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13.マギア

 ゼフィとイリスはシュタープとともに南の村へと向かっていた。もう一人の赤の団の団員、ブロンテはすでに村に滞在し、そこを拠点として情報収集をしているとのことだ。


「ブロンテが……。あいつがよくすんなり言うことを聞いたな?」


 ゼフィの知る限り、ブロンテは悪い人間ではない。ただ、少し面倒くさがりなところもあり、このように二手に分かれるとなれば、街の方へと残りたいと言い出すと思っていた。


「ふっ、実際あいつはそう言ってたさ。だから借金を帳消しにしてやると言った」

「あー、またか。ブロンテは賭け事大好きだからな」


 ブロンテは別にそれほど賭け事に弱いわけではない。ただ強くはない。だからやっているとそのうち徐々に負けていくのだ。そうして負けが溜まっていき、最終的には大きな勝負に出てそこで負ける。だからそれほど弱くはないはずなのに負けは割と多かったという記憶がある。


「一見お調子者ではあるが、仕事はきちんとこなす男だ、心配はない。まぁお前も知ってはいるだろうが」

「そうだな。あいつに任せておけば、問題はないだろうけど……」


 赤の団の最年少だったゼフィが騎士を辞めてしまったため、現在の最年少はブロンテとなっている。もちろん、若いとはいえ赤の団に入れるのだからその能力は優秀である。

 特に、他の団員とは違い、多彩な武器を使いこなし、魔法も得意とするなど器用な面が特筆されている。その辺りは剛剣での戦いを得意とするシュタープとはある意味正反対とも言えた。


「まぁシュタープが傭兵を率いて村に押し掛けたら賊と間違われる恐れがあるからな」

「そこまで厳しい顔はしていない。……そうだろう?」

「えっ? あ、は、はい。とても……頼もしく思います」


 ぼうっと二人の会話を眺めていたところ、急に話を振られたイリスは新調した外套から頭を出しながら慌てて答える。これはゼフィとシュタープが身を守るために丈夫であり、その上でそれなりに動きやすいものをと選んだのだ。


「ん? 何か気になることでも?」

「え、ええっと……」


 そのイリスの視線には気が付いていたシュタープがその視線の意味を尋ねる。


「……ゼフィさんってやっぱり騎士だったんだなぁと」

「……どういう意味?」

「いえ、ただヴァルタン伯爵と話しているときともまた雰囲気が違うな、と思っていました」

「なるほど」


 イリスにとって、ゼフィの話し方は対する相手によってころころ変わるように見えた。

 村で出会って共に森を歩いていた時、その頃はそれが自然な話し方だと思っていたが、ユーロと出会った時の友人との気の置けないような話し方を聞いて、そちらの方がゼフィの本来の気質に近いのだろうと思い直した。だが、こうして昔の騎士の仲間と親しげに話しているのはまたそれとも違うように見える。

 それに対してゼフィは苦笑いを浮かべる。


「……まぁ俺なりに理由はあるんだけどね。変に見えるかな?」

「い、いえ、変ということはありません。ただ少し気になっただけで」


 あわててイリスは手を振り否定する。変と感じているわけではなく、どうしてだろうか、と疑問に思っただけである。


「……しかし、本当に彼女も戦わせるのか? いや、戦えるのか? マギアとは聞いたが……」

「俺は反対してるんだけどな……」


 まるでただの少女にしか見えないイリスを見てシュタープが小声で尋ねると、ゼフィは嫌そうに顔を歪めてシュタープにだけ聞こえるように答える。

 マギア―――それは戦闘可能な攻撃魔法を修めた魔道士のことを言う。単に魔法を使えるだけの魔道士は少なくない。お金と時間さえあれば魔法が使えない人間はいないので、たいていの貴族は礼儀作法の一つ、あるいは教養の一つ程度の感覚で魔法を修得している。

 しかし、それは単に魔法が使えるというだけであって、実際に戦闘に使えるほどに習熟しているわけではない。だから正式名称ではないが、戦闘に使える魔法、あるいはその魔法が使える魔道士はマギアと呼ばれている。

 イリス自身に戦闘の経験はないが、その魔法自体は十分にマギアと呼ばれるだけのものである。

 ゼフィもシュタープも反対したが、イリスが村を守るためにと強く主張したため、渋々ではあるが半ば諦めた形で承諾した。実際にマギアの力があれば助かるというのは間違いないからだ。

 やがて、村に辿り着くと、シュタープを先頭にイリスの案内のもと村長の家を訪ねた。村長は予め滞在している騎士、ブロンテから騎士がもう一人訪れるということを聞いていたため、さして驚くこともなく歓迎の挨拶をする。

 ただ、その後ろについてきているゼフィとイリスの姿には驚きの表情を浮かべる。シュタープが二人も戦力としてここにいることを説明すると、一応の納得を示した。


「イリス。悪いがお主が使っていた家は今騎士様たちに使ってもらっているぞ」

「わかりました。お役に立てているなら何よりです」


 村長からそう聞くと、イリスは二人を自分が暮らしていた家に案内する。そして自分の家の扉を叩くと中から一人の男が出てくる。


「ん、なんだお嬢ちゃん? お、シュタープ、来たか」

「ああ、なにか変わったことはあるか?」


 扉から出てきたブロンテにシュタープが問いかけると、ブロンテは少し難しそうな顔をして歯切れが悪そうに答える。


「いや、今んとこ特には何かがあったわけじゃない。ただ、何ていうか違和感はある。これは勘だが、聞いたとおりかなり危険なやつかもしれねぇ。……おっ? ゼフィじゃねえか、どうしたんだ?」

「久しぶりだなブロンテ。たまたまこの件と縁があってな」

「そもそもこの件はゼフィが伯爵様に報告してきたものらしいぞ。それで我々が呼ばれることになったのだ」

「ほーなるほどね、だったらこの話もやっぱ信憑性あるかもな」


 そうして部屋の中に入ると、傭兵たちも交えシュタープは今までユーロから聞いた話、ゼフィから聞いた話の必要であろう部分を伝える。ブロンテからすれば、シュタープが大真面目に語っている内容を疑う理由はなかったが、傭兵たちにとってみればあまり現実味のある話ではなかったのか、いまいち真剣に受け止めているようには見えなかった。

 ブロンテはそれを少し冷めた目で見ていたが、諦めたように溜息をつくと、傭兵たちに忠告する。


「はぁ、真面目にやらねぇと死ぬぞ? 危機感がねぇならここで帰った方がいい」

「……これは俺らが仕事で受けたものだ。どうこう言われる筋合いはない」

「なら死んでも文句言うなよ。これはそういう仕事だってわかって受けたってことでいいんだな」


 その言葉に傭兵たちは少し口ごもる。その様子を見て、ブロンテはもう一度溜息をつく。

 簡単に確かめた限りでは実力的に見て足手まといになるほどではないとは思ったが、どうしても認識が甘いのは気になるところだ。だからといって無駄に死なせてしまうのはブロンテとしても寝覚めが悪い。


「……俺たち二人は赤の団の騎士だ。それにお前ら腕利きの傭兵三人、それだけいるにも拘わらず、さらに応援が呼ばれてんだ。それがどういうことかわかるか?」

「つってもあの領主がやったことだろ? やつのやってること真面目に考えてもしょうがねえだろ」

「手配したのは領主じゃない。領主の妹だ」

「……だが、これは万が一の事態も想定したものだって」

「だからその万が一が起こっても文句言うなよって言ってんだよ。後になってあり得ないだの聞いてないだの言うなよ?」

「……」


 ブロンテは無言の傭兵たちに肩を竦める。実際問題として、今自分が言ったとおりであれば、ブロンテ、シュタープ、そしてゼフィの三人では厳しいかもしれない。なんとしても傭兵の力は借りたいものなのだが。


「……ま、すぐじゃなくてもいい。明日までに考えといてくれ。それでゼフィも協力してくれるんだよな?」

「ああ、俺も一緒に向かうつもりだ。というよりも元々は俺が行くように頼まれた応援としてブロンテたちが呼ばれたんだけどな」

「ふーん、まぁそりゃどっちでもいいけどよ。で、そっちの子は」


 部屋に入ってきてから、ゼフィの後ろに隠れるように佇んでいる少女に声を掛ける。どうしてこの場にいるのかは最初から気になっていた。


「えっと、私はイリスと申します。よろしくお願いします、騎士様」

「イリス、どっかで……? ああ、この家がイリスの使ってた家って村長が言ってたか。悪いな、借りてるよ」

「いいえ、構いません。私はすでに村を出た身ですから」

「ん? そうなのか? じゃあなんでここにいるんだ?」


 今は使ってない家があると村長から聞いていたため、そこを利用させてもらっていたが、本人が帰ってきたということは何か問題でも生じたのだろうかと最初は思った。あるいは本人は承知していないのに村長が勝手に決めたのかとも思ったが、それもどうやら違うようだ。

 どういうことかとシュタープの方に視線を送ると厳しい顔をさらに渋く歪めている。


「……彼女も同行してもらうことになってる。一応彼女はマギアだ」

「マギア? って言ってもなぁ……。いいのかよ、危険すぎんだろ」

「俺もゼフィも反対してるんだが、村を守りたいと言われたらなんとも言えない」

「村を出たんじゃなかったのか?」


 イリスに尋ねると、今までおどおどしていた様子が消えて、しっかりとブロンテの目を見て答える。


「それでもこの村にはお世話になりました。優しくしてもらいました。だから恩を返したいんです」

「……マギアって言ったな。てことは村の生まれじゃないんだろ? どのくらいここにいたんだ?」

「一年ほど前からお世話になっています」

「一年? たったの一年? ははっ! そりゃいい。気に入った、歓迎するぜ!」

「え? あ、ありがとうございます」


 突然笑い出したブロンテにイリスはびくりと体を震わせる。何がその琴線に触れたのかは見当が付かなかったが、気に入られたのならば悪いことではないだろうと割り切ることにした。

 そして、その日は装備や戦闘方法などについて打ち合わせをすると、翌日に備えて眠りについた。


ここまで読んでいただいてありがとうございました。

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