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4 素直になりません? (1)


「貴女、ディートスと何の話をしていたの」


 ――その日の夜。

 怒涛のダメ出しを喰らいながらもなんとか就寝まで傍に控えることを許された私に、ハーベスト嬢はいつもの口調で切り出した。


 就寝前の彼女はいつものドレスによる武装を解除したネグリジェの姿で、あまりにも無防備で弱々しい。見慣れないそんな彼女の状態では、普段であれば高圧的にしか感じられない物言いすら背伸びした少女のような可愛らしさが漂っていた。


 後は寝るだけとなった彼女の横にはもう、流石に異性のディートスは居ない。部屋には私とハーベスト嬢の二人きりだ。


「別にどうでも良いことなのだけれど」


 自分で話を振っておきながら、私の返事を待たずにハーベスト嬢はそう言ってつんと顎をそらす。しかし、私の耳に彼女のそんな言葉はもう入ってきていなかった。


 だって、夜に女性だけでひと部屋に集まって会話をするなんて! これはきっと、話の中身は恋バナに違いない――偏った知識と同性の友人への拗らせた憧れを抱いていた私は、あっさりとそんな結論に飛びついていたのだ。

 憧れの状況を目の前にして、自分の顔が満面の笑みになってしまうのを止められない。




「ええ、ええ、聞きましたよ! ディートスさんって、ハーベスト様の婚約者なんですよね!」

「どうしてそんなに嬉しそうなのよ……。まあ、そうよ。彼が私の婚約相手。()()()()()()()……ね」

「可哀想なことに? 婚約が不満なのは、ハーベスト様の方じゃないんですか?」


 ディートスの言葉から受ける印象とだいぶ違う。そう思って首を傾げると、ふぅーと優雅なため息をついてハーベスト嬢は遠い目をした。


「とんでもないわ。私がディートスを不満に思うわけがないでしょう。昔から仕事ができて博識で気が利いて……子供の頃から、彼は私の憧れだったわ」


 そう言いながらも、彼女の浮かべる表情は陰鬱だ。


「これは政略結婚なのよ。父が彼に命じた……ね。フローリア商会の子供ともなれば、色んなしがらみを避けては通れない。長男である兄は貴族の派閥安定、二人の姉は取引先との関係強化と王室へのパイプ役として婚姻が決められた。……そして三女である私の役割は、商会の実務担当。そのために父は、自分の右腕の息子であるディートスを伴侶として選んだの。彼の気持ちなんて、完全に無視して」


「ディートスさんはハーベスト様のこと、嫌ってるようには見えなかったですけど……」


「彼は私よりずっと大人だもの! 十も年下の、しかも口も態度も悪い小娘の婚約者なんて本当は嫌に決まってるじゃない。彼の一番好きだった商売の仕事も取り上げて、『婚約者の親睦を深めるため』なんて名目で私の執事なんてやらせて……お父様は人が悪すぎるわ」




 そんなことを口にしながらゆっくりと首を振るハーベスト嬢の瞳には、彼への真剣な気遣いが溢れている。

 しかし、私はハーベスト嬢の反応に納得がいかなくて思わず首をひねった。


「はたから見てると、ハーベスト様がディートスさんのことを嫌ってるようにしか見えないですけどね……」


 ぎくり、と肩を強張らせて、ハーベスト嬢はぎこちなく視線を逸らす。


「やっぱり……そう見える?」

「やっぱりも何も、わざとそう振る舞っているんだとばかり。それともお嬢様は婚約者を振り回すのが趣味なんですか? 悪女ってヤツ?」

「違うわよ、失礼ね!」


 ムッとしたように言い返してから、ハーベスト嬢はがっくりと肩を落とした。


「まぁ腹は立つけれど、確かにそう思われても仕方ないのかもしれないわ。まさかあの人が婚約者になるなんて……今更どんな顔して向き合って良いのかわからないの。あの人は婚約が決まっても私の執事になっても、相変わらずあの本音のわからない微笑みしか浮かべてくれないし」




 多少方向性は違ったけれど、やはりこれは恋バナだろう。普段より口数多く、ハーベスト嬢は頬を紅潮させながら自身の感情を言葉にしていく。


「そうか……そうだったのね……自分でも意識してなかったけれど、私は彼の本音が知りたくてわざと怒らせるようなことを言っていたんだわ。そうやって彼の感情を掘り起こして、私を嫌うような仕草が見えれば安心できるような気がして」

「どうして、嫌われて安心なんかするんですか」


 呆れて反射的にツッコミを入れれば、ハーベスト嬢は諦観の混ざる苦笑いを浮かべる。


「いつまでも見えない彼の本音に触れられた気がするから。嫌われていると確認できたら、愛されることを諦められる気がして。でも、こうやって言葉にしてみると私、どうしようもないほど不毛なことをしてるわね……」


 口にする言葉は後ろ向きだが、ハーベスト嬢は何故か肩の荷物を下ろしたようなホッとした顔をしていた。


「くだらない話を聞いてくれて、ありがとう。おかげで気持ちの整理ができたわ。……貴女の相槌は、何の参考にもならなかったけれど」


 おやすみなさい、と早口で述べ、ハーベスト嬢は私と目を合わせずにそのまま寝台へと向かう。その背中を見送りながら、私はついつい肩をすくめていた。


 ――相変わらず、彼女は恋バナをしていても口が悪いんだから。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 設定など、すごく好きです! どうやって、アレクを女と受け入れていくか、過程が楽しみです。
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