ナゾの訪問者!?恐怖の対魔任☆
玲とのデートが終わったその夜の事である。
ピンポーン、と不意にチャイムが鳴ったのだ。
「……? 誰だ、こんな時間に」
『夜空ー、今手が離せないから出てー』
「はーい」
母親の声に俺は階段を降りてインターホンを確認する。
そして、一瞬硬直した。何しろそこに立っていたのは……
『すみません、警察ですが少しお聞きしたい事がありまして』
「……」
スーツにコートといった男二人が警察手帳を見せていたのだから。
そこで俺の思考が回る。どうしよう、心当たりしかない。監視カメラの映像を改変したのもミズリやイリィの出自も大体犯罪である。
「……今出ます」
ピッ、とインターホンを切り、取り敢えず素直に出る事にした。ここで逃げるのは得策ではない。
ガチャリ、と扉を開ける。ニコニコとわざとらしい笑顔を見せてくる二人は俺の姿を見て少し驚いた表情を浮かべる。
「何か?」
「……いえ、所でこちらにミズリ・シャーロット・ミルキーウェイというイギリス人の少女が居ると思うんだけど、今いるかい?」
ヤバい、これ確実にバレてる。わざわざミズリを名指しするって事はもうそういう事だろう。
でも、ここで居ないといっても事が先延ばしされるだけであろう。俺は観念して彼女を呼ぶ。
そして現れた彼女を前に、二人はこれまた驚いた様な顔をしていた。一体何なんだ、素直に来た事がそんなにおかしいか。
だが、彼らが驚いたのはどうやらその事についてではないようで。
「これは驚いた、まさかここまで近付いても魔力を感じられないなんて。一体どれ程の鍛錬を積めばここまでの魔力隠蔽技術を手に入れられるのかな。シャーロット……いや、マジカルミルキー」
「──え? ミルキー?」
後に続いたその言葉に、俺は思わずそんな呆けた声を上げてしまう。ミズリはといえば全く表情を変えずに発言者の男を見つめている。
「おや、知らなかったのか。なら少し話は変わってくるな……」
俺は「マジカルミルキーだとバレている」事に対して驚いたのだが、どうやら相手は「ミズリがマジカルミルキーだった」事に驚いた、と受け取ったらしい。偶然だったが好都合といえば好都合だ。
「ではミルキー君、一度私達に同行してもらえるかな」
「ちょ、ちょっと待って下さい。いきなり来てそん事」
「ああ、そういえば自己紹介がまだだったかな。私は和泉慎二、対魔術的存在特任課の課長だ。馴染みのない名前かもしれないけど、要するに君やヒーロー、怪物の様な"科学の埒外"に居る存在に対処する為の部署なんだ」
そんなのあったのか。どうやらこの世界でも探せば魔法やら何やらがあったらしい。
「安心してくれ、私は何も逮捕しに来た訳じゃあない。素直についてきてくれればの話だがね」
「……」
一言で言えば、怪しい。
そもそもどうやってミズリがミルキーだと分かったのだ。細心の注意を払っていた筈なのだが。あとはそもそも対魔術何とかって組織が本当に実在するものなのか、という事。これに関しては詳しく調査しないと分からない。
『ミズリ、どうする?』
『私としては誘いに乗っても良いと考えます』
脳内通信でミズリと会話する。
『正直、セイバーズに行った時と比べれば危険度は遥かに低いかと』
そうなのだ。ミズリは以前単身グレートセイバーズに乗艦している。
ヒーローの強さに比べれば目の前の男達の組織など大した事はないのだろう。もし本当に国家組織でヒーローより強いのならば怪物を倒さなかったのは何故だという事になるし、仮に国家組織でなくヒーローより強ければ……その場合、ほぼ確実に怪物事件の犯人だという事になる。
どちらに転んでも最終的には損はない。結局、俺達の最終目的は怪物事件を解決する事なのだ。
『もし何かあればすぐに逃げるんだぞ』
『了解しました』
そう、それにもし何かあってもミズリならば逃げられるのだ。というよりも、収納できるといった方が正しいか。
彼女はあくまでも俺のスキルの一部であり、何処で何をしていようともこちらの操作で収納できるのだ。
「分かりました。ついていきましょう」
「話が早くて助かるな。じゃあ、車に乗ってくれ」
そうしてミズリは、和泉らが乗ってきた黒塗りの車に乗せられて何処かへ行ってしまったのだった。
──────
「さて、まずは国家を代表して感謝を。マジカルミルキー、君が居なければ日本はどうなっていた事か」
車が発進し、暗い車内で和泉はミズリへそう言った。
「マジカルミルキーが居なくともサンシャインサムライが居るでしょう?」
「確かにそうだが、現状怪物が出現した国家の中で死者が一人も出ていないのは日本だけだ。その点サンシャインサムライは力は十分だが迅速さが足りない。事実彼女が初めて現れた時も君が既に怪物を倒した後だっただろう? あのタイミングでは少なからず被害が出ていただろうな」
「そうですか」
彼の口から語られたその理由は、ある意味役人らしい物だった。
もし被害が出た時、民衆の非難の的になるのは役人、ひいては時の政府である。ヒーローに対しては、少なくとも初期では遅れた負の側面よりも倒したという正の面の方が大きいからだ。
その理由で一先ず納得した彼女は次に最も聞きたい事を訊く。
「どうやって正体が判ったのですか?」
「君の偽装は完璧だった。少なくとも情報の面では、だが。データ上の文字は書き換えられても人の記憶までは変えられなかったらしい。事実、君が通っていたという事になっているロンドンの中学には君の在籍記録はあっても君を実際に見た人間は居なかった」
「……成程、迂闊でしたね」
正直、そこは想定済みの弱点ではあった。その上で放置していた、せざるを得なかったのだ。
まさか現地住民に偽の記憶を植え付ける訳にもいかない。というか方法がない。達也の能力なら何とかなるかもしれないが、流石にそれは一線を越えている気がした。
そして、本来なら放置していても問題はなかったのだ。留学生など日本に星の数ほどいるし、その中の一人に焦点を当てて重点的に捜査するなど普通は有り得ない。
和泉は続ける。
「君に目を付けたのは一度国民の情報を全て洗っていた時だ。件の集団行方不明事件──異世界召喚事件の被害者の一人の家にホームステイする留学生を見つけた」
彼のその言葉に彼女と、そして彼女越しに聞いていた夜空は驚く。
「……国はあの事件が異世界召喚による物だと知っていたのですか」
「ああ。召喚特有の膨大な魔力反応があったからな」
「ならば何故防ぐ事が出来なかったのですか? その様子では、これまでも同じ様な事があったのですよね」
「不可能だからだ。科学が発達したこの世界では魔法は最早死にゆく定めの技術、魔法技術に関しては異世界の方が圧倒的に上……所で異世界の事を知っているという事は君も異世界に関係する人物なのだな?」
彼は訊く。
「サンシャインサムライ含め、ヒーロー達の身分は既に把握している……君だけなのだよ、真に突然何もない所から現れたのは。同じく身元不詳の人物として斉藤達也君の家に養子縁組された入衣という少女も居るが、あちらは魔力反応もあり正体を隠した獣人という事が既に判明している」
ここでしれっと新たな情報が明かされる。どうやらイリィの事はとっくの昔に露見していたらしい。その上で、害はなさそうなので泳がされていた、と。
「だが君は違う。魔力反応も無ければ人間であるかどうかも分からない。聞かせてくれ、君は異世界の何なんだ?」
「……」
どうやら彼の中ではミズリは異世界人で確定しているようだ。
「そもそも何故彼──櫻井夜空は君がミルキーであると知らないんだ? 君達にはおかしな事が多すぎる」
「私は彼についてこちらの世界にやってきただけですから」
「君が彼を洗脳しているという事か? だとすればこちらとしては見過ごせないが」
「そういう訳では断じてありません」
嘘は言っていない。ミズリは夜空(のスキルとして生まれ彼と共)についてやってきた。和泉は何やら考え込んでいる様だが、それは相手が勝手に勘違いしているだけである。
「一つだけ言えるのは、私は人類に敵対するつもりは全くないという事です」
「ううむ……」
ここで一度〆ておく。
和泉は唸り、やがて観念したように言う。
「ああ、分かった。今はそういう事にしておこう」
どうやらミズリについては保留──黙認という形をとる様だ。
まあそれも致し方なし。彼らとしても、ミルキーに勝てる見込みがない以上荒業を使う事は出来ないのだ。下手をすれば国ごとやられてしまいかねないのだから。
「所で話は少し変わるが」
「何でしょう」
「マジカルミルキー、君が怪物を出現させているという噂が最近流れているのだが」
「事実無根です」
ここまでの会話は何だったのか、という話が放り込まれ、彼女は食い気味に否定する。
「こちらとしてもそれは分かっている。そもそも怪物が現れだしたのは君らが異世界から来た後だからな」
「ならば何故? まあそういった噂が流れるのも致し方なしとは思いますが」
マジカルミルキーだけが世界で唯一死者無しで怪物を討伐しているのだ。そしてセイバーズに加入しないときたものだから疑われるのも当然といえば当然なのである。
だが、どうも事情は違う様で。
「『マジカルミルキーが怪物を召喚しているのを見た』そう言う者が増えているのだよ」
「与太話では?」
「これの奇妙な点は、そう言う者は皆それしか言わない所だ。『誰が』『何をした』だけを言い、『どこで』『どうやって』『何故』が抜け落ちている」
まるでレコードの様に、この件に関しては決められた台詞しか言わないのだと彼は言う。
「そういった事を出来そう、或いはしそうな者に心当たりはないか?」
つまり彼が言いたいのは、何者かがマジカルミルキーを嵌めようとしている、という事なのだ。それ程までにこの状況は不審だった。
「そうですね……」
そんな彼の問いに、彼女は「そんな事が出来るとすれば他のヒーローくらいだろう」という答えしか返す事が出来なかった。
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