最大のピンチ!?セイビアの陰謀!
「ああ、大変な事になってしまったよ」
ニューヨーク、グランストン・スカイスクレイパー。
高さ480メートルもの巨大建築物の最上階の部屋。誰も居ないそこでスーパーセイビアことジェイムズは一人で何やら話していた。
否、独り言ではない。彼は誰にも傍受される事のない唯一無二の通信方法でイギリスに居る彼の唯一の友人──ロイヤルナイトことエドワードと会話しているのだ。
『そうですな……まさかマジカルミルキーがセイバーズのヒーロー達を倒し、あまつさえ拉致するとは。これで最早ヒーローが存在する国はアメリカとイギリスのみという事になりますな』
「その通り、もし仮に今全世界で同時に怪物が出現する様な事でもあれば恐ろしい被害が出る事になるだろうなあ」
『ええ、ええ、そしてそれの直接的な要因であるマジカルミルキーは世界の敵となるでしょうな』
「ああ、考えただけで恐ろしく、何と痛ましい……」
何ともわざとらしい声色でそこまで言い切った後、堪え切れなくなった彼はクツクツと笑いだす。
「実に素晴らしい事ではないか」
『ええ。これで"ヒーロー"は貴方だけだと思い出す事でしょう』
「ああ……忌まわしい女の話題もこれで聞く事もなくなる」
そう呟く彼の顔は実に清々しい物であった。
それもその筈、彼の計画──怪物を出現させ、それを自分や自分の部下に倒させるという実に単純な物を散々邪魔され、滅茶苦茶にしてきたマジカルミルキーを遂に世界の敵にする事が出来るのだ。
彼は壁に掛けられた時計を見る。短針は12の目前を指していた。
今日、彼はマスコミに重要な報告があると告げていた。それは即ち、マジカルミルキーとその一派がヒーロー達を倒してしまったという物。
「さて、間も無く会見の時間だ」
『行ってらっしゃいませ』
「計画は予定通り。君も準備していてくれ、エドワード」
『ええ。そちらこそ』
「ああ、行ってくるよ。この会見が終わった時が君の最後だ──マジカルミルキー」
「──なんて思ってるんだろうな」
星が瞬きを止める闇の空間、眼下に日本列島が位置するその場所にミズーリは停泊していた。だがその恰好は少し不格好だ。何しろ、彼女は艦上部を地球に向けているのだから。
その艦橋、窓からでも青い星を見る事の出来るそこの艦長席に夜空は一人座り、緊急で行われるらしい記者会見をモニターに映していた。誰も居ない座席をじっと映し続ける記者達は、自分達をここに呼び付けた張本人──ジェイムズを今か今かと待ち構えている。
彼らは今からジェイムズが何を言うのか知らないが、夜空は知っている。その上で彼はこの先起こるであろう事件に備えてただ一人、久しく着ていなかった艦長服を身に着けてここに居た。
「地球はお前の遊び場じゃあない。お前が俺の大事な物を傷付けようとするのなら、その全てを防いでやる」
『あッ、ジェイムズ氏がやってきました!』
やがてモニターにスーツ姿のジェイムズが現れる。
普段は世界一のヒーローとして自信に満ち溢れた佇いをしている彼だが、今日は何故か憔悴している様に見えた。大した演技力だ、夜空は嘲る。
『……今日君達を呼んだのは他でもない。大変な事が起こってしまったのだ』
『た、大変な事、ですか』
他ならぬスーパーセイビアのその言葉に、記者達の空気が張り詰める。
『実は先程、我がセイバーズのヒーロー達……ライヒシャット、カフラン・アルザハビ、玉虎侠客、サンバヒーロー、そしてサンシャインサムライまでもが倒されてしまった』
その言葉に最初は静寂が、少し経ってざわめきが大きくなっていく。
セイバーズに所属するヒーローは七人。今、彼はそのうちの五人が倒されたと言ったのだ。
『た、倒された、とは?』
『一体誰に!?』
『ヒーロー達は無事なのですか!? 怪物とは戦える状態なのですか!?』
生放送を見る全ての人々の言葉を代弁する様に記者達は矢継ぎ早に質問を浴びせていく。
当然の事だ。怪物を倒せるのはヒーローだけ、その事実はこの数カ月間で血で塗り固められている。となるとそのヒーローの大半が倒された今、怪物から彼らを守ってくれる者は殆ど居ないという事になってしまうのだ。
だが、絶望と焦燥の顔しか浮かべない記者達に対してジェイムズは何処か落ち着いている様に感じた。
『まず、ヒーロー達だが……分からない、というのが現状だ。彼らはその者に倒された後に何処かへ拉致されてしまい連絡が一切取れない様になっている』
『そ、そんな……』
『そしてそれを行った者だが──大変残念な事だが、マジカルミルキーだ』
ザワッ、と記者達に動揺が走る。
それは今考えうる限りで最悪のシチュエーションであったからだ。現状世界に残ったヒーローは三人、その中の一人が悪であったのだ。
『彼女が一体何の為に行ったのか、彼らを何処へ連れて行ったのかなどは一切が不明だが、一つだけ明白な点がある』
彼は真っすぐとカメラを見据える。
『マジカルミルキー、君が世界の敵であるという事だ。そして私はここに宣言する! 世界の敵である君をこの手で倒し、平和を取り戻す事を!』
カシャカシャカシャ、とシャッター音が鳴り響き煩わしい程にフラッシュが焚かれる。
ああ、どうせ奴は今「言ってやった」とでも思っているのだろう。マジカルミルキーの名誉を傷付けてやったと思っているのだろう。実際これだけ生放送で全世界に向けて発せられた風評は後から何をしても完全には消せないだろう。
だが、それで構わない。
「残念だったな」
マジカルミルキーの存在意義、それは怪物を倒し人々を守る事。彼女の名誉を回復させる必要も意味もないのだ。だからミルキーは顔を隠しているし、セイバーズにも所属しなかった。
『こ、これからどうなさるのですか!?』
『マジカルミルキーの本拠地は既に分かっている。それは月、そして宇宙を自由自在に航行する船だ』
『なっ!?』
『だが安心して欲しい。既に対抗策は講じてある。間もなく世界各国の基地から月へ向かう精強なる軍隊が発射されるだろう。そして──』
そう言った所で画面が揺れ、同時に艦内にサイレンが鳴り響く。
それはこれまで何度も何度も聞いた物──怪物が現れた証左である。だが、世界地図には、その位置を示す光点が一つではなく無数に表示されている。その中の一つに、今記者会見が行われているニューヨークも存在した。
画面を見ると、正にすぐそこに巨人が出現していた。
『くっ……だが諸君、安心して欲しい! 世界にはこの──』
「ホーミングレーザー発射用意」
彼の仰々しい演技を聞きながら俺は静かに攻撃準備を始める。
俺のその言葉で艦橋後部に設置された煙突状の装備、その先端にある十二基の発射管のハッチが開かれる。
《ターゲティング完了》
『──スーパーセイビアが』
「発射」
刹那、発射管から青白いレーザーが一斉に発射される。一度ではない、二度、三度、四度と次々と発射されてはその軌道をぐにゃりと曲げ地球のあちらこちらへ向けて落ちていく。
それらはロックオンされた標的へと正確に向かう。
『居ることォッ!??』
画面では今まさに変身し巨人へと向かおうとしていたスーパーセイビアが驚愕の声を上げて仰け反る様子が映し出されていた。
そしてそんな彼の視線の先では、巨人が何処からか現れたレーザーに脳天から貫かれて死ぬ様子がはっきりと撮られており、同時に怪物を示す光点は世界地図から一つ残さず消えていた。
そして。
「……マジカル、ミルキー!!」
怪物が消失したその空で、箒に立つ魔砲少女の仮面が彼の顔を見据えていた。
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