超重力雲を突破せよ!
遅くなってすみません
「回廊が見つからない? も、もう一度確認してくれ」
「発見出来ません」
無情な宣告。目の前が真っ暗になりそうになる。何しろ、それはつまり俺達が帰る手段がない、という事に他ならないのだから。
しかし改めて考えれば分かる事だった。
レックス達がイルミスに墜落したのが十年前。少なくとも場所は分かっている筈なのに、帝国からの捜索隊はイルミスに来なかった。何故来なかったのか? その理由がこれだ。
一時的に消えるのか、あるいは場所が変わるのか──ともかく、今俺達が居るこの場所に回廊が無い、それだけは確固たる事実であった。
「どう致しましょうか」
「新しい回廊を探す……となるとどうなる?」
「タキオンレーダーを使用して超重力雲近辺を移動する事になります。所要時間は約12時間です」
「半日くらいならいいか。それでいこう」
と、いう訳でミズーリは一路回廊探しの旅に出て──
──結論から言えば、新たな回廊は見つからなかった。ワープで無理矢理飛び越える事も出来ない、となると最早とれる手段は一つだけ。
「シールド出力、重力制御最大。何とか突破するぞ!」
そう、強行突破である。
俺は操縦桿を握り締める。一瞬で手汗でべとべとになる。
「マスター」
「夜空君、大丈夫?」
「あ、ああ」
ミズリや達也が俺の顔を心配そうに覗き込む。
大丈夫だ、安心しろ自分。俺のスキルはミズーリを完璧に操る事、ミスなんてする訳がない。そう分かっていても緊張する。
「……ミズーリ、最大戦速」
「超重力雲進入まで残り5、4、3、2、1」
ガクン。ミズリのカウントダウンがゼロになった瞬間艦体が大きく揺れる。計器は悲鳴にも似たサイレンを鳴らし、シールドに高い負荷がかかっている事を報告している。
だが、ここまでは想定範囲内。計算が正しければ割と余裕をもって雲を抜けられる。
問題は、その計算というのが俺が神業みたくミズーリを操り、理論値レベルまでシールドへの負荷を減らせる前提で組み立てられているという事だ。
「周囲岩塊多数、十一時の方向より大型岩塊接近、数14、衝突まで12秒」
「対空防御全力射撃!!」
重力の渦に押し流されないように操縦桿を必死に操り、同時に流れてくる多数の岩を破壊していく。これらがそのままの大きさで衝突すると余計にシールドに負荷がかかってしまうのだ。
また、パルスレーザーやミサイルで破壊出来ない大きさの物はもう避けるしかない。エネルギーをほぼ全て移動とシールド、重力制御に回しているので主砲に割く分がないのだ。
そんな俺の焦りと緊張と恐れに反して両腕は素晴らしい動きをしてくれる。岩は華麗に避けていくし、重力の薄いポイントに的確に立ち寄り負荷を下げる。
スキルの力とは素晴らしいもので、このように俺の両腕は俺の思考を完璧に再現してくれていた。
──だが、そんな小手先の工夫だけではどうにもならない事もある。
「前方に巨大な重力の渦を多数確認」
「重力竜巻か!!」
俺は言う。彼女が指した方向では、確かに岩が高速で回転しまるで竜巻の様な風体を成している物が幾つも蠢いている。
重力竜巻。それはレックスから聞いていた宇宙で発生する災害の一つであり、通常空間では稀にしか発生しないこれはこの超重力雲内では頻繁に発生するという。
そして、アレに巻き込まれたが最後例えこのミズーリであろうとも確実に引き裂かれてしまうだろう、それがミズリの結論であった。
唾を飲み込む。汗が頬を垂れる。
「……っ、行くぞ!」
竜巻の間を抜けていく。ガクガクと艦が揺れ、ガタガタと震えるイリィを護るように達也が彼女を抱き抱えている。
少しのミスで全員が死ぬ、そんな状況だったが逆に言えばミスさえしなければ誰も死なない。俺は冷や汗を滝のように流しつつも毅然と前を見据え、操縦桿を操り続ける。
だが、如何にミスをせずともどうにもならない状況がやってくる。
「前方、重力異常感知」
「!!」
前方のこれから通ろうとしていた空間に渦が現れる。新たな重力竜巻が発生したのだ。
その幅は木星レベル、今のスピードでは避けられそうにない。
ここまで来て死ぬのか? 辛い仕打ちに耐えて、神まで倒したというのにそれとは全く関係ない所で、地球に帰れる目前で。
「……ッ、タキオンレールカノン発射準備!」
一か八か、賭けに出る事にした。ミズリ以外の全員が驚愕した顔をする。
「ミズリは変動重力場の計測、その計測結果を達也に送れ! 達也は指定した流れに艦を"接着"!」
「了解しました」
「じゅ、重力場に接着……了解!」
計測は数秒で終わる。
多くの重力竜巻によって引き起こされる複雑な重力の濁流。その中の1つ──目の前の巨大竜巻へと一直線に進む物に達也が艦体を"接着"する。
記憶を接着した時点で目に見えない物も対象になると分かっていたので何とかなるとは思っていたが、それでもやはり安心する。
ともかく、これで艦は何もせずとも竜巻へと進む事になる。俺は最低限のシールドと重力制御、生命維持装置以外の全ての動力を切り、エネルギーをタキオンレールカノンへと回す。
ピ、ピ、ピ、と電子音が鳴り響き艦首砲口に膨大なエネルギーが集約されていく。
「5、4、3、2、1……タキオンレールカノン、発射ァ!!」
刹那、眩い閃光に龍の如き咆哮が鳴り響き、光の濁流が放たれる。
それは周囲の重力などものともせず突き進み、やがて重力竜巻をも貫いた。
「前方の空間に重力穿孔が形成されました」
「動力接続、最大戦速フルパワー!! このまま突っ切る!! エネルギー再充填完了と共にワープで脱出!!」
タキオンレールカノンはその射線上を空間ごと削り取る。それは重力も同じ事であり、今目の前には一時的に無重力空間が生まれていた。そして、それならばワープが可能である。
一応万が一の為に事前に考えていた策ではあったが、不確実性の高い作戦だったので不安だったが成功して良かった。
結果として、ミズーリはワープに成功し無事にレヴィドリアン帝国国境外縁部へと辿り着いたのだった。
──────
イルミスより約45万2000光年の位置、銀河と銀河の間にある銀河間空間にぽつんと浮かぶ自由浮遊惑星──恒星の周りを回らない惑星──アスタルである。本来であれば到底人が住む事など叶わないこの惑星を、軍事上重要な位置にあった為にレヴィドリアン帝国がテラフォーミングしたらしい。
「あれがアスタルかあ」
達也が呟く。その視線の先には小さい赤茶色の球体とその周囲を回る小さな光があった。あれがアスタルであり、テラフォーミングの際に人工太陽を作ったのだそうだ。
レックスから、レヴィドリアン帝国に入る時はまずここに立ち寄れと言われていた。
理由としては、帝国領内を動き回る為に必要な書類を入手する為である。
「マスター、アスタルより通信が入っています」
「繋いでくれ」
ミズリが言う。恐らくはアスタルの警備隊か何かだろう。
彼女が操作すると上部のメインパネルに一人の男が映し出される。病的なまでに白い肌、深紅の瞳、額から生える角──レヴィドリアン帝国人の特徴である。
『──こちらはレヴィドリアン帝国アスタル惑星警務隊である。貴艦の所属と目的を示せ』
彼は日本語でそう喋った。ちゃんと翻訳は機能しているらしい。
一先ず安心し俺は返答する。
「こちらは地球連邦所属、宇宙戦艦ミズーリ。私は艦長の櫻井夜空、アスタルにて物資の補給を行いたい、入星許可を願う」
俺は自分達の事をそう示す。
地球連邦、SFでは常連の単語だが当然そんな統一政府は存在しない。正直に言えば言ってみたかっただけであり、ここの名前など大して重要ではないのだ。ここでの出身国は、現在帝国が知らない物であれば何でもいいのだ。
『……未接触の国家か。何処で帝国の事を知った?』
「帝国の船と接触した。その時に言語も」
ここは嘘ではない。ただその船が戦艦であり、既に沈んでいたというだけだ。嘘をつくコツは真実の中に混ぜる事だと誰かが言っていた気がする。
『そうか。帝国外交法第十五条に基づき対応する。警務隊所属艦がそちらに向かう、暫くそこで待機せよ』
「了解した」
そこで通信は切れる。俺は肩の力を抜き、ふう、とため息をつき椅子に深く腰掛けた。
ここまでは予定通り。レックスからの情報で、帝国に「未知の異星人と接触した場合の対処方法」がある事は分かっていた。だからこそ、わざわざ地球連邦などと名乗ったのだ。
しかし本業の軍人、それも宇宙人と喋るのはやはり緊張する。というかよくスラスラと言葉が出て来たな、俺。凄いぞ俺。
ほっと胸を撫で下ろす俺に、松本先生が怪訝な目を向け、言う。
「……スパイの経験でもあったのか?」
「ないですよ」
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