地球を救え!消えゆく想いと大いなる闇!
「まさかそんな……」
「スーパーセイビアが……?」
「嘘だと言ってくださいよ!!」
ミルキーが展開した推理ショーの大半は理解出来ない単語で構成されていた。コスモゾーンだとか神がどうのこうのだとか宇宙連合だとか。
だが、一つだけ理解出来て、最も理解したくない点──事件の首謀者が目の前の"英雄"であるという"真実"が、彼の醜態によって証明されてしまっていた。
「……あ、ああそうだ!! |これは罠だ《It's a trap》!! その映像もこの状況も全て私を貶める為にその女が仕組んだ罠に過ぎない!!」
「……そ、そうだそうだ! 大体宇宙人だなんて、本当に居る訳がない!」
「証拠を見せろ証拠を!!」
「証拠、ですか……それは──」
信じられない事が起きた時、人は理解出来る物を信じようとする。それは人間にとっての本能であり仕方の無い事なのだ。
なので、ミルキーとしては強制的に信じさせる事にした。
「な……なんだ、あれは……」
「こっ、これが……」
上空の雲を切り裂き、ニューヨークの空に鉄の巨体が鎮座する。
空飛ぶ船としてはグレートセイバーズがあるが、あれは曲がりなりにも船体各所のジェットエンジンによって無理矢理浮かせている。
だが、今ゆっくりと降下してきたそれはまるで魔法の様にふわりと浮かんでいるのだ。それがセイビアが言っていた宇宙船である事は明白であった。
そして、世界のどの国よりも"戦艦"が身近であるアメリカ人だからこそ彼女に装備された無数の砲塔の脅威を理解出来てしまう。
「あれが私の乗ってきた宇宙戦艦です。無限機関の生み出すエネルギーによって恒星間航行を実現しています」
「違う! その戦艦は「今重要なのは私が宇宙人かどうかよりもこの事件の首謀者が誰か、なのではないですか?」
彼の言葉を遮る様に彼女は言う。その言葉で報道陣はエイリアンの熱から少し引き剥がされる。
そうだ、今の焦点は"怪物を出現させているのは誰か"。宇宙人かどうかは関係が無い。そして今、彼らの目線から見てより犯人に近いのは彼の方だった。
報道陣の間でその疑惑が確信へと変わっていくのを肌で感じ、彼は目線を伏して黙り込む。
数秒間の沈黙の後、彼の口端が歪み狂ったように笑い始める。それは余裕の表れか、あるいは諦めの境地か。
「ふっ……ククク、ハハハハハ!!」
「……」
その様子をミルキーは沈黙しながら、記者達は茫然自失と見つめていた。
「そうだ、その通りだよ、マジカルミルキー!」
両の手を大きく広げ、彼はまるで宣言するかの如く豪語する。
「怪物を出したのは俺だ。俺の意のままに動くタイタンを俺と俺の息のかかったヒーローが安全に倒す! たったそれだけの事で世界は俺に平伏し空前絶後の富と権力を得る事が出来た──貴様さえ居なければな」
「富と権力……そんな物の為に?」
彼女は表情にこそ出さないものの露骨に嫌悪感を露わにする。
富と権力──何か崇高な題目がある訳でもない、そんな物の為だけにこれまで幾千もの命が失われたのだ。
だが、彼は申し訳なさなどおくびも出さずに言い放つ。
「そんな物? 富と力は人類史上最も求められた代物だ。それをこの俺が求めて一体何が悪い? 強き者が全てを手にする、人も国も、いつの時代でもそうだった! 自らを霊長類と名付け、ローマ、モンゴル、大英帝国に合衆国──そして今がこの俺だ! 俺こそがこれからの時代なのだ!」
「……」
「貴様のような単なるスキルの傀儡程度に邪魔をする権利はないのだよ。先程はつい我を忘れて遅れを取ったが……次戦って勝てると思っているのならば大きな誤りだぞ」
「……」
「随分と余裕のようだが、自分の主人──あの上空の戦艦が居れば確実に勝てるとでも思っているのか? まあ、確かにあれに相対するのは流石の俺であっても骨が折れる……だが、こちらにも策はあるのだよ」
彼がそう言った瞬間、空中にて待機していたミズーリを爆発炎が包み込む。
深い振動と重低音がニューヨークの街に響き渡り、未だ残っていた記者達はその場に倒れ込み、次に空中の黒煙をその目に収める。
その様子を一瞥もせず、ミルキーとセイビアはただお互いに睨み合っていた。
「あれは……!」
「グレートセイバーズだ!」
ミズーリの方ではなく、それが何故突然爆発したのかを追っていた一部の記者が声を上げる。彼らの視線の先には、街上空を悠然と飛ぶ戦艦──グレートセイバーズの姿があった。
グレートセイバーズの元は第二次世界大戦中に建造され、引退後はパールハーバーとして保存されていたアイオワ級戦艦三番艦『ミズーリ』。その特徴的な40.6cm三連装砲は改造された後も残されており、そしてその一番、二番砲塔の砲口部からは煙が上がっている……明らかに発射された跡であった。
「HAHAHA、頼みの綱が消えたというのに随分と冷静じゃないか。今負けを認めれば秘書にしてやってもいいぞ」
「演説はそれで終わりですか?」
「何? ……チッ」
ミルキーの返答に違和感を覚えた彼が上空に意識を割く。
彼は今のグレートセイバーズの一撃によって忌々しい宇宙戦艦が沈んだと思っていた。ロングレンジからの奇襲砲撃である、それに今は大気圏内──宇宙ならいざ知らず、今ならば撃沈も可能だと思っていた。
だが──爆発煙が晴れたそこには、未だ無傷の戦艦が鎮座している。彼は苦虫を嚙み潰したような顔をして叫ぶ。
「エドワード! 何をしている、さっさとソイツを沈めてくれ! お前はこの星の神なのだろう!!」
「……何か奇妙だと思いましたが、なるほど、そういう事ですか。あの船を操っているのは──」
その様子を見ていたミルキーが呟く。
「ああ、そうだとも。あれを今動かしているのは我が永遠の友であるエドワード・アーサー・プレンダーガスト! そしてお前達の言う通り、この星を統べる神でもある!」
ミルキーが何故奇妙だと感じたのか、その答えが今の言葉にあった。
彼女はグレートセイバーズを感知した瞬間に各索敵を行っていた。その中で不自然であったのが「生命反応が一つしかなかった」という事。彼の言葉を信じるのであれば、今グレートセイバーズを動かしているのはエドワードだけ、という事になる。
恐らくは神としての権能を使い一人で動かせるようにしているのだろう。或いは船そのものと同化しているのかもしれない。何はともあれ、彼女は口角を少し吊り上げ、彼は不機嫌そうに皺を寄せる。
「……何がおかしい」
「いえ、寧ろ好都合だと思ったのですよ──マスター! 私に構わず、思う存分戦ってください!」
今度は彼女が上空に向かって声を張り上げる。無論それが聞こえる筈もない、単なるパフォーマンスだ──その声に呼応する様にして、ミズーリは何かを発射する。
それは無数の小さな杭。それらはグレートセイバーズに突き刺さると上空へと勢いよく引っ張り上げられ、それを追うようにしてミズーリも更なる空へと向かう。高速で移動する二隻はみるみる小さくなり、やがて大空に溶けて消えた。
「言っておくが、エドワードは宇宙に行った程度では死なんぞ」
「分かっていますよ。単にマスターが思う存分力を振るえる場所に移動させただけです。それに……天井が無い方が我々も戦いやすいでしょう?」
「そうだな──」
ミルキーはそう言いながらレーザーサーベルを銃に変え、銃口を向ける。彼女の周囲にはそれ以外にも幾つかの機関銃が現れ、その全てがセイビアに向く。
だが、彼は不敵な笑みを浮かべる。グレートセイバーズが消えたとはいえ、それは相手の宇宙戦艦も同じ事。寧ろ戦闘条件としては当初よりも好転している。目の前には中遠距離特化のアンドロイドが一体のみ、謎のシールドという不確定要素はあれども勝てない相手ではない。否、勝てる。
だからこそ、二人は言う。
「──残念ながら俺は自称宇宙人のアンドロイドなどの葬儀方法を知らないのだ。宇宙にでも撒いておけばいいのかね?」
「──私こそ残念です。貴方の頭上に石碑を立ててくれる人間は、どうやらこの世に一人も残らなさそうですから」
応酬。その一触即発の雰囲気に圧され、記者達も次第に後ずさり、やがてその場から逃げ出していく。
やがて彼が再度飛び上がる。それにミルキーは対応しようとして──
──彼の背後で、刃を構える者がいた。
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