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コバリ・アオヤマの華麗なる黙示録(疾風編)  作者: マツモト・ユウイチ
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新交通体系の提唱

今回のタイトル。わかる人にはわかるヤツです。


 そういえば、「カンガルーって知ってる?」

「?」と小首を傾げるライラに、ホラ、腹の袋に子供を入れてピョンピョン跳ぶヤツ。とジェスチャー付きで説明してみる。

「??」と更に傾くライラ。そっかーいないのかー、カンガルー…

「なんなのよ、いきなり」

リビングのソファで編み物をしているアルフ。その膝枕でゴロゴロしていたコバリがこちらをチラリ一瞥する。

「いや、ほら、この特区って大型哺乳類は草食の家畜しかおらんやん」

「そうね」

「カンガルー好きとしては、似たような動物がいたらいいな、と」

「カンガルー好きだったっけ?」

「そりゃもう、夏休みの間、カイワレ大根の成長記録つけてた自由帳には、カンガルー帳と名前を付けてたぐらいだ」

あっそう、と興味無さそうに、再びモゾモゾとアルフの太腿に頭を安置するコバリ

「ひょっとして、アンタのベッドって自走機能付きだった?」

そんなわけねぇだろ、なんだよその無駄機能。たまに訳わからん事を言うなコイツ。

「ファイバザールには大きな動物園があるから、行ってみたらどうです?」

ひーふーみーと編み目を数えながらアルフ。前屈みになると太腿とタイトワンピの下乳部分でコバリのアタマをムギュっと挟む感じになるが、両者とも特に気にしてはいない。

いや、羨ましくないよ、別に。ホントだよ。


 ファイバザールはこの一帯が独立国家だった時代の首都で、現在でも極東地区の政治中心だ。ここ石机地区から電車で2時間程度、比較的内陸部に位置し、三百年前の大戦期には極東の拠点であった。そんな歴史的背景から、今も城塞都市としての名残が諸々あり、今では観光名所になっている、とのこと。

 明日から、石机地区から降りて、ファイバザール経由で更に南方の港湾都市、ジャイアプールへと向かう。

主な目的はジャイアプールにおける、マリア・クシナダとの顔合わせだが、途中、ファイバザールではこの極東地区の首長や、教会の偉いさんなどとも会談の予定だ。

「ファイバザールには2日ほど滞在するから、動物園にも行けるか…モゴッ」

アルフに挟まれながらコバリ。いや、羨ましくないよ。チクショウめ!

「ジャイアプールにはでっかい水族館があるんですよ!」

と、いいなーいいなーという気配を醸し出すライラ。

さすがに今回は連れて行くわけにはいかないだろうなぁ。

いつかライラと水族館デートしよう、今回はその下見だ!と日記には書いておこう。

「ジャイアプールの中央水族館には、首長竜とかもいますよ」

前屈みになり編み目に集中しながらアルフ。もうコバリの頭部はムギューっと完全に挟みこまれ、なんかモガモガしてる。ペシペシとアルフの横乳をタップして、脱出を試みるコバリ。この贅沢者め!


あらあら、と身を起こすアルフの太腿から、プハッと起き上がり、金髪のツインテを手櫛で整えるコバリ

「とりあえず、明日以降の予定、確認しよっか」

ソファの前のローテーブルに、大きめな極東地域の地図をバサバサ広げる。地図が見やすいようにコバリの隣に座ると、ライラもニコニコしながら隣にペタンと座る。

「ここが」地図左上、いかにも石机地区らしい箇所を指差す「教会、で明後日にケーブルカーの駅まで移動、下へ降りてからは、列車に乗り換えて移動ね」

「ケーブルカー?」

「そう、ココから下へ降りる唯一の交通機関ね」

地図上でいうと右下、石机台地の東南端に駅がある。そこから斜め下へトンネルが伸びており、一気に標高差500mを下る。そしてその降りた先にある地下の駅は長距離移動用の列車の駅と直結している。

「列車でファイバザールまで約2時間、到着後は教会の公用車で移動する」

なんか駅まで教会の方が迎えに来てくれるらしいよ。あらーなんか申し訳ないねぇ。。。

「教会の宿泊施設にまずは落ち着いて、その晩は教会の偉いさんに、極東地区の区長と会食、翌日は市内観光、各公共施設の視察とかもあるみたい」

あー、なんかそーゆー感じ、苦手だなぁ。

タダで旅行して、美味いメシが食えるんだから、これくらいガマンしな。

お前はこーゆーの慣れてるから、いいんだろうけどさぁ。

ノブレス・オブリージュってヤツよ。

えー、ワシ貴族ちゃうし。

 ちなみに、たまにエセ関西弁が混じるのは、N潟へ越してくる前は、しばらくS賀県のB琶湖のほとりに住んでいたからだ。そういえば北海道へ旅行した際、T島当別の某有名修道院へ行く途中で、「飛び出し坊や」をいくつか見かけたが、何故、ココに?という疑問を解消せずに放置しておいたのは心残りだ。


「もう1泊して、翌日は特別列車でジャイアプールへ直行、ここでも一旦教会支部へ入り、その後は」

メガネ屋かなぁ… ん?メガネ屋って?

「ま、いいや」

さて、まずはファイバザール市内の交通事情について説明しよう、とコバリ

地図の右隅下にある、ファイバザール市内拡大図を見ると、街全体、南北東西に幹線道路が碁盤の目のように走っている。

「列車の駅は中央と東西の街外れの3箇所、そこからは基本クルマの移動になるけど」

「クルマは全て電動自動車、そして基本的に個人持ちの自家用車は無い」

「幹線道路を走るのは物流を担うトラック、公共交通の大型バス、小型のタクシー、そして警察・救急・消防、軍やその他公共機関の特殊車両だけ」

「そして、基本的に自動車の幹線道路に人は立ち入りできないように囲われている」

「バスやタクシー、トラックの最高速度は30km/hで制限されていて、機構的にそれ以上の速度は出ない。また道路側面からの給電により走行しているので、幹線道路を外れると走らない」

ほぼトロリー電車みたいなもんだな

「非常用の電池は搭載されているけど、その場合、人が歩く程度の速度でしか移動できない」

「特殊車両については、デカイ蓄電池が装備されてるからどこでも走れるけどね」

「幹線道路には要所要所に停留所があり、そこで人が乗り降りし、荷物の積み下ろしをする」

「そしてその停留所から荷物とかは、ターレみたいな運搬車で、ラスト1マイル、運ばれる」

ターレ? 

あの市場とかで走ってる立ち乗りのヤツよ。ターレット式運搬自動車。

あぁ、あれね。

 基本、幹線道路以外を走る全てのものは、ヒトが走るより遅い。自転車も禁止。徹底的に交通事故の可能性を排除したルールが制定され、遵守されている。

もちろん、この交通体系のデザインはトマス博士だ。



 柱の上部に頼りない照明がいくつか灯るだけの、仄暗い部屋。

部屋をぐるりと囲む壁の書架には天井まで様々な書物や書類が堆く積まれている。

部屋の中央、大きな縦長の窓の前に重厚な書斎机が置かれ、背凭れの高い椅子に腰掛けている人物が、徐に話し始める。

「20世紀は戦争の世紀、とも呼ばれる」

「正確な数字ではないが、20世紀初頭の極東、欧州の諍いから、第一次、第二次世界大戦、その後も朝鮮、ベトナム、中東、東欧の戦争で、民間人含め1億人以上亡くなっているだろう」

「その一方で、21世紀に入ってさえも、世界の交通事故死亡者数は年間100万人超だ」

「自動車が発明されて以降、累計では戦争や疫病の死者数に匹敵するだろう」

「だが」

「戦争反対、や核兵器廃絶のデモに対して、自動車根絶のデモは見たことないだろう?コバリ君」

「そうですね博士。交通安全のキャンペーンは良く見ましたが」

「交通事故に関しては、日本はまだマシなほうだろう。でも交通違反取り締まり強化やマナー向上を呼びかけたところで、事故は無くなると思うかね?」

「いいえ、博士」

「どうすれば良いと思う?」

「完全自動運転の導入と、それに関連する各種環境整備でしょうか」

「ふむ、まぁ、現実的にはそう考えるのは妥当だが」

「根本的な解決は、自動車の廃絶だ」

「でも、それは…」

「そうだね、人は手に入れているものを容易に手放したりはしない」

「それが非常に有用なものであれば猶更だ」

「人の移動や物流、まさに自動車と交通インフラは近代経済の基礎だ。また自動車産業自体、全世界の根幹を成す一大産業だ。全人口の0.1%以下の死者数は許容範囲と考えたところでおかしくはない」

「だが、しかし」正面に座るコバリを見据える。


そこまでして経済を発展させ続けるのは、誰の、何のためかね?コバリ君



 アルフがコポコポとお茶を淹れてくれている、お茶は緑茶。お茶請けはコバリが買ってきた「三福餅」だ。

 白い餅が餡子で覆われているが、表面には指で押し付けたような、筋が三つ入っている。これは聖イリヤ、開祖キリヤ、最初の稀人(ザ・ファースト)テンマを表しているそうな。

 完全に見た目は伊勢の赤〇だが、日本の登録商標はここでは無関係だろう。きっと。


「トマス博士の顕現は、この世界では、ある意味、反則だ」

「馬車、牛車の世界に、我々が歩んだ蒸気機関やら内燃機関など、途中の過程をすっ飛ばし、電車と電気自動車を導入した」

 お餅をモグモグし、お茶を啜って、ホゥと一息つくコバリ

「有線の電話をすっ飛ばし、無線のケータイ通信機を普及させたのもそうね」

「トマス博士が顕現する以前と比べると、とんでもない進歩、経済発展が既にもたらされている。人々の暮らしは豊かになった。これ以上急速に経済を発展させる必要は無いと、博士も中央も判断している」

 ふーん、そうか。ところでお餅美味しい。ありがとうテンマ様

「そういえば」ふと思い出す。

「ウチにはクルマと二輪車あるじゃん」お茶をズーーっと啜る。いい香りだ。

「この石机教会区域は、全域教会の私有地扱いだ」

だから特例でOK!ビっと親指を立てるコバリ。つられてライラもビっと親指を立てる。

オイオイ、ライラにあんまり下品なこと教えんなよ。

「ちなみにクルマも二輪車も時速10kmまでしか出ない」

なるほど、走ったほうが早いな。安全第一だね。


「実は飛行機も実用化されてはいるけど、民間機は無い。軍と一部の公的機関でしか使用していない」

「博士曰く、安全性の担保が不十分だから、よ」

博士は待っている。

え、何を?

コバリは肩を竦め、ジっとこちらを見て、「三福餅」を頬張る。

あぁ、そうか、空を飛ぶための安全性を担保する能力。重力制御。

「例えばアルフやライラの発電は、コイルと磁石で代用できる」

効率の問題はあるけどね。モグモグ。

「重力操作も原理を解明し、装置も必ず作れると信じているし、作れるだろう」

ここに最強の「重力使い」が顕現したしな!

バシバシと肩を叩いてくるコバリ。えー、なんかされちゃうの俺?コワー。

「すごいですね、アズマさん!」左横を見ると、ライラがペタンと女の子座りで、お餅をモグモグしながら笑顔でこちらを見上げる。

あー、このまま、ライラとお餅とか食べながらのんびり暮らしたいなぁ。


「結局、何日間のお出かけになるのかしら?コバリ」

大きいカバンが要るわよねぇ、と思案顔のアルフ

「そうねぇ」うーんと腕組みするコバリ「ファイバザールで2泊は確定として、ジャイアプールは最低2泊、最長4泊かなぁ」

マリアの予定で変わるのよねぇ。


 そもそもマリア・クシナダは何故、極東地域にやってくるかというと、数年に1度実施される、ジャイアプール沖の海獣駆除のためだ。状況によっては、しばらく海上警備隊の船に乗船することになるらしく、予定は流動的だ。

海獣って?

今回は、鯨サイズのデカイ海蛇みたいなヤツね。漁船ぐらいは丸呑みしちゃうらしいよ。

うわーコエー、ちょっと見てみたいけど。

ま、今回は「世界最強」がいるし、私たちは高見の見物ね!

…うーん、なんかフリっぽいけど、ま、プロがいるのだから、何も問題なかろう。タブン。


さて、そんなこんなで出発の日だ。

 前日にはコバリの衣装と、ほんの少しの俺の服を詰めたバカでかいキャリーバッグを送付済みなので、手荷物は小さなボストンバッグをコバリが持ち、俺は小ぶりなリュックを背負っている程度だ。

 ケーブルカーの駅までは乗合バスで移動する。家のクルマはさすがに遅い、乗合バスは専用レーンを走るので時速は30kmとまずまずの速さだ。教会前の停留所までライラがお見送りに来てくれている。

バスはすでに停留所に待機しており。そろそろ出発時刻だ。

「じゃあ行ってくるわね、ライラ」コバリがギュッとライラを抱き締める。

「いってらっしゃい、コバリさん」ライラも笑顔で、ギュッと抱き締め返す。

ホラ、アンタも! とコバリに肘で小突かれる。

ライラは腕を広げて、真っすぐこちらを見上げている。胸とかに触れないよう、細心の注意を払い、そーっとハグする。

「いってくるよ、ライラ」

「いってらっしゃい、アズマさん」と、耳元で囁くように言うと、ライラが背中まで腕を回し、ギューッと抱き締めてきた。サラサラの銀髪に鼻と口が触れる。香水とかは使っていないはずだが、ライラはとても甘い香りがする。

 辛抱たまらん、と一度こちらからもギュッと抱き締めるが、心の中で血の涙を流しながら、鋼の意思でライラの肩に手をかけ、そっと離れる。

「早く帰ってきて下さいね」ジっとこちらを見るライラ

「もちろん。なるべく早く帰ってくるよ」ポンポンとライラの肩を叩く

「おお、よく堪えたな」という感じのニヨニヨ顔のコバリに促され、バスへ乗車する。

ふぅ、危ない危ない、このままお出かけ止めちまうところだったゼ!

 なかなかの大型バスだが、ソコソコ席は埋まっている。後方の席へコバリと移動し並んで座ると、ドアが閉まり出発。

見えなくなるまで手を振り続けるライラに、窓から身を乗り出し、負けじとこちらも手を振り続ける。

 窓を閉め、席に落ち着くと、隣のコバリがギョっとしている。何そんな驚いてんだ。

「ちょ、アズマ、アンタちょっと泣きすぎ!」

何をそんな大袈裟な…と窓に映る自分の顔を確認すると、信じられんぐらい号泣しとった。

いやぁ、ウッカリウッカリ

いや、ウッカリじゃないわよ、どんな情緒だよ、とコバリが差し出すハンカチを借り、涙を拭う。

 教会前参道を抜け、町から離れると、道は自動車専用レーンになる。ここから先はケーブルカーの駅までノンストップだ。滑らかにスピードが上がる。


ひとしきり号泣したら、落ち着いたゼ。

静かに走るバスに揺られ、いい感じに眠くなってきた。

どうせこのバスの終点はケーブルカーの駅だ。

とりあえず、オヤスミ。。。

ここまでで、第一章終わりです。

コバリからは「疾風感は特に無いわね」「タイトル詐欺ね」

と詰られていますが、第二章以降、少し疾風感出ます。



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