気まずい二人!?ミルキーといずみ
「れーいっ!? ……気絶しちゃった、どうしよう」
「運んでやればいいんじゃないでしょうか」
ミズリがぶっきらぼうに答える。それはあまり聞いた事のない声色だった。
「なんか……当たり強くない?」
「そんな事ないですよ。それよりこれはどういたしますか?」
「そうだなあ……」
露骨に話を逸らされたのはさておき、彼女に促されるままそれを見る。
そこに転がっているのは顎を蹴り砕かれた梢や黒服の男達。生きてはいるのだが、コイツらがこれまでやってきた所業を考えるとこんな罰では到底足りないだろう。
でも殺すのはナシ。となると警察に突き出す事になるのだろうが、ミズーリの情報収集能力で調べた所コイツらの手は警察の奥にまで伸びてしまっているらしく普通に突き出した所ですぐに放免されてしまうだろう。
だが、その点に関しては既に考えてある。
「まあ、こんだけ派手にやらかせばすぐに来るだろ」
俺がそう呟いた瞬間。
『──サンシャインサムライ、及びマジカルミルキーに告ぐ! 君達は完全に包囲されている、素直に出てきてくれれば手荒な真似はしない!』
「ほらな。ミルキー、頼めるか?」
「なるほど、そういう事ですか。了解しました」
その掛け合いの後、ミズリは片手で梢を引き摺りながら外に出る。
引き戸を開け、門を出たそこには無数の装甲車が並び、重装備の兵士達が
シールドと機関銃を構えていた。
彼ら彼女らはどうやら機動隊でも自衛隊でもない様で、兵士達の中には大幣や札、刀を持つ者も居る。その割には迷彩服と防弾チョッキに身を包み自動拳銃も装備しているので違和感が凄い。
また、ミズリのレーダーは付近の家の屋根上にて和弓や狙撃銃を構える者の存在も暴いている。それら兵士、そして月影の人間らと見られる物以外には生命反応は見られず、恐らく戦闘に備えて民間人は全て避難させているのだろう。
さて、梢を引き摺ってきたミルキーが姿を現すやいなや兵士達の緊張が高まる。
「マジカルミルキー! 民間人を解放しなさい!!」
「言われなくとも解放しますよ。ですがその前に確認したい事があります。まず、あなた達は対魔術的存在特任課で合っていますよね?」
「テロリストと交渉をするつもりはないぞ!」
だが、彼らは聞く耳を持たない。
更に、睨み合っている間に数発の銃弾や矢がミルキーに当たる直前で止まる。重力制御装置を作動させていたお陰であり、もし斥力が働いていなかった場合それらは彼女の頭を正確に貫いていただろう。
それを確認した彼女はゲリエドラグーンを数回放つ。それらは配置転換しようとしていた狙撃手らを正確に撃ち抜き、一人残さず気絶させた。その事実に兵士達の緊張がより高まる。
しかしミルキーは表情を変えずに言う。
「和泉氏も居るのでしょう? 私は彼に用事があるのです」
「くっ、だからテロリストと交渉は「あー、分かった分かった。出るよ」か、課長!?」
反抗する兵士の会話を遮る様に装甲車の中から和泉が出てくる。彼は兵士らの静止も振り切りミルキーの前まで歩いていく。
「まあここまで大仰にやったけどな……やはり無理か。どうやって狙撃手の居場所が分かったんだ?」
「そんな事はどうでもいいでしょう。今私が話したいのは"これ"についてです」
「そうだな……何故こんな事を?」
ミルキーが梢を二人の間に引き摺り出す。
彼は両手をコートのポケットに入れたままそれを見て顔を顰める。
「102件の殺人に関与、暴力団への資金提供、政治家・警察組織への賄賂、その他数多くの犯罪に関与しています。貴方ならば言わなくとも分かっている筈ですが?」
「……知らんな。証拠は? 言っておくが自白だけでは立件は無理だぞ」
ミルキーの言葉に彼は表情を暗くし一瞬言葉に詰まる。やはり知っていたのだろう。
月影家は幾つもの非合法な商売で大金を得て政治家や警察を抱き込み、暴力団を使い自らの権勢を高めていた。
その為ならば殺しも厭わない。例え告発を受けたとしても警察の中で握りつぶされ、逆に告発者がひっそりと消される事になっていた。それがこれまでこの家が存続出来てきた理由である。
しかも恐ろしい事に、これらの証拠は外部からは殆ど入手できない。だからこそ和泉も諦念の表情を浮かべていた……のだが。
「ご安心下さい。現代はネット社会、既に全ての証拠を流してあります」
「なっ……ほ、本当だ」
彼女が当然の様にそう言い、彼は慌ててスマホを見る。検索エンジンのトレンドワードには『月影』の文字が躍り出ていた。
更に広告にもそれら"証拠"が表示され、ゴシップ好きのインターネットは早くもお祭り状態である。
「……どうやってやったんだ?」
「知る必要がありますか? という訳で後はよろしくお願いします」
そう言ってミルキーは梢を和泉へと投げる。
証拠集めには苦労した。
当然の様に監視カメラ等の映像は消されているのでまずはそれを復元。それ以外のカメラにも僅かな映り込みがあるかもしれないので収集、整理。
だがそれでも決定打にはなり得ない。何しろカメラに一切映らない場所で取引や殺人なんかを起こしているのが大半であったからだ。
そこで応用したのが「光の進む速度」である。
光年、という単位がある。これはその名の通り光が一年で進む距離であり、例えば地球と太陽の間は0.000015876光年開いている。
ここで重要なのが、地球を一光年先の空間から観測した時、我々の目に見えている地球は一年前の物だという事だ。即ち、理論上は過去は実際に観測可能なのである。
各事件が起こった場所と時間はある程度分かっていた。つまり俺達がやったのは、その時間分の距離を離れ、一年前ならば一光年、玲の事件が起こった時──六年前ならば六光年地球から離れ、事件が起こったとされる場所を観測したのである。
ミズーリに搭載されたカメラは地球の如何なる物よりも遥かに高性能だ。それだけの、文字通り天文学的単位の距離があっても詳細に映し出してくれた。屋内の場合でも特殊なフィルターを通す事で内部の映像を映し出せるのだ。
完全に反則技だが、これも全て玲の為である。
「……ああ。分かった。こいつらはこちらで処理しよう」
「では、そういう事で」
「だが待て。それはそれとして我々は君達を見逃す事は出来ない。如何なる事情があれど民間人を傷付けた事は明確な事実なのだから」
彼がそう言うであろう事は予め予測していた。
日本におけるマジカルミルキーの立場は特殊である。これまで殆ど被害が出ていなかった事が災いし、マジカルミルキーという存在に対する法整備が全く進んでいないのだ。
日本においては武器の使用、所持は違法である。そんな中ミルキーが見逃されているのは民間人にそれらを向けず、尚且つ怪物を倒すという行為によって刑法における"緊急避難"が成立している、と解釈されているからである。
これによりミルキーの銃刀法違反は事実上免除されている訳だが、月影梢という民間人にそれが向けられたとなれば話は別だ。
因みにサンシャインサムライはセイバーズに加入しており、そのセイバーズは国際法により立場が保証されているので大した問題にはならない……筈なのだが、残念ながら日本はセイバーズとは直接的な関係を結んでおらず、その国際法も批准を渋っていた為に問題に発展する可能性が生じていた。
それはさておき、今ここで彼女が捕まれば何をされるか分からない。
以前和泉が来た時は素直に従ったが……
「……今、私は少し機嫌が悪いのです。少し付き合ってもらいますよ」
「っ、そうか……総員構え!!」
そうして、世界初となる『人間vsヒーロー』が始まった。
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