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とりあえず、ここの常識を教えて貰えますか?

少女は使用人から部屋を案内され。

部屋はまさに王族が住んでいそうな豪華な作りにされていた。照明にはシャンデリアが使われており、ベッドはキングサイズという少女には今まで縁のないものと思っていたものが全て揃っていた。

そして、これから少女の世話をするという侍女たちを紹介された。

──容姿での年齢でみると、30代後半の人が2人、20代前半の人が3人、そして…10代後半の人が1人。

現代の日本で住んでいた少女の勝手な価値観でそう考えているが、日本人が童顔の人が多いというだけなので、実際にはみんなもう少し若い。


「初めまして、赤葦千里と申します。不本意ではありますが、お世話になります。よろしくお願いします」


千里も怒ってはいたとしても、さすがにモラルを習った一人の人間なのでしっかりと挨拶をした。

すると侍女の1人がある物を取り出し、千里へ見せた。


「こちら、聖女様のお荷物でお間違いないでしょうか?」


侍女が持っていたのはスマホだった。

千里はスマホを握りしめて眠っていたため、異世界に召喚されてしまった時にも実は持っていたのだった。

だが千里は召喚された時にかなり困惑していたため、そのことに気づかずに置いてきてしまっていたらしい。


「あ、私のです!すみません、ありがとうございます。」


──もしかしたらこれで元の世界と通話ができるんじゃ…?

そう思ったのはつかの間。スマホを開くと、当然圏外だと表示されていたのだ。

それを見ると、千里は侍女たちに1人になりたいと言って部屋から出ていってもらった。

スマホの残りの電池残量は58%で、この世界に電子機器がないとすれば充電なんてできるわけがない。

もって数時間のこのスマホは、家族との連絡さえもさせてくれなかった。

──なんで私が呼ばれちゃったんだろう。私が特別やっていたことといえば、市の合唱団に入っていたということだけ…聖女の力なんて、あるはずがないのに。

千里は綺麗に磨かれた床に座り込み、ただ涙を流すことしか今はできなかった。


あれから数時間たち、千里が10代後半だと思っている侍女が千里のことを気にして、何か問題はないか紅茶のセットをもって部屋の前まで来て確認をしに来ていた。


「聖女様、紅茶をお持ちいたしました。」

「…はい、どうぞ」


千里は部屋の真ん中にあるテーブルの前に座っており、ぎゅっと両手でスマホを握りしめていた。

微かに千里の目は赤くなっていて、侍女はそれを見て何があったのかを察し、目のことには触れずに紅茶を手慣れた手つきで用意していった。


「ありがとうございます」

「いえ、これが私たちの仕事ですので」


千里は一口紅茶を飲むと、紅茶を机に置き、侍女の方に顔を向けた。


「あの、この世界で発展しているものってなんなんでしょうか?」

「発展しているもの…ですか?」

「はい。この世界で、生きるために必要なものであり、今も尚進化し続けているものです。そういうものってありませんか?」


これは千里が元いた世界で言えば、科学だった。

千里の世界の科学は素晴らしく、人の生活とはもう切り離せないような存在であった。最近では科学を題材にした漫画やアニメなども沢山あり、科学から生み出されたAIは、もうただの一般人では理解なんてできないものだった。

それでも、機械というのは0と1しか知らない。そう理科の先生から千里は教わっていた。機械はあくまでも私たちが教えたことしかできることはなく、機械が1にしたものを人が10や100にするのだと言っていた。

つまり科学と人は共依存の関係であった。人が地球を生きて行くには、機械はとにかく必要なものなのだ。

──もしもそういう物がこの世界にもあるのだとしたら、生きていくためには必要な知識でしかないし、覚えられるものなら覚えるしかないよね。


「そうですね…生活に必要なのと言えば生活魔法でしょうか」

「え、魔法?」

「は、はい…ご存知ないですか?」

「えぇ、全くご存知ないですね…というかこの世界魔法なんてあるんですか」


──まさかの本当に異世界ファンタジー…しかも今の感じだと魔法っていうのはみんな持っているものなのかな?ということは生活魔法っていうのはこっちで言う電化製品みたいなテンションってこと?

そう、この世界にはありとあらゆることに魔法を使っており、魔法が進化することで人の生活も進化をしてきていたのだ。洗濯をする時も、料理をする時も、勉強をする時も、いつだって魔法を使用している。


「この世界ではどんな方であろうと魔法を使うことができます。だいたいの魔法は練習をすれば、誰でも初級魔法は使えるんですよ。」

「そうなんですか…てっきり生まれた時から使える魔法は決まっているというものかと……」

「いえいえ、そんなことはありませんよ。確かに上級魔法ともなれば話は変わってきてしまいますが、やっておいて何も起こらないなんてこと、本人が意図して使おうとしていないことしか考えられませんよ。」

「なるほど…」


──つまりは、勉強と似たようなものなのかな?勉強だって、基礎ぐらいはみんなやろうと思えば大体の人ができる。もちろん、特別な事情があってできない人はいたけど、そういう人にだって特技はあった。上級魔法っていうのは…どれだけ難しい問題を解けるかってことかな?それができるまでの努力と時間、そしてほんの少しの才能が必要になるってだけのこと。勉強ができる人だって同じことをしているんだし、こっちの世界のことと感覚的に共通しているものはあるみたい。

千里は少し考え込むような姿勢をとると、何かをだと思い出したかのようにバッと侍女の方を見た。


「あの、魔法は何種類あるんですか?」

「種類ですか?そうですね…主に3つほどにわけられますね。魔法には火・水・土・雷・風の基礎の5属性を初めとして、ありとあらゆる効果を持つ副属性、そして持っている人は神の加護を受けたと言われる特殊属性があります。」

「3つなんですか。あの…もしよろしければ、魔法を見せていただくことって可能ですか?」

「はい、もちろんですよ。では5属性の中で私の得意な水魔法を…」


侍女は予備のコップを机の上にだし、コップの上に手をかざした。


「《曇りなき神々の力よ 今我に水の力を与えたまえ アクア》」


すると侍女の手から水が流れだし、みるみるうちにコップは水でいっぱいになってしまった。

その水は一切濁りがなく、まるで天然水かのように美しかったが、確かにこの侍女の手から出されたものだった。


「今のが魔法…すごい…」

「これは初歩の初歩なので、勉強をすればすぐにできるようになりますよ。」

「そうなんですね。でもこれが初歩だなんて…私には思えません。」

「聖女様でしたらすぐにでも上級魔法を使えるようになりますよ。」

「だといいんですけどね…あの、副属性の方も見せてもらうことはできますか?」

「はい、では裁縫魔法を使いますね。」


そういうと侍女はハンカチを取り出し、手の上に乗せた。


「《編めば編むほど幸せになり 編めば編むほど笑顔になる》」


そういった瞬間にハンカチは形を変え、可愛らしいリボンへと姿を変えていた。

──今のが裁縫魔法?さっき見た水魔法とは全然違う…今の呪文みたいなやつも、さっきみたいに魔法っぽくはなかった。副属性は、どうやって副属性として区別されているんだろう。


「あの、これが副属性なんですよね?どうして特殊属性には入らないんでしょうか?」

「そうですね…今の裁縫魔法も5属性に比べたら特殊ではあるのですが、本物の特殊属性は、もっと複雑なことができるんですよ。」

「複雑なこと…とは?」

「そもそも、特殊属性に分類されるためには、その魔法で5属性の魔法を操ることができなければいけないんです。」

「え、5属性とは違う魔法なのに5属性の魔法を操る?それってなにか矛盾していませんか?」

「はい、矛盾していますよ。だから特殊属性としてわけられているのです。」


千里は首を傾げた。どうにも納得することができなかったのだ。それはこの世界の常識についてか、魔法のことについてか…どちらにしろ、この世界に馴染むにはかなり時間が必要になりそうに感じた。


「そしてもう1つ、特殊属性として扱われる条件があるんです。」

「まだあるんですか?」

「はい。今のだけであれば、少し風変わりな魔法の使い方としか思われません。ですが、5属性を操ることができ、その上副属性の魔法も使うことができるのであれば、特殊属性として認められるんですよ。」

「…つまり、副属性と特殊属性の分け方を簡単に言うと、その魔法で5属性を発動できるかできないかってことですか?」

「そういうことです。私の裁縫魔法は裁縫ができるだけですので、5属性を操ることはできません。なので副属性なのですよ。」


──別に特殊属性なくてもいいような気がするけど…5属性と副属性のどちらも持っていたら、特殊属性とそう変わりはないってことでしょ?そんなに特別な名前がなくてもいいような気がする。

千里は少しだけ顔に出る性格のため、そう考えていることを侍女は察してしまった。


「5属性と副属性は同時発動はできないんですよ。」

「え、同時発動?」

「はい。5属性を使っているあいだは副属性を使うことはできません。でも特殊属性は5属性の魔法を持っていても、副属性の魔法を持っていても、それが特殊属性であることは変わりありませんので、同時発動が可能なんです。」


そういうと、先程の水魔法と裁縫魔法を同時にするところを見せようとしてくれたが、言っていた通りどちらかが発動してももう一方が発動することは無かった。


「な、なるほど。」


──なにかの決まりなのか、それが普通のことなのかは知らないけど、5属性と副属性は同じタイミングで使うことができない。でも特殊属性は5属性の魔法も副属性の魔法も持ってる唯一の属性。同時発動ができるのは特殊属性のみ…なるほどね。だから神の加護なんて言われてるんだ。


「色々教えていただき、ありがとうございます。」

「いえ、そんな…これぐらいのことしかお話できず、申し訳ありません。」

「……お名前を聞いても?」

「え、あ…はい。エリス・クリストファと申します。」

「エリスさんですね。さっきはどこの仕事をするかしか聞けなかったから、名前が聞けてよかったです。」


千里は侍女の名を聞くと、嬉しそうに微笑み、彼女の目を見て口を開いた。


「知らない土地の情報を得られるほど、難しいことはないんですよ。」

「……へ?聖女様、それはどういう…」


エリスの言葉を聞くと、少しだけ千里を眉間に皺を寄せた。そして不貞腐れたかのような声でこういったのだ。


「私の元いた世界の常識です。あと、聖女様と呼ぶのはやめてください。私は千里ですよ、エリスさん。」


エリスは目を見開き、少し嬉しそうに微笑んだ。


「……かしこまりました、チサト様。」

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