幼馴染現る!
非常に遅れてしまって申し訳ございません。
『マジカル☆ミルキー氏、日本政府は貴女に対して十分な報酬を……』
「おお、やってるやってる」
ミルキーの初陣の翌朝、テレビをつけると瘦せぎすの官房長官が会見を開いていた。内容は日本に現れたヒーロー、魔砲少女マジカル☆ミルキーに対する物である。因みにテロップには「魔法少女」と書かれているが俺の想定では「魔砲少女」である。別にどちらでも構わないが。
しかしまあ、日本という国のほぼトップにいる人間が魔法少女とかいう単語を口にしている光景はどこか滑稽である。あちらは大真面目だろうから笑うのは悪いだろうが、官房長官記者会見の看板をぶら下げてこれを言っているのだから笑ってしまうのも仕方ないだろう。
それはともかく、これは予想通りの反応である。そしてマジカルミルキーはこれに対して沈黙を貫く。ここでノコノコと出ていったら態々面を着けている意味がない。
一先ず、この先何かが起こるまではミルキーは黙々と怪物を倒すのみとする。
「マジカルミルキーねえ……どんな子なのかしら」
母さんがテレビに映し出されたミルキーの写真──監視カメラの物だ──を見て呟く。因みにそのミルキーだが今貴女の隣で黙々とパンにジャムを塗っている。
「意外とその辺にいるかもよ~?」
「そうかもしれないわね……でも、こんな女の子に頼らなきゃいけないなんて辛いわねえ……あら? 誰かしら、こんな時間に」
「俺が出てくるよ」
「私も行きます」
そんな事を話していると、不意にチャイムが鳴る。
玄関に行き、扉を開く。そこに居たのはトレンチコートとストレートパンツに身を包んだ黒の短髪の女子。一見すると男にも見える彼女の顔に俺は見覚えがあった。
俺は若干緊張した様子の彼女に対して声をかける。
「玲? 久しぶりだなあ!」
「っ……」
俺がその名前を呼ぶと、彼女は一瞬感極まった様な歓喜の表情を浮かべ、そしてすぐに平静を取り戻す。
「……今は玲なんだ、文字は同じだけれどね。月影玲、それが今の僕の名前だよ」
「そうなのか? あと何か色々変わったな」
彼女は俺の幼馴染だ。昔の名前は確か"五月玲"で、髪も長く一人称も"私"の可愛らしい雰囲気の少女だった筈である。それが今は"僕"という一人称も相まってキリッとした雰囲気を感じさせる見た目になっている。
「六年も経てば人は変わる物だよ」
「それもそうか。それにしても六年、六年かあ」
そんなに昔だったか。確かに彼女が転校したのが俺が小学五年生の時だから……六年か。
ただ苗字まで変わっているというのは……彼女の背後、俺の家の前に停まっているのは黒の高級車、執事まで控えている。彼女の家がそこまで富裕層であった印象はないのだが……あまり触れない方がいいだろうか。
「そんな事よりも! 夜空君が半年間も行方不明になったって聞いて心配したんだよ? 一体何があったんだい?」
「いやあ、それは俺もよく分かってないんだ。記憶が無くてさ」
「そ、そうなのか……ん?」
と、そこで彼女の視線が俺の背後に向き、その黄土色の瞳にミズリの顔が映る。
──瞬間、彼女の顔の温度が急降下した。
「……誰、その娘」
「初めまして、月影様。私はミズリ・シャーロット・ミルキーウェイという者です」
「彼女は留学生でさ、俺の家でホームステイしてるんだよ」
俺が答えると、彼女は少し安堵した様な表情に変わる。
「……そうなんだ。こちらこそ初めまして、ミズリさん。僕は月影玲、今度の四月から彼と同じ高校に通う事になった、彼の幼馴染だよ」
「えっ、そうなのか?」
さらりと告げられた衝撃の事実。
「うん。僕は今年高校一年生だからね、同じ学校に通える様に受験したんだ」
玲は俺の一つ下である。だから本来であれば彼女が一年生であれば俺は二年生の筈なのだが。
「そういえば夜空君はもう一回一年生をやるんだっけ? ふふ、楽しみにしているよ」
「そうか、俺も楽しみだよ」
「っ……ありがとう」
そんなやり取りをしていると、背後に控えていた執事が彼女に耳打ちする。
「お坊ちゃま、お時間です」
「……そろそろ行かなきゃいけないみたいだ。またね、夜空君」
「ああ、またな!」
そうして、彼女は高級車に乗り込み何処かへ行ってしまった。
しかし、思わぬ再会をしたものである。昔はよくキャンプなどにも行っていたものだが、ある時に親の仕事の関係で東京に行ってしまいそれ以降あまり会わなくなっていた。
ああ、懐かしい記憶が蘇る。彼女と同じ学年で通えるのだからある意味では不幸中の幸いと言うのだろうか。イルミスに召喚されたのも完全に無駄ではなかったのかもしれない。
そんな事を考えていると、ミズリが言った。
「達也様以外にも幼馴染がいらしたのですね」
「そりゃそうだろ」
──────
───
─
「ッ……」
彼の家から遠ざかっていく車窓から彼の姿を見つめる。心が締め付けられる様に痛い。留学生らしい銀髪の少女と玄関先で仲睦まじそうに話す彼の姿を目にしているからだろうか。
最初は会うのが不安だった。
何もかも変わってしまった私の事なんか分からないんじゃないかって。今の自己を彼に自分の口で紹介するなんてとてもではないが耐えられそうになかったから。
でも、そんな心配は杞憂だった。彼は……夜空君は事無さげに平然と僕を私だと言ってくれた。今となっては彼の事を少しでも疑っていた自分がどうしようもなく恥ずかしい。
──だから、彼の背後にあんな美しい少女がいるのを見た時、私の視界は闇に包まれた。留学生らしいが、先程の姿を見ていれば……いや、二人の間から感じられる雰囲気からは到底それだけの関係性だとは思えない。
両手で顔を覆う。思わずマウンティングを取る様な言葉遣いをしてしまったが、本来僕にはそれをする権利なんてないのだ。
会えなかった、なんて言い訳にはならない。彼にとっては私なんて六年前に別れてそれっきりの単なる幼馴染の一人に過ぎないのだから。本来、僕にとっても彼はそれだけだと思っていた。いや、信じたかった。
だから、彼が集団拉致事件に巻き込まれて消息を絶ったと聞いた時に自分の視界から色が失われるのを感じた時、僕は自分の心の中で渦巻くそれを改めて思い知らされたのだ。
それから半年経ち彼らが見つかったと聞いた時、本当なら僕は誰よりも早く彼の元に駆けつけるべきだったのだろう。でも、僕はそれをしなかった。自分の全てを放り出してしまえる様な勇気は自分には宿ってはいなかった。所詮そんな人間なのだ、僕は。
「……」
自分の右の掌を見つめる。
何も出来ない人間は、所詮力を得ても何も出来ないままなのだ。結局心も性根も何も変わらず、ただ立ち尽くすだけの弱い人間。
彼と同じ学年になれると聞いた時、僕は彼が例の事件に巻き込まれてくれてよかった、なんて思ってしまった。僕はそんな醜い人間だった。
分厚い雲が空を覆っていく。
陽光はいつまでも私を照らす事はない。
新キャラ追加。
実は主人公に対して明確に恋愛感情を向けているキャラは彼女が初めてです。
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