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コバリ・アオヤマの華麗なる黙示録(疾風編)  作者: マツモト・ユウイチ
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世界、もしくは永遠

「大陸の極東に位置し、俗に石机地区と呼ばれるこの地域は、全域、聖イリヤ教会の所領で、かつ特定保全区域に指定されています」

 

 その石机地区が位置するのは標高500m程度のほぼ平坦な台地だが、最大の特徴は、直径10m超の巨岩が麓から台地頂上付近の高さまで、その周囲に余す処なく積み上がっていることだ。地形的にはオーストラリアのメルヴィル山地みたいな感じだ。

 巨岩の壁にぐるり囲まれた台地の広さは概ね800平方キロ。

ふむふむ、N潟市より少し広い感じか。

 ちなみに、度量衡の単位系は100年以上前に、トマス博士によりSI基本単位に倣って設定されているので、我々にもお馴染みだ


「設定した当初は」

「当然、測定の技術的な問題で、長さの基準、メートルは子午線から、重さは水から、時間はLODから設定してた。その後、精度を上げて設定し直してるけど、我々の基準とはまだ少しズレてる。ま、大した問題ではないけどね」

と、コバリからは聞いている。


薄型の大型ディスプレイにこの地域の鳥観図と、件の巨岩帯の写真が映し出されている。

巨岩が積み上がる、台地の裾野が延々と続く光景は圧巻だ。


「この積み上がった巨岩は」ポインタで指し示すパラマ・ソラタ

「もともとは噴火せずに地中で冷え固まったマグマの塊で、これが長い時間かけて隆起や浸食を経て今の形になりました」

「通常の火成岩と異なり、非常に緻密で固いため、砕けて小石や砂になったりせず、この威容を保ち続けています」

 積み上がる巨岩は当然、大きな隙間だらけで、哺乳類などの台地への侵入を阻んだ、風雨に磨かれた巨岩の表面は滑らかで、大型爬虫類の侵入もほぼ不可能だ。巨岩と巨岩の隙間に落ちたら最後、何百mも滑落し、登ることも叶わずそのまま朽ち果てる。植物と昆虫、翼竜、鳥類、小型爬虫類が特異な隔離環境で独自の進化を遂げた。

 未踏の台地だったこの地域だが、大戦後しばらくして、聖イリヤ教会による調査、開拓が始まった。そして開祖キリヤ・キサンティ直接の指示により比較的開けた中央部分の台地に、教会が建てられ、牧場などを造営、次第に教会関係者が増えていき街が形成されていった。


「この台地固有の生態系を保護するために、台地周辺の端から10~20kmの範囲の森林は基本的に立ち入り禁止になってますので、気を付けて下さいね」

 居住地域と森林地帯を明確に区分するため、居住地域はぐるりと土塁と堀で囲われている。ウッカリ森に入ってしまいました、は通用しない。教会の森林警備隊や警察などが定期的に巡回しているので、見つかれば捕縛、拘束され即座に石机地区から追放、二度とこの地区に立ち入りはできなくなる。

「はい、気を付けます先生」宿無しになるのはゴメンだ。


春休み中で先生の時間の融通がきく、ということで、早速今日から地理の講義を受けている。場所は昨日コバリと下見済みの、教会裏手に併設されている学校内の特別教室だ。


 教室、と言っても、教壇に長机が2列、10人も入ればいっぱいのコンパクトな部屋だ。壁は薄いブルー、床は一見、木目なので板張りのように見えるが、触るとクッション製のある合成樹脂だとわかる。木製だが滑らかなカーブ形状で、座面と背凭れに柔らかいクッション素材が付いた座り心地の良い椅子に腰掛けて待機していると、ほどなく教室の扉が開き、本日の先生であるところの、パラマ・ソラタが静々と教壇に立つ。

「はじめまして、アズマさん」

「はじめまして、ソラタ先生」立ち上がり、礼をする。

アルフやライラと同じく褐色肌で巻角だが、銀髪の巻毛、ほっそりとした体躯の上品なご婦人だ。


講義は続く

「地理的な特異性とは別に」

「この地区最大の特徴は、正粒子濃度が異常に低いことが挙げられます」

 そう、この土地は他の地域と比べると正粒子が圧倒的に少ない、もちろん他の場所も、地域や時期により多少のバラツキはあるようなのだが、他の地域平均の1割程度、とその差は明らかだ。そして台地をぐるりと囲む巨岩帯にいたっては、その濃度はほぼゼロだ。

 かつて、まだ正粒子の存在や、生体回路の働きがよく理解されていなかった頃。重力制御の生体回路を持つ、天龍族がよくこの巨岩帯で行方不明になっていたそうだ。今となっては、飛んでいる最中に正粒子切れで、巨岩帯に落ちて遭難したのだろうと理由は明確だが、当時はそんなことは分からない。神の怒りに触れたものと解釈し、彼らはこの土地を立ち入ってはいけない「禁忌の地」としていた。

 大戦後、テンマにより、この土地の正粒子の濃度の低さ、が明確になった。そして時代は下がりトマス博士考案、正粒子カウンターの実用化により、濃度分布や正粒子の流れ、が明らかになった。

 測定の結果、どうやらこの一帯の正粒子は、巨岩帯の岩の隙間から地中深くへ流れて行って、吸収されているらしい、ということになっている。

 逆にどこか噴き出している場所もあるのでは?と探索が続けられているらしいが、未だ発見されてはいないようだ。


 今日、来る時もピョンピョン飛んできたが、これ以上飛ぶのはムリ、という感覚があるのは、コバリ曰く、エネルギー供給が足りていないから、らしい。

「絶対に森の近くまで飛んでったらダメよ」とコバリには念押しされている

「落ちて死ぬわよ」



キリの良いところで、ソラタが時刻を見る

「午前中はここまで、午後に再開します」

「ありがとうございました」立ち上がり、一礼。

「お昼はどうされます?」

「お昼はコバリと待ち合わせしています」

そうでしたか、それでは、また午後に、と静々去っていくソラタ。

無駄なおしゃべりはしないタイプのようだ。


 お昼は一旦外に出る。教会前の広場に行くと、お昼時だからか、教会関係者らしい方々、一般の母娘やお嬢さん方が、広場をそぞろ歩いたり、ベンチで寛いだりしている。その一角、ベンチに並んで腰掛けて待つコバリとライラを見付けたので、低めの高度で、そこまで一足飛び。二人の目の前にフワっと着地する。

「おまたせ」

「いえ、私は今着いたところです!」

「人前であんま、ホイホイ飛ぶんじゃないわよ」

立ち上がりざま、ローキックを繰り出すコバリ。バシッ!とスネで受ける。

「加速」を使わなくともこの程度の受けならできる。

ヒザ狙ってきやがった、危な! 

 小学生高学年の頃から、コバリは青山邸にある本格的トレーニングルームでクラヴマガやサバット、合気柔術など応用した実戦護身術を学んでいる。ちなみに俺も道連れだ。

 青山家の警備主任でもあるセキヤさんの鬼指導の賜物で、俺もコバリも軸のブレない下段蹴りを繰り出す程度のことは造作もない。


ぐるりと広場を見回す。

…確かに。騒ぎにはなっていないが、皆に注目されてるのは分かる。今後は気を付けよう。

「さて、ランチ行くわよ。今日は奢るわ」

わーいと喜ぶライラ、同じく、わーいと喜んでみる。うまいもの食わしてくれるんだろう。きっと。


 教会前の広場からは、この地区一番の目抜き通りが伸びている。参道、というには広い道幅。中央には植栽帯、その左右には車道、そしてまたその脇には車道よりも広いゆったりとした遊歩道に、ところどころ街路樹とともにベンチが設えられている。

 基本的にこの地域は教会関係者しか住んでいないが、極東最大、石机地区教会への参拝者はシーズンオフの平日でも一定数はいる。

 広場から少し下った、遊歩道左手には大きなオープンカフェのテラスがあり、白い丸テーブルがいくつも並ぶ。お昼時なので、巻角褐色肌のお嬢さんたちが楽し気にランチしている。教会関係者以外にも、観光客のような姿も散見される。

 この通りの建造物は木造、石造と混在するが、基本、外観は白色基調で、街並みが教会と調和するように配慮されている。飲食店や土産物屋が並び、裏手にはホテルや旅館、大きめの商業ビルなどもあるらしい。

「まぁ伊勢のお〇げ横丁みたいなモンよ」

「その例えはどうなん? 赤〇とかあれば別だけど」

「あるよ」

「え?」

「あるよ、あんころ餅。主要な教会前参道のお茶屋には大体、メニューにある」

 と、ライラとつないだ手をブラブラさせながら、上機嫌に遊歩道を歩くコバリ。

「もちろん、テンマが作らせた」

あぁ…お察しだったね。米っぽい穀物に、ササゲ属のマメと砂糖みたいな甘味料があれば作れるだろうしな。

「あんころ餅がある、ということは…」

「あぁ、言っておくけど、赤飯は無いわよ」

「な!?」

なんてこった!もち米とアズキがあるのに赤飯を作らないとは、どうゆう了見だ?

チクショウめ、稀代の赤飯好きの俺への嫌がらせか!

「アズマさん!?」

その場で蹲り、歩道を叩いて悔しがる姿を心配して、ライラが駆け寄ってくる

「大丈夫ですか!?」

「あぁ、大丈夫大丈夫、ちょっとこの世の理不尽さに絶望しただけだよ」

 心配そうに差し出されたライラの手を取り立ち上がる。フッ、自然な流れで、ライラの手を握ってやったゼ。

「通行の邪魔よ!」

 すかさずコバリのローキックが飛んでくる。バシッと、左スネで受けるが、体勢が崩れてちょっとよろめく。そこをライラがギュっと抱き止めてくれる。

「だ、大丈夫ですか?」「あぁ、ありがとうライラ」

えへへっと、はにかみながらこちらを見上げるライラが可愛すぎて、ギュッと抱きしめたくなるが、目の前にいるコバリが仁王立ちで睨んでいるので、なんとか堪える。

やっぱり将来、ライラをお嫁さんにしよう、そうしよう。


 結婚となると、まずはテンマに相談したほうがいいのかなぁ…などと、沈思黙考しつつ、仲良く腕を組みながら歩くコバリとライラの後に続く。

 どうやらお目当ての店についたようだ。広い間口の白い石段を下り、オープンな半地下へ降りると、カウンター上に所狭しと小皿料理が並ぶ。昔スペインに行ったときに食べたタパスみたいだ。カウンターにはふっくらとした体躯の、いかにも美味しいものを作りそうなご婦人。当然ライラとは知り合いで、コバリもお馴染みのようだ。

「こんにちわ!」「いらっしゃい!」「ごきげんよう、本日のオススメは何かしら?」「これはこれはコバリ様、今日は良いスコベラスが入荷しておりますよ」スッと腰を引き会釈するご婦人「いいわね、1匹グリルでお願いするわ」「承知致しました」

「こちら、アズマさんです!」「お初にお目にかかります、無事のお目覚め、何よりでございます」カウンター内の他のご婦人方も会釈してくれている。「いえ、その、初めまして」ペコリとお辞儀する、どうもこういうのは慣れない。俺が()()()からまだ3日も経っていないが、情報は行き届いているようだ。ま、このエリアは全部、教会の敷地だしな。

席は予約していたようで、畏まった態度のウェイトレスさんに奥の席へと案内される。


ドリンクとメイン料理はオーダー制だがよくわからんので、コバリとライラにおまかせだ。  

 小皿料理はお好みのものを取ってくるスタイル。「おまかせ下さい!」とライラがポンと胸を叩いて、カウンターのほうへ戻る。ウェイトレスさんやお店のご婦人方とキャッキャしながら「これ美味しいよね」「これオススメ」と楽しそうに小皿を選んでお盆に載せている。

 全種類持ってきたの?というぐらいの数々の小皿をウェイトレスさんとテーブルに並べるライラ。色とりどりの調理された肉、野菜、魚、一見何かわかんないモノまで様々だ。

 とりあえずライラとコバリのオススメを平らげていく。独特の香草、スパイス使いの味付けもあるが、アルフの料理と同じく、とても美味しい。「美味しいですね!」とライラもモグモグ食べている。うんうん、いっぱい食べな。

 コバリはもともと小食なので、細長い冷えたグラスのスパークリング的な飲み物を嗜みながら、チョイチョイつまむ感じだ。

 しばらくすると、1匹まるごとの魚のグリルがきた。コバリが注文してたヤツだ。50cmぐらいとなかなかのボリュームの赤い魚を、ウェイトレスさんが小皿に取り分けて、緑色のソースをかけてくれる。厚めの皮がパリッとして身はふっくら。美味しい。「これは」モグモグ「味は鰆だな」「そうね、ほぼ鰆」魚の皮大好きコバリが、クルクル皮を丸めて口に運ぶ「海岸部に行けばもっといろんな魚が食べられるわよ」 


急にブルッとコバリが震える。

「あぁ、テンマからだ」ネックレスに吊るした通信機をゴトリとテーブルのうえに置く

「…ええ、そうね、ちょっと待って」テンマと話しているようだ。

コバリがこちらを見て「ん」とアゴで指図する

腰から下げている通信機がブルっと震える。するとテンマの声が聞こえてきた。

『あぁ、アズマ、ごきげんよう』

「こんにちは」ペコリ、電話なのについつい、お辞儀しちゃう。

『やぁねぇ、電話でお辞儀する必要ないわよ』

え!見えてるの?

「見えてる」フッと微笑むコバリ「テンマにはね」

「テンマ様、こんにちわ!」『あらライラ、お昼時にごめんなさいねぇ』

美味しそうなお料理ねぇ、ハイ、すっごく美味しいですよ、と会話してるから卓上も見えているようだ。どっから見てるんだ?とキョロキョロするが、よくわからん。

『あぁ、そんなことより、ビッグ・ニュース!』

楽しそうだなテンマ様。


『マリアが近々そちらに行くわよ』


昨日のコバリとの会話を思い出す。

生体回路(サーキット)は基本、電磁気力、重力を操作する」

円卓の上で腕組みしてこちらに身を乗り出すコバリ「その究極の能力は何だ?」

うーん、なんだろう、核融合反応起こす、とか?

おぉ、それもなかなかだけどねぇ

うーん、違うのかぁ…ブラックホール作っちゃうとか?

むむむ、惜しい!と言っておこう

え、惜しいの!?

「マリア・クシナダは」ニッと笑うコバリ

「時間を止める」


あー、なるほど、そりゃ無敵能力だわ。間違いなく世界最強だ。


…でも、それ本当?


エピソードタイトルの読みは、

「ザ・ワー〇ド、もしくはクローズド・〇ロック」です

〇に入る文字は、概ねご想像通りかと。

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