ミズリの決意と地球の未来
──アメリカ合衆国バージニア州・国防総省本庁舎
「ヴァンデンバーグ、発射不能!」
「ニューメキシコ基地、オクラホマ宇宙港、シェボイガン宇宙港、共に機能停止!」
「ケネディ宇宙センターより通信、発射予定の一番艦、二番艦、三番艦共に機能停止との事です!」
「各国でも同様の報告が!」
「な、何という事だ……」
巨大なモニターと幾つもの機器が並ぶその部屋で、合衆国宇宙軍作戦本部長のチャールズ・ウィリアムズ・スミス大将は次々と報告される凶報に頭を抱える。
かねてより計画されていた『アルテミス計画』──元々は再び月面に着陸するという物であったその計画は、ジェイムズの介入により月面の謎の構造物の調査に、そして今は大犯罪者マジカルミルキーの本拠地である月面基地への侵攻計画へと形を変えていた。
ジェイムズが何処からかもたらしたオーバーテクノロジー、それにより多くの人員を送り込む事が出来る新型ロケットを急造した米軍及びレンドリースされた世界各国は彼の記者会見に合わせて打ち上げようとしていたのだが……
「全ての機体のエンジンのみを正確に破壊するだと……!? 一体どんな技術力があればそんな事が、いやそもそも計画は秘匿されていた筈、どうやって知ったのだ!?」
打ち上げ台にセットされていた物、格納庫にあった物、それら全ての機関部に謎の青白い光線が命中し破壊されたのである。それは怪物を撃ち抜いた物と同じであり、下手人がマジカルミルキーである事が確かだった。
ロケットの打ち上げで人が出来る事などなく、機関部も完全にコンピュータ制御であった為に人的喪失は無かったものの、これでは計画遂行が不可能なのは火を見るより明らかである。
各基地から悲鳴が届けられる中、唯一朗報が届いたのは被弾から十分程経った頃。
「閣下! 発射元を特定しました!」
「何だと!? メインパネルに映せ」
その報告に皆の顔が僅かに明るくなる。
彼らはここまで自分達を攻撃した正体すら分かっていなかったのだ。
だが。
「……何だ、これは」
「船、でしょうか?」
パネルに映されたその姿を目にして絶句する。
特段不思議な形という訳ではない。全長350メートル程度の水上戦艦を思わせるシルエット、それが地表から約400キロメートルの位置に静止し、しかも徐々に高度を落としているのである。
「こんなデカブツが浮いていて何故今まで気付かなかった!」
「たった今突如レーダーに反応したのです! まるで敢えて映っている様な……」
「あのナリにステルス性を? と、兎に角あれがスーパーセイビアが言っていた"宇宙を自由自在に航行する船"である事は間違いない、今すぐ攻撃をするのだ!」
そう、相手がマジカルミルキーであれば黙って見ている訳にはいかないのである。世界に怪物を出現させて混沌に陥れた張本人であるのだから。
「しかしどうすれば」
「ICBMならば届くのではないか?」
「そッ、それは不可能です! 奴はニューヨークの上空に静止しています、万が一にも都市に落ちる様な事があれば……!」
「くッ、だがこのまま黙って見ている訳にも……」
そもそも相手は世界全土を射程に収め、あまつさえ誤差無き照準性を持つ化け物である。そんな相手にミサイルを撃った所で発射される前に破壊されるのがオチだろう。
万事休すか、そう思われた瞬間であった。
「……!? 本部長!」
「どうした」
「ホーミーより通信が!」
ホーミー──ネバダ州にある米軍最重要機密施設。世間的には"エリア51"と呼ばれているそこから通信が入る。
そして、送られてきた映像がパネルに映し出され──
「な、何だ、これは……」
──────
「マジカルミルキー……私の前に姿を現したその堂々たる精神にのみは敬意を表しよう」
箒の上に立ち見下ろす魔女をセイビアは睨み付ける。
その場に居る報道陣は最早何が起こっているのか理解出来ていなかった。一つだけ分かるのは、自分達が今歴史的瞬間に立ち会っているという事だけ。彼らは世紀の映像を一秒たりとて撮り逃すまいとカメラを回し続ける。
「詐欺師の敬意など何の足しにもなりませんね」
「詐欺師? それはマジカルミルキー、君の事だろう。人々を守るヒーローを装い、その裏では怪物を出現させ世界を混乱に陥れていた訳だ。人類史を見てもこれ程の規模の詐欺師は存在し得ないだろう」
カメラを意識して大仰なジェスチャーを取りまるで演説でもしているかの様に話すセイビアと、微動だにせず淡々と話すミルキー。
まるで対照的な二人の戦いは、まず舌戦から始まった。
「私が怪物を出現させた、と。もしそうならば今一瞬だけ出現させて倒したのには一体どんな意図があると仰るつもりですか?」
「詐欺師の言葉になど耳を貸すつもりはないが、大方これまでと同じ自作自演によるイメージアップだろう? 自分が疑われて焦ったか?」
「その言葉の中で事実は一つだけ──私がやったのはこれまでと同じ。怪物が現れたから倒した、それだけです」
「つまらない御託を並べるのはやめてもらおうか。これから始まるのは君の処刑だ。一つくらい懺悔の言葉でも期待していたのだがね」
彼ははあ、とため息をつく。
彼からしてみればこの会話はなるべく早く打ち切りたかった。背後には全世界が自分達の一挙手一投足を見つめている、会話の中で矛盾点など見つけられてしまえば折角整えた舞台が無駄になってしまう。
だが、彼女はどうやらまだ会話を終えるつもりはないらしい。
「懺悔を述べるのは貴方の方でしょう。この一連の事件の犯人はスーパーセイビア、貴方なのですから」
「……はっ、何を言い出すかと思えばそんな事か。地球市民の諸君、見たまえ! 今彼女はこの期に及んで私に罪を擦り付けようとしているのだ!」
「何を言っても結構ですよ。私はこの瞬間の為だけにこれまで活動を続けてきたのですから」
ミルキーは自らの狐面に手をやり、外す。
少し首を振り、長い銀色の髪がはためき陽を乱反射してきらきらと輝く。白い肌の中に光る深紅の双眸が彼の顔を映し出す。
「顔を晒して何のつもりだね?」
「私の正体を明かしておこうと思いまして」
そう言うと彼女は自らの髪の中に手を入れ、何かを取り出す様な仕草をする。
すると何やら細い触覚の様な物が飛び出てくる。両脇と後頭部から一本ずつ、先端には銀色の星型の小さな飾りの様な物が付いた細い糸。それは重力に逆らう様にふわふわと揺らめく。
最後に肩には半透明の白銀色のマントの様な物がはためくようになり、彼らへ向けて彼女は言い放つ。
「私はミルキーリア宇宙連合より派遣された調査員。この星で特定駆除生物である惑星寄生生命体が暴れているという情報を得て訪れました」
「……は?」
そして突然の宇宙人発言。
一体何を言われるのかと身構えていた彼らは一瞬脳内が真っ白になる。
「これまで正体を隠して調査を進めてきましたが、遂に尻尾を掴みました。貴方達に理解して頂く必要はありません。私はただ任務を遂行するのみです」
「君は……一体、何を言っている?」
ミルキーリア宇宙連合とは架空の国家ではなく、レヴィドリアン帝国と宇宙の双璧を成す巨大星間国家の名称である。勿論関係などなく、勝手に使っただけだ。レヴィドリアン帝国を使わなかったのはこういった場で"帝国"という馴染み深い単語を使えば意味不明さが薄れてしまうから。今この場では勢いとそれらしさが大事なのだ。まあ後は、角があるよりも触覚の方が宇宙人っぽいのと、ミルキーリアの方が地球より遠い。
だが、そんな事は彼らは知る由もない。加えてセイビアは彼女の正体をある程度掴んでいる。だからこそ、彼は彼女の気が狂ったとしか思えなかった。
「この場には居ない様ですが……スーパーセイビア、貴方は知っている筈です。惑星寄生生命体──」
「だから何の話を」
「──神の事を」
「ッ!?」
しかし、続けて言われたその単語に彼の表情は途端に強張る。
コスモゾーン、という言葉には全く聞き馴染みが無かったが、"神"には余りにも心当たりが多すぎた。それも所謂宗教的な物ではない──実際に彼と会い、彼に力を与えた実在する存在。
彼は表情を無理矢理収め、平静を保とうと話を変える。
「……宇宙連合? 調査官? 出来の悪いSF小説の設定を語るのはやめたまえ」
「証拠ならありますよ。先程貴方が言ったではありませんか……」
「何を……ッ!?」
そこで彼は自らの失言を悔やみ、同時に報道陣も彼の発言を反芻し、決定的な一言を思い出す。
「『マジカルミルキーの本拠地は既に分かっている。それは月、そして宇宙を自由自在に航行する船だ』──宇宙を自由自在に航行する技術力を持つ者が、何故地球人であると思うのです?」
「た、確かに……」
「まさか、マジカルミルキーは本当に?」
ざわめきはやがて確信へと変わっていき、記者達は次々と端末を取り出しては本社との通信を始める。
その様子を見てセイビアは焦燥に満ちた顔をする。彼は知っているのだ、彼女の持つその力が単なる一人の少年が異世界から持ち帰った"スキル"による物であると。
だが同時に最早その話題を出すには手遅れである事も理解してしまう。マジカルミルキーの使う未来的な道具と他ならぬ彼自身の発言によって信憑性を得てしまった"宇宙人"と異世界やスキルなどという"魔法"的な話。世間がどちらを信じるかは火を見るよりも明らかだ。
「ッ、しっ、しかし」
「さて、話を戻しましょうか。"神"についてです」
少女は彼を逃がさない。
彼女は空中にスクリーンを出現させ、そこに映像を流し出す。それは先程のセイバーズのヒーロー達とミズリや夜空が戦っている物。
そして、今この状況でこの映像が流される事のマズさをセイビアはよく理解していた。しかしこの場で飛び掛かってもそれはそれで不信感を高めるだけだ。彼は理論の鎖に雁字搦めになってしまう。
「これは私と協力者の少年がセイバーズのヒーロー達と戦った時の映像です。ご覧の通り、彼らはまるで何かに操られているかの様な状態になっています」
「っ……」
「この映像では操っているのはそこに居るスーパーセイビアの様に思えます。実際そうなのでしょうが、私はこの状態をこれまで何度も目撃してきました──惑星寄生生命体による生命体の洗脳です」
記者達は騒然となる。
もし何もない状態でこの映像を見せられたとしても作り物にしか思わなかっただろう。だが今、彼らはミルキーが宇宙人であると完全に信じてしまっていた。だからこそ、この映像も本物であると考えてしまう。
そしてそうならば、スーパーセイビアの正当性に疑問符が付く事になる。彼は「マジカルミルキーがセイバーズのヒーロー達を倒した」事で彼女が怪物事件の首謀者であると言ったのだ。だがもしそれがセイビアによる恣意的な物であるならば?
もしそうなら、首謀者はミルキーではなく──
「しかし、私は惑星寄生生命体はセイビアではないと考えています」
「……」
「貴方は単なる人間に過ぎない。真の惑星寄生生命体──神は……ロイヤルナイト」
そう言った瞬間、彼はミルキーに飛びつく。だが彼女は華麗に避け、蹴りで彼を地面に叩き付け、続ける。
「ロイヤルナイト──本名:エドワード・アーサー・プレンダーガスト。彼の経歴には不審な点など何一つありませんでした。完璧な英国騎士だ」
「だ、まれ……!」
「そう、完璧だった。貴方が態々彼を除く全員に私を襲撃させるまでは」
「黙れ!!」
彼は地面を蹴り、彼女へと殴り掛かる。だがその拳は半透明の膜によってアッサリと防がれる。
「セイバーズの中の誰かが神である──そこでその疑問は確信へと変わったのですよ。そして私は光学的相対的過去観測法を使用しました。これは光の進む速度を利用して観測したい箇所から離れて観測する事で過去を見るという方法です」
「黙れ!! 黙れェ!!」
「つまり一年前を観たければ一光年、六年前を観たければ六光年先から観測すればその通りの過去を見る事が出来る」
「だまゲフッ」
「そして遂に私は発見しました。それは今から約半年前、グリニッジ標準時西暦2023年1月12日3時25分19秒。本物のエドワードが殺され、偽物の何かが彼に入れ替わる瞬間を」
スクリーンが切り替わる。
それは深夜、バロック風の暗い部屋の中で一人の老人が眠っている物。その枕元に突如人ではない、おぞましい形をした生物の様なナニカが老人を捕食し、彼の姿に変わる。
部屋の中には監視カメラなど無く、その老人はこれまで通り他人と接する。バレる事など無いと断言出来るというのに、少女は存在しない筈の映像を持っている。
どうやって撮ったのか、という経緯など最早誰も気に留めていなかった。ただ、この悼ましい映像に皆は釘付けだった。
「そしてこの何かは貴方と接触、"スーパーセイビア"としての力と、怪物を出現させる能力を与えた。動機は知りませんが──」
そして彼女はゆっくりと降り、地面に倒れて彼女を睨み付ける彼へとレーザーサーベルの切っ先を突き付ける。
「──それがこの事件の真実です」
◇遂に明かされる衝撃()の事実……!
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