レックスの頼み事
第二部への繋ぎ第一話。
今回は残してたとある伏線を回収します。第28話『コントリール海の隕石』と第29話『とある探査船の記録』を読み返せば「あっこれかあ」となります
──これは宴の中の一幕。
「……おい」
「ん?」
ふと、メイテルの部下の一人が話しかけてくる。魔王軍の四天王、オーガの巨漢であるレックスだ。
そして、俺は彼の顔に見覚えがあった。以前会ったから、ではない。
「アンタ、宇宙人だったんだな」
「は? ……恒星間航行船を持っておいて、随分と前時代的な言い回しをするんだな。それは宇宙に出る事すら叶わない様な者達が言う単語だぞ」
「ははは……」
一発で地球の現状を看破され、俺は笑って誤魔化す。
さて、彼の顔をどこで見たのかというと、それはコントリール海に沈んでいた宇宙船で、だ。
あの時見た映像にて唯一脱出した乗員が、彼と酷似していた。体格は随分と成長しているが。
「そうだ、アンタに渡したい物があったんだ」
そう言うと、俺はある物を取り出す。
文字が刻印されたL字型の機械と金属の小さな板──あの沈没船で見つけた銃と、恐らくだがドッグタグである。あそこで眠っていた艦長の遺体から取ってきていたのだ。
ちなみにロケットペンダントは置いてきた。流石にあれを引き離すのは駄目だろう。
俺が取り出したそれらを見た瞬間、彼は目を見開く。
「こ……れ、は」
「海底で見つけた船の中にあったんだ。そこに記録されてた映像で、お前の事も知った」
二つを彼に手渡す。彼はそれを見つめ、次第にポロポロと涙を流し始めた。
「……俺がお前に話しかけたのは、これについてだった」
「そうなのか」
「ああ……あの戦艦を使えば探せるだろうと思ってな」
彼は続ける。
「帰路は分かってるのか?」
「アンタの艦から拝借させてもらった。ほら」
星図を空中に投影する。そこには既に、イルミスと地球が赤くマーキングされている。
それを見つめ、彼は苦い顔をする。
「これなら殆ど通り道だな。しかし5億2400万光年か……随分と遠いな。大体三年くらいか?」
「ん? いや最短二か月で着くらしいが」
「はあ? そんな訳あるか」
彼は言う。
まず、彼が所属していた国は『レヴィドリアン帝国』という星間国家らしい。宇宙の半分を支配する、などと呼ばれている巨大帝国であり、そこから出立した探査船のクルーなのだという。
そして、レヴィドリアン帝国にある平均的な軍艦では5億光年を進むのに約三年、最も速い艦でも二年はかかるらしい。だからこそ、二か月で着くなど有り得ないのだと、彼は言う。しかし、有り得ないと言われてもミズリが言った事なのだから信じるほかない。
「本艦に装備されたワープリアクターは一度のワープで最大800万光年の跳躍が可能です。その場合には10時間のインターバルが発生します」
「なんだその性能は……」
どうやらレヴィドリアン基準では常識外れの数値だったらしく、彼はミズリの言葉に絶句する。付け加えておくと、我らが地球が存在する天の川銀河の直径が約10万光年なので単純計算で一度のワープで天の川銀河を80個飛び越える事が出来る。ぶっちゃけ想像出来ない。
更に付け加えておくと、今彼女が言った数値ですらも過少申告であり、本当は最大900万光年、インターバルは8時間でいい──と言われても、やっぱり想像出来ない。
「……あまりその性能は言いふらさない方がいい。確実に狙われるぞ」
「アンタの反応を見る限りはそうっぽいな」
「まあお前が死ぬとは思えないがな」
ははは、と苦笑した所で本題に戻る。
「じゃあ改めて、お前に頼みたい事がある──」
──────
「メインノズル点火」
「ミズーリ、発進!」
未だどんよりとした、しかし若干透明度を回復させてきたようにも思える魔界の海。そこを一隻の戦艦が進む。
そして、ミズリと俺のその声と共に艦尾のメインノズルから一気に火が噴射され巨大な水柱を上げる。同時に前方艦底部のノズルも起動し艦体を前方斜め上へと押し上げる。
こうして、浜でメイテル達が見つめる中、俺達を乗せたミズーリはイルミスを発ったのである。
今の地球の技術であれば、第一宇宙速度だとか自転の方向だとかスイングバイだとか宇宙に出るには様々な条件を正確にクリアしなければならないが、このミズーリに搭載されたエンジンが生み出す無限のエネルギーはそれらを全て無視させてくれる。
そうして易々と大気圏を脱出したミズーリは、早速アレ──ワープを試す事となった。
「航路計算完了。やはり超重力雲に捕まります」
ワープに必要な諸計算を行っていたミズリが言う。
超重力雲──それは、レックスに教えられたこのサーレンス銀河に存在する超重力宙域の事であり、イルミスはその宙域の内部にあるらしい。それのせいで、この辺りは長らく誰も辿り着く事が出来なかったのだ。
その領域の中では常にあらゆる方向からの計算不能な超重力に引っ張られ、侵入しようものならばどれだけ頑丈な艦であっても重力によって引き裂かれてしまう、死の領域。
レックス達の乗った探査船はその領域に唯一存在する弱重力の回廊を発見し、そこを通る事でここまで辿り着いたらしい。尤もその回廊ですらも安全とは言い難い様で通るにはかなりの困難を要したようだが。
ワープで飛び越えてしまえばいいじゃないか、と思うかもしれないが、その重力によって空間が捻じ曲げられており、どうやってもその領域直前に放り出されてしまうらしい。それはミズーリとて例外ではないようだった。
「航路再計算、例の回廊に向かおう」
「了解。再計算開始……完了、ワープまであと300秒」
「全艦に通達、本艦はあと五分で最初のワープに入る。総員宇宙服着用」
かっこつけて通信機に向かって喋ったが、実を言えば乗っている全員──コールドスリープ中の奴等は除く──この第一艦橋に居て、既に着替えは済ませ更にシートベルトまでつけているのだが。
コンソールの画面にピコピコという音と共に三つの波線が動いている。これは現在俺達が居る次元、その対称となる逆次元、そしてワープで通る次元の次元波を示しており、これが三つ重なって初めてワープを行う事が出来る。
これを目押しで──とは勿論ならず、そこら辺は流石に機械が勝手にやってくれる。三つ重なった瞬間に自動でワープ空間に入るのだ。
艦が加速する。ワープは突入時の速度が光速に近ければ近い程精度が上がるらしい。
「5、4、3、2、1──」
「ワープ!」
かくして、ミズーリは蒼い光を纏って別次元へと消え──
──蒼い光が集まり、艦体が形成される。
「───っ、あっ、はァっ、はァっ……」
それは一秒にも満たない僅かな物にも、数日にも及ぶ長い物にも感じた。艦内時計は俺が引いた時間の僅か10秒後を示していた。目覚め、時計の方に向くまでがそれくらいの時間である筈なのでワープ中には時間は全く経っていないのだろう。
事実はさておき、少し遅れて矛盾した感覚が脳を狂わせる。視界は歪み、時間が加速と減速を繰り返す。
「よ…………だい…………」
「だい………ぶな…で…」
虚ろな視界の中、達也とイリィが慌てた様子で何かを言っている。その言葉も加速、減速を繰り返すのでまともな物には聞こえない。
助けてミズリ、俺は心の中でそう念じる。
「たい………もさ………う……たいお………こうち…かん……う…じ……うし……」
「え、そ……い……うぶ……」
そうして、彼女が何かを言う。このタイミングで言うのならきっと何かしらの対策なのだろう。俺は無我夢中に承諾する。
「──いぎぃッ!!??」
次の瞬間、脳内に鋭い痛みが走る。視界が明暗し意識は遠のく。体が一気に弛緩し、俺は席のモニター類に突っ伏した。
「脳の再起動を行いました」
「な!? だ、大丈夫なんですか!? 両目があらぬ方向を向いてますけど!?」
「問題ありません。身体への影響は完全に計算されております……しかし、少し異常ですね」
「駄目じゃないですか!?」
「つばたれてるのです……あ、おもらし」
「え」
「俺が医務室に連れていく! 斉藤、場所は分か──」
「単純なワープ酔いです。あの対策で完治する筈だったのですが……計算にエラーがあったようです。申し訳ございません」
「ワープ酔い、ね……酷い目にあった……」
そうして目を覚ました時、俺は医務室のベッドに寝かされていた。先生が運んで医療ポッドに放り込んでくれたらしい。
ワープを行った際、慣れていない人間にはワープ酔いと呼ばれる症状が発生する。原因はワープの為に別次元に突入した事による脳の認識の矛盾であり、通常は少し経てば解消していく所をミズリは一瞬で治そうとし、脳を再起動させたのだ。その結果がアレである。
因みに他のメンバーは酔わなかった。根本的な身体の強さが違うのだろう。まさかこんな所で身体スペックの差を思い知らされるとは思わなかった。
まあそんなアクシデントもあったものの俺達は無事第一回目のワープを終えたのである。
そして、第一関門である超重力雲の回廊へと突入するのだった──と、思ったのだが。
「マスター、回廊が見当たりません」
「……はい?」
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