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ミズーリでの一日

 レヴィドリアン帝都にグレイスを送り届け、ついでに観光をしてきた俺達はようやく元々の帰路についていた。俺達の目的は地球へ帰る事なのだ。

 あ、因みに帝都は若干微妙だった。レードストーンよりも遥かに発展した都市、未知の娯楽、未知のグルメ……楽しかった事は楽しかったのだが、異星人への排斥意識があまりにも強かった。

 住民からは奇異の視線に晒されるし、何度憲兵に捕まったか分からない。一応レードストーン伯爵が発行した許可証を見せればすぐに下がったけれど。そんなこんなで、一泊もせずに出ていってしまったのだ。やっぱり地球が一番である。


 さて、現在俺達は地球へ向けて宇宙空間を航行している。これは、そんな一日の話である。


──────


0800(マルハチマルマル)


 起床。

 宇宙空間には朝も夜も無いが人間には必要なので一応艦内時刻が設定してあるのだ。同じく曜日も設定があり、今日は金曜日、平日なので起床は八時までと決めてある。


「おはよう、夜空君」

「おはよーなのです!」

「ああ、おはよう」


 眠い目をこすり寝ぐせも直さぬまま食堂に行くと、そこには達也とイリィの姿があった。テーブルの二人の前には食べかけの食パンとベーコンエッグ、サラダと牛乳。

 元々達也はここまでキチンと朝食を摂るタイプではないし、何なら牛乳も苦手だったのだがイリィの手本となる為にこうして毎朝ガッツリと食べる様になった。完全に親である。


 五人の中で最も起きるのが遅いのが俺だ。彼は毎日イリィに起こされるし、先生は唯一の大人として規範になるよう努めているらしいし、ミズリはミズリだし。


 それはさておき、自動調理器で朝食を注文する。眠くてあまり食欲がない……今日は少なめでいいか。


「ミニクロワッサン一つ──」


 と、自分へ言い訳をしながらカスみたいな朝食を頼もうとしたその時、不意に背後から声が聞こえてくる。


「マスター、それでは推奨エネルギー量に達しません」

「……おはよう、ミズリ」


 いつのまに現れたのか、そこにはミズリが立っていた。

 彼女は睡眠を必要としない。なので俺が寝ている間の艦の制御を任せている。


「おはようございます。今の注文に追加でミニクロワッサン一つとコーンポタージュ、ベーコンにサラダ、牛乳を。よろしいですか?」

「ああ、うん……」


 俺に異論を挟む余地を与えず、形だけの承諾を取ってガッツリとしたメニューを注文する。

 何だか最近ミズリがオカンみたいになってきた。しかもしっかりと計算に基づいてくるのでこちらが反論する余地もない。

 そうして数分も経たずに出される今の俺にはあまりにも多い朝食。コンナニタベラレナイヨ……



【0900】


「よーし、今日の授業を始めるぞー」


 艦内にある会議室、そこの教壇に先生がタブレット片手の立ち、言う。それを聞くのは俺と達也。

 これも皆で決めた事である。俺達がイルミスへ召喚されたのは一年の七月。そこから今まで大体半年経っており、その間何も勉強をしなければ帰った時に何も出来なくなっていてしまう。地球に帰った後は「記憶が無い」で通すつもりなのでそこで勉学について忘れていては齟齬が生じてしまうのだ。

 俺は記憶力が良い方なのでまだいいが、達也はそうではない。先生としても長期間勉強から離れるのは生徒としても教師としても好ましくないのでこうして授業を開く事になったのである。

 教科書は召喚された時に持ってきていた物……はゴタゴタで無くなったので、ミズーリの電子アーカイブにあった物を使っている。この電子アーカイブにはどういう訳か2022年時点での|全ての書籍・映像コンテンツ《・・・・・・・・・・・・・》が入っており、当然使っていた教科書もあった。

 他にも映画やら漫画やらと色々あり、少なくとも暇する事はなさそうだった。何故あるのかはミズリも知らない様だったので取り敢えずは考えない事とする。まあどのみちここには地球の法は届かないので気にする必要もない。

……え? 帰った後? まあ……ここはとある外なる神系宇宙人銀髪美少女の言葉を借りよう。そう──「バレなきゃ犯罪じゃない」


「ここは世間一般的にはこうなっているが、最新の研究によれば……」

「この研究者はこう言っているが、この資料とこの資料を照らし合わせれば……」

「実はこの裏では……」


 さて、今は世界史の時間。先生の専門科目なので心無しかイキイキしている。

 作っていたらしいスライドを映し、アーカイブから引っ張ってきたらしい海外の稀覯本を思う存分引用しながら授業を進めている。お陰で密度が召喚前のそれとは遥かに高いし、まあ退屈はしない。

 あんまり受験には役立たなさそうだけれども、少なくとも先生はとても楽しそうだった。


 やるのは世界史だけではない。他にも数学や国語、理科も行っている。教員免許を持っているので専門分野外でも教科書さえあれば出来るらしい。テンションは目に見えて低いが。



【1200】


 昼食の時間。今日は金曜日という事でカレーである。

 海軍では長い航海の中で曜日感覚を失わない為に特定の曜日にカレーを食べていたという。それに倣い、ミズーリでも毎週金曜日にカレーを食べる様にしているのだ。


「いただきまーす! ハム……おいしいのです!」

「良かった。今日のは俺達で作ったんだよ」


 ミズーリの食堂は自動調理器だけでなく最新の道具が揃ったキッチンもある。

 まあ、俺達の中にプロの料理人がいる訳ではないので調理器で作られた物の方がおいしいのだが、気持ちの問題である。それにカレーは誰が何をしようが取り敢えずカレーにはなる。


「これは……鯨か。懐かしいな」

「あまいのです~」


 今回のカレーはカツカレーである。そして、載せてあるカツは鯨カツだ。

 また、隠し味としてコーヒー牛乳を入れてある。イリィの顔が蕩けているのはその為だ。この方法は自衛隊で行われている物であり、彼女はまだ子供だし本格派よりも甘い方がいいと思ったのだ。

 しかし、流石は自衛隊採用、ただ甘いだけでなく深いコクも出ている。またやろう。



【1300】


 昼寝。



【1500】


 イリィは昼寝を終えて先生による勉強タイム。そして俺達は、艦内にあるジムで運動だ。

 航海は長く、身体が鈍ってしまわない様にミズーリにはジムが設置されている。ある物はどれも高度な技術が使われた物ばかりであり、かなり効率良く鍛えられている気がする。

 特に俺はスキルによる身体能力向上の恩恵がないので鍛えておかないとな。



【1900】


 夕食。今晩は唐揚げだった。



【2000】


 風呂。

 ミズーリにはかなり大き目の浴場が設置されており、また鉱物資源を組み合わせて日本各地の温泉を再現できる機能まで備わっている。今日は赤茶色の温泉──日本三大温泉の一つ、有馬温泉の金泉だ。

 硫黄の匂いが漂う中、俺と達也と先生は浸かっている……まあ、野郎共の風呂シーンなど誰得の極みなので、今回はもう片方を描写しよう。


「わーい!!」

「浴室で走るのは危険ですよ」


 ガラリ、と浴室の扉が開き、そこから一人の少女が駆け出してくる。所々濃い体毛で覆われた未発達の身体に、頭部には獣の様な耳、臀部には尻尾が生えている──イリィである。

 そんな彼女の後に入ってきたのは、彼女よりも二回り程大きい少女。

 丸みを帯びた均整のとれた肢体。大きすぎず小さすぎない適度な胸元、程よいくびれ、すらりと伸びた足。陶磁の様な純白の肌に腰の部分まである銀色の髪、人間離れした端正な顔立ち──ミズリである。


 さて、イリィが一つのシャワーの前に座り、身体を洗う。これまでの入浴を通して彼女はミズリからしっかりと入浴のマナーを学んでいた。

 そんな彼女の隣で同じく身体を洗い、お互いに背を流して風呂に入る。


「はあ~……きもちいいのです……」

「……ふぅ……」


 顔を蕩けさせるイリィ、隣で無表情のまま微かに息を漏らしつつ浸かるミズリ。

 ある程度身体が慣れてくると、徐々に中の景色を楽しむ余裕も出てくる。


「へんなかたちのほしがみえるのです」


 イリィが窓の外を指差して訊く。

 浴場には外が見える窓──正確には、外部をリアルタイムで映し出している液晶パネルがあるのだ。それ以外の壁もデフォルトではタイルとなっているが、やろうと思えば全面をどこか観光地の景色にしたりも出来る。

 さて、ミズリがイリィの指差した遠方のエメラルドグリーンのモヤについて説明する。


「あれはフォルスタナ星雲ですね。地球から約800万1700光年、現在の位置からだと862光年離れている直径約5光年のガス状星雲です」

「ふぁる……? がすじょう……?」

「ガス状星雲というのは星間物質……岩や塵、ガスなどが光っている宙域の事です。フォルスタナ星雲は反射星雲の一種で、ヴェルストリウム……特殊なガス性鉱物を豊富に含んだ氷塊が付近の恒星の光を反射してあのような美しい光景を作り出しているそうですよ(※帝国領宙管理省観光課ホームページより)」

「お、おおお……よくわからないけどすごいのです」


 ミズリなりにかなり嚙み砕いて説明したものの、やはりイリィはあまり理解出来なかった。彼女は深く考えるのをやめ、目の前の美しい景色に思いを馳せる事にした。


 勿論、二人は上がった後フルーツ牛乳を飲んだ──例のポーズで。これもまたマナーである。(諸説あり)



【2100】


 風呂から上がり、各々がそれぞれ休憩する。

 ミズーリのアーカイブには無論全てのゲームも存在する為、ビデオゲームがしたければコントローラーを工場で人数分作って遊ぶし、ボードゲームがしたければ印刷する。

 先生は相変わらずアーカイブの中から稀覯本を印刷して──先生は紙じゃないと読めないタイプ──読み漁っている。俺はやりたかったゲームやら読みたかった漫画やらを楽しみ、イルミスに居た頃の生活がまるで幻の様に思える程快適な暮らしを送っていた。



【2200】


「総員に通達、本艦はこれより定例のワープに入る」


 一日の終わり、ワープの時間である。

 ミズーリの行える最大のワープには24時間のインターバルが必要だ。ワープ回数は精神的にも身体的にも少ない方がいいので、毎日時間を決めて行っている。


 さて、その最大のワープだが一度につき約800万光年を跳躍する事が出来る。

 そして、現在の位置は──



「ワープ準備、目標──地球!!」


次回から第二章となります。結構毛色の違う話になると思いますがよろしくお願いします


高評価、ブックマークはモチベに繋がるのでよろしくお願いします

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