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セイバーズと最強の魔砲少女

「マスターは今のうちに行ってください」

「!! マスター? やはり君の上にも誰か居るんだな……となると、まさか──」


 ミルキーが呟き、それに和泉が反応し眉を動かす。

 そして、彼女の言った"マスター"の正体に辿り着こうとした瞬間であった。


「──ッ、なっ、何だぁッ!?」


 突如月影邸の上部が眩い光に包まれたかと思えば、そこから見た事もないシルエットをした戦闘機が浮上していく。

 その間、ミルキーの双眸は和泉の目を捉えて離さない。

 いつの間にか完全に日は落ち、空には嫌になる程大きな月が輝いている。暗い空間で戦闘機の放つ光がミルキーのシルエットを映し出し、荒れ狂う暴風が彼女のドレスや銀髪を靡かせる。


 魔法使いと戦闘機。対角線上に位置するであろう存在を前にして彼らの意識は強制的に分散させられた。具体的に言えば、戦闘機に視線が吸い込まれた。

 先程のミルキーの言葉からしても、あれに所謂"マスター"が乗っているのは間違いない。ならば逃がす訳にはいかない。和泉はトランシーバー片手に叫ぶ。


「第二魔術撃部隊、及び第一、第三魔導兵装小隊はあれに攻撃しろ!!」


 その指示に兵士達は大幣や弓、機関銃を垂直離陸していく戦闘機へと向ける。

 だが、それらが放たれる事はなかった。


「"ショックグレネード"」

「あ、しまッ──」


 彼らが戦闘機へと意識を取られたその瞬間にミルキーはどこからともなく手榴弾を取り出し、慣れた手つきでピンを抜く。

 それに気付いた和泉は慌てて離れる様に指示を出そうとしたが、既に遅かった。


 バチリ。


「か……」

「うっ……」


 手榴弾が地面に落ちた瞬間、僅かな閃光と音と共に電撃が走る。それらはその場に展開していた兵士達の殆どを気絶させ、機械類はショートしプスプスと煙を上げて沈黙する。

 彼らにとって不幸中の幸いであったのは、それが単に気絶させるだけの物であったという事、そして幾人かは辛うじて意識を保っていた事である。その中には和泉も含まれており、彼は膝をつきながらも歯を食いしばり悠然と立つミルキーを睨み付ける。


「ぐ……くそ、こ、これ程の差か……」


 彼はフラフラと立ち上がり、黒煙を上げるトランシーバーを投げ捨てる。目標としていた謎の戦闘機は既に飛び去っていた。それをスクランブル発進していた対魔任所属の航空機が追うが、両機には絶望的なまでの性能差があった。

 周囲を見渡す。意識を失っている者は勿論、辛うじて保っている者も彼以外は戦闘の続行は不可能であろう。千年の歴史を誇る精鋭部隊がこうも一瞬にして無力化されるのか、彼は実力差を噛みしめる。

 諦めに近い感情を抱く彼を他所に、既にミルキーは彼らへの興味を失っていた。


「さて、マスターの方へ行きましょうか……?」


 そうして彼女が先んじてミズーリへと向かおうとしたその瞬間。


「……そう来ますか」


 ドン、と音が鳴り、彼女を取り囲む様に四つの人陰が現れる。

 貴族風の青年、焦げ茶のドレッドヘアの色黒の青年、可愛らしい少年にミステリアスな雰囲気を漂わせる女性──それぞれライヒシャット、サンバヒーロー、玉虎侠客(ユーフンシャウク)にカフラン・アルザハビ。

 以前グレートセイバーズで出会ったヒーロー四人が今、集結した。


「……驚いたよ、マジカルミルキー。まさか君がこんな事をするなんてね」

「ミーはユーの事、信じていたけどネ……」

「でもこんな事になった以上、俺様達はお前を倒さなきゃいけない」

「素直に投降してくれれば~、痛い思いはしなくて済むよ~?」


 四人が言う。だが、その言葉に以前会った時の様な抑揚は無く、また目は光が宿っていない虚ろな物──ミズリはそれに見覚えがあった。

 イルミスでの最終決戦、達也を除くクラスメイト達が神に操られていた時の様子と酷似していたのだ。話し合いは不可能だと察した彼女はゲリエドラグーンを取り出し構え──そこで気付く。


「……ッ!!」


 操られているのはヒーロー達。そして今、夜空の傍にはスーパーセイビアから力を与えられたヒーローが居る。


「マスっ……邪魔しないで頂けますか」

「君を行かせる訳にはいかなくてね。もしも君がいなくなれば、ここら一帯が更地になるかもしれないね。その時の下手人は無論、マジカルミルキーだ」


 状況を把握してすぐさまミズーリへとワープしようとした彼女にライヒシャットが斬りかかる。

 彼女はそれをレーザーサーベルで止めるが、どうにも彼らを操っている者は彼女を夜空の元へ行かせたくないらしい。その為ならば民間人も人質に取ると。

 対魔任によって周辺住民は避難しているが、少し離れればそこでは普通に夕食をとっている人々が暮らしているのだ。そしてマジカルミルキーとしては、そんな彼らを見捨てる事は出来ない。


『マスター、マスター、聞こえますか!? サンシャインサムライは危険です、今すぐ離れて下さい、マスター、聞こえますか!?』


 鍔迫り合いを行いながら彼女は夜空へと呼びかける。だが、繋がらない。

 今、彼女には二つの選択肢があった。

 一つは今すぐミズーリへと向かう事。その場合、夜空は助かるかもしれないが確実に数多くの民間人が犠牲になるだろう。そしてもう一つはこの場で彼らを倒し、その後にミズーリへと飛ぶ事だ。その場合民間人は犠牲にならないが夜空は死ぬ可能性が高い。


「……分かりました。お相手致しましょう」

「良いね、聞き分けの良いお嬢様は大好きだよ」


 果たして、彼女が選んだのは後者であった。

 彼女は決してヒーローの脅迫に屈した訳でも、夜空を見捨てた訳でもない──彼女は、自分のマスターを、櫻井夜空を信じたのだ。加えて──


「しかし良いのかな? このままでは君のマスターは死ぬよ?」

「ご安心下さい。マスターはそこまでヤワではありませんし、それに……私がこの世界で最も信用出来ない人物(・・・・・・・・・・)信用している(・・・・・・)ので」

「? それはどういう……」

「貴方は知る必要はありませんよ。それに私は嬉しいのです」


 ミルキーは彼から距離を取ると箒を取り出し、それに立って乗る。

 フワリ、と浮かび上がり、彼女は笑った。


「この様な形で、不穏分子を無力化出来る機会が来るだなんて」

「? ──っ、シャウク!! 避けろ!!」

「え──ぐあっ!?」


 彼女の言葉が終わると同時にその姿が掻き消える。

 テレポートした訳ではない。彼女の乗る箒が凄まじい加速で動いたのだ。その先に居たのは玉虎侠客(ユーフンシャウク)、ライヒシャットは彼に警告するが、少し遅かった。

 箒に突き飛ばされた彼は体勢を立て直す暇もなく四肢にパルスレーザーを撃ち込まれ、最後にはショックレーザーを撃ち込まれて気絶する。

 呻き声を上げて倒れる彼を背に、彼女は鋭い目つきで残った三人を睨む。


「1」

「ヨクもフェンを!!」


 それにサンバヒーローが激昂し、すぐさま緑色の光弾を出現させて蹴り飛ばす。


「"ムーンサルトストライク"!!」


 彼が蹴った光弾は三つに分裂し、それぞれが地面や塀に当たりバウンドして弧を描きながら彼女へ向かう。

 ミルキーは箒に乗り、一直線にサンバヒーローへ向かう。縦横無尽に跳ねる光弾を掻い潜り、いよいよ彼に接近する──という所で動きが止まる。否、止められたのだ。

 その犯人はカフラン。彼女は両手をミルキーへ向け、その超能力によって動きを止めたのである。


「念力……魔法というのはやはり理解しがたいですね」

「今よ~!!」

「"サンバストライク"──!?」


 その硬直を見逃す筈もなく、彼は光弾を至近距離の彼女へ向けて勢いよく蹴る。

 だが──それが当たる直前、ミルキーの姿は掻き消えた。


「何処に……ぐおっ!?」

「2」


 サンバヒーローが見失った直後、彼の四肢は背後から撃ち抜かれる。それに反応して振り向こうとした所で最後にフル充填のショックレーザーを受けてやはり気絶した。

 実は彼女は光弾を掻い潜っている最中にビーコンを彼の背後に飛ばしていたのである。これはいつも怪物退治の際ワープする時に使用している物と同じであり、カフランによる妨害を予め予測しての事であった。

 要するに、カフランの念力を受けてサンバヒーローによる攻撃を受ける直前にそのビーコンに向けてワープした訳である。念力が作用するのはあくまでの外部の動きだけであり、内部処理で終わるワープに関しては関与出来なかったのだ。


「"フラッシュバン"」


 次に彼女は閃光手榴弾を取り出し、爆破させる。

 眩い閃光がその場を包み、ライヒシャットとカフランの視界を遮る。


「め、目が……どこ、どこなのお!?」


 カフランは目を押さえ、手当たり次第に念力を発動させる。電柱は引き抜かれ降り注ぎ、ショートして放置されていた無人の装甲車が彼女を守る様に振り回される。

 だが、その程度で止められるミルキーではない。彼女は降り注ぐ瓦礫や電柱をすいすいと避け、バズーカで装甲車を吹き飛ばす。


「きゃあっ!?」

「3」


 やがてミルキーはカフランの懐にまで潜り込み、やはり四肢へと銃弾を撃ち込んで気絶させた。


「おっと」

「く……よくも、仲間を!!」


 と、そこで隣から突き出されたレイピアを上半身を軽く反らして避ける。

 その後も連続で突き出される刃を僅かな動きだけで避けた後、ゲリエドラグーンをレーザーサーベルモードにして剣戟を始める。


「貴方達が聞き耳を持たないのが悪いのではないですか」

「黙れ!! そもそもお前は何なんだ!! 俺の計画(・・・・)を散々邪魔しやがって……俺? ボク? っ!!」

「おや、洗脳による意識の混濁ですか? 興味深い言葉ですね、今のは」

「く……黙れ黙れ!!」


 地面に立ち、その場でレイピアを振り回すライヒシャットに対し、ミルキーは箒に乗ったままその箒を上下左右に動かして三次元的な戦闘を行っていた。

 空を飛べるとはいえ、今の彼はミルキーの立ち回りによって地面に封殺されている状況にあった。そんな中では全方位から攻撃してくるミルキーには勝てる筈もない。


「なっ」


 ミルキーが箒を蹴り、その勢いで彼へ急接近すると同時に光の刃を振り下ろす。

 それは彼の右手首を正確に切り落とし、怯んだ一瞬の隙をつき気絶させられた。


「4……と。任務完了、急ぎマスターの元へ行かなければ」

「動くな」


 カチャ、と彼女の後頭部に銃口が触れる。

 既にヒーローは全滅した。この場で動けるのは只一人──


「今のを見てもまだ勝てると? 和泉課長」

「今のを見せられて野放しに出来る訳ないだろ。何の事情も知らない俺にとってはお前は……世界を守るヒーローを倒した極悪人だ」


 それは和泉であり、彼は自らのポケットに入れてあった銀のリボルバーを突き付ける。


「対魔術生物用の特別製44マグナムだ。弾は祈祷済みの純銀製水銀封入弾頭、装薬は魔導強化無煙火薬。生半可な結界なら貫ける」

「そうですか。では撃ってみてはいかがですか」

「っ……これは脅しじゃあない。もしここで倒せなくとももうお前達は日本じゃ生きていけないぞ」


 和泉達は逮捕権を持つ国家公務員、ライヒシャット達は国連にその身を保証された独立武装組織。それをこれだけ派手に倒してしまえば最早この世界でミルキー達が生きていく事は出来ないだろう──彼はそう言いたいのだ。

 実際、的外れな事は言っていない。いや、寧ろ普通に時が進行すれば確実にそうなるだろう。


 だが、ミルキーは表情を崩さぬまま振り返り、リボルバーの銃身を握る。

 そのままその指は引き金まで伸びる。


「ご安心下さい」

「何を……!?」


 パァン。


「な……」


 大きな破裂音、信じられないといった面持ちで目を見開く和泉。



「──じきに全て終わります」



 そんな声を残し、彼女の姿は掻き消える。

 その場に残されたのは完全に脱力してしまった和泉と、気絶する数多の人間だけだった。

高評価、ブックマークはモチベに繋がるのでよろしくお願いします

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