質問いっぱい!ミズリの学校生活!
先生が出ていった瞬間、クラスメート達は挙ってミズリの元へ向かい口々に質問を浴びせかける。
「ミズリさん! なんで日本に来たんですか?」
「なんでそんなに日本語上手いの?」
「元から日本に興味がありましたので」
「イギリスって日本とどう違うんですか?」
「やっぱり向こうの飯ってマズイの?」
「人の好みによると思います」
聖徳太子でもない限り聞き取れないであろう質問の濁流。しかし彼女のハイスペックイヤーならばそれを全て聞き分け、全てに回答していく事も容易であった。
その大半は他愛もない物ばかりだったのだが、その中の一人が掛けた問いに対しての回答が少しの波乱を巻き起こす事になる。
「ミズリちゃん! 普段はどこに住んでるの?」
「ええ、櫻井夜空さんの家にホームステイをしています」
瞬間、先程までの喧騒が嘘だったかの様に静まり返り、ミズリを取り囲んでいた生徒達の視線が全てこちらに注ぎ込まれる。そこからは溢れんばかりの嫉妬が含まれていた。
「先輩ズルいですよ!!」
「あんな美少女と一つ屋根の下で暮らしてる!? 許せねえ……」
「家ではどんな関係性なんですか!?」
途端に囲まれる俺。
何となくこうなる事は察していたのだからミズリもそれとなくぼかしてほしかった。いやまあ玲にはバレてるし時間の問題か……
「あーもう囲むな一斉に喋るな! 俺は聖徳太子じゃないんだが!?」
「でもミズリさんは聞き取れてたじゃないですか!」
「そうだそうだー!」
「彼女とは家ではどの様な会話を!?」
まるで聴覚にノイズがかかったかの様だ。俺は次々と繰り出される質問という名の尋問に揉まれ続ける事になってしまった。
「やあミズリちゃん、大変だね」
「月影さん。お久しぶりです」
「ああ、そうだったね。久しぶり」
生徒達の矛先が夜空に向き、一転して静かになったミズリに玲が話しかける。
「それで、何かご用ですか?」
「別に用って程の物でもないけどね。学級委員長として、これから共に勉強するクラスメートに挨拶するのは当然だろう?」
ははは、と軽く笑い、少し何かを考える様に手を顎につける。
そのまま横目で夜空の方を見て言う。
「まあそうだね……世間話でもしようか。皆はまだ彼に夢中の様だし」
「……ですね」
「ミズリちゃん、キミはヒーローについてどう思う?」
「ヒーロー、ですか……」
あまり脈絡もなく放たれたその単語を、しかしミズリは表情を一切動かす事なく反芻する。これがもしも普通の人間だったならば動揺してしまっていたかもしれない。
何しろミズリこそ、今日本を騒がせているヒーローその人なのだから。
「そうですね。私はあまり信用していません」
「……それは、マジカル☆ミルキーもかい?」
「ええ」
彼女はあくまでも"第三者目線"で物を言った。
セイバーズに所属するヒーロー達とマジカル☆ミルキーが違う、という事を理解しているのは彼女らだけなのだ。
「でもどうして? 彼女らは怪物を倒して世界を救っているじゃないか」
「その怪物に対してあまりにも都合がよすぎるからです。通常兵器が殆ど通用せず、彼らの攻撃のみが通用する……現実的に考えれば有り得ません」
「確かにそうだね」
因みにその"現実"とは頭に"地球の"が付く。
ミズリ達は、イルミスでの経験からそういった存在がある事も認知している。その最たる例が神や天使であり、艦の主砲が効かない神イルミスに対して明らかにそれよりも威力の低い魔王の斬撃が通用していた、という場面があった様に。
それを為しているのが魔力であり、ミズリは自らの常識──データベースに新たな項を作らなければならなくなった。
それはさておき、次に玲が複雑な表情を浮かべながら訊く。
「じゃあ……サンシャインサムライについてはどう思う?」
「サンシャインサムライですか。情報が少なすぎてあまり言う事はありませんが。まだ一度しか我々の前に姿を現していないでしょう」
「……それもそっか。うん、そうだね」
ミズリの言葉を聞き、玲は一瞬驚いた様な顔をしてすぐに元のキリリとした表情に戻る。その理由に、ミズリは思い至る事が出来なかった。情緒がかなり成長したとはいえ、彼女は未だ人の感情の機微に対しては疎かった。
ミズリは情報収集の為にその優秀な処理能力を用いてインターネットを徘徊していた。
だからこそ、彼女は知っていた。ネット掲示板においてサンシャインサムライについて想像に妄想を重ねた様な考察が繰り返され、結果それらがまるで事実かの様に語られている事を。
そして、語られたその大半がサンシャインに対しての誹謗中傷である事も。ネットに棲む住民は、サンシャインが正体を隠したという事を肌で理解しており、幾ら誹謗中傷をしたとしても訴える事はないという事も理解していた。尤も、本当にそんな予防線を気にしていたかどうかは分からないが。結局実在の芸能人に対してだって何とでも言ってしまうのだから。
そして、ミズリはそれらの情報と目の前の玲の表情の変化を結びつける事が出来なかった。もしもこの段階で結びついていれば、この先に起こる出来事を幾つもスキップする事が出来たかもしれないというのに!
しかし、如何に優秀なミズリといえども未来は分からない。全ての情報を集めれば未来を予測出来るというのは量子力学の発展で既に否定されているのだから。
さて、そうして話が止まってしまった二人の間にクラスメートが割り込んでくる。
「今、ヒーローの話をしてました!?」
「うわあびっくりした」
「ええ、していましたよ」
茶髪の女子生徒が一人、目を輝かせながら入り込む。
「私っ、私はヒーローについてはこの中の誰よりも知っていると自負してるんですよ!」
「そうなのかい? ならキミにも話を聞こうかな」
彼女は所謂ヒーローオタクであった。
世界にヒーローが現れてから公式非公式合わせて様々な本やグッズが出版されてきた。そうなれば当然こういった者も現れるというものだ。
彼女にとっての不幸は、今目の前に居るのはヒーローを誰よりも調べ、実際にその真似事をしている一般アンドロイドと実際にヒーローになった少女だという事。しかし彼女がその不幸を認知する事はないだろう。
「あ、申し遅れました。私、花咲実来といいます!」
「はは、さっきも聞いたから知ってるよ。じゃあ僕らでヒーロー談義としゃれこもうか。キミはサンシャインサムライやマジカル☆ミルキーについてどう思う?」
「そうですね……まず、他のヒーローとマジカル☆ミルキーは少し違う気がします。セイバーズに入るのを拒否した、というのもあるんですけど、一番は時間です」
「時間?」
そう聞き返したのはミズリである。
「ええ。他のヒーロー達が怪物が出て現場に駆け付けるまで平均4分23秒かかってるんですが、マジカル☆ミルキーだけは僅か10秒足らず。加えてこれまで二度現れているんですが、その両方で死傷者を一人も出していないんです」
彼女は所謂ガチなオタクであった。まあヒーローが現れてからまだ時が浅く調べる内容も少ないというのもあるのだろうが、到着時間まで計測しているのは世界広しといえどもそこまでいないだろう。
「なるほど」
「……確かにそうだね。彼女は実際凄いと思うよ。あのスーパーセイビアだってそれ程早くに現場には行けないし、死者だって出してしまってる」
「ええ、でもそれが逆に怖いな、とも思ってて」
「「怖い?」」
ミズリと玲の言葉が重なる。
「だって、他のヒーローの到着が遅れるのは仕方がないと思うんです。怪物の出現を聞いて、そこから飛んでいくんですから。でもマジカル☆ミルキーの場合は怪物の出現とほぼ同時……未来でも予測出来ないと説明がつきません」
実際には技術力のゴリ押しなのだが、それを知らない者がこういった感想を抱くのもまあ仕方ないのだろう、ミズリは納得する。
この余りにも迅速過ぎる対応の裏には、夜空の「救える命は救いたい」という信条があった。普通に暮らしていた者がある日突然日常を奪われる辛さは身をもって知っている訳だ。
だがそれがかえって不安と疑惑の種となっていたらしい。想定内といえば想定内だが、ミズリの心情は複雑だった。
「キミはサンシャインサムライについてはどう思う?」
「彼女ですか? 私もミズリさんと同じであまり情報が無い状態では語る事はありませんが……強いて言うなら、彼女はマジカル☆ミルキーに対して嫉妬している様な気がしますね」
「嫉妬……か」
「はい。これは考察になりますが、何となく彼女はこれまでのヒーローと同じ様な気がするんです。コスチュームのデザインの方向性とかから……なので、彼女が本来得る筈だった活躍の場をマジカル☆ミルキーが奪っている、と、まあ所詮素人の妄想に過ぎませんが」
「……まあ、意外と合ってるんじゃないかな、うん」
そう呟いた玲の顔に浮かんでいた表情は、張り付けた様な微笑みだった──まるで何かを隠す様な。
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