惑星レードストーン
さて、アスタルにて俺は『第三種帝国航行許可証』という物を貰った。これがあれば帝国領内の外側を自由に航行できるのだ。航行許可証はその名が示す通り三種類存在し、第三種、第二種、第一種となるにつれて帝国領内の奥深くを航行できるようになる。第一種ならばどこでも可能だ。
では、何故こんな物を入手出来たかといえば、レックスに教えてもらったとある法律を利用したのだ。
それは、警務隊が言っていた『帝国外交法第十五条』。これは未確認の宇宙知的生命体と接触した時に適用され、その者の星間国家がどの様な物か、乗る宇宙船に怪しい物が積載されていないかを調査した後、第三種帝国航行許可証を発行する、という物である。
宇宙は広く、如何に広大な領域を持つ帝国といえども未だ未確認の星間国家という物は無限に存在する。だからこそ未知の国家との接触などザラにあり、それに現場で対応できるように考えられた法である。
因みに何故レックスがアスタルを指定したかといえば、そこの警務隊が適当だからだ。臨検の時に金銀宝石を渡したら面白い程スムーズに進んだ。
そうしてアスタルにまず降り立ち、そこで資源を換金した。多分ぼったくられていたと思うけれどもまあいいだろう。
因みに換金した資源とは『魔石』である。どうやらこれは宇宙一般的には『コスモダート』と呼ばれているらしく、無限機関を作る際に用いられるレアメタルらしい。イルミスに降りたレックスは、その辺で大量に売られている魔石を見て大層驚いたという。
さて、アスタルでやったのはそれだけ。目的地である惑星──惑星レードストーンは三種で行ける場所にある為、早速ワープで向かった。
惑星レードストーン。アスタルより730万光年彼方に位置するレードストーン銀河に存在する惑星だ。
実は、レックスの養父……あの沈没船の艦長であった老人はレヴァルス・ゴールズ・レードストーン伯爵という帝国貴族であった様だ。彼の貴族としての領域はそのレードストーン銀河丸ごとである。
規模感がデカすぎてよく分からないが、これでも帝国貴族の中では中の上くらいの広さらしい。星間国家、やばい。
そして、その領域政府が置かれた惑星が惑星レードストーン。名前が同じなのでややこしいここに、レヴァルスやレックスの家族は住んでいる。
「……うわ、やば」
俺はただただ、そんな言葉を漏らす事しか出来なかった。
宇宙港に艦を留め、街へと出た俺達を出迎えたのは圧倒的な"科学力"の暴力であった。
視界を埋め尽くす程に林立する高層ビル群。その全てが高さ一キロはあるだろうか、ブルジュ・ハリファを優に超える巨大建築物が大量に建ち、それらを空中回廊が枝の如く無数に繋ぎ、建物の間を縫う様にこれまた無数のエアカーが飛び回る。
空中からでも見えたが、地上から見るそれはあまりにも圧巻であった。イルミスではファンタジーな光景しか目にしていなかったのでそのギャップで風邪をひきそうだ。
アスタルは辺境も辺境の惑星だったのでその発展具合も常識的な範疇だったが、これはもう理解が追い付かない。しかもこれでまだ日本で言えば札幌とか岡山くらいの規模感らしいので、一体帝都はどんな星になっているのだろうか。機会があればぜひ立ち寄りたいものだ。
「まさか生きてるうちにこんな代物を見る事になるとはな……」
「ほえー……」
先生がしみじみと言い、イリィは口を大きく開けて呆然としている。
そんな彼らを他所に、俺はスキル画面を展開しダウンロードした『レードストーンガイドブック』を開く。
レヴィドリアン帝国程の技術力にもなれば、個人で扱う端末は人体に格納される。その見た目はこのスキル画面と同じ、ホログラムスクリーン。帝国ではこれを『ヒューズム』と呼ぶらしく、科学と魔法、見た目は酷似していても俺達のそれとは別──なのだが、何故か俺のそれとは互換性がありデータファイルをダウンロードする事も出来た。達也や先生は無理だったのでやはり俺のだけが何かしら特殊なのだろう。まあそもそもスキル自体おかしいのであまり驚きはなかった。
そのガイドブックによればこの惑星にはタクシーがあるらしくそれに乗ればすぐにレードストーン伯爵邸まで行ける様だ。
観光もしたいが、まずは用事を終わらせよう。俺達は出待ちしていたタクシーに乗り込んだ。
さて、無人タクシーで街の間を抜けていく。因みに料金は先払いだ。
どうも無秩序に飛んでいるという訳でもなく、見えない道路があるらしくエアカーはそれに沿って走る様だ。このタクシーのみならず他のエアカーもその殆どが自動運転である様で、タクシーのAIに聞いてみた所どうやら「自動運転にしなければ保険が使えない」らしい。
最早人力よりもそちらの方が信頼性が高いという訳だ。それにしてもこんな技術レベルに達しても保険という存在は健在らしい。いきなり現実に引き戻された様な感覚を味わった。
そうして壮大な都市の景色に感嘆し、僅か五分程で目的地に辿り着く。
伯爵邸、という名前から勝手に中世ヨーロッパ風の屋敷を想像していたのだが、現実は単なる高層ビルであった。摩天楼の中の一つが屋敷……というよりも、レードストーン領伯爵府とい事務的な名前の建物である。
郊外に別荘はあるのだが、現伯爵とその家族はもっぱらここに住んでいるらしい。要するに県庁や市役所に住んでいるようなものなので、内部には簡単に入る事が出来た。武器などを所持していないかは簡単にチェックされたが、それだけだ。俺の場合不思議空間に収納されているので意味はないし。
ここからが問題である。当然アポなんて取っていないし、いきなり連絡した所で門前払いであろう。
ただ、そんな事はレックスも分かっていたのだろう。彼は秘密の暗号的な物を教えてくれた。俺は窓口に行き、そこのAIに向かってこう話す。
『どの様な御用でしょうか』
「伯爵に伝えて欲しい──「レックスから伝えたい事がある」と」
『かしこまりました』
「……君達か、あの言葉を言ったのは」
「はい」
「奥に来てくれ」
迎えの人間が来るまでにそう時間はかからなかった。
席に座ってひやひやしながら待っていた俺達の前に現れたのは一人の男性。紺のスーツを身に着けた、レックスと同じく白い肌、額に角がある長身のレヴィドリアン人である。
「だ、大丈夫なのかな……」
「多分、大丈夫……だと思うが」
彼のあとをついていき建物の中を歩く。俺の後ろで達也がそんな不安そうな声を漏らし、俺はそれに答えるが正直あまり自信はなかった。それでも素直に従ったのは、最悪スキルでどうにでもなるだろうと開き直っていたからだ。
そうして俺達はエレベーターに乗せられ、どんどん上階へ上がっていく。やがて辿り着いたのは、最上階の唯一の扉の前。
「伯爵、お連れしました」
「伯爵……!」
その部屋に入ると、そこに居たのは一人の老年の女性。
彼女は目を動かして俺達をぐるりと見渡すと、その目を閉じて呟いた。
「……居ないの、ですね」
その小さな呟きは、俺には届かなかったが達也には聞こえたらしい。彼はグイ、と前に出て言い放つ。
「レックスさんは確かに生きています!」
「……兎に角、座って下さい。そして聞かせてください、貴方達の話を」
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