いつきれいのおに退治
思わず力を使ってしまった。でも後悔はしていない……多分。何はともあれ、彼を守る事は出来たのだ。
一つ不可解なのは僕とほぼ同じタイミングで魔力を熾した二人──斉藤君と松本先生。二人も何かしらの力を持っていたのだろうか……そういえば、二人共確か夜空君と同じく集団拉致事件の被害者だった筈である。
それと何か関係があるのだろうか。でも夜空君からは魔力を全く感じなかった。まあでも、僕が魔力を感じられる様になってから、この世界には私の知らないものが数多くある事を知った。きっとその一環なのだろう。
恐らく、怪物が現れた事で学校も早退になる筈だ。慌てて飛び出してきてしまったが……正直悪手だったかもしれない。僕がやるべきはあの場に残り説明する事だったのかも。
でも最早後の祭り。今更ノコノコと戻るのも恥ずかしいし、一度家に帰ろうか。帰りたくないが、どのみちこうなってしまった以上月影にも情報は伝わる。なら自分で言った方がまだマシだろう。
そう思い、僕は変身を解いて家に向かう。元々テレポートで近くに来ていたので歩いたのは少しだけだった。
──思えばこの時の僕の考えはあまりにも迂闊だった。
自分で話せば分かってくれる。力を示せばわかってくれる。
そんな奴等でない事など既に分かっていたというのに、僕は自分の知性に蓋をして哀れで愚かな幼性思考のまま、僕はその門を開いたのだから。
「只今帰りましたー……あれ?」
扉を開けて中に入る。
いつもなら女中が控えている玄関に待ち構えていたのは黒服のガタイの良い男達。
彼らは僕の背後に回って肩を押さえつける。
「ちょ、ちょっと!?」
別に黒服の男に驚いている訳ではない。彼らが月影の部下なのは既知の事実だ。
だが、この状況はどういうことなのだろう。まるで僕が帰ってくるのを待っていたかのような、いや実際待っていたのだろうが。
されるがままに目を白黒させていた僕の前に梢が現れる。彼女の目はいつにもまして冷たく、同時に活き活きともしている様に見えた。
「お、お母様、これは一体」
「その答えはお前の脳内にあるのではなくて?」
彼女は近付くと僕の顎に手をやり、侮蔑を顔に宿す。
ドクン、ドクン。鼓動が煩い、それは周囲の黒服でも目の前の女の物でもない。
冷や汗が垂れる。悪い予想が次々と浮かび上がっては心を蝕んでくる。
「ええ、ええ、どうやら私は甘すぎた様ですね。自らの現実を見るだろうと自由にさせていましたが──まさか家を欺くとは」
「あ、欺く? な、何のことで」
「ああ、言い忘れていましたね。あの爺はクビにしました」
「──ッ!?」
そしてどうやら、その予想は全て当たっていたらしい。
「愚かねぇ、此奴に情を湧かせるなんて。贖罪のつもりかしら?」
「……」
だが、次に発せられたその言葉で脳内が水を打った様に静まる。
これまで考えないようにしてきた事。その点と点が繋がった、そう確信してしまったから。
「お前は転校させましょう。監視も付けます、習い事も全て家に呼びましょうか」
「……」
「思えばあの商店街の出来事も見間違いではなかった訳ね。この私を欺くなんて、あの男もどう処してやろうか──」
「"サンシャイン"」
プツリ、何かが切れた音がした。
──刹那、光の濁流が僕と、僕を押さえつけていた黒服達を呑み込み彼らを吹き飛ばす。
あれ程までに強そうな見た目をしていた彼らはいつも容易く吹き飛ばされ、壁に叩きつけられてうめき声を上げて気絶する。
「……へ?」
後に残されたのは腰を抜かしてこちらをぽかんと見つめる梢と、立ち上がって刀を抜くサンシャインサムライだけ。
まだこいつらは僕がそうだと知らないんだ。だからこんな事も出来たんだ。
「ひっ、ひぃっ、誰か! 誰か来なさい!!」
梢がそう叫ぶと家の奥からまた黒服達がワラワラと飛び出してくる。
それを見た彼女は怯えつつも笑い、叫ぶ。
「此奴を殺せ!! こんな奴はもう要らない!!」
「し、しかし」
「こ、この姿は……」
僕の姿を見た彼らは強面の仮面を貫く程には動揺している。当然であろう、彼らの眼の前に居るのはヒーローなのだ。
世界最強の軍隊がついぞ勝てなかった怪物を相手に戦うヒーロー。
だが、その事実を梢だけは受け入れない。理性が受け入れるのを拒んでいるのだろうか、これまで自分の都合の良い人形だった者が、自分が逆立ちしても勝てない相手だった事が分かったのだ。
「いいから撃て!! 殺されたいのか!?」
血走った目でヒステリックになりながら唾を飛ばしてそう叫ぶ。
黒服達は躊躇いつつも黒い物体を取り出す。拳銃だ。本来であれば一般市民は持てない代物──だが、この家では持つ事が当然だった。
無数の銃口が僕へ向く。
もし、僕が"サンシャインサムライ"になる前の無力な女だったならば震え上がって許しを請うていただろう──だが、今は違う。
無数の破裂音、噎せ返る様な硝煙の臭い。銃口が火を噴き7.62ミリの鉛玉が一斉に僕へと突き進む。
それらは空間を切り裂きながら発射音よりも速く進んでいく。人間ならば目視する事など叶わないそれが、今の僕には酷くゆっくりに見えた。
ガギィン、けたたましい音が鳴り、直後床に小さな粒が転がる。
それは真っ二つにされた銃弾。刀を抜き、近付く全てを斬り落としたのだ。例え当たったとしてもこんな豆粒通用しないが、こちらの方がより強さが伝わるだろう?
「あ……」
「ひっ、ヒィッ!!」
「あ、待ちなさい、ま、待て!!」
人間離れした"力"を目の当たりにし、黒服達は恐れ慄き一目散に逃げ出していく。
それを追う事はしない。彼らになんて興味はない──今は眼の前の女の醜態を目に焼き付けるのに手一杯だ。
「ひ……ば、化け物……ヒィッ、ち、近寄るな!!」
「一つ、聞きたい事があるんだけど」
「な、なに……」
この際だ、僕はこれまで自らの脳の中だけに留めていたとある疑問を口に出す。
言いたくはない。だってそれがもし本当なら──
「──私のお父さんとお母さんが死んだのって、事故じゃないでしょ?」
──ああ、言ってしまった。
その言葉を聞いた梢はその怯えた顔を更に歪める。その反応だけで答えが分かってしまった。
「あ……あいつらが悪いのよ。こちらの命令に逆らうなんて……」
梢は話し始める。
「本来なら無理矢理差し押さえても良かった所を態々一度あいつらの意思で提供させる機会を与えてやったのに! そんな傲慢極まりない奴等なんて生きている価値はないわ!」
その声は段々とヒートアップし、汚らわしい汗と唾液を撒き散らしながらヒステリックに血走った眼で叫ぶ。
「それにしても滑稽よねえ、あの爺も……贖罪のつもりかしら──」
──自分で殺した者の娘に同情するだなんて。
ポキリ。僕の中で何かが割れた。
「お前こそ私達への恩を忘れてこんな愚行をするなんて!」
「……恩?」
「そうよ! あんな力も金もない家に居るよりもつき「もういい」
意味の分からない事を口汚く鳴く肉塊を見下ろしながら、僕は刀を振り上げる。
「ヒイッ!? な、何をする気!?」
「ああ、そっか」
──最初から、こうすれば良かったんだ。
「や、やめ」
そうして、僕は刀を振り下ろす──
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