70.大門
ゼフィとハルカの再会が一段落すると、一同は家の中に入り改めて話をすることにした。
そして、まずは自己紹介をすることとなった。ここいる者のほとんどは知り合いではあったが、ハルカにとってミューは初めて会う者であったし、イリスについては以前にゼフィやミューの話が出たときに少しだけ名前を聞いただけであった。
ただ、ミューについては話には聞いていたので、その姿も含めて特段驚くべきところはなかった。
「もう一度言うが、ハルカのこと、感謝している。ありがとう」
改めてゼフィはアガトたちに礼を言う。ゼフィがここにたどり着くまで何年もの時間が流れた。こうしてハルカが無事にすごしているのはここにいる者たちのおかげなのだから。
「でも、お兄ちゃんが来てくれるとは思ってなかったな」
「そんなことはないさ。俺にとっては、な。ただ、お前にそう思われるのも仕方ないとは思っている」
「うん、お兄ちゃん、私のこと邪魔だと思ってたもんね」
その言葉にイリスはぎょっとしてゼフィの顔を見る。
これまで旅をしてきた中で、ゼフィが妹のことを大切に思っていることは痛いほど伝わっていた。直接そのような言葉を口にすることはほとんどなかったが、口に出さなくてもわかるものはあるのだから。
そのゼフィが妹のことを邪魔に思っていたなどととても信じられなかった。
だが、それが事実だというようにゼフィは苦笑いを浮かべている。
ゼフィにとってハルカは愛すべき妹だ。それはずっと変わらない。両親と共に過ごしていたときも、両親がいなくなった後も。ずっとゼフィは妹のことを愛し、大切に思っていた。そして、ハルカもそんなゼフィのことを信頼し、いつもべったりと傍を離れなかった。
子供の頃はそれでよかった。だが、いつしかゼフィにとってそれは負担にもなっていた。ゼフィも大きくなり、少なくはあれど友人もでき、一人の時間が欲しくなることもあった。だけど、まだ小さい妹にとっては兄と一緒にいることが一番だった。そうしていつも一緒にいようとする妹をときに邪魔だと思うこともあった。
それでもお互いに愛情は感じていたため、仲がこじれるようなことにはならなかったが。
ゼフィが必死で妹を探していたのはそれに対する罪悪感もあった。
妹のことを邪魔だと思っていた。その程度のことがハルカがいなくなったことに関係あるわけもない。だが、それでもそう思っていたところにそんなことが起こってしまい、ゼフィはとても平静ではいられなかったのだ。
「そうだな。それについては悪いと思ってるよ」
「ううん、そんなことないよ。今になればお兄ちゃんの気持ちもなんとなくわかる。それに、こうしてここに来てくれた」
イリスはそんな二人の様子にほっと息をつく。
ハルカのことはわからなかったが、ゼフィとフローリスがうまくいってなかったという話は聞いていたため、そんなことにならないかと少し心配だったのだ。
そんなイリスの気持ちに気付いたのか、安心させるようにゼフィは微笑む。
「そういえば確認というか、聞きたいことがあるんだが」
それを切り出したのはゼフィだった。アガトに視線を向けると、その場にいた全員も同じようにそちらに目を向ける。しかし、アガトはそれを受けてもどこ吹く風とばかりに涼しい顔で平然としていた。
その様子を見て、ゼフィが何を言おうとしているのか理解しているのだろうと察した。そしてゼフィの考えが正しいということも。
「アガト、あなたは最初から全部わかってたんだな。俺とハルカのことも。知っていて隠していたんだ」
「それは心外だな。私としては確信に至らなかったから黙っていただけのことだ」
「よく言う……」
それについてはほとんど嘘だろう。アガトは全て気付いていたはずだ。ただ、絶対の確信があったはずだというところまでは断言できない。そういう意味で言うのならば完全な嘘というわけでもない。
「え? さすがにそれはおかしくない?」
横から口を挟んだのはミューだった。
それは別にアガトを擁護するといった意図があったわけではなく単純な疑問だった。
ここまで来る道中に、ゼフィがもともと自分たちと同じ世界から来た日本人だということは聞いていた。そして妹のハルカを探していることも。ハルカという名前については以前イリスから尋ねられたこともあった。その心当たりはなかったため、特に話題に出ることもなかったが。
なんとなくではあるが、このハルカという女性をアガトたちが隠したがっていたのはわかる。それが彼女のことを自分たちは全く知らなかった理由だ。だからその事をゼフィに伝えることもできず、ゼフィはずっと妹を探し回ることになっていた。
しかし、アガトはゼフィが妹を探しているということを知らなかったはずだ。少なくともゼフィもイリスもそのようなことは言っていないと聞いている。そして、ゼフィというのはこの世界で拾われたときに付けられた名前で元々の名前は違うはずだ。だから、ゼフィとハルカを結び付けられるはずがないのだ。
たとえ、ゼフィが日本人であることに気が付けたとしても。
「それは、まぁ、ミューの言うとおりなんだけどね。……でもアガトはずっと知ってたんじゃないかな。理由はわからないけどそんな気がする」
ゼフィの言うことには何か根拠があるわけではない。ただ、これまでのアガトの反応などから見るにそう考えるのが妥当な気がするだけだ。
ミューはそれでもいまいち納得ができないような表情を浮かべる。ちらりとハルカたちの方に視線を移すと、ハルカもメロも不思議そうな顔をしていた。
「えっと、お兄ちゃん。もしかして、お兄さんのこと気付いてないの?」
「ん? お兄さんってなんだ?」
そのハルカの質問にゼフィはまるで心当たりがないというように首を傾げる。お兄さんという言葉に何か思い当たることはないかと目を細めてしばし記憶を探るが、結局何も出てくることはなく、首を横に振る。
しかし、ハルカもまたそれはおかしいと首を傾げる。
それに助け舟を出すように、横からアガトが口を挟む。
「ハルカ、彼は私のことは知らないよ。顔を合わせたことはないからね。私が会ったことがあるのは君だけだ」
「えっ? そうなの? ……あー、言われてみれば、お兄ちゃんと会ってるのは見たことない、かな?」
アガトの言葉にそういえばそうだった、とハルカは頷く。
しかし、もちろんどういうことかわからないゼフィは説明しろと視線を向ける。
「お兄ちゃんは知らなかったのかもしれないけど、お兄さんは、ユウお姉ちゃんのお兄さんだよ」
「ユウお姉ちゃん……? お姉ちゃんって大門―――大門優か」
「うん、そうだよ。ユウお姉ちゃんのお兄さん。私がお姉ちゃんの家に何度か行ったことあるの知ってたでしょ? そのときに会ったことあるんだ」
大門優、それはゼフィがまだ向こう、日本にいた頃に通っていた学校の同級生である。当時は多少荒っぽい性格だったゼフィではあったが、別に孤立していたわけでも友人がいなかったわけでもない。確かにそれほど社交性があったわけでもないため、少なくはあるが、それなりに親しい者もいた。大門優はその中の一人である。
そして、大門とはゼフィに格闘技を教えていた者の名前でもある。ゼフィたちが過ごす施設に顔を出していた老人たちの一人がその大門優の祖父にあたるのだ。
それがいつからだったかは覚えていないが、優は時折祖父とともにそこに顔を出し、共に鍛錬に精を出すことがあった。その縁もあり、同い年だったゼフィとも知り合いになり、その妹であるハルカとも親しくなったのだ。そしてハルカも優にとても懐いていたことも覚えている。
さすがに年頃であるゼフィは行ったことはなかったが、ハルカは優に招かれて何度かその家を訪れていたのは間違いない。
だとすれば、そのときにアガトと知り合ったというのは何もおかしな話ではないとゼフィも納得する。
「俺の顔を知っていたのか」
先程アガトが言ったことは事実だろう。実際に、ゼフィは優に兄がいるという話は聞いたことはあったが、その顔を見たことはない。そして、アガトは顔を見たことはないとは言っていない。顔を合わせたことはないと言っただけで、その顔自体は知っていたのだろう。
「君は気付かなかったのだろうが、君たちが祖父に稽古を付けられているのを密かに見学していたことがあってね。……単なる暇つぶしではあったが」
「……そういうことか。じゃあ本当に最初から全部わかってたのか」
「そんなことはないさ。初めて会ったとき君の顔を見て、もしやという程度には頭に浮かんだが、それだけで確信できたわけでもない。別に君の顔をそこまではっきり覚えていたわけでもなかったしね」
それはそうだろう。直接に面と向かって話をしたわけでもない、遠目に見ただけの人間の顔を覚えていなくても何も不思議ではない。それも何年も昔のことだ。
ただ、だとすればどうして確信に至ったのかがわからない。
「まぁはっきり言ってしまえば、君が私たちと同じ、日本人であることは初めに君と話をしたときにはわかっていた」
「……やっぱり、何か失言してたか」
それはマイアとも話したとおりだった。ゼフィ自身、その内容については詳細はあまり記憶にないが、マイアのときと同じく、何か日本人だとわかってしまうようなことを喋ってしまっていたのだろう。
それ自体は別にいい。結果論ではあるが、それがばれてしまったからといって何か害があったわけでもないのだから。
「ゼフィが彼女の兄だということをおそらくそうだろうと認識したのは、君がカイの蹴りを受けたときだよ」
「―――っ! そうか、あのとき」
それでゼフィにも理由はわかった。あのときカイの速すぎる蹴りをかろうじて受け止めることができた。そして瞬間的に出たその受け方、防ぎ方から自分と同じ流派なのかもしれないとアガトは気付いたのだ。
そのカイが蹴ったという言葉にどういうこと、とハルカはカイに目で尋ねるが、カイは素知らぬフリで目を逸らす。
「……結局は、ほとんど最初から全部気付いてたってことじゃないか」
「ああ、ほとんど、ね」
口元に笑みを湛えながらそう言うアガトにゼフィは何も返せず呆れたようにため息をつく。
しかし、これまでに聞いた話が真実であるならば、ゼフィにも聞かなければならないことがある。あるいは聞いてはいけないことなのかもしれない。だけど、それに気付いていて聞かないのはあまりにも不自然すぎるのだ。
あの日、ゼフィの妹であるハルカは突然にいなくなった。もちろんそれはゼフィの周りでも大騒ぎとなった。だが、言い方は悪いが、仮にハルカが消えただけであれば、それほどの騒ぎにはならなかっただろう。
一つ息を整えてからゼフィは尋ねる。
「……他の人間はどうなった。大門は?」
ゼフィがその言葉を発すると、ハルカの目が揺らぐ。それを見て、ゼフィは何が起こったのかおおよそのことを理解する。やはり聞くべきではなかったかと。
あのとき、姿を消したのはハルカだけではない。ハルカとともにいた多くの人間が一斉に消え去ったのだ。その中にはハルカと年の近い子供もいたし、引率の大人もいた。そして、アガトの妹である優も。
ハルカがこの世界に来ているのならば、それらの者たちもここにいなければおかしいのだ。
「……みんなは、私を守るために……」
「そうか、すまない……」
ゼフィはやはりそうなのかと少しだけ目を細める。そして、謝罪の意を込めて軽くアガトに頭を下げる。
その後は、空気を変えるために当たり障りのない話をした。初めてミューと出会ったときのこと、アガトたちと出会ったときのこと、そして、街でメロに出会ったときのこと。もうおおよそ見当はついているが、メロがあの街で何をしていたのかという話も。
案の定と言うべきか、カイやメロは頻繁に姿を消してはここに来ていたらしい。そして、あのときはハルカの服や日用品などを買うためにここから近い街であるアルトミーに買い出しに出ていたのだ。
「まさか、だよねー。あのときたまたま私を助けてくれたゼフィがハルちゃんのお兄さんだったなんて」
「助けたってほどじゃないけどね。ただ、あのときからメロの身のこなしは異常だとは思ってたけど」
「……お前ばれてんじゃねえか。目立つことはすんなって言ってんだろ」
「うるさい、カイは黙ってて」
メロは横から口を挟むカイを睨みつける。メロとしてはそのことについて自覚がなかったため、今ゼフィに言われてそれに初めて気が付くことができたのだ。
「えっと、私には全くわからなかったので、ゼフィぐらいの強さがなければ大丈夫だと思いますよ?」
「だよねー。イリスちゃんもっと言ってやって」
「お前調子に乗るなっての」
メロを擁護するようにイリスは言う。ゼフィは一目でわかっていたようだが、イリスにはそういう強さを見抜く目はない。同じようにそういう心得のあるものでなければ、そうそうばれるということはないだろう。
実際にあのときに一緒にいたナターシャはメロの強さに気付いていたが、違和感を抱いているというほどではなかった。単に感心している程度であった。
イリスに反論するつもりはないのか、カイはただ軽く鼻を鳴らす。
メロはそれを見て勝ち誇ったように笑みを浮かべると、イリスにありがとうと感謝を述べる。
「ちょっと気になってたんだけど、お兄ちゃんってカイとかメロちゃんたちと同じなんだよね?」
「同じって、なんだ?」
「えーっと、なんていうか、その。……人間じゃないってこと」
「ああ……なるほどそういう意味か。……たぶん、な」
その質問の意味は簡単だ。つまり、ゼフィも魔人なのかということだ。
だが、それに対する答えは持っていない。おそらくそうなのだろうとは思ってはいるが、ゼフィはいまだ自分が何なのかよくわかっていないのだ。アガトたちのように姿が変化しているわけではない。かといって自分をただの人間だとも思っていない。
サナトにも言われたように、自分が普通の人間とは違うということもわかっているのだ。
「ふーん、そうなんだ。姿だけ変わってないってことなのかな?」
「逆に聞くけどハルカはどうなんだ。お前の方が、いや、むしろお前は何も変わってないように見えるんだが」
何も変わっていない。それはゼフィのようにその姿だけが人間のまま、という意味ではない。本当に何も変わらず、日本にいたままの状態から何も変わっていないように見えるのだ。
「そんなことないよ。あの頃と比べてだいぶ大きくなったでしょ」
「そういう話じゃないよ……」
「……そうだね。うん、私は何も変わってないよ。何の力もないただの人間。だからカイとかメロちゃんと比べたら本当に弱いんだよね」
どういうことだ、とゼフィは目でアガトに尋ねる。アガトがそれを知っているという根拠はないが、なんとなくアガトであればそれがどういうことなのかわかっている気がしたからだ。
そして、それは正しかったようで、アガトは口を開く。
「彼女の言うとおり、ハルカの本質はただの日本人だ。我々のように力を得てもいなければ、この国の、いや、この世界の言葉もわからない」
「言葉も? いや、でも」
「ああ、学んだのだよ。書物の入手はできるし、会話は私たちとできるからな。それなりに時間はかかったが、外国語を学ぶのとそう変わらないさ」
「時間はあったからね。ずっとここにいたから」
ハルカがそういうと、カイが一瞬だけ申し訳無さそうな顔をする。ここにずっと閉じ込めていた罪悪感があるからだ。メロやアガトが全くそれを出さないのは、そうしてもハルカが困るだけだとわかっているからだ。
「なんでハルカだけそんなことに?」
「さて、ね。それは私にもわからないな」
「……そうか」
アガトはわからないと言うが、実際には予想はついているのだろう。だが、何度も言っているように確信にまでは至っていないということだ。
だからそれを言いたくないのか、あるいは言うことができない理由が他にあるのかゼフィには判断がつかないが、何にせよそれ以上をアガトが語ることはないだろう。
「そういえばイリス、ちゃん? はこっちの世界の普通の人間なんだよね?」
「え? は、はい。そうですね。普通? の人間だと思います」
「お兄ちゃんがいろいろお世話になってたみたいで。ありがとう」
「いえ、ゼフィに世話になっていたのは私の方で。本当にお世話に……」
ハルカに感謝の言葉を述べられて、イリスは恐縮したようにぺこぺこと頭を下げる。
そんな様子を見てハルカは眉を顰める。
「……お兄さん?」
なぜか、アガトが妙な表情をしているのが目に入ったからだ。
アガトは一瞬だけ誤魔化そうとするが、すぐに諦めて苦笑すると肩を竦める。
「彼女は普通の人間、ではないよ」
「……え?」
その声を漏らしたのはイリスだ。出自が多少変わっているという自覚はあるが、あくまで自分はただの人間だと自分でも思っている。今までそんなことを言われたこともないし、考えたこともない。
それはゼフィを含めてそこにいる全員が抱いた疑問だった。それなりに接してきたゼフィとミュー、そして少しだけ関わりのあるカイとメロにとってもイリスはただの人間なのだから。
説明を求めるイリスの視線を受けて、アガトはゆっくりと口を開く。
「ゼフィ、君は何体か幻獣を見たんだったね。その姿に見覚えはあったかな?」
「は? あ、ああ。見覚えというと少し違うかもしれないけど、まぁ知ってはいた」
考えもしなかった話題を振られてうろたえるが、その質問を肯定する。
ゼフィが見た幻獣は三体だ。そしてその姿は見たことはなかったが知っていた。
その幻獣の姿はかつて日本にいた頃に神話などで聞いた怪物の姿そのものなのだから。
たとえばケルベロス。三つ首の狼は極めて有名で日本人であれば知っている者も多い。
その答えに満足したのか、アガトは頷くと次はカイに話を振る。
「それと似たようなものだが、君は知っているかな? 翼が生えた白馬のことをなんと言うか」
「あん? ペガサスのことか?」
「そのとおりだ。そしてメロ。では角の生えた白馬はなんと言うか知っているかな」
「ユニコーン?」
その二人の答えを聞いて、もう一度アガトは満足そうに頷く。
そして次はミューに尋ねる。
「たとえば突然変異をして、進化をして羽が生えた、あるいは角が生えた馬を見たときに君はそれを何と呼ぶ? それを単に馬と呼べるかな?」
「呼ばない、かな?」
ミューはそう答える。先程の二人が述べたように、羽が生えた馬や角の生えた馬を見て、それをただの馬だと呼ぶことは難しいだろう。
確かに馬であるとしても、それの名はペガサスでありユニコーンなのだから。
「彼女はそれと同じだよ。羽の生えた人間、角の生えた人間」
「えっと……?」
意味がわからないというようにイリスは困惑する。当たり前のことではあるが、イリスにはマイアのような羽が生えているわけでもなく、アガトのような角が生えているわけでもない。ミューのような尾も生えていない。
どう見てもただの人間なのだから。
「なるほどな。……まぁ言いたいことはわからないでもない」
「……え?」
意外なことにその言葉に賛意を表したのはゼフィだった。
あまりよく知らないゼフィから見ても、イリスは人間離れした魔法の力を持っている。それは単に才能があるとか卓越しているとかいう範囲を超えている。それこそまさに羽が生えていると言ってもいいほどに。
なによりも、なぜか王家の者しか持っていない黄金の髪と眼は、その異常性を如実に表していた。
ハルザウスの王族だけがなぜかこの世界の例外なのだ。
「ああ、君は間違いなく人間だよ。羽の生えた馬であっても馬は馬だからね。だけど、人間としては突然変異と言ってもいい。―――そう、君は言うなれば人間としての進化の果てだ」
「進化……」
それが、何を示しているのかわからず、イリスは不安げにゼフィを見上げる。
ゼフィは安心させるようにぽんと軽く肩を叩く。
「だいじょうぶ。要するにイリスがすごいって言ってるだけだよ。……だよな?」
「ふっ、そうだな。簡単に言ってしまえばそれだけのことだ」
「だからイリスが気にすることはないよ」
そう言われて安心したように表情を緩めるイリスに、優しい目で微笑みかけるゼフィ。
ハルカはそれを興味深そうに眺めていた。
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