俺もヒーローボーイ!マジカルコスモ登場!
「……ふう、全く世話の焼ける奴だ」
「どうされたのですか? 魔王様」
地球より約5億2400万光年彼方に位置する惑星イルミス。
そこは結界によって二分されており、その片方──魔界最大の大陸、デルデオーラ大陸西部にある城の中で一人の女が困った様に微笑み、それに丁度訪れた角を生やした大男が疑問符を浮かべる。
「いや何、我らが救世主サマがまた殺されかけていたのでな。少々助けてやったまでの事だ」
「どうやって……ああ、成程」
その女──魔王メイテル・リリィ・デルデオーラのその答えに、大男──四天王が一人、レックスは勘づく。
「あの時渡していた懐中時計ですか」
「そうだ。だが残念な事にこれでパアだな。もう少し愉快な世界の話を見ていたかったが……まあ仕方あるまい」
「地球、ですか」
「ああ。因みにヨゾラが殺されかけている相手は女だ」
「……以前も女に殺されかけていませんでしたか?」
「女難の相でも出ているのだろうな、奴の手を見れば」
ハハハ、と二人して笑う。かつて夜空によって破壊された魔王城は既に修復されており、以前は必要もないので窓は殆ど無かったが今では大きなステンドグラスがあしらわれている。
さて、夜空がイルミスから帰る際にメイテルが渡した懐中時計。それにはやはりというべきか、彼女によって細工がされていた。それにより、地球に帰った後もそれさえ身に着けていれば夜空達の行動が分かった訳だ。
だが状況は変わる。何と魔法と無縁そうな地球に突如怪物やヒーローとやらが現れたのである。
そこでメイテルは軽く協力する事にした。最初は思い付きで、ミルキーがグレートセイバーズから帰る際にスーパーセイビアから魔法がかけられていた事を彼女に教えたのだ。ミルキーがその事を知り、一芝居打てたのはメイテルのお陰であった訳である。
そして今回、夜空が刺され死にかけていると来た。
普段はミズリが身に着けていた懐中時計だが、今は彼が身に着けていた。理由はミズリが彼へと渡したからである。対魔任への対処で暫く彼と離れてしまう──もし何かあった時の為に、|ミズリが最も信用していない人物が何とかするだろうと信用したからだった。
その考えは見事に当たり、死にかけた夜空は懐中時計越しに治癒魔法によって治療され、更に助太刀まで行った。
「あの小娘の思う通りにされている様で少し癪に障るがな……まあこれで借りは返した、と思っておこう」
彼女は窓から空を見上げる。そこにはつい数ヶ月前までは殆ど見る事の叶わなかった星空が輝いている。
その何処かにあるであろう地球を想って、彼女は呟く。
「上手くやれよ……ヨゾラ」
──────
───
─
「この剣……そういう事か、メイテル」
突然床に突き立った剣、それは以前イルミスで見たメイテルの物と同じであった。
俺がこの剣が振るわれているのを見たのは二度。イルミスでの最終決戦にてエリスフィーズを斬った時と、神の手を斬り裂いた時。
そしてその二つに共通するのは──『神』だ。
「……な、何だ……その剣は」
「お? 完全に乗っ取ったのか。初めましてだなァ──スーパーセイビア」
剣を見て顔を青褪めさせる玲の口調は、これまでのそれとは違っていた。どうやら完全に乗っ取る事にしたらしい。
『神』という存在は通常の攻撃が殆ど通用しない。例えば天使エディエルはバズーカが効かず、それを消し去る威力の主砲ですら神には通用しなかった。
だが、そんな神に対してメイテルは傷を負わせた。これは単純に彼女の筋力が高かった、という訳ではない。
何が言いたいかといえば、神に対して有利な属性の魔力が存在する。
「"反逆者"……だったか? 多分神に対してはこっちが正攻法なんだろうな」
少なくとも星一つ木っ端微塵に出来る火力でゴリ押しする方法は想定していないに違いない。そう思いながら俺は刀身に触れる。
本来であれば皮膚が裂けるであろうその行動は、しかし指が刀身をすり抜けるという形で終わる。やはりそうだ、この剣、もとい魔力は神の力相手にしか通用しない。
以前メイテルがエリスフィーズを斬った時、彼女自身には傷一つ無く普通に生きていたのだ。
まあつまり、何が言いたいかといえば……この事件には、何らかの神が関わっている。
だからこそ、今の状態の玲もこれを使えば解放する事が出来るという訳だ。俺は藍色のゲリエドラグーンを取り出すと変形させて口の前辺りに掲げ、目の前の玲……もといスーパーセイビアに向けて言い放つ。
「待ってろよスーパーセイビア、すぐにそのアホ面叩き切ってやるからな──」
「ふ、フン、非力な君に出来るならやってみるがいいさ!!」
そう言うと彼は俺へと飛び掛かってくる。剣を持っていない今のうちに片をつけてしまおうという事なのだろう。
実際、今の俺では"サンシャインサムライ"には敵わない。俺の強みは宇宙戦艦とそれを完璧に操れる事にあり、生身では一般人と変わらないのだから。もし強ければわざわざミズリにマジカルミルキーになってもらう必要など無かったのだ。
だが──
「──変身」
──これからは、違う。
「ぬうッ!?」
俺が呟いた瞬間、何処からともなく現れた黒いマントが球体に俺を包み込む。セイビアが振りかぶった剣がそれに触れると、布とは思えない甲高い音を発して弾かれる。
やがて黒い球体が解除され、そこから出て来た俺の姿は先程までとは全く別の物になっていた。
全身を覆う黒光りした金属セラミック製のアーマー。何処か中世のプレートアーマーの面影があり、しかし未来的にも見えるそれの腰にはやはりホルスターが備え付けられ、先程の黒いゲリエドラグーンが収納されている。
頭部はこれまた丸みを帯びたヘルメットで余す事なく覆われている。外の様子が見えないのではないかと思うだろうが、その点はヘルメットの内部に映し出されるので問題はない。そして背中には先程のマントが翻り、怪獣を断つ刀を防いだとは思えない。
これは俺の強化の為に作っていたパワードスーツである。
身体の操作補助、筋力補強、取り付けられたセンサー類は対峙するモノを正確に追跡し、高性能コンピュータにより相手の動きから未来予測まで可能とする。重力制御装置により自由自在に空を飛び、足裏に取り付けられたスラスターによって瞬間的な加速能力も高い。
材質はアーマー本体はオリハルコンセラミック、関節部などはダンジョンで得られたドロップアイテム──キマイラの体毛を、そしてマントには月下魔銀繊維を使用した。
マントの存在意義だが、普通の素材よりも硬いとはいえ関節部はやはり弱点になる為、万が一にはこのマントで守るのだ。マントに使われたイシルディンは魔力を通すとオリハルコンよりも高い強度を発揮する性質があり、これを利用して魔石を仕込む事でその魔力分ならば瞬時に強化させる事が可能なのである。
しかし、本来ならばもう少し装飾を施したかったし塗装もしたかった。今の黒は単なる下地なのだ。まるでこれでは某スペースオペラに出てくる主人公の父親みたいではないか。悪役じゃん……まあいいか。
そして記念すべき俺のヒーロー名だが、実はまだ決めていない。だってここまで早く実戦に入るとは思っていなかったのだ。
取り敢えず締まらないので適当に名付けよう。そうだな、ミズリがマジカルミルキーだから……
「マジカル……コスモ!」
「……銀河の次は宇宙か、傲慢だな」
「救世主よりかはマシだろ、糞虐殺野郎」
そんなやり取りをして、俺達の間に一瞬の静寂が流れ──
ギイン!!
──刹那、剣と刀が打ち合わされた。
次回、死闘
思ったよりも説明に長くなってしまった……
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