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謎の少年

「……」


 今、ホログラムスクリーンで一つの動画を見ている彼女の名はサーシャ・ドーリズ・レードストーン伯爵。レヴァルス前伯爵の妻であり、レックスの義母でもある女性。レヴァルスは探検家としての側面も持っており、よく領地を離れていた。

 その時から代理で領主を務める事があり、そしてその流れでレヴァルスがサーレンス星雲──イルミスのある銀河──にて消息を絶った後死亡認定された時も彼女が伯爵号を一度継ぐ事になった。それがもう十年前の話である。

 二人には実子が居なかった。その寂しさを紛らわせる為か、はたまた社会貢献か、兎も角二人は孤児を引き取る活動をしており、レックスもその中の一人だった。そして、だからこそ次期当主も決めておらず、グダグダと現在もサーシャが伯爵を続けているらしい。


 そんな彼女に、俺はコントリール海の沈没船から回収した動画とレックスから託された動画、そして同じく沈没船で回収したドッグタグを渡した。

 前者はレヴァルスがサーレンス星雲に着いてからイルミスで死ぬまでの記録、そして後者は──レックスがサーシャに充てて新たに収録した、メッセージビデオである。


 それらを観終わった彼女は、目元を髪で隠しながら言う。


「……事情は分かりました」


 そして一呼吸置き、言った。


「ありがとう、ございました」


 ポタリ、ポタリ、と彼女の向かう机に水滴が落ちているのを俺達は見ないふりをした。



「貴方達がこれを届けて下さったお陰で……十年来のモヤが、どこか……晴れた様な気がします。少なくとも、夫の最期を知る事だけは出来た……」

「……」


 悲しさを嚙み殺す様に彼女は言う。


「お礼に何かさせてください。何でも構いませんよ」

「い、いえそんな」

「言ってください。これは私の為でもあるのです」

「そ、そうですか……」


 正直この状況で何か頼むのは弱さに付け込む様で嫌なのだが、これ以上拒んでも彼女の気が収まらないだろうという事で。


「じゃあ──」



「──言ってみるもんだな」


 街中を歩きながら、俺はスクリーンに表示された文字列を眺める。

 サーシャに頼んだ物、それは『レヴィドリアン帝都に入れる権利』だった。今俺達が持っている第三種帝国通行許可証では帝都には入る事が出来ないのだ。

 しかしそこは流石伯爵、こんな得体のしれない俺達にもあっさりと許可証を発行してくれた。レックスの動画があった事もあるのかもしれない。それに、少なくともレヴァルスのドッグタグは本物だったのだ。それで信用したのだろう。


 さて、とにもかくにもこれで要件は済んだわけだ。肩の荷がおりた俺達は今、折角のレードストーンを観光していた。

 これは、その道中での出来事である。


「いやあ、こんなに発展してもやっぱり路地裏は路地裏なんだなあ」

「あまりこういった場所に近付くのは推奨しません」

「まあ大丈夫だろ」


 薄暗く細い道を、俺はミズリからの小言を聞き流しながら歩く。

 この言葉からも分かる通り、俺とミズリは今路地裏を歩いている。理由は、単純に気になったからだ。それにこういった場所にロマンを感じる性格でもあるし。他の三人は特に興味がないとの事なので別の場所に行っている。多分正解の選択である。

 謎のパイプやらゴミやらが落ち、朽ちた排水口から小さな虫が覗く路地、少しジメジメしていて気味が悪い。


「おっ、野良猫……猫?」

「レイファーパルです」


 街中では全く見ない野生動物も、こういった場所ならば見る事が出来る。

 目の前に現れたのは体長30センチ程の白色の体毛を持つ小動物。一見すると猫の様だが、その耳は長く垂れ下がり、ゆらゆらと動く尻尾は三本ある。

 俺の疑問にもミズリはすぐ答える。彼女は星に飛び交うインターネットから情報を取得していた。

 それにしても、レイファーパルというのか。俺がまじまじと眺めていると不意にそれは路地の奥へと行ってしまう。

 野良猫……野良レイファーパルが居たら軽く追いかけてしまうのが人の性。本能に従ってテクテクと路地を進む。


──この時の選択を、すぐに俺は後悔する事になる。


「……マジかよ」


 それ(・・)を見つめて立ち尽くす俺にレイファーパルがマア、と鳴く。


「鼓動・呼吸弱、体温摂氏34.8度、重度の栄養失調です」

「見ればなんとなく分かるけど……嘘だろおい」


 路地を進んだ俺を待っていたのは、倒れ伏す小さな子供の姿だった。バツが悪そうに顔を押さえる俺を他所にミズリは子供の健康状態を確認する。

 その子供はレヴィドリアン人の少年だった。歳はイリィよりも少し上──8、9歳くらい──だろうか。幾つもの傷や埃が付いた白い肌は更に白く染まり、服と呼ぶのも烏滸がましいボロ衣を纏い、胸元はよく見て漸く分かる程度に上下している。 

 他のレヴィドリアン人と比べてもかなり整っていると思われる顔はやはり傷だらけで、力なく閉じられた瞼や白い頬からは一切の生気が感じられない。


「どういたしましょう」

「どうする、って……」


 正直、厄介ごとの臭いがプンプンする。本来なら公的機関に任せるのが一番なのだろうが、しかし目の前の子供は少しでも目を離したら死んでしまう様な気配がした。

 残念ながらここには医療ポッドを出せる程の場所はない。俺は苦虫を嚙み潰した様な顔をしながら栄養剤を出現させ水と共に飲ませる。


「ん……ぅん……」

「あ、起きた」


 意外にも反応は早かった。

 水を口に含ませると、彼は薄く目を開けその深紅の瞳に俺の顔を映す──


「!!」

「うおおっ!?」


──瞬間、彼は跳ね起き飛び退る。だがボロボロの身体だ、すぐに姿勢を崩して膝をつく。だがその顔は警戒心に満ちていた。手を差し出せば今にも噛みつかれそうだ。

 そして、彼が警戒しているのは俺が見ず知らずの人間だから、というだけではない。


「ミズリ、銃を下ろせ」

「しかし」

「大丈夫だから」

「……了解しました」


 少年が目を覚ました瞬間からミズリはずっとゲリエドラグーンの銃口を彼へ向けていた。まあ実際それが正解なのだろうが、明らか訳アリの幼子への対応としてはあまりよろしくない。

 それに俺だって保険を用意していない訳じゃない。実を言えば最初からシールドを不可視にして展開している。強度は落ちるが刃物くらいじゃ傷一つつかない。

 ミズリが渋々といった様子で銃を下ろすと、少し少年の警戒が解けて困惑が混じる。俺は外向きの声色で言う。


「あー、俺達は怪しい者じゃない。君がここで倒れていたから介抱しただけだ」

「……何の目的もなくこんな場所に来る筈がない」

「うっ」


 痛い所を突かれた。そりゃそうだ、わざわざ身なりの良い人間が発展した都市から離れてこんな路地裏をほっつき歩いているのには何か裏がある、そう思うのも当然だろう。

 実際には本当に趣味……乱心とも呼ぶが、本当にそれだけなのだがそう言っても彼は信じないだろう。


「……路地に居た理由はまあ一旦置いておいて、兎も角君に対して危害を加えるつもりはない」

「俺に何か飲ませただろう」

「只の栄養剤だ。重度の栄養失調で倒れていた相手に対して飲ませるのはそれしかないだろ?」

「……」


 俺の言葉に、彼は何か考え込む。

 もうそろそろ離れてもいいかなあ。栄養剤を飲ませたとはいえ、これ程即効性のある物ではない。本来ならピクリとも動かないくらいの健康状態らしいのにこれだけ動けているのだから元々の身体が丈夫なのだろう。ならあとは一人でどうにでも出来そうだ。


「まあ信頼してくれなくてもいいさ。俺はもう行くから後は自由にしてくれ。あ、何か伯爵に支援でも頼んでおこうか? 多少のコネならあ「ッ、やめろ!!」る……わ、分かったよ」


 見た目孤児っぽいし、サーシャなら引き取ってくれそうなのだがどうやら嫌らしい。


「……ここは何処だ」

「何処って……レードストーンだけど」

「それはレヴィドリアン星の都市か?」

「んん?」


 レードストーンはレヴィドリアン帝国の星である事は間違いない。ただ、今彼はレヴィドリアン"星"と言った。

 そして、俺の知識にある中でそう呼ばれる星はただ一つ──帝都だけだ。


「いいや、違うな」

「──ッ……」


 俺の答えに、少年は絶望の顔を浮かべる……ううん、厄介な事情マシマシそうだ。正直聞きたくないけど、ここまで来たらもう聞かざるを得ない。


「もしかして……帝都に行きたいのか?」

「……俺は帝都から来た。でも、戻る手段がない」

「どうやって……いや、やっぱ言わなくてもいいや」


 大方密航でもしたのだろう。それならば彼が言い淀むのも分かる。

 しかし、帝都か……連れていく手段はあるんだよなあ、都合の良い事に……。


「……もし連れていけると言ったら、どうする?」

「マスター?」

「!! 本当か!?」


 俺の言葉に、途端に彼の表情が明るくなる。


「ああ。偶然だがな、帝都への入星許可証を貰った所なんだ」

「頼む、俺を連れて行ってくれ……!」



「──と、いう訳なんだ」


 ミズーリの中で、俺は経緯を説明する。皆の反応は大体同じだった。


「夜空君……」と、苦笑いの達也。

「夜空、お前なあ……」と、眉間を押さえる先生。

「私は反対したのです。やはりリスクが高すぎます」と、苦言を呈すミズリ。


 唯一好意的な反応だったのはイリィだ。


「はじめまして! わたしはイリィなのです! あなたのなまえはなんなのです?」

「っ……」


 そういえばイリィも死にかけの時に達也に拾われた身、その少年とはシンパシーの様な物を感じるのだろう。

 そして、自分よりも下の少女にぐいぐいと詰められた彼は戸惑った様に目を泳がし、ぼそりと呟く。


「……グレイス」

「ぐれいす! いいなまえなのです! あ、わたしのイリィっていうなまえはあるじが……」


 うんうん、あっちは大丈夫そうだ。イリィが居てくれてよかった。


「夜空、少しこっちの部屋に来い」


 ああ、先生が呼んでいる。

 本番はこれからである。俺は待ち受ける説得に頭を痛めながら別室に入った。


高評価、ブックマークはモチベに繋がるのでよろしくお願いします

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