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74.情報

 君は魔人か、というユーロの問い。それにその場にいた全員が瞠目する。

 そして、イリスたちはその言葉が出てきた意味を理解する。


「……伯爵様はご存知だったんですか?」

「ご存知、というのは少し違うかな。諸々の情報をつなぎ合わせるとそういうこともあるかな、と考えられるからね」


 そのイリスの言葉にユーロは曖昧に返す。

 実際に根拠と言えるほどのものはないからだ。様々な情報と自身がゼフィに接してきた経験から導き出すと、ゼフィは人間ではないかもしれないと思える部分があるというだけのことだから。


「実は、それについては難しい話になります」

「……どういうことだい?」


 ハルカは魔人か。そして、ゼフィは魔人か。

 イリスたちはいまだその答えを出せずにいる。そもそも魔人とは何かという話になってしまうからだ。人間と同じかと問われたならば違うとは答えられるだろう。だが、魔人と同じかと問われたならば、その答えはそうだ、とは言いきれないのだ。

 そして、ゼフィとハルカ。二人もまた違う存在なのだ。


「まずゼフィと魔人との決定的な違いですが、ゼフィは魔法を使えません。それにハルカも」

「ゼフィが魔法を使えないことは知っているが、まさか魔人は魔法を使えるのか?」

「はい、私の知る限り、全員が魔法を使えます」

「契約は? していないよね?」


 魔法を使うには契約が必要である。専用の設備を使い、およそ五年の期間が必要となる。魔人がそのようなものを持っているとは考えられないし、であれば契約をしているとは思えない。


「魔人たちには契約は必要ないようです。最初から魔法が使えます」

「そんなことが……あり得るのか?」


 ユーロは思わず絶句する。そんな情報は初耳だった。

 まず、ユーロはゼフィが人間でないことを疑っていた。そして、人間でないならばおそらくは魔人なのだろうと。そのゼフィのみが持つ特異性、魔法を使えないという事実。だから魔人というものは魔法を使えないのだろうと勝手に思い込んでいたのだ。

 それに、ナターシャもそんなことは一言も言っていなかった。カイという男に軽くあしらわれたとは言っていたが、それも近接戦闘で一方にやられたという話であり、魔法の話は出なかった。おそらくそのときはカイは魔法を使わなかったのだろう。


「……君はカイって魔人を知っているよね?」


 ユーロから出たその名前にハルカはびくりと反応する。


「はい、知っています。何度も会っていますから」

「ナターシャがその魔人と手合わせをしたって聞いていてね。相当に強かったと。もしかすると彼も魔法は使えるのかな?」

「使えますね。実際に、彼が魔法を使うところを見たことがあります」


 ユーロはやはりか、と頭を抱える。イリスの言う通り魔人たちが魔法を使えるとすると、今まで考えていたやり方では魔人たちへの対処が極めて難しいということになる。


「伯爵様は彼らを、魔人を警戒していらっしゃるのですか?」

「まぁね。僕たちからすると、どうしても戦いになってしまうことを考えておきたいからね」

「―――彼らは!」


 ハルカは声を上げる。思わず声を荒らげてしまったことに気付き、恥ずかしそうに顔を伏せる。


「……彼らはそんなことしません。彼らは人間です」


 ユーロはそんなハルカの様子を興味深そうに覗き込む。


「人間、か。ああ、そうだね。ナターシャも同じことを言っていたよ。人間と変わらないと。だけど、いや、だから僕は警戒しているんだ。人間っていうのは争うものだからね。自分のため、仲間のために、必要であれば力を振るうのが人間だ」

「それは……」


 ハルカにも否定できない。向こうにいた頃、日本にいた頃、あの世界は平和であった。それでも、歴史というものが人間同士の戦争で作られていることくらいは知っていた。魔人などいないあの世界でも、人間と人間は国のために宗教のためにと戦ってきているのだ。

 だから、人間であるならば、必要であれば、戦うことがないとは言い切れない。


「まぁ、君がそう言うのだから、悪人ではないのだろうということはわかる。僕としても仲良くしたい。個人的にも、領主としてもね。本当に戦いになれば甚大な被害が出る可能性もありそうだし」


 ハルカもそれに頷く。彼らも人間との戦いなど望んでいないはずだ。だからこそ波風を立たせないようにひっそりと隠れ住んでいるのだから。彼らがその気であればもっと問題が起こっているだろう。


「ふむ。その言いようを見るに、君は彼らと親しいのかな?」

「えっと、それは……」


 そこでハルカは少し言い過ぎたというように言葉に詰まる。勢いで言ってしまったものの、その辺りのことについて誰かに話していいものか考えていなかったのだ。そもそも、誰かとこのような話をすること自体想定していなかった。

 ちらりとイリスたちに視線を送る。どこまで言っていいものかと。

 イリスはそれを受けて少しだけ考えるような素振りを見せると口を開く。


「ハルカは魔人たちに保護されてそこで生活をしていました」

「へぇ、そうなのかい? まぁ考えてみればおかしくない、のかな? 彼女は魔人そのものではないが、それに類するもの、ということでいいのだよね?」

「おそらくはそうだと思います。……そもそもですが、伯爵様は、魔人というものがどこから現れた何者だとお考えですか?」

「どこから、か。考えてみたことはあるけど想像どころか妄想にしかならない。あまりにも情報がなさすぎて」


 ユーロとて魔人が何なのか考えてみたことはある。だが、あまりにも足取りが掴めなさすぎて何もわからないのだ。魔人というものがどこで生まれたのか、その痕跡となる情報が一切ないからだ。まるで、突然にどこからか発生したかのように。

 そう、たとえるならばどこからともなく現れる魔獣のように。


「ハルカも言ったとおり、彼らは人間なのです。その言葉どおりの、本当にただの人間なのです」


 ユーロは眉を顰める。その人間という言葉が何を意味するのか掴みかねていたからだ。

 ユーロはいまだ魔人というものと直接顔を合わせたことはない。ただ、聞いた話では肉体的にはともかく精神的には普通の人間となんら変わりはないということらしい。しかし、今イリスが言っているのはおそらくそういう意味にとどまらないだろう。


「魔人たちは、ここではない別の世界で暮らしていた普通の人間なのです」

「……なに?」


 別の世界。それはユーロも全く想像すらしていなかった言葉だ。それが信じられないというよりも、そもそも別の世界などという発想がなかった。


「つまり、別の世界というものがあってそこには魔人たちが住んでいると? そして、何らかの事情によりこの世界を訪れたのが彼らだと? そういうことかい?」

「それは……少し違います」


 イリスはちらりとハルカの方を見る。

 どういう話をするのかという興味はあるのか、こちらの様子を窺っているようではあった。ただ、ハルカ自身何か思うところがあるようで、どこか神妙な表情をしている。


「彼らはそちらの世界では私たちと同じ姿だったようです。私たちと同じ普通の人間と。それが、この世界を訪れたことにより体が変化、変質したと聞いています」

「元は人間、それが変質……?」

「そして、その世界にいる普通の人間というのが、まさにこのハルカです。彼女はあちらの世界にいたそのままの状態で今ここにいるということらしいです」


 ユーロはイリスに言われるがままにハルカに視線を向ける。そのままの状態という言葉が何を示しているのかを見極めようとしているのだ。

 その不躾な視線にハルカが居心地悪そうにわずかに身を捩ると、ユーロはすぐに謝罪をし、気を落ち着かせるために一つ深呼吸する。


「あー、なるほどな。ゼフィは変なことを知っているなとは思ってたけど、そういうことだったのか」


 そう軽い反応をしたのはバリスだった。疑問だったことがわかってすっきりしたという表情で何度も頷いている。

 ユーロは呆れたような視線を送る。


「……君は、この話を信じられるのか?」

「ん? ああ、だって明らかにゼフィっておかしかっただろ。この話を聞いて全部納得できたよ。にしてもお前は相変わらず頭が固いな。変人を演じているくせに常識に縛られすぎだろ」

「うるさいよ……。君らがあまりに常識なさすぎるだけだろう」


 他愛のない軽口を叩いたことで、ユーロも少し落ち着くことができたのか、ここまで得た情報を整理する。

 結局のところ、魔人たちがどういうものかはわかったが、彼らの起源を知ったとしてもそれで今まで知っていた話と何かが変わるかと言われればそのようなことはない。どちらにせよ彼らがどうしてこの世界に存在するのかはわからないのだから。

 収穫といえば魔人が魔法を使えるということくらいだろうか。


「ちなみに、魔人たちはどの程度魔法が使えるんだい? 一般的なマギアと遜色ないと考えていいのかな?」


 その問いに、イリスはしばし考え込む。答えることはできなくはない。イリスは彼らに対して魔法の行使を指導していたのだから、その力量についてはおおよそ把握している。しかし、それらを全て話していいかというと、守秘義務というわけではないが、それはよくないのではと思ってしまう。

 その迷いが顔に出ていたのか、ユーロはふっと笑う。


「いや、いい。その表情でわかった。少なくとも一般的なマギアよりは上のようだ」


 イリスは難しい顔でゆっくりと小さく頷く。スピラを使えるということを話してもいいものか少し迷うが、敢えてそれについては伝えないことにした。


「さて、魔人の話はこれくらいにしておくとして、もう一つ聞きたいことがある。―――幻獣についてだ」

「幻獣、ですか?」

「魔人と幻獣はなにか関係があるのかい?」


 それについてはイリスもよくわかっていない。それとなくアガトに尋ねようとしてみたことはあるが、その詳細をアガトは語ろうとはしなかった。イリスの印象では語りたくないようだった。

 それが、単にイリスには教えられない話であるのかはわからなかったが、どちらにせよアガトから聞き出すことは無理だと諦めた。

 同じようにクロノに尋ねてみたところ、正確なところはわからないから話したくないと一蹴された。ただ、その言いようからなんとなくはわかっているのだろうと思った。


「幻獣って何?」


 そう聞いたのはバリスだった。

 魔人という名称はそれなりに広まっている。実際にそれを見たことがあるというものはほとんどいないが、その名称自体は多くのものが知っている。それに対して幻獣という名称は誰にも知られていない。そもそも、その名称は魔人たちがそう呼んでいるというだけで、人間が知る由もないことなのだから。

 ユーロはため息をつくと、嫌そうな顔で説明する。


「巨大な魔獣のことだよ。大型魔獣よりもさらに巨大で強い、そして見たこともないような特殊な魔獣。……僕たちが戦ったあれだよ」

「あー……。あれのことか。あれ幻獣っていうの?」


 バリスはそっと自身の頬に手を当てる。そこには火傷の跡が残っている。


「まぁ魔人たちが勝手にそう呼んでいるという話だがね。少なくとも調べた限りそれらについての詳しい情報はなかった」


 正確には何もなかったわけではない。公式なものとしてはそれらについての情報は見つからなかったが、たとえば物語のようなものとして、一般的な大型魔獣よりもさらに強い魔獣が記されていることもあった。ただ、それが何か根拠あってのものなのか、ただの創作なのかはユーロには判断がつかなかった。

 だが、それをただの創作と断定してしまうには、あれはその話に出てくるそれと似すぎていたが。


「君は何か聞いていたりするかい?」


 ユーロはハルカに尋ねる。


「詳しくは知りません。ただ、カイたちはときどきそれを退治しに行っていました」


 ちらりとイリスの方に視線を向けると、イリスも頷く。その理由についてはわからないが、それ自体はイリスもゼフィも知っていることである。実際に、イリスはその幻獣の討伐に同行したこともあるのだから。


「退治、か。やはり幻獣への対策も考えておかなければならないか……」

「……そのことですが、幻獣は人間を襲わないと彼らは言っていました」

「何だって?」


 イリスがそう告げると、ユーロは驚愕に目を見開く。


「いや、でも君だって襲われただろう? あのとき……いや、ゼフィたちと一緒に戦ったときに」

「はい、さすがに幻獣の縄張りのようなものに近づくと襲われるそうですが、そこまで近づかなければ大丈夫だと言っていました」

「そう、なのか……いや、でも、確かに……」


 その話を聞けば思い当たることもある。これまで幻獣という存在を感じることはあった。実際に一度見たこともあるし、ゼフィたちからも話を聞いた。そして、今聞いた話では魔人たちが時折討伐に乗り出しているという。

 つまり、数は多くないにしても、幻獣というのはそれなりにいるものなのだ。だが、それを見たという人間はいない。少なくともユーロは知らない。あるいは見たものは全て殺されているのかもしれないが、だとしても被害はそれだけだ。

 仮にあれが街道に出てきたり、街や村を襲ったりしていれば甚大な被害が出ているはずだ。そして、人間を襲う存在であるならそうなっていない理由がわからない。

 だから、その話には一定の信憑性はあるように思う。

 実際にどう思うのかとユーロは視線でイリスに尋ねる。


「正直私にはわかりません。そう言われたらそうなのかもしれないと。ただ、私自身今まで何度か幻獣を見て、自分の思っていたよりも数が多いのではと思っています。なのに幻獣の存在を誰も知りません。だから、正しいのではないかと思っています」

「なるほど……」


 その見解はユーロのものと同じだった。

 ただ、そのイリスの言葉は少し気になった。


「何度か、と言ったけど、君はそんなに幻獣を見ているのかい?」


 そう問われてイリスは一瞬きょとんとした表情を浮かべる。そして、そういえばその辺りの話をしたことはなかったと思い、すぐに説明する。


「そうですね。初めて見たのはあのときですが、それからあの村のこともあって……えっと、私が今まで見た幻獣は四体ですね」

「はあ? 四体も?」

「実際に戦ったのはそのうち三体だけですが……」

「……」


 ユーロは呆れて何を言っていいかわからず口を噤む。おそらくイリスはことの重大性を理解していないからこうして平然としているのだろうが、あれはユーロの目から見て何度も出会うようなものではない。

 それでは命がいくつあっても足りない。

 引き攣らせた顔を戻すと、気を取り直して話を続ける。


「……まあいい、なら幻獣はそれほど気にしないことにしよう。とりあえずは魔人、か」

「あの……」

「ん?」


 ハルカに声を掛けられて、ユーロは意外そうに視線を向ける。


「みんなが……魔人たちが街で暮らすっていうのはやっぱり無理なんですか?」


 ハルカのその質問はおかしなものではない。ハルカ自身、あの家で隠れるように一人でひっそりと暮らしていたが、それは魔人たちも同じだ。彼らは彼らで森の中の隠れ家に住んでいるのだから。

 メロなどがこっそりと街に出ていることは知っているが、それでもやはり堂々と道を歩くこともできず、ばれないように耳を隠して目立たないように過ごしていると聞いている。

 自分のことはともかく、そんなみんなが街で平穏に暮らすことができればいいのにと、ハルカはずっと思っていた。

 だが、ユーロの返事は芳しくない。


「そうだね。それができたら素晴らしいとは思う。だが、残念だけどそれは無理だ」

「それは、やっぱり彼らの姿が普通とは違うからですか」

「それは違……いや、違わないか。無関係とは言えないね」


 厳密には違う。もちろん、ユーロ自身はいまだ見たことはないが、異形の姿を持つという魔人たちが人間たちと共に暮らすということには問題は生じるだろう。だが、不可能ではないと思っている。

 苦労はあるだろうしうまくいかないこともあるだろう。だけど、絶対に無理という程ではない。

 そして、一番の問題がその魔人たちの姿にあること自体は間違っていない。その問題点は魔人たちの姿がそれぞれ違うことだ。その中には異形と言えるものもいれば、逆に人間に近いものもいる。むしろ問題はそちらだ。


「えっと、どうして、ですか?」


 ハルカは首を傾げる。異形の姿の魔人たちを恐れる人間がいるだろうことは想像できる。だが、人間に近いのであれば問題はないのではないかと考えられるからだ。

 ユーロは首を横に振る。


「人間に近いということは、人間と区別がつかないということになるんだ。それはつまり、全ての人間を疑わなければならないということになる」

「……あっ」


 魔人は人間と違う姿をしている。その前提があればなんとか折り合いをつけて暮らすこともできるかもしれない。もちろん、ある程度人間と魔人とが区別された上で、ではあるが。しかし、その区別がつかないとそれすらできない。

 それは隣人が人間なのか、あるいは人間に似た何かなのかわからないということなのだから。隣人に対してそれを確かめさせろと言うことはできない。だからみなが恐れ不安に思い、疑いながら過ごすことになる。疑心暗鬼の中、得体の知れない何かが直ぐ側にいるのではないかと。


「魔人の強さはすぐわかるだろうしね。そうすればみんなが不安のままに過ごすことになり、その結果治安だって悪くなるだろう」

「だから無理、なんですか……?」

「そうだね。君には悪いがそう思ってもらってかまわない」


 それが可能になるには、まずは魔人という存在が敵ではないこと、安全だということを示さなければならない。だが、それは極めて難しいだろう。その機会を作ることも含めて。

 少し気落ちしてしまったハルカを見て、話題を変えようとイリスが切り出す。


「先程ナターシャさんがカイと会ったという話をしていましたが、どういうことなんでしょうか?」

「ああ、それね。君たちが探索していた森があったんだろ? そこに傭兵の仕事で行ったときに出くわしたらしい」

「それでどうして戦うことに? ナターシャさんは無事なのでしょうか?」

「彼女なら元気にしているよ。骨が折れたとは笑って言ってたけどね。戦いになった理由は、カイという男が戦うことが好きだから、かな。そうなんだろう?」


 ユーロがハルカに話を振ると、びくりと身を震わせる。

 そして、それを肯定するようにこくこくと頷く。


「え、は、はい。カイは確かに戦うことが好き、ですね。……でも、弱い相手とはあまり戦いたくないみたいで……私は全然相手にしてもらえませんでした」

「……まぁ、そうだろうね。ナターシャを軽くあしらえるなんて正直僕から見ても桁外れに強いからね」

「ナターシャさんがお強いのはわかりますが、実際どのくらいお強いのですか?」


 イリスがそう尋ねるとユーロはしばし考え込む。やはり何をもって強いとするかは難しいところであるからだ。

 しばらくして、ユーロは苦笑して答える。


「この国の中でナターシャより確実に強い人間は三人だけだね。僕が知る限りではあるけど」

「三人、ですか?」


 イリスには剣士の力はわからない。ナターシャの実力が極めて高いことはなんとなくわかっていたが、そこまで強いとは思っていなかった。それはつまり、この国の最強に限りなく近いということなのだから。

 最強、という言葉でイリスにも一人思い浮かぶ。


「……赤騎士のアルガス様、でしょうか?」

「そうだね。僕もそれほど詳しく見たわけじゃないけど、この国最強の騎士と謳われる赤騎士は確かに強い。今のナターシャでも、まぁ、勝つのは難しいだろうね」


 だが、イリスに思い浮かぶのは彼くらいだ。もう一人はもちろんゼフィのことだろうと考えられるが、後の一人は全く予想がつかない。イリスの聞いたことのない人間なのだろう。


「もう一人はどなたなのでしょうか?」

「もう一人? ……ふっ」


 その質問をユーロは鼻で笑う。

 もちろん、そのような反応をされる理由はイリスにはわからない。自分が何かおかしなことを聞いたのかと訝しげに首を捻る。

 そして、ユーロはもう一人の名前を告げる。


「―――イリス・ディオナイズ」


 それは剣士ではなく、この国最強の魔道士の名前だった。


ここまで読んでいただいてありがとうございました。

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