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迷いをこえろ、未熟なヒーロー!

「ば、バレてたんだ……」


 翌日、学校に来た俺は達也に昨日あった出来事を話す。そしてイリィの事がバレているという事実に彼は顔を青褪めさせる。

 結局、昨日の夜は暫く車の中で話した後ミズリは普通に帰された。取り敢えずは経過観察という形をとるそうで、何かあれば連絡してほしいと名刺を渡された。対魔任の課長は警察庁長官並みの地位にあるらしく、もしかして俺はとんでもないパイプを持ってしまったのではないだろうか。


「まあ今の所は特に気にする必要もないと思うぞ。普通に小学校に通ってる限りは黙認するって言ってたし」

「まあ、そ、それならいいんだけど……」


 彼は冷や汗を流しながら渋々納得する。

 ただ、国家権力に監視されているという事実はやはり受け入れ難い事なのは分かる。自らの一挙手一投足が何者かに見られているという事は日常を平穏から遠ざけるのには充分だ。

 そこらの対策も考えないとな。



「──で、あるからしてー……」

「ふわあ……」


 あっという間に時は過ぎ、今の時刻は二時前。

 檀上では松本先生が歴史について語っており、正直なところ眠い。昼飯を食べて少し経ったこういった時間が人間は一番眠くなるのだ。

 玲を見てみる。昨日の慌てぶりはどこへやら、今の彼女はいつも通りの王子様然とした姿で居る。流石である……のだが、昨日のあれを思い返すと素直に称賛する気にはなれなかった。

 今のこの姿とて彼女が望んでやっている訳ではないという訳だ。ただ、やりようは幾らでもある。昨日月影家について色々と調べてみた結果面白い事実が判明したのだから、それを利用すれば彼女を解放する事だって可能だろう。

 まあ、実行にはそれなりに時間がかかるだろう。この計画を行う事によるリスクや影響を考慮し、何よりも玲の意思やその後の処遇を考えなければならないのだから。


『──マスター、怪物です』

『こんなクソ忙しい時に……場所は?』

『札幌です』

『札幌!?』


 怪物というのは俺達の事情など考慮してはくれない様で、玲の事で頭がいっぱいかつ授業中にも関わらず現れてくる。

 しかし、事は一刻を争う。授業が終わるまで待っていれば札幌が壊滅しかねない。まあサンシャインサムライも居るのだが。


 という訳で、ミズリが不意に手を挙げる。


「先生、トイレに行ってきてもよろしいでしょうか」


 伝家の宝刀、トイレである。

 無論ミズリはアンドロイドである為に排泄行為などは必要ない。なので事情を知っている先生は一瞬目を白黒させ、すぐに察した。


「他のクラスの邪魔にならないようにしろよ」

「分かりました」


 そうして彼女は教室を出てすぐにテレポート、変身し現れた怪物へ向かう。

 そこに居たのは以前苦戦したスライム型の怪物。これを倒す為には携行出来る武器だけでは火力不足だった。

 だから俺もトイレと称してクラスを出ようとした、その時だった。



「──え」



 違和感。教室が急に暗くなったのである。

 同時に感じる猛烈な殺気と圧。俺は窓の外を見て──一瞬硬直してしまう。


 何しろ、そこには校庭に立ちこちらを覗き込む巨大な怪物が居たのだから。札幌に居るスライムではない、初期と同じ怪獣型。

 その人の背丈程もある巨大な眼球がぎょろりと動く。


「「「うっ、うわあああああああっ!!!??」」」


 瞬間、クラス中が悲鳴で染まる。

 皆は慌てて逃げ惑い、同時に俺はゲリエドラグーンを出現させようとしていた。少し遅れて怪物が腕を振り上げ、俺達のクラスに向かって振り下ろす。


 その時、反応出来た人間は四人。

 先生と達也はそれぞれ魔力を(おこ)す。目の前の怪物を倒せるのならばそれが一番いいのだが、生憎今は武器を持っていない。なので先生は生徒を庇う様に前に立ち、達也は『接着』で怪物の腕を空間と接着させようとする。

 俺はシールドを展開しようとした。イルミスでは破られたがこの程度ならば問題はない──


「え」


──だが、目の前で起こったその光景(・・・・)で俺は反応が一瞬遅れてしまう。


「──"サンシャイン"!!」


 血相を変えて勢いよく立ち上がった玲がそう叫ぶ。

 刹那、彼女の髪が黄金色に染まり伸び、腰に刀が現れる。それが何なのかを認識する前に彼女はその刀を抜き、振り下ろされる腕へ向かって一閃する。

 怪物が両断され倒れ伏し、灰になっていく。そんな中、玲はゆっくりと俺達の方を向いてばつが悪そうな顔をする。言葉で表せば"やってしまった"そんな顔。


──────


 自分以外力がないと思っていた玲と、自分達以外無力だと考えていた夜空達、そのすれ違いが呼んだ悲劇であった。

 達也と松本が魔力を熾した時、彼女は驚く。無力だと思っていたクラスメートと教師が戦う力を持っている事が分かったのだから。だが同時に、それが怪物を倒すまでには至らない事も分かる。現実としてそれは事実であり、時間をかけられるなら、或いは武器があれば兎も角武器無しで瞬間的に倒す力は二人には無かった。

 魔力が二人にある事は彼女も分かっていた。そして、その上で意識などしていなかった。魔力がある人間自体はそこまで珍しくないのだ。この世の大半の人間は自らの魔力に気付かず死んでいく。

 だからこそ逆に玲の魔力に達也も気付いていながら問題視はしなかった。問題視すればこのクラスの半分を常に意識しなければならなくなってしまう。それ程までに、実はこの世界は魔術に満ちていた。


 話を戻そう。

 兎も角、二人が怪物を倒せないと理解した彼女は自らの力で倒す事にする。尤も、怪物が現れた瞬間に反射的に対処しようとしていたのでどちらにせよ力はバレていたのだろうが。

 そうして彼女は時間を優先して服は変化させず、髪のみの変化に留め刀を出現させ怪物を両断した。だが、それだけでも彼女が普通ならざる者──サンシャインサムライである事は誰の目から見ても明白であった。

 因みに彼女が叫んだ"サンシャイン"都は変身する際の呪文の様な物である。


「え、そ、その刀、も、もしかして……!!」

 

 腰を抜かしていたヒーローオタクの花咲がズレた眼鏡をクイ、と動かして言う。

 ああ、そうだ。サンシャインの内心まで当てていた彼女ならば見間違う事など有り得ない。


「あ、玲さまが……?」

「あの……」


 他の生徒も同じ事。『怪物を倒した』『黄金の髪を持つ』『刀使い』これだけの条件が重なれば赤子でも分かる。


「「「さ、サンシャインサムライ!!?」」」


 皆の声が重なる。

 玲はどうすればいいのか分からなくなってしまった。いずれ正体を明かすつもりではあったが、それはここではなかった。

 ふと彼女は別の場所から感じた反応の事を思い出す。確か位置的には北海道辺り、そちらに向かおうと思ったのだがその前にこちらに怪物が現れてしまった。だが、こちらにミルキーが現れなかった以上札幌の方に行っていると思うのが道理だろう。

 図らずも初となる単独討伐を成し遂げた玲ではあったが、今は嬉しさよりも困惑と焦燥の方が強かった。


 彼女はまるで救いを求めるかの様に夜空の方を見る。だが彼も目を見開いて困惑し、口をぱくぱくとさせている。それがどういう反応なのか、単にサンシャインが月影玲であったというだけではない様に感じたが、それを追求する程の心の余裕はない。

 今、夜空の心中は荒れ狂っていた。

 彼の予想では怪物事件を起こしている犯人はスーパーセイビアであり、セイバーズは共犯者である。セイバーズのヒーローはスーパーセイビアに力を与えられているのだから当然だ。

 そして、その一人が自らの幼馴染だった。彼はこれからどんな対処をすればいいのか分からなくなってしまった。


 玲としては、別にクラスメートにバレるのは問題ない。極論言えば、世界中の人間にバレても構わない。ただ、月影の人間にさえバレなければ。

 サンシャインサムライとして実績を積み、誰が何と言おうとも黙らせられる──そんな存在になるまでは顔を隠して活動する。その筈だったのに。


「──これは一体……」

「あ……ミルキー……」


 と、そこにミルキーがやってくる。どうやら札幌の怪物を倒したらしい。

 今の玲には知り得ぬ事だが、以前コンビで倒したスライムをミルキーは単独で倒していた。行った事としては至極単純であり、シールドで自らを保護しながら無理矢理中心部の核を破壊したのである。

 前回は何処に弱点があるのか分からなかった為に軌道上からの艦砲射撃で一片残さず蒸発させようとしていたが、弱点の場所が分かっているなら話は別である。


 やがて、玲はその場に居る事が耐えられなくなった。

 掛けられる好奇の声と視線。それは嬉し恥ずかしと悪い物ではなかったが、それを真正面から受け止められる程今の彼女の心は落ち着いてはいなかった。

 結果として顔を背けた彼女はその場から忽然と姿を消してしまったのだった。後に残されたのは破壊された教室、それに反して傷一つ無いクラスメート、魔力を感知できる人物が玲以外居なかったが為にバレなかった達也と松本、へたり込む夜空、立ち尽くすミルキー。


「おい、マジカルミルキー!」


 そんな彼女へ、クラスメートの一人が言い放つ。


「怪物を出すのをやめろ!」

「え、ど、どうしたんだ?」


 そんな突拍子もない言葉に隣に居たクラスメートが首を傾げる。

 だが、言葉は止まらない。


「俺は見たんだ、お前が怪物を出す所を!」

「そうよ! 私も見たわ、アンタが怪物を出現させる所!」

「さ、沙紀? どうしたの急に……」


 そうしているうちに、教室内はマジカルミルキーを非難する者とそれを不審がる者に二分される。

 非難する者はまるで何者かに操られているかの様に同じ動きをして、そして同じ言葉を放つ──「マジカルミルキーが怪物を出している所を見た」と。それは昨日和泉に言われていた物をまるっきり同じであった。


「お前ら、静かにしろ!」


 と、そこで松本がバン、と机を叩く。魔力を熾していたままだった為に机が粉砕されてしまったがそれがかえって生徒達の注目を集める事となり、本来の目的も果たされる事になる。

 因みにこれを覚えていた生徒達によって、後に松本は「歴史ゴリラ」というあだ名をつけられる事となるのだがそれはまた別の話。


「こんな事になってしまった以上今日はもう終わりだ」

「やったっ」

「おい、今喜んだの誰だ……兎も角、すぐに警察が来るだろう、彼らと共にさっさと帰るんだ、分かったな?」

「でもコイツは怪物を出したんです! 俺は見たんだ!」


 食い下がる生徒、そんな彼ら彼女らに静かな憤りを感じながらも諭す様に言う。

 今、彼が怒るべきはこの者達をこの様な状態にした相手に対してである。だからこそ、彼は声を荒げる事なく冷静に対応する。


「それは分かったが、それを言うべきはここじゃない。兎に角帰れ……あー、マジカルミルキー氏、来ていただいてありがとうございます」

「……ええ。当然の事をしたまでです」


 勿論先生はマジカルミルキーの正体を知っている。


「先生、月影さんの事はどうするんですか?」

「玲様……」

「そ、そうだな……貴女はサンシャイン(・・・・・・)氏とお知り合いですよね? 少し様子を見てきていただいてもよろしいでしょうか?」


 だからこそ、普通ならば言わない様な事も依頼する。

 そして、その答えは勿論。


「分かりました。では」


 そうして、ミルキーもその場から姿を消したのだった。


高評価、ブックマークはモチベに繋がるのでよろしくお願いします

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