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勇気の灯、駆れ五月玲!!

 “反逆者(リベレイター)”の魔力は神に対する特効を持つ。

 神の力を帯びた物からはその力を取り除き、通常の攻撃では傷一つつかない神の身体を切り裂く事が出来る。


「──ッ!」


 静かに、しかし素早く。背後から飛びかかった一人の少女に彼は気付き、その手に握られている剣を見て顔色を変える。

 挑発の応酬、そして戦闘の開幕。彼の意識が最も目の前の敵に向く瞬間に行われた奇襲。


「グゥッ」

「ちっ」


 胴体を狙ったその斬撃を腕一本に抑えたのは、彼のその天性のセンスからなのだろう。

 玲が振るった"リベレイター"の魔力が封じ込められた剣は彼の左肘を薙ぎ、傷付ける事無く、しかし確実にその腕の力を奪い去った。

 左腕が動かなくなった事に彼は呻き声を上げ、仕留め切れなかった玲は舌打ちをする。そして彼女が追撃をしようとするも、彼はすぐさま玲とミルキーの両者から距離を取り、彼女の刃が空を切る。


「これはこれは、サンシャインサムライじゃないか。突然連絡が取れなくなって心配したぞ?」

「そんな茶番は要らないよ。あと今の僕はサンシャインサムライじゃない──」


 彼女の今の姿は、以前のようなボディースーツに鎧を纏ったものではなく、ミルキーと似たようなひらひらとしたフォームに変わっていた。その意味は、単に姿が変わったというだけではない。

 つい先程、彼女は夜空の剣に斬られた。だがそれは力を失ったという訳ではない。


 スーパーセイビア──ジェイムズがヒーローを作る(・・)時、彼はその者の中に眠る才能を呼び起こし、それに神の力を混ぜることで自分に忠実な能力者を作り出していた。

 つまり、『サンシャインサムライ』としての力は玲の本来の力ではなく、リベレイターによって混ぜられた神の力が失われた今、彼女が振るうのは彼女本来の力なのである。


 与えられた名も力も全て取り払われた彼女は、真っすぐに彼の双眸を見据えて言う。


「──今の私は、ただの『五月(いつき)(れい)』だ!!」


 そう言いながら、彼女は剣の切先を高く掲げる。続けて刀身が根本から紅く染まっていき、それが先端に届くと同時に剣の先に火球が生成される。火球はまるで太陽のようにとぐろを巻き、やがてドラム缶程の大きさになる。


「"ソレイユストライク"!!」


 彼女がそう叫ぶと同時に剣を振り下ろし、火球がジェイムズへと向かう。

 巨大な攻撃に彼は顔を顰めるも、当たらなければどうということはない。そう考えて彼は攻撃を避け、直後走った腿への激痛でぐう、と呻き声を漏らす。彼の背後ではミルキーが銃を向けており、その銃口からは薄く煙が上がっている。

 そうして彼女へと意識が向き動きを止めた直後、先程の火球が停止しているのに気付く。それが何を意味しているのかを察して──次の瞬間、火球が大爆発を起こした。


「ぐおおおッ!!?」


 彼は爆発に吹き飛ばされ、地面に叩きつけられる。

 身体やコスチュームはあちこちが焦げ、息も絶え絶えにプスプスと煙をあげている。その様子を見て玲は嬉しそうに声を上げ、ミルキーがそれを窘める。


「やった!」

「油断しないで下さい。まだ何かしてくるかも──」


「──どうやら俺は君達のことを見くびっていたようだ」


 ふらり、と彼は立ち上がろうとし、そこで乾いた音が数回鳴り響く。

 それはミルキーが発砲した音であった。明らかに何かをしでかそうとしていたので撃ったのだが、どうやら少し遅かったようである。

 白銀の銃から放たれた光弾は、しかし彼の身体に命中するも僅かな焦げ目を作るのみであった。その様子に彼は勝ち誇ったような顔をする。


「ククク、今の俺は先程までの俺とはちが」


 しかし、その言葉は彼を中心として起こった大爆発によって掻き消される。話の一切を無視してバズーカを放ったからである。

 だが、どうやらそれも通じないようだ。煙が晴れたそこには頬を引きつらせた無傷の彼が立っていたからである。彼は苛立ちつつ話を続ける。


「……全く、礼儀のなっていな」


 またも言葉は中断される。今度は玲の放った火球であり、リベレイターの魔力が混じるそれはさしもの彼でも無防備に受けようとはせず、受け止めた掌はジリジリと焼き付いており彼は顔を顰めさせる。


「エエイ!! 俺の話を聞け!! 人の話を聞くという事ができんのか貴様らは!!」

「どうせ力を解放したとかそんな所でしょう。私達が棒立ちで聞く必要などありません」

「風情を理解せぬ餓鬼共め……ッ!!」


 感情の籠っていない言葉に彼は更に苛立つも、直後ミルキーが取り出した代物を目にして血相を変える。

 彼女が虚空から取り出したのはそれまで見せた事のない巨大なライフル。一見すると対物ライフルのようにも見えるそれは、しかし彼の本能が全力で警報を鳴らしていた。

 彼女がそれを向け、引き金を引くのと彼が慌てて飛び上がるのはほぼ同時。


「ッ……」

「うわお」


 大砲が放たれる音にも似た爆音が鳴り響き、銃口から青白い閃光が放たれる。それは先程まで彼が居た場所を通り抜け、大気を切り裂きながら空へと突き進み、やがてその先にあった厚い雲を吹き飛ばす。

 その光景を見て、彼は冷や汗を流す。彼が危機感を覚えたのは単純な勘であったが、避けていて正解であったと実感させられる。


「貴様、それは……」

「急ごしらえの対()ライフルです。あなたとの戦いにおいて現在の携行武器だけでは火力不足である可能性があると考えて製造しました。威力は大体副砲程度ですね……避けた、という事は今のあなたの耐久力は精々天使程度ですか」


 ガチャン、と音を立てて薬莢に似たカートリッジが排出され、次のカートリッジが銃へと収められる。


 今回、セイバーズのメンバーを倒した事をプロパガンダに使うことは容易に想像できた。無視するという選択肢も無くはないが、既に「マジカルミルキー=ミズリ」や夜空がその協力者である、という事実が対魔任を筆頭に知られてしまっている以上、根拠なき悪評を広められてしまうのは得策ではなく、そのためここが決戦の場であると決定した。

 その時点でロイヤルナイトことエドワードが神かその眷属であるという事は既に分かっており、その場合エドワードを倒せるのはミズーリのみであるため、ジェイムズの方はミズリに任せなければならなくなる。

 ここで問題となるのは火力不足だ。もし仮にジェイムズが神からの支援によって天使レベルの表皮をもっていた場合、現在の携行武器では貫通できない可能性があった。玲のリベレイターはあったが、使い始めではそれを使いこなせるか分からずそこまでの特効火力を出せるかは分からない。

 そこで急遽製造したのがこの対艦ライフル『コスモバレット』。カートリッジ式であり威力はミズーリの副砲──155ミリ陽電子砲程度だが、イルミスでの最終決戦にて天使の表皮を副砲で貫けるのは既に確認済みであった。


「くッ……だが当たらなければどうということはないだろう。そのような長大な武器、取り回しは劣悪だッ!!」

「なら当てられるだけの隙を作るだけですよ」


 ジェイムズが殴り掛かり、それを横から割って入った玲が剣で受け止める。


「アキラ!! あの時死にかけていた君を救ってやったのが誰だか忘れたのかね!?」

「っ、その名前で呼ぶな!」


 空中を縦横無尽に動きながら拳と剣が打ち合わされる。

 玲がジェイムズから力を受け取ったのは夜空達がイルミスから帰還する半月程前の事。その時点で東京から神戸に戻ってくることは決まっていたものの、夜空が居ない神戸など何の価値もないと思っていた。

 家からは抑圧され、一切の自由も希望も無い日々。世間では怪物が出現し始め、暗澹たる雰囲気が漂っていた頃、彼は玲の前に現れた。

 「この現状を打破できる力を与えよう」──そう言い、彼は玲に力を与えたのだ。その言葉の意味を彼女は"正義によって家を見返す"という意味で受け取ったが、実の所彼としてはいずれ爆発させそうな人物を選んで渡していただけだった。

 抑圧された状況下で力を渡され、自分より弱い人間に抑え付けられて耐えられる人間などいない。彼の目論見としてはヒーロー活動をさせる傍らで自らを抑圧する者達を自らの手で殺し、人としての道を踏み外させる事でより"ヒーロー"という称号に依存させる事であった。その為、玲の他の四人も彼女と同じく何かしらの抑圧を受けて来た者ばかりである。


 彼の目算外は三つ。

 一つは夜空の帰還。彼女の"希望"──心の支えが増えてしまった。これが無ければ彼女はもっと早い段階で家の人間を皆殺しにしていただろう。

 次にミルキーの存在。マジカルミルキーがサンシャインサムライの代わりに怪物を倒す事で、本来彼女が受ける筈であった表社会の称賛が受けられなくなった。一見すると玲にとってマイナスの様に思うかもしれないが、もしミルキーが居なければ「表社会では掃いて捨てる程の称賛を得る一方で実生活では抑圧され続ける」という状況に陥り、そのギャップに磨り潰されてしまっていた事だろう。

 そして最後は、最早語るまでもない──いざ事を起こした時、彼女を止められる存在がいた事である。


「"シャイニースラスト"!!」

「君では俺には勝てないさ! そもそもスキルとは神が与えた物! その守護下にある私と見放された君ではね!! "メガスマッシュ"!!」


 必殺の一閃と凄まじい力が込められた拳がぶつかり合う。轟音と衝撃波が上空を飛び交い空気を揺らす。

 威力は拳の方が高いらしく、押し負けた玲を横目に彼は身体を反らし、放たれた陽電子ビームは空を切り裂く。


「そしてお前も! たかだかスキルの傀儡と俺との間には埋め難い差がある!!」

「……」


 ミルキーの眼前に彼はテレポートし拳を振りぬく。ミルキーは乗っていた箒を蹴り拳を避け、バズーカを放ちその勢いで距離を取り、再び箒に乗る。バズーカは彼に命中するが、しかし有効打とはなり得ない。


「分かっているさ! お前はその砲を撃ち下ろせない! 何故なら眼下には街があるからだ! その半端な偽善が──」

「ッ、玲さん!!」

「──っ!?」

「──お前を殺す!!」


 刹那、彼の姿が掻き消える。

 テレポートした先はミルキーではなく、先程押し負けた衝撃が未だ残っていた玲の眼前であった。



「かはっ」

「な、なんで……」

「ほう、あの状況で追いつくか。偽善もここまで来ると……いや、傀儡故の本能か」


 振り抜かれた拳は、しかし直前で間に割り込んだミルキーに直撃する。

 彼女が展開していたシールドは耐えたものの突き破られ、多少勢いが殺された拳は彼女の腹に直撃し、大量の血を吐き出させ(・・・・・・・・・・)、くの字に身体を折り曲げながら背後の玲と共に吹き飛ばされる。


「ミルキー! ミズリ!!」

「く……ふっ……」


 どさり、と地面に落ち、封を切った様にダラダラと血を垂れ流すミルキーに玲は必死に声をかける。

 一時は恋敵として見ていたとはいえ、彼女はクラスメートで恩人で戦友であるのだ。だが、ミルキーは腹を押さえてぐったりと動かなくなる。その様子を彼は空から眺めていた。その顔には先程ミルキーが吐き出した血がべっとりとこびりついている。


「一人脱落、だな。さあどうする、君ならば再度受け入れてやらんこともないが?」

「ッ、誰が戻るか!!」


 再び二人の戦闘が始まる。

 だが、先程の戦闘において既にその差ははっきりとしており、打ち合わす度に玲の体力が削られていく。

 やがて、玲の手から剣が弾き飛ばされ、彼は勝ち誇った様な顔で拳を構える。


「これで終わりだ。"メガスマ──ぐふッ!?」


 が、その拳が振るわれる直前、彼の口から血が溢れ出す。自らの身体を見下ろすと、胸元から謎の針が幾本も飛び出していた。


「な、なんだ、これは……ッ!?」


 玲ではない。他に誰かいる訳でもない。では、誰が。

 彼が針より更に下を見ると、そこには先程まで死にかけていた少女──ミルキーが、平然とした表情でライフルを構えているのが見えた。


「そ、そうか」


 彼は何とか避けようとするが、瞬間飛来した炎の手裏剣が針の突き出た胸に命中し、激しい痛みで彼は動きを止める。


「訳は分からないけど……撃て! ミルキー!!」

「貴様──」


 叫ぶ玲、目を見開くジェイムズ、そして。



「──発射」



 かくして、青白い閃光が撃ち上げられた──

高評価、ブックマークはモチベに繋がるのでよろしくお願いします

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