夢列車で行こう!
一生懸命頑張っている全ての人の夢が叶いますように……。
※作中にコロン様が描いてくださった挿絵がございます。コロン様、素敵なイラストをありがとうございました!
「ご乗車、ありがとうございます~♪夢列車、出発しま~す♪」
クマのぬいぐるみの車掌さんが、陽気に声をはりあげる。
「いよいよだね、パパ、ママ!大輔おじちゃんも楽しみだね!」
夢列車のホームも列車の中もとても混雑していた。
でもみんな座る場所が決まっているみたいで、ぼくたちはクマのぬいぐるみの車掌さんに肩たたき券の切符を見せると、
「おお、見込みがありますね。特等席へどうぞ」
と案内された。
そこは藍色に塗られた個室だった。
「わぁ、海の中にいるみたいだ!」
「すごい!絵を描きたくなるなぁ」
「ティーセットもあるわ」
ママがいれてくれたお茶を飲んでいると、夢列車が動き出した。
ぐんぐん空へ昇っていく。
「ねぇねぇ、ママの夢は何なの?」
「ママの夢?夢だったのはファッションデザイナーかしら?」
「違うよ。今の夢だよ」
「今の夢はけんちゃんやパパと健康に仲良く暮らすことかな?」
「ママ!何か違う……」
「何が違うの?」
「う~んと、なんだかうまくいえないけれど、ママはもっとなりたいものとかないの?」
富士山の頂上と同じくらいになった頃、第一の駅に着いた。
「家族駅~、家族駅~」
「あっ、ママ降りるわ」
「え?もう?」
「うん」
「パパは?」
「パパはもう少し乗っていくよ」
「大輔おじちゃんも?」
「本当は迷っている。ここで降りるのは本当に幸せなことだと思う。でもこの先の景色も見たいんだ」
「じゃあね。男三人で楽しんで」
「ママ、もう少し一緒に行こうよ」
「ママはここで降りる。家族のみんなと幸せに生きたいから」
家族駅では、驚くほどたくさんの大人が降りた。
ぼくはなんとなくさみしい。
ママの気持ちはすごく分かる。
僕だって家族と幸せに生きたい。
でもさ、今だっておしゃれママで有名なのに、なんかもったいないなぁ。
ママ、本当にそれでよかったのかな?
「パパ?パパは夢ってあるの?」
「ケンくらいの時は野球選手になりたかったな。今はマイホームを建てることかな?」
「それ僕も嬉しい!けど……なんだろう?このもやもやした気持ち」
雲がぷかぷか浮かぶ高さになって第二の駅に着いた。
「マイホーム駅~、マイホーム駅~」
ぼくはもやもやした気持ちを抱えながら、パパに尋ねる。
「パパ、降りるの?」
「うん。ここで降りようと思う」
ぼくは止めるかどうか思い悩む。
だってマイホームもいい夢だ。でも……。
「兄さん。野球選手になりたかった気持ち、夢列車に乗って思い出さないか?」
「大輔。いい年して独身でフリーターのお前とは違う。俺は一家の大黒柱なんだ」
ぼくはじっと大輔おじちゃんを見た。
「兄さんの言いたいことは分かるよ。でも、せっかくの夢列車の旅だろう?野球選手になれなくても、野球に関わる夢をもったらどうかな?野球の夢にも幅があるだろう?」
そうだ!それだよ、大輔おじちゃん。僕が言いたかったこと!
「兄さんの稼ぎならマイホームの夢は確実だろう?もう少し夢列車に乗ってみないか?」
ぼくは気づくと走り出していた。
「車掌さん!車掌さん!野球に関係する駅はありますか?」
「ありますよ♪68駅先にプロ野球選手。60駅先にプロ野球の監督。35駅先に甲子園の選手。それか らえ~と、確か大リーグの選手も……」
「あのっ。地元の少年野球チームの監督とかは?」
クマのぬいぐるみの車掌さんは、にこり。
「それなら、次の駅です」
僕は急いでパパに告げた。
「パパ!次の駅で降りなよ」
パパは第3の駅で降りて行った。
手を振って見送ると、大輔おじちゃんがスケッチブックを取り出した。
だんだん太陽に近づいていく空の色がぬられていく。
「大輔おじちゃん。大輔おじちゃんの夢って画家だよね?」
「そうだ」
「叶うと思う?」
「わからんな。でも後悔しないように毎日努力はしている」
それから20くらいの駅を通り過ぎた。
トントン。
ノックの音がする。
「どうぞ」
「恐れ入ります。お客様、そろそろそちらの切符で行ける範囲が終わります」
外はすっかり銀河宇宙だ。
ぼくは焦った。
「どうしよう?大輔おじちゃん」
「任せておけ」
大輔おじちゃんはスケッチブックを取り出して、クマのぬいぐるみの車掌さんを描き始めた。
「これでいかがですか?」
「おおう。これならあと55駅はいけるでしょう」
「坊やは?坊やは何かありますか?」
「もう一枚、この絵ではどうでしょう?」
「私は坊やにきいているのですよ」
「ぼくは……ぼくは車掌さんの手伝いをします。それではだめですか?」
クマのぬいぐるみの車掌さんは、にこりとした。
「よいでしょう。では私のあとについてきて」
「大輔おじちゃん……」
「ケン。ここからは一人旅だ。健闘をいのる」
親指を突き立てて笑う大輔おじちゃんを見ていたら、何だか勇気がでてきたよ。
僕は車掌さんの後に続きながら、切符の確認作業の手伝いをすることになった。
みんな花のリースとか本とかダンスの衣装、セピア色の写真などそれぞれに色々な切符があって面白い。
でも僕は停車駅を数えるのにも必死だった。
大輔おじちゃんの切符は55駅先まで。
そこまでに「画家駅」があるだろうか?
51駅まで数えても、画家駅はやってこない。
「次はIT会社の社長駅~、社長駅~」
「次はオーケストラの楽団駅~楽団駅~」
「次は俳優駅~、俳優駅~」
次だ!次の駅で画家駅に止まらなかったら……。
大輔おじちゃん!!
「つぎは官僚駅~官僚駅~」
がーん。そんな……そんなことってある?
鼻の奥がツンとくる。
大輔おじちゃんの笑顔が浮かんで、とうとう目から涙がポロリとこぼれた。
「大輔おじちゃんの夢が叶わない……」
大輔おじちゃんは、親戚中から笑いものになっても、おじいちゃんに「いいかげんはたらけ!」と怒られても、彼女さんに「待っている事なんてできない」と振られても、絵を描いてきた。
大輔おじちゃんには絵しかないのに……。
こんなことって……。
僕は大輔おじちゃんの絵が好きだ。
まるで大輔おじちゃんみたいだからだ。
大輔おじちゃんは、お金がなくても僕がかけっこでビリだった時、ラーメンをおごってくれた。
そして、雪の降るなか凍える子猫をお金がないのにエサを買って、自分の部屋で暖めさせてあげる人だ。
そんな大輔おじちゃんが描く絵は、優しくて、ぽかぽかして、見ていると涙が出てくるんだ。
そんな人の夢が叶わないなんて……。
「ケン!」
はっとする。
大輔おじちゃんがいそいでこちらに駆けてくる。
「お前も俺と一緒に降りないか?」
「だって切符は?」
「ほらこれ……」
そこにはきれいな指輪があった。
「おふくろの形見。俺にのこしてくれた」
おばあちゃんは唯一大輔おじちゃんの夢を応援してくれていた人だっけ。
そのあと、僕が応援を引き継いだのだけれど。
「これはこれは美しい光を讃えた指輪。良いものを見せていただきました。けっこうです。このままお乗りください。ちなみに画家駅はここから3駅先です」
僕は迷った。
絵を描くのは好きだ。とても好きだ。
でも自分が画家になっているところなんて想像できない。
けどさ、何だか大輔おじちゃんと一緒がいいなって思ったんだ。
大輔おじちゃんの夢の行く先を見てみたい。
「うん!3駅先で降りよう」
クマのぬいぐるみの車掌さんがおかしそうに笑っていう。
「切符さえあれば、何度でも夢列車に乗れますよ。おじさんはもう乗らないでしょうけれどね」
「次は画家駅~画家駅~」
僕らは月に降り立った。
月から地球を眺める。
おじさんは早速スケッチブックをだして描き始めた。
なんてきれいな星なのだろう?
そしてなんて幸せな気持ちなのだろう?
ぼくは月から思い切り叫んだ!
「夢っ、必ず叶えるぞーーーーーーーー!」
はっと目が覚めた。
全身がぽかぽかする。
そしてびっくりするくらい幸せな気持ちだった。
ドキドキしていると、ママの大声が聞こえた。
「大輔さん、それホント?」
「あなた!あなた!大輔さんが日本画家新人賞を取ったって!」
ぼくはベッドから飛び起きて、部屋のドアをバンと開けた。
さぁ、これから忙しくなるぞ!
ぼくは「うおおおお」って雄たけびをあげながら、朝日が差し込む廊下を走った。
おめでとう、大輔おじちゃん!
「おめでとう」を言ったあと、大輔おじちゃんに「弟子にしてください!」て言わなきゃねっ。
僕と大輔おじちゃん、二つの夢の始まりの朝だった。
おしまい
お読みくださり、ありがとうございました!
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