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裂ける体と、ふるえる玲

「くそっ、全然追い付けねえ」

『何なんだあの速度!! あのナリで何ノット出てンだよ!?』


 月明り照らす夜の闇。星々が弱々しく瞬くその下で三つの影が飛んでいる。

 一つは未来的なシルエット──夜空と玲が乗るコスモパンサー、そしてそれを追う二機の対魔術的存在特任課所属のF-35。人ならざるモノを相手にする事を目的として設計されたこの機体は自衛隊所属のそれよりも全ての性能で上回るのだが、今彼らが追う機体には追い付く所が見る見るうちに突き放されていく。

 本来ならば謎の機体に追い付き、適当な飛行場に下ろす算段であったがこの様子ではそれは不可能だろう。ならば、と空対空ミサイルの照準を合わせようとして──


「ロックオン出来ない!?」


 そう、機体は目視出来る範囲に居るというのに、機器はまるでそこに何もいないかの様にロックオンしない。


「まさか、あのナリで完全なステルス性能でもあるってのか!?」

『クソッタレ、こうなればバルカンで』

「おいやめろ!! 下は町だぞ、流れ弾が家に当たっただけでも何人も首が飛ぶ!!」

『じゃあどうしろってンだよ! アレをあのまま見逃すってのか!?』

「俺達に出来るのはこのまま追う事だけだ!! アレの燃料切れでも狙うしかないだろう!!」


 だが、そんな彼らの思いも虚しくコスモパンサーとの距離は加速度的に離れていく。

 驚くべきはその機体は上昇していった事だ。特別仕様のF-35であっても到達する事が出来ない程の高度にまで上昇し、しかしそれよりも更に上がっていく。まるで宇宙にでも出るかの如く──



──────



「う……ん」

「お、玲。起きたか」

「ここは……え、ここどこ? ナニコレ??」


 夜空を飛ぶ機体の中、背後からそんな声が聞こえてくる。どうやら後部座席に乗せた玲が目覚めた様だ。

 彼女は目を開くやいなや、今自分が置かれている状況の奇妙さに呆けた声を出す。まあ当然だろう、先程まで和風の家に居たのがいつの間にか未来風の戦闘機のコックピットに乗せられていたのだから。


「え、え、え!?」

「まあ詳しい事が省くけど、これが俺の能力なんだよ」

「の、能力?」


 ああ、そうか。そういえばまだ彼女は俺が力を持っている事を知らないんだ。

 多分ミズリの金魚のフンとでも思っているのではないだろうか。


「この前の集団拉致事件、あれ異世界に召喚されてたんだよな。で、皆それぞれのスキル……力を手に入れたんだけど、それで俺に発現したのが……ああ、見えてきた」


 暫く飛んだ先に見えてきたそれ(・・)を目にして、彼女は絶句する。まあそうなるよな。


「何、あれ……」

「あれが俺のスキル『宇宙戦艦ミズーリ』だ。取り敢えず乗るぞ」


 口をぽかんと開けて静かになってしまった彼女を他所に、ミズーリの艦尾下部に設置されたハッチが開きそこに機体を入れる。

 そこは戦闘機の格納庫。シリンダー式の格納装置には数十機ものコスモパンサーが並び、その中の一つ、唯一機体が置かれていない箇所が回ってハッチの位置まで来てそこに俺達の乗る機体が降り立つ。

 その後ハッチが閉じ、与圧が確認された所でキャノピーを上げる。俺は立ち上がって振り返り、未だ絶句したままの玲に向け手を差し出す。


「ほら、玲、立てるか?」

「ふぁ、ふぁい……」


 ふらふらとこちらに向けて差し出された手を握り、ぐい、と引き上げる。格納庫内には戦闘機の格納方法の関係上人工重力が働いていない。

 彼女はふわり、と機体から飛び出る。きょろきょろと周辺を見渡し、ポツリと漏らす。


「……なんか、違う気が、する」

「気持ちは分かる」


 達也も同じ事言ってたし。


「まあ俺も初めてこのスキルが発現した時は驚いたよ。なんてったって剣と魔法の世界、他の奴等は勇者だったり聖女だったりしてた中で"宇宙戦艦"だぜ?」


 俺が先導して格納庫から出る。急に無重力から有重力空間に変わる訳だが、普段から空を飛んでいた彼女にとってはさしたる障害でもない様で俺の手助けも必要無かった。

 そうして廊下を進む。取り敢えずは食堂か、もしくは艦橋かな?


「はは……それで、どうなったの?」

「詳細は省くけど、その異世界ってのが実は地球から遥かに離れた場所にあった星って事が分かってな。この艦に乗って宇宙を進んで帰って来たんだ」

「へえ……」


 先導しつつべらべらと喋る。

 もし、この時俺が少しでも後ろを見ていればそれ(・・)に気付けたのだろう。


「ああ、後帰る途中にすご──」


 ドスン。


 何かに胸元を突かれる様な衝撃。視線を下に向けると、俺の鳩尾やや左から血を纏った黄金の刃が生えていた。


「……かはっ」

「……え?」


 瞬間、喉奥から血がせり上がり口から吐き出る。

 焼ける様に熱い痛みが襲い掛かる。刃はそのまま左へ薙ぎ払われ、俺の身体はまるでバターを切るかの如くあっさりと切り裂かれる。

 足は体重を支えられなくなり、俺はそのまま前へと倒れ込む。斬口からとめどなく血が溢れ出し、廊下に赤黒い水たまりを広げていく。


「え……あ……」


 上から玲の呆然とした声が聞こえてくる。

 彼女は今、自らの刀を握ったまま呆然と立ち尽くしていた。その刀身は血で鈍く輝き、今まさに俺の心臓を貫いた事を証明している。

 やがて彼女は、自分が一体何をしたのかを認識する。


「な……んで……」

『マスター、マスター、聞こえますか!? サンシャインサムライは危険です、今すぐ離れて下さい、マスター、聞こえますか!?』

「なんで、なんでなんでなんで!!?」


 玲が慟哭する中、脳内通信でミズリの声が聞こえてくる。彼女と視界が共有され、軽い洗脳状態にあるのであろうセイバーズのヒーロー達が見える。

 ああ、しまったな。そりゃそうだ、『サンシャインサムライ』としての力はスーパーセイビアから与えられた物。つまり、自分の力ではない──操られる可能性は確実に考慮すべきだったのに。

 ミズリに返信したいが今はそれすらも出来る余力が、ない。


「よ……くん! …ぞら……ん………」


 視界はモヤがかかり、聴覚はほぼ機能しなくなっている。意識は朦朧とし、いつの間にかあれ程熱かった痛みは無くなって逆に今は凍える程寒い。


 ああ、俺もここで終わりか。意外と呆気ないんだな。

 もし俺が死ねばこの艦はどうなるのだろう? 消えるのならば玲も巻き添えになってしまう。ここでミズーリが消えれば外は地球から20万キロ離れた宇宙空間、到底人間が生きていける場所ではない。

 達也やイリィ、先生は、家族はどうなってしまうだろうか。俺やミズリ、玲が居なくなれば日本を守るヒーローが居なくなる。どうせ新たなヒーローを作るんだろうが、ソイツはきっと遅れて参上するタイプのヒーローだろう。

 達也もイリィも先生も目の前で人が死ぬのを許容するタイプの人間じゃない。もし目の前に怪物が現れてヒーローが来なければ自分の力を使って戦うだろう。でも三人はスーパーセイビアやそれに付随する力……国家規模の武力相手には勝てない。


 でも、今回玲が刺した事やセイバーズのヒーロー達が操られている事で漸く疑問が確信に変わった。

 怪物事件の犯人はスーパーセイビアだ。証拠はないが、そうでもなければ態々俺やマジカルミルキーを消そうとする意味がない。


 でも、もう全て遅い……俺は死に、世界は滅茶苦茶にされる。

 こんな事なら、もっと皆に感謝しとくんだったな……



……何か長くね? 人って心臓刺されてもこんなに思考続けられる物なの?


「夜空君!! 夜空君!!」

「……あれ、何で俺生きてんだ」

「夜空君!!! 良かった、生きてて……ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい!!」


 俺は身体を起こし、胸元に手をやる。血でべっとりと濡れてはいたが痛みはなく、服の隙間からは綺麗な肌色が覗いている。


「身体がいう事を聞かないんだ!! だからお願い、僕の事を殺して!! お願い、だから……そうじゃないと僕、ごめんなさい、ごめんなさい!!」

「取り敢えず落ち着け……しかし、どうするか」


 涙を流し、諦念と狂気の入り交じった様な笑顔で懇願する様に叫ぶ彼女を見つめつつ俺は対処法を考える。

 今、彼女は震える両手で刀を握り、その切っ先をこちらに向けている。俺は一先ず自分の周囲にシールドを展開する。これで攻撃は防げるだろうが……取り敢えず気絶させておこうか。でもそれでは根本的な解決にはならないしそもそも気絶する保証もない。

 となると達也に頼むしかないのだが、今彼はここに居ない。連れて行こうにも彼の元まで無事に連れていけるかは実の所かなり不安である。連れていく最中に目覚めて襲われたら今度こそ死ぬ。


 そんな事を考えていた時、不意に玲が後ずさる。

 一体何が起こったのか、俺は少し視線を動かして──



「──剣?」



──床に一振りの剣が突き立っていて。


──ポケットの中の懐中時計が動きを止めた。

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