すれ違う想い!玲と夜空のトキメキな1日!
「……懐かしい夢見たな」
ミルキーがセイバーズから帰投した次の日の朝、俺は懐かしい思い出に起こされる。
そういえばそんな事もあったな……あれといいイルミスといい死にかけた経験が多すぎないか、俺。川に飛び込んだ事で両親から泣きながら説教されたのを覚えている。
それはさておき、起きて着替え、朝食を食べて学校に行く。ミルキーやらサンシャインやらセイバーズやらと色々大変だが、それはそれとして社会は回り、俺達も高校に行かなければならない。
さて、高校へ行き授業を受ける。特筆すべき事はなく、事が起こったのは放課後である。
「夜空! ぼ、僕と……何処か出掛けないかい?」
「え?」
帰り際、玲からそんな事を言われたのである。
話す彼女の顔は平然を保とうとしつつも目は泳ぎ、緊張している様に見える。
「部活あるんじゃないのか?」
「今日は顧問が休んでるからね、ちょっとだけだけどフリーの時間が出来たのさ! で、どう?」
「俺は別にいいけど」
玲は文化部である俺と違いガッツリ運動部である。その為普段は練習で手一杯であり終わればすぐに待機してある車に乗って帰ってしまう。
彼女はクラスどころか学年の女子に大人気だ。その為食事やら何やらに誘われる事も一度や二度ではないが必ず断っていた。だからこそ、軽くクラスを見回してみると皆二種類の反応を示している。
「え……あの玲さんが?」
「いつも絶対に断ってるのに?」
「あんな顔初めて見た……」
驚愕する者。
「月影さん……そんな……」
「玲様……嘘……」
「櫻井ィ絶許」
哀しみ怒る者。
前者は主に男子、後者は女子が多い。まあ女子にモテてたからね、仕方ないね。
それは兎も角、俺の返事を聞いた玲はパアア、と顔を明るくしまくし立てる様に言う。
「な、なら行こう! 今すぐ行こう! どこに行く?」
「そうだなあ、時間はどのくらいあるんだ?」
「二時間くらいだね。だからあんまり遠くには行けないかな……」
「なら簡単に長田商店街とかか」
「そこでいいよ!」
この近くで出かける場所といえばそこくらいしかない。あとは湊川とか鉄道沿線は今の季節なら桜が咲いていたりもするので時間が余ればそちらに行ってみるのもいいだろう。
俺は背後に居るミズリに向く。
「ミズリはどうする?」
「私もついてい……」
「?」
彼女の言葉がそこで止まる。その視線は俺というよりも、俺の向こう側へと向けられている様で。
因みにこの時、その視線の先では玲が必死の表情で手を合わせていたらしい。
だが後ろに目が付いている訳ではない俺はその事は知らず、正体を確認する前にミズリは再び口を開く。
「………………私は先に帰ります。お二人でどうぞ」
「ありがとうミズリちゃん!!」
珍しいなあ、などとボケた事を考えながら俺は玲の嬉しそうな感謝の声を聞いていた。
──────
「へー、デートかあ。夜空君も隅に置けないね」
「……斉藤さん」
「ん?」
さて、夜空とこれまでで一番の笑顔を見せる玲がクラス中の怨念の視線を受け流しつつ共に出ていくのを見送って達也はそうぼやく。
まあ彼から見ても夜空は優良物件だし当然か、などと考えていると不意に隣に居たミズリから声をかけられる。
「二人を追いかけましょう」
「えっ、でも邪魔しちゃ悪いんじゃ」
「バレない様にすれば大丈夫かと思われます。それにもし何かあった時、マスっ、夜空さん単独では力不足です」
「何かあった時って……」
一体彼女は何を想定しているのだろう。というか、ミズリならもし何かあってもすぐに駆け付けられるんじゃないのか、彼は思う。
だがしかし、一方で彼自身も二人が何をしているのか興味があった。だから──
「おお、良い感じの雰囲気」
「……ソウデスネ」
「ミズリさん顔怖い……」
校門を出てすぐの所に新湊川がある。その川沿いではこの季節になると桜が咲き誇り、新たな門出を祝ってくれる。
二人はそんな下を歩いているだけだが中々どうして絵になっている。両方共スラックスなので一見しただけでは男同士にも見えなくもないが、玲の表情は完全に乙女であった。
そしてどうやら、達也と共に木の陰からコソコソと見る少女にはあまりお気に召さなかったらしい。彼女の顔は彼女の機嫌が悪い時特有の、本当に何を考えているのか分からない無表情であった。
さて、暫く歩くと長田商店街に辿り着く。巨大な鳥居と長田神社に挟まれた道路に発展したここは、市外の人間がわざわざ来る様な場所ではないが、この付近に住む者にとっては貴重な娯楽の場であった。
初詣の時期に来れば売り切りセールなどを行っていたりするのだが、今は大した事はやっていない。二人は適当に服やら靴やらを見て、何故か金物屋に入ったり、話題らしいベビーカステラを買い食べている。
ミズリ達も買い、貪りながら後を追う。
熟年夫婦が歩くには良い町なのかもしれないが、若者同士の逢瀬には少々物足りない。疑問に思った達也が言う。
「それにしても何でこんな所なんだろう。デートならハーバーランドとか行けばいいのに」
「デートじゃないですよ。あと、本来部活をやっている筈の時間で遊んでいるだけらしいのでそこまで遠くに行く時間はないのでしょう」
「なるほどー……休日とか空いてないのかな。どうせなら丸一日空いてる日にすれば……」
「それは……色々と事情があるのでしょう」
「うーん……」
ミズリの返答に、しかしどこか腑に落ちない達也は唸る。
「あの感じだったら絶対に休日に誘うと思うんだけど、それをしないって事はもしかして」
と、何かに気付きかけたその時だった。
「あ、喫茶店に入りました。私達も行きましょう」
「え、でも流石にバレるんじゃ」
「こっそりと入ればバレません。さあ、早く」
「は、はい」
商店街の一角に位置する古ぼけた喫茶店に入った夜空達を追い、二人も入る。普通に入ればカランカラン、とベルが鳴ってしまう為、ミズリが緻密なコントロールをもってして開けて無音で入る。
春の心地良い仄かな光が差し込み、店内を照らす。
「いらっしゃいませ、ご注文は何にしますか?」
「ホットカフェオレで」
「あ、僕はキャラメルラテで」
そして丁度見えづらい位置にある席につき、注文しつつ二人を見て聞き耳を立てる。
「本当に久しぶりだな、こうして一緒に食べたりするの」
「そ、そうだね! 本当に……本当に楽しいよ」
普段と変わらない様な夜空に対し、紅茶を握って頬を染め微笑む玲。その違いがこのイベントに対する重さの差を表していた。
「次はハーバーとかハーブ園とかにしよっか。三宮でもいいけど」
「次……そうだね。うん、次。その次が出来るだけ早く来る様に努力するよ」
「うん?」
カタン、とカップを置き、そんな事を言う彼女に夜空は違和感を覚える。
陽に雲が差し、暖かな光は陰に変わる。
「なあ玲、お前──」
と、彼が言いかけたその時だった。
「──ッ!?」
「えっ、ど、どうした?」
「……何で、何でここに」
不意に窓の外を見た玲が血相を変えて机の下に潜り込む。明らかに異常な行動に彼は困惑し、だが直後入ってきた人物によってその思考は中断された。
「──あら、櫻井の」
「……? どちら様でしょうか」
カランカラン、とベルが鳴り入ってきたのは二人。質の良い和装を身に纏う、少しの老けを厚化粧で誤魔化した女と黒服のガタイの良い男。
明らかにこんな喫茶店とは似つかわしくない人物は夜空達の席に向かって歩き、女が彼へと話しかけ、困惑しつつ返す。
そんな状況は当然後を追っていた二人からも見えており、二人は息をひそめて見守る。
「あれは……」
「え、だ、誰?」
「月影梢、玲さんの現在の母親です」
「え!?」
思いもよらぬ人物の登場に達也は驚愕する。
そして、彼女の登場の直前に玲が身を隠した事で、同時に彼は自分の推理が当たっていた事を確信する。
さて、夜空の返答を聞いた梢は侮蔑が含まれた様な笑みを浮かべて言う。
「月影梢……月影玲、その母親と言えば分かりますか?」
「そうですか、これはどうも。で、自分に何か?」
「いいえ、貴方の姿を偶々見かけて、少し釘を刺しておこうと……」
と、そこで彼女は放置された玲のカップを見る。
「所で、今は誰と?」
「それは……」
テーブルの下に隠れた玲の姿が彼女から見えているのかは分からない。
だが、わざわざ隠れた事、その意味が分からない程彼は鈍感ではなかった。だが同時にどうやって誤魔化そうかと悩んでいた。一人で居た、は流石に通用しないだろうし──
「夜空、お待たせしました」
「え……ああ、ミズリ。いや待ってないよ」
──そこでミズリが飛び出した。
彼女はさもトイレに行っていたかのように振る舞い、先程まで玲が座っていた席につく。本来居ない筈の彼女が良すぎるタイミングで来た事に彼は一瞬硬直するがすぐにその芝居に乗る。
そしてミズリは梢の方を見て、一言。
「私達に何か?」
「……いえ。貴女は確か、留学生の」
「ミズリ・シャーロット・ミルキーウェイです」
「そう、ミルキーウェイ。そうですか、それは良かった」
彼女は脈絡のない言葉を放つ。
「いえね、また私の息子に害虫がついているのではないかと心配になったのですよ」
「……息子?」
夜空が訊く。
「ええ、玲は月影の大切な跡取り息子です。ええ、それを言いに来たのですよ」
「……」
「金輪際貴方は私の息子に近付かないでもらいたい、とね。あれには婚約者も居る、将来も全て決まっている。貴方が近付けばそれだけその軌道が崩れてしまうのですよ」
「それは玲の意思なんですか」
「レイ? そんな人間はこの世には居ません」
「──ッ!!」
勢いよく立ち上がりダン、と机に手を叩きつける。
次の瞬間、控えていた黒服の男が夜空の前に立ち彼を睨み付ける。そんな彼の前にミズリが入り睨み返す。
こんな所でいざこざを起こしても何も解決しないのは夜空とて理解している。その上で、思わずこんな事をしてしまった。
「あらあら、血気の多い野蛮な男やこと。兎も角玲には近付かない事ね。さもなくば|何が起こるか分からない《・・・・・・・・・・・》ですからね……」
「……」
そうとだけ言い、彼女は店から出ていった。
その姿が完全に見えなくなった頃、玲が机の下から出てくる。その顔は先程までと打って変わって青白く染まっていた。
「……はは、うん。いつかこうなるとは思ってたけど、意外と早かったね」
「……玲」
「その名前で呼んだら次こそ何が起こるか分からないよ。もう……ううん。きっと最初から、こんな事しない方が良かったんだ」
そう言う彼女の顔は諦念に満ちていた。
そして彼女はミズリへ向き、頭を下げる。
「ありがとう、ミズリさん。助けてくれて」
「いえ」
「俺からもありがとう。所で何で居るんだ……達也まで」
冷静になって店の中を見てみると、気まずそうに彼らを見る達也の姿が目に入る。
「はは……気になって、ミズリさんとついてきてたんだ。まさかこんな事になるとは思わなかったけど……」
そんなこんなで、もうのんびり飲む気になれなくなったドリンクを飲み干し精算して外に出る。
暖かな春の空は分厚い雲に覆われ、やがてぽつ、ぽつ、と雨が降ってきた。
「雨の予報じゃなかったんだけどな……」
夜空が空を仰いで言う。
「……そろそろ時間だし、僕学校に帰るよ」
「……そっか」
全てを諦めた様な笑顔で玲が言う。それに夜空はその一言だけを返す。
そして学校に足を向けた彼女を彼が呼び止める。
「これ、持ってけよ。こんな事もあろうかと準備してたんだ」
「……え、傘? どこに持ってたの」
「ポケット。もう一つあるから心配しなくてもいいぞ」
嘘である。本当はミズーリの備品だ。
だが、そんな事は知らない玲は驚いた様な顔をして、やがてその傘をぎゅっと握りしめる。
「……ありがとね。明日必ず返すよ」
彼女は歩き出す。少し歩いた所で振り返る。
「今日は本当に楽しかったよ! 僕、頑張るから。いつか隠れなくてもいいように、頑張るから! じゃあね!」
「ああ、またな」
そう言って、彼女は駆けていった。
まるで明日は会えない様な不穏な雰囲気を醸し出しながら──
──家に帰る途中、夜空はミズリと協力してここまで玲と歩いてきた道や店にあった監視カメラの映像を全て改変した。
その日の夜、梢が権力にものを言わせて監視カメラの映像を確認させるもそこに映っていたのは玲ではなくミズリであり、彼女は自らの勘が外れた事を歯噛みするのだった。
そして翌日、何故か何事も無かった事に困惑と安堵の表情を浮かべた玲は言った通りに傘を返した。
監視カメラの映像を消してなかったらこの時点でバッドエンドでした。不穏なフラグは断ち切るに限る
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