後処理
時は少し遡る。
「──さて、どうやって地球に降りようかね」
遠方にて輝く青い星を眺めながら俺はそう呟く。
それに対し、イリィが純粋な問いを尋ねる。
「ふつうにおりたらだめなのです? イルミスではそうしたのです」
「地球だとそれをしちゃうとマズイんだよな。宇宙戦艦なんて構想すらされてないし余裕で見つかっちゃう」
「みつかったらだめなのですか?」
「まず普通の生活は送れないな。イリィちゃんだって達也と離れ離れにされちゃうかもしれないぞ」
「そ、それはいやなのです……」
イリィが青い顔をして達也の裾を握る。
ワープどころか太陽系すらマトモに出られない文明だ。宇宙戦艦を持つ個人が居るとなればどんな事をしてでも手に入れようとするだろう。まあ最悪の場合地球脱出という手段があるのだが、それではこれまでの苦労が全て水の泡だ。
あくまでも俺達の目的は「家に帰り、これまで通りの生活を送る事」なのである。
「ミズリ、何かいい方法はないか?」
俺は背後に控えていた銀髪の少女──ミズリに尋ねる。
「……では、この様な方法は如何でしょうか」
「面白い程上手くいった……」
「流石ミズリさんだね」
翌日、俺達は病院で寝かされていた。
俺達がとった作戦はこうだ。
まず、乗っていた全ての人間を艦載機に移し、ミズーリを収納する。輸送機であるコスモエーゼルならば押し込めば十数人は乗せる事が出来た。因みにイルミスでの最終決戦で一機失われたコスモエーゼルだが、三カ月もの旅の間に艦内工場で作り直していた。
そうして気絶中のクラスメイトで満載の二機のコスモエーゼルをそれぞれ俺とミズリで操縦し、ステルスモードにする。
さらりと語られたこのモードだが、少なくとも地球の技術力であればレーダー等に一切映らなくなるという全ての軍が欲しがる代物だ。相変わらずミズーリの技術力は凄まじい。
さて、しかしステルスモードであっても肉眼には映る。なので日本が深夜になるまで待ち、その上で人目の少ないであろう山中に流れ星を装って降り立ち、低空飛行で人里の近くまで運ぶ。俺達だけが気絶していないのは不自然なので俺、達也、松本先生はミズリにショックモードで気絶させてもらう。
かくして次の日の朝、偶然通りかかった者が見たのは、山道の脇に学生服を着た少年少女が大勢倒れているという奇妙かつ恐ろしい光景であった。
その者はすぐさま救急車と警察を呼び、そしてその生徒達が半年前に兵庫県の天宙学園高校にてクラスごと行方不明になった者達だと判明。全員特に外傷は見受けられずただ気絶しているだけだったが、念の為に病院に送られたのだった……という訳だ。
そしてミズリとイリィだが、二人は取り敢えず潜伏してもらう事にした。二人には日本国籍がなく、それどころか世界のどこにも本来存在しないのだ。見つかれば大騒ぎになる。
まあ街中をふらふらと歩いている分には特に問題ない──イリィの耳と尻尾を隠していればだが──ので、この半年間で世界で何が起こったのかを調査してもらう事にした訳である。
そうして知ったのだ。今この地球が、まるでマー○ルの様な世界になっているという事を。
まず疑ったのは、俺達が帰ってきたのは元の地球ではない、という可能性。エリスフィーズがやったのは単なる長距離転移ではなく本当に異世界へ転移させていたのではないか……
だが、どうやらこんな世界になったのはほんの一ヶ月前かららしい。それまでは俺達のよく知っている世界と同じだった。もしかしたらこれまでも俺達の見えない所でヒーローとやらが活躍していたのかもしれないが、まあそれはいいだろう。
「本当に何も覚えていないのかね?」
「はい……気付けばこの病院で」
「そうか……災難だったね」
さて、それはさておき今俺は取り調べを受けている。
とはいっても犯人として疑われているという訳ではない。半年にも及ぶ失踪について何か知っていないかを訊かれているだけだ。対峙しているのも病院内の普通の個室だし、相手の刑事も特に疑っているという訳でもなさそうだった。
「君達は、今の世界の状況について知っているかね?」
「テレビで放送されている事しか知りません……何か、凄い事になってるみたいですね」
「うむ。まるで映画の世界にでも紛れ込んでしまったのではないかと考えてしまうだろうが、これが現実だ」
病室にはテレビがある。捜査の為にスマホ含め持ち物を一旦取り上げられている俺達にとってはテレビが唯一の娯楽だった。
なので、怪物やヒーローが現れている事を知っている事自体はおかしくはないのだ。実際俺もニュースをつけてアリバイ工作はしていたので不自然な点はないだろう。
その後世界の状況について改めて説明を受け、俺の取り調べは終わった。
彼によれば、特に身体に異常は見受けられなかったので数日の経過観察ののちに退院できる様だ。
そして数日間、家族との再会や新聞の取材などを受け、俺は晴れて退院する事となった。
拍子抜けだったのは、取材が少なかった……というか、数社しかなかった事だ。まあそれだけ怪物の件で忙しいという事なのだろうが、正直かなり身構えていたので安心したというか少しがっかりしたというか……まあボロを出さずに済んだと思う事にしよう。
そうして退院した俺達だが、これといってする事もなかった。何しろ世間は春休み、学校も無くアルバイトをしていた者もすぐに戻れる訳でもない。
これは松本先生に聞いた話だが、学園側では俺達の処遇についてかなり紛糾している様だ。半年間、一クラス丸ごと抜けるなど前代未聞の事態である。教育課程を修了している訳ではないので普通に進級させる訳にはいかないし、かといって特別に一クラス増やすというのもこの段階では不可能だった。
最終的にはメンバーを新一年生のクラスに分散させる事になりそうだ、とも彼は言っていた。俺としても、記憶を失っているとはいえイルミスであんな事をされたクラスメイト達とまた一年過ごすというのは精神的にもかなりの苦痛なので助かった。
ミズリとイリィについて。
まず、ミズリは俺の家でホームステイをする事になった。人というものは、隠そうとしてもポロっと言ってしまうものだ。なので俺は両親に自らのスキルを話さなかった。
ミズリだけ一人暮らしという訳にもいかないし、必然的に留学生という設定にするしかなかった。
また、イリィについては達也の家で養子として迎え入れる事になった。どうやら達也は異世界について一部話した──俺については一切話していない──らしい。彼の親からしてみれば到底信じられる話ではなかったが、達也達が半年間謎の失踪をした事実とイリィの耳と尻尾を見て引き取る事を決めた様だ。
因みに二人の戸籍などについてはミズリがちょいちょいっとしてくれた。宇宙戦艦の手にかかれば現代地球のセキュリティなど児戯にも等しいのだ。
かくして、四月からミズリは留学生で新一年生として、イリィは小学一年生としてそれぞれ学校に通う事になったのである。
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