2 コレ、始末書です? (4)
「さて……どうしよっかなー」
そうしてユーリに置いて行かれて、数刻後。無事に綿雲砂糖を食べ終えた私は、菓子の刺さっていた棒を握りしめたまま呟いた。
砂糖のベタベタがついた棒は早く捨てたいところだけれど、ごみ箱が見当たらない。何処に捨てたものだろうか。きょろきょろと見回す私の視線が、先ほどユーリが教えてくれた屋台を捉える。
……そうだ、肉串の串も綿雲砂糖の棒も似たようなものだし、買うついでに頼んだら捨ててもらえないかな。
そんな迷惑なことを思いついて移動をはじめたところで、すぐ横を通り過ぎていった荷車が妙に心に引っかかった。違和感の正体が掴めないまま反射的に振り返って、その行く先を目で追う。
――昔から、私は割と勘が鋭い方だった。「野生動物みたい」と揶揄されることもあるけれど、言語化できない虫の知らせというのをよく感じ取れるし、実際それに従って助かったことも多い。
その虫の知らせが告げている……あの荷車に何かあると。
今まで何度も自分の勘に支えられてきた私に、迷う余地などなかった。
人ごみに吞み込まれていこうとする荷車の後を追って、急いで走り出す――ベタベタの砂糖のついた棒を握りしめながら。
「うーん、コレ私、ちゃんと元の場所に戻ってこられるかな……」
そうして始めた尾行の途中で、私はついつい情けないボヤキを上げていた。
おそらく自分がやって来たであろう方向を、試しに振り返ってみる。でも、人と建物で溢れかえった街の中で正しい道を見出すのは、山中の獣道を探すよりもずっと難しい。
追っている荷車は男二人がごろごろと手で引いて進んでいるため歩みが遅く、尾行自体はそんなに難しくない。ただ、頻繁に脇道に入ったり裏道を抜けたりする所為で、私の地理感覚は完全に失われてしまっていた。
……まぁでもそんな不思議なルート選定をしている時点で、この荷車がアヤシイことに確信が持てたのだけど。
(荷車に二人、周囲に四人……)
気配を探るが、それ以上の仲間は居なさそうだ。一人で六人と相対することに不安はないけれど、バラバラに動かれた場合にどうやって全員を捕縛したら良いだろう。まだ明確な解決策は見えない。
……特にもし、荷車に積まれた荷物が私の予想しているものだった場合。
「おい、俺たちに何か用か?」
そうして何度か暗い路地を曲がったところで、唐突に声を掛けられた。荷車の周囲についていた男たちだ。見るからに堅気ではなさそうな雰囲気の彼らは、素早く私を取り囲む。
前方に二人、後方に二人。残りの二人は路地のさらに奥まったところで、荷車を守りつつこちらの様子を窺っている。
(おい、荷物まだ載せられるか?)
(ああ。こいつで六体。むしろ丁度良い)
こそこそと後方で交わされる会話が耳に入った。それを聞いて、私は自分の懸念が正しかったことを静かに察する。
「その荷物、中身を……」
ひとまず穏便にと切り出した私の言葉は、最後まで言い切る前に目の前の男によって遮られてしまった。
ブン、と丸太のように太い腕が目の前で振り回される。轟音とともにすぐ横の木箱が吹き飛んでいき、その衝撃で私の髪がふわりと揺れる。
こちらをビビらせることを目的とした、ただの示威行為。眉をひそめることもなく、無反応のまま黙殺した。勢いに任せただけの稚拙な打撃に、脅威はない。
ニヤニヤと笑いながら伸ばしてきた男に、綿雲砂糖の棒を素早く投擲する。お菓子の棒とは思えない勢いで、それはあやまたず男の右目を貫こうと迫った。
男はそれを咄嗟に振り払う――その隙をついて男の右腕を捉え、関節を固めて手首を折る。
……まずは、一人目。体格差があっても、相手の動きを封じる箇所がわかっていれば勝負は一瞬だ。
「うわぁああ!」
「くそっ、なんだコイツ……!?」
仲間の無様な悲鳴に、慌てたもう一人が棍棒を振り上げて襲い掛かってくるが、それも判断が遅い。がら空きの鳩尾に拳を叩き込むと、簡単に男の身体はぐらりと傾いだ。
「おい、コイツやばいぞ!?」
「急げ! とにかく早くブツを送れ!」
荷車の男に指示を出しながら、後方の二人がナイフを投げつけてくる。狙いがあまり正確でない分、却って軌道が読みにくい。
必要最低限のナイフだけ叩き落して構えるが、警戒した相手はなかなか近寄ってはこない。どうやら時間稼ぎが目的のようだ。
そうして相手の出方を窺っているうちに、荷車の側で見覚えのある光がふわりと輝くのが見えた。
(まさか、あの光……!?)
背後への警戒を怠らないまま、そちらに顔を向ける。そこで目に入った光景に、思わず息を呑んだ。
(なんで、こんなところに転移陣が!?)




