げてくる。潮の香をいっぱいに吸い込む。

 きっとテンマのことだから、お刺身、お寿司、煮付に天ぷらも普及させてくれているだろう。お魚食べたい。


 本日のお出かけでは、一応、コバリはツインテを大きめニット帽にまとめて格納、服は例によってアオザイ風の上下。また、コバリはカラコン、アズマは例の偏光メガネを装着しているが、あと特に変装はしていない。

「ま」

「観光スポットに行くワケではないからね」

そういえば、護衛がどうこう言われてないけど?

「ああ」

「護衛は不要ね、全く問題ないわ」コツコツと歩を進めるコバリ

「今、ここではね」

ふーん、ま、コイツがそう言うなら、そうなんだろう

と、相変わらず、深く考えないアズマ

「巡行ミサイルとかで超長距離攻撃されなければ大丈夫かな」

「うん、それはもう戦争だな」

護衛がどうこうの話ではないな!

「いや、ミサイルぐらいなら、もう大丈夫なのか」ビッとアズマを指差すコバリ

…ああ、そうだなぁ

着弾前に、加速、コバリをひっ掴んで、飛べるだけ飛べば…

いや、そこはお姫様抱っこやろがい! とローキックを繰り出すコバリ

誰がお姫様じゃ!このXXXX(自主規制)! と受けるアズマ

周囲の迷惑にはならない程度に、ローの応酬をしながら坂を下っていくと、街並みが明らかに近代的な感じになる。広い道の両側には、明るいショウウィンドウの服飾店、オープンテラスのレストラン、など小売や飲食店が軒を連ねる。

 ホウホウとアズマがキョロキョロしながら歩いていると、コバリがメインストリートから脇道へ、アズマについてくるよう目配せする。

 脇道とはいえ、綺麗に舗装された遊歩道で、両脇には小規模な飲食店やショップが並んでいる。しばらく行くと、こじんまりとしたスカイブルー色の外装のお店の前にコバリが立ち止まる、ショウウィンドウには色とりどりのメガネ。なるほどここが目的地らしい。

 コバリが扉を開けると、カランコロンとドアベルが鳴る。コバリの後に続きアズマも店内へ、ウィンドウのディスプレイ以外にも店内の棚には、様々なタイプ、色、素材のメガネが陳列されている。コバリはオシャレ用に買うのかもだが、俺は別にいらんな、と思うアズマ。だが、もちろんメガネ買いにきたんじゃねぇんだろ、ぐらいの見当はつく。

 店内の奥に佇む、黒髪ストレートロングで少し肌色薄めの巻角美人店員が頭を下げる

「お待ちしておりました」微笑みながら、スッと左手の引き戸を開ける

「どうぞ、こちらへ」

ありがとう、とコバリは店員さんに微笑み、奥へ。アズマもそれに続く。

窓のない仄暗い部屋。壁に設えられた棚には店頭と同じく様々なメガネが置かれている。

部屋の中央には大きな木製のテーブルに椅子が4脚。

 傍らにはシャープなシルエットの上着にスラックス、アズマより1回りは大きい西方系の男性が、手を前に組み、1人佇む。

アズマは一応、部屋のぐるりを見渡す。この部屋には他に誰もいない。

しかし、誰も座っていなかった椅子に、

一切、目を離してはいない、その場所に

次の瞬間、

赤縁メガネのレンズを拭く少女が腰掛けていた。

彼女はその拭いたメガネをかけて、ゆっくり立ち上がり、

コバリとアズマに相対する。

焦げ茶色のローファー、白のニーハイ。スカートは濃紺で白のボーダーが1本入ったプリーツミニスカ。長袖の白シャツの上に、若草色のニットベスト

格好だけ見ると、まさに日本の女子高生みたいだ。

プラチナブロンドのショートボブ、赤縁メガネ越しにこちらを上目遣いに見る、左の瞳はクリアなコバルトグリーン。

そして右の瞳は、深く濃い紅色。虹彩異色。

「はじめまして、アズマさん」ニッコリ微笑みペコリと頭を下げる

「マリア・クシナダです」


ああ、まぁ、そんな気はしてたよ。

「はじめまして、でいいのか?」

「何のことです?」

3m以上は離れていたマリアが、次の瞬間、触れんばかりの目の前に立って、こちらを見上げている。

一瞬、息が止まるが、フゥーっと長く細く息を吐いて、気分を落ち着かせる。

動きを全く追えない相手に、相対するプレッシャは半端ない。

「私のことは」ニッと笑うマリア

「マリア・ジョウント・クシナダ、と呼んでくれてもいいんですよ」

「いや、お前は虎か?虎なのか!?」


おやぁ、さてはコイツ意外とノリがいいな?と思うアズマであった。



 海上警備隊本部の本部長室にて、本部長、今回の陣頭指揮を執る大隊長、そしてゲンマが、壁一面のディスプレイに映し出された、ジャイアプールの詳細地図を前に、現状確認している。

「ターゲットは今現在、ジャイアプール沖合、500mの深海にて回遊しているようです」

と、ベイリー・オクルス大隊長はポインタで地図上の回遊予想地点を指す。

「深いな、それでは手出しできないだろう?」腕組する本部長

「おそらく明日以降」

「息継ぎと、エサを求めて浮上、港の沖合へ出没するだろうと予測しています」

「なるほど、そこを叩くわけですね」とゲンマ

「水面近くまで、顔を出してくれれば、超電磁砲(レールガン)で吹き飛ばせる」

ニッと笑うベイリー、だがすぐに眉根にシワを寄せ、難しい顔になる。

 今回の標的、「オケアノス」は体長30m以上、確かに、漁船も丸ごと飲み込む巨大で危険な生き物だが、超電磁砲(レールガン)や、巡行魚雷を何発か打ち込めば、時間はかかるかもしれないが仕留められる。

わざわざ「世界最強」を投入するほどの案件ではない、と個人的には考えている。

また、一部の軍関係者は、今回の件は、マリアの休暇を兼ねた、警備隊の宣伝活動だろう、と認識しているフシがある。

「マリア殿には」

「今回は、他の稀人の方々と我々の狩りを、のんびり見学していただこうかと思っている」

「沿岸部には、高波による被害の可能性がある、教会警備隊にはお世話になる場面もあるだろう」

ゲンマに微笑む、ベイリー

「よろしく頼む」

 生真面目に頷くゲンマ。どうやらベイリーはマリアを「お客様」扱いするつもりのようだ、それで問題なければ、それに越したことは無い、とは思う。

だが、常に最悪を想定して、事に当たるゲンマが油断することは無い。


とはいえ、「想定」にはやはり限界というものがあるのだ。



その夜半、

キングサイズのベッドの上で、風呂上がりのコバリがキャミソール姿でゴロゴロしながら、紅色の勾玉型通信機をいじっている。

『あら、コバリ、セクシーね』

「ごきげんよう、テンマ」

『アズマと同じ部屋ですって? ラブラブじゃない』

「ええ、ラブラブですよ」

『マリアには会ったの?』

「はい、もうアズマとはすっかり仲良しです」

『ま、もともと同郷の先輩後輩だしね』

「ところで」

「今回のマリアの遠征、についてですが」

アズマがお風呂してる間に、本題を切り出す

「軍上層部は、マリアの休暇、ぐらいの認識みたいですけど?」

『あら、そう?』


一昨日の晩、ニフリス乱入の小宴会で、

お手洗いへ、と席を立つコバリに、じゃあ私も、と続くニフリス

二人だけになった、お手洗いの洗面台の前でニフリスが徐に口を開く

「今回、マリア・クシナダが来るのは」チラリとコバリを見る

「テンマ様の差し金らしいわよ?」

「私は特に何も聞いていませんが?」

アラ、そうなの? ちょっと意外な顔をするニフリスだが、

「ま、よろしくね」

とポンポンと肩を叩き去っていく。

フーッと、溜息をつくコバリ

「まぁ、今日はいいや」あとで直電して聞こう!

と宴会へ戻り、考えるのを止めた。


ということで、只今、テンマに直電中だ。

「で?」

「本当は何があるんです?」


少し間を置くテンマ

『マリアを送り込んだのは、実は具体的に何か、という事ではないのよ』

『ただ』

『嫌な予感がしたの』


この世界に顕現して、300年あまり。

残念ながら、テンマ・オダギリの「嫌な予感」が外れた事は無い。





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