明日の為に…!みんなで作戦会議!
さて、医務室から外に出てまず行うのは腹ごしらえらしく、徒歩で食堂まで向かう。とはいってもどうやらこの戦艦……『ミズーリ』の艦内通路はその殆どが自動通路になっており、歩かずとも立っているだけで目的地まで連れて行ってくれる。
内装は完全にSF映画に出てくるそれであり、よく分からない機械やら光源やらが設置されている。感覚としては二度目の今でさえ現実かどうか疑っている程だ。
やがて食堂に到着すると、私は謎の機械の前に案内された。
「これは自動調理器でな、大体の物なら作ってくれるんだ」
「大体の物? なら──」
私がそれを言うと、彼が幾つか操作をする。その僅か数分後、香ばしい匂いを漂わせながら機械から出てくる。
「ハンバーガーにポテトにコーラ! 僕食べるの久しぶりなんだよね」
「ああ……確かにそうだろうな」
そう言いながらポテトを摘む。
決して上品などではない油と塩の味が口いっぱいに広がる。月影に引き取られてからはこんなジャンクフードなど食べる機会が与えられなかったのだ。
それはそれとして、ミズリも合流しこれからの事について話し合う流れとなる。
「自分でも今もまだ信じられないんだ……まさかスーパーセイビアがこんな事をするだなんて」
「外面は完全に取り繕えるタイプだったって訳だな。俺だってこれが起きるまでは完全には敵だと思ってなかったし」
これまで私が彼と相対した際の印象としては「世界の命運を憂う正義の戦士」だった。彼に力を貰った時にも、特に陰謀などは感じさせず純粋に日本を守って欲しいという感情しか伝わってこなかった。
更にミズリが言う。
「少なくとも今回の一件でこの怪物事件の犯人が彼であるという事はほぼ確定になりました」
「そうなの?」
「はい。私が先程セイバーズの面々と相対した際彼らは「逃げれば町を破壊する」と言っていました。彼らが操られていたとなればあれを言ったのはスーパーセイビア本人だという事になります」
彼女はホログラムスクリーンにその時の動画を映し出す。それは以前会った時とは全く別の存在の様で、確かに本人の意思で動いている様には見えなかった。
そして最後の「俺の計画を散々邪魔しやがって」という発言。もしも仮に怪物事件の犯人がスーパーセイビアではなく、計画というのが単純に"セイバーズを組織して世界を救う"という物なのであればそれ以前に「町を吹き飛ばす」などと脅す訳がない。
つまり、この"計画"とは即ち──
「怪物……で、でも何の為に」
「まあ単純に考えれば地位と名誉か? あと金?」
「スーパーセイビアことジェイムズ・リドリー・グランストンは怪物事件以前は至って平凡な会社員だった様です。それが勃発後はヒーローとして多額の寄付を受ける様になり、セイバーズを組織してからは安全保障条約を結んだ各国から年間計数百億ドルを受け取る契約になっており、また国連では彼を名誉国際安全保障理事官に任命するという動きもあるそうです」
「た、確かに地位も名誉も金も得られるけれど……そんな事の為に?」
これまで怪物によって多くの人々が死んだ。
最終的にはヒーローによって倒されているとはいっても、それまでに都市は壊され、人々は踏み潰されている。百や二百ではない、数千もの人々が命を失い、その十倍もの数が傷付き、更にその数倍の人々が家と財産を失っている。
一体何人もの子供が家族を失ったのだろうか。一体何人もの……"五月玲"が生み出されてしまったのか。身体の底から沸々と怒りが湧いて来る。
と、そこでとある事に気付き顔を青褪めさせる。
「そ、そういえば僕らを倒したのって結構拙いんじゃ」
「そうだな」
「そうですね」
「何でそんなに落ち着いてるの……」
現状世間的に見ればマジカルミルキーとその仲間がセイバーズのヒーローを五人も倒した形になる。無論あちらが襲ってきたので仕方ないのだが恣意的に表現されるであろう事は想像に難くない。
だが、私に対して二人は極めて落ち着いている様だった。
「あっ、そうか! さっきの動画を流せば……」
私の言葉に、しかし彼は首を横に振る。
「それも考えたんだけど今の状況だとあまり良い手じゃないんだよな」
「え、何で?」
「スーパーセイビア本人が出てきてたならよかったんだけど、現状セイバーズのヒーローが勝手にスーパーセイビアを自称して、それを俺達が倒してるだけだからな。マジカルミルキーが彼らを洗脳して都合のいい様に話させた、と言われたら世論の矛先がこちらに向きかねない」
「うっ、確かに……ならどうすれば」
このままでは彼らが悪者にされてしまう。
だが、不安げな顔を浮かべる私に彼は笑いかける。
「大丈夫だ、対策は考えてある」
そう言うと、彼はスクリーンに何かを映し出す。
それはこれから相手がやってくるであろう行動、自分達が取るべき行動、そして──
「──え、嘘」
「ああ、そして今回来なかった事で確定した」
「え、でも、そんな……」
明かされた衝撃の事実に私は眩暈を起こし、そしてそれをそんな方法で調べる事が出来る技術力に呆れる程驚愕する。
ただ、これで私の前に立ち込めていた暗雲が取り払われた様な気もした。
彼らなら、出来るのではないかと……
「え、ロボットだったの?」
「正確にはアンドロイドです。私の正式名称はアイオワ級宇宙戦艦三番艦ミズーリサポートAI搭載型自律式アンドロイド、ミズリです」
「へえー……完全に人間だと思ってた」
会議が終わり、私は色々ありミズリと二人きりになった。
そこで彼との本当の関係を尋ねた所、またも衝撃の事実が明かされる事になる。なんと彼女はそもそも人間ではなかったのだ。
「ですので貴女が危惧されている様な事は発生致しませんのでご安心下さい」
「え、いや別にそういう訳じゃ」
「行動や表情、拍動を分析すれば分かります」
「うう……」
彼女の言う通り、私は夜空君と彼女が男女の関係なのではないか、もしくは将来的にそうなるのではないかと少し気がかりだった。だが彼女はそんな私の心中などお見通しと言わんばかりに無表情でそう言った。
彼のスキルによって生み出された、細胞ではなくナノマシンによって構成されるアンドロイド……今の彼女の姿も結局はそう組んでいるだけで、その気になれば筋骨隆々の大男や白い髭を生やした死にかけの老人にもなれる。
極め付けはアンドロイドという事で、存在しないらしい感情──これだけ見れば確かに男女の関係など発生し得ない様に思えるが、しかし……
「恋、ですか。私には永遠に分かりかねる物ですね」
「は?」
彼女のその言葉に私の背景に宇宙が現れる。
「何か?」
「いやだって君、どう考えても彼に恋してるよ。学校でしか見た事ない僕でもそう思い込んでたくらいなのに」
「そんな訳はありません。私はサポートアンドロイド、感情など抱く筈がありません」
強く否定するミズリ。
「君達異世界に居たんでしょ、ならずっと一緒に居た斉藤君とかに聞いてみればいいんじゃないかな。多分僕と同じ反応すると思うよ」
「……そうだったとして、私に何をさせたいんですか」
「え?」
彼女が俯き、紅い目が前髪で隠れる。よく見るとその両手は握られていた。
相も変わらず声に抑揚は無いが、それはそれとして声色には僅かな怒りが含まれている様に感じられる。これで感情が無いなどと言っているのだから驚きだ。
「貴女はマスターに恋しているのでしょう。なら私の"感情"を確定させる必要は無い筈です」
「それは……」
「だったら余計な事を言わないで下さい……マスターは人間です。人間である貴女と共になるのがベストな選択なのですから」
「でも「私の!」
がっ、と胸倉を掴まれる。前髪がはためいて露わになったその顔は、いつもの無表情などではなく。
そこで初めて、私は彼女の声に抑揚があるのを聞いた。
「……私の誤作動を、"感情"であると確定させないで」
「……」
「……突然胸倉を掴んでしまい申し訳ございません。この先の作戦、共に頑張りましょう。では」
そう言うと彼女は廊下の奥へと歩き出す。
私は言葉に出来ないモヤモヤを抱え、その場を後にするのだった。
玲の一人称はモノローグでは『私』、台詞では『僕』になっています。これは心の中では解放されたけれども現実では既に口が『僕』と言う事を覚えてしまっている為です。
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