聖女だかなんだか知りませんけど力は貸しませんからね
蒸し暑さの出てきた、7月中旬。
先生から進路の話も多くなり、夏休みのオープンスクールを決める人も多くなってきた今日この頃。
私も、このネット社会を利用したオープンスクールのウェブ申し込みを駆使し、様々な高校へ行くことを予定している。
──ん〜…どこの高校がいいのかな。別にコーラス部があればどこでもいいんだけど……私の学力的にはそんなにいい学校に行けるわけじゃないし、行くなら私立を中心に見た方がいいのかな。
ベッドの上でそんなことを考えていると、いきなり眠気が襲ってきて、その眠気に抗えず目を閉じて眠ってしまい。
次に目を覚ますと…祭壇のような知らない場所で、大勢の人間に囲まれていた。
「……は?」
──どこなのここ?この人たちは誰なの?どうして私はここにいるの?え、何…ドッキリ?最近のテレビって本人に伝えずにこんなことするの?
1人でそんなことを考えているとは、周りのものは考えもせず、ただただ少女が現れたことに歓喜していた。
「聖女様!どうかお力をお貸しください!」
「聖女様!我が子を!我が子の命をどうかお助け下さい!!」
「聖女様!!」
「聖女さまぁ!!」
なんて異様な光景だろうか。
周りにいるあらゆる人間が、たった1人の少女に泣いて縋っている。
何が起きているのか、なぜ自分が聖女と呼ばれているのかわからない、まだ15の少女に。
「聖女よ…」
そんな中、オレンジ色の太陽のような髪に金色の瞳を持った美青年が少女へと歩み寄って行った。
そして、座り込んでいる少女の手を握り…
「どうか、我が国に光を灯してくれ」
その場面だけを見れば、まるでラブコメに出てくるようなシーンだ。しかし、少女は頬を染めず眉を釣り上げこう言った。
「まず、この状況の説明からしてください」
そう、冷たい声で言ったのだった。
〜談話室〜
あの後、談話室に案内をされた。そして聖女を呼び出すための儀式の最高責任者のものが、少女へ一通り説明をしたのだった。
──窓の外に見える景色は中世のヨーロッパの景色そのもの…ここは本当にお城の中みたいだし、ただの一般人にこんな張り切ったドッキリをするとは思えない。本当に私はこの国の問題のために、聖女として召喚されてしまったのかな…
「ですので、聖女様にはどうかこの国のためにお力をお貸しいただきたく──」
「──一応聞きますけど、私の世界への帰り方はちゃんとわかっているんですよね?」
少女が1番気になっているところはそこだった。
少女は今年受験の年で、部活もそろそろ引退戦の時期であり、外での活動も行っていた。
長く滞在するなんてことは、少女にはできないことだった。
だが最高責任者である男性は、気まずそうに目を逸らしながら、口を開いた。
「……申し訳ありませんが、今の所召喚する方法はわかっているのですが、帰る方法はわからず…」
「……は?わからずに召喚をした?なぜ?安全性の保証ができないというのに、そんな勝手なことを?」
安全性を重視される時代に生きてきた少女にとっては、信じられないような言葉だった。
「私共も最初は躊躇いました…ですがもうこの方法でないと国を守ることはできず」
「ふざけないでください!私には私の人生があり、夢があったんです!私には家族がいて…友達がいて……あなた方はそれをどう責任を取るというのですか!!」
少女は怒り狂い、男を睨みつけ、大声でそう言った。
そしてとうとう、涙を流し始めてしまった。
「私は…私は力を貸すなんて嫌です……あなた方は、我が身の可愛さ故に、1人の人間の人生を奪ったのですよ……誰がそんな国に力を貸すものですか!!」
「せ、聖女様!どうか静まり下さい…!」
少女はテーブルにバンッ!と音が鳴るほどの勢いで手を付き、立ち上がって
「私は聖女なんかではありません…」
「……わかりました。今すぐにでも力をお貸しいただきたかったのですが、聖女様が納得していただけるまでお待ちします。」
「納得なんてするわけないです」
男は少しの間黙りこみ、その後に使用人へ目で合図をした。
合図をすると使用人が少女の方へ近づいていき、綺麗な礼をして少女に話しかけた。
「聖女様、今日はお疲れでしょう。お部屋へご案内いたしますよ」
──行きたくなんてないけど…この世界のことはまだよくわからないし、野垂れ死にたい訳でもないし、帰れるようになるまでは言うことを聞いておくか。聖女の力?ってやつを貸さなければ、諦めるだろうし。
少女は小さく頷き、使用人の後を付いて行った。