最終決戦(後編)
『タキオンレールカノン』──それは、ミズーリの艦首に装備された決戦兵器である。
複数のタキオン粒子を光速以上に加速させ、それを衝突させる事によって発生する莫大なエネルギーを熱に変換、正面へ発射する。
その威力は惑星どころか太陽レベルの恒星ですらも破壊出来る程であり、その高すぎる威力からこれまで使う機会はやってこなかった
ちなみにそのまま放つ収束モードと、ある程度進んだ所で拡散させる拡散モードが存在する。もし撃つとすれば、帰り道にどこかの宇宙艦隊に対してとかそんな物だと思っていた。
何しろ、主砲ですら過剰火力となる世界である。それを遥かに超える代物など使う事などないと思っていたが──
「──神、撃つ対象としてこれ以上の奴は居ない!」
「艦首タキオンレールカノン発射準備。非常電源に切り替えます」
メインエンジンの動力が発射機構に回された事で重力制御が弱まり、ガクン、艦が少し揺れる。内部のランプが赤くなり、エンジンのフライホイールの回転が激しさを増す。
黙って見ているイルミスではない。彼の周囲に一本一本が高層ビル程もありそうな巨大な光の剣が現れ、すぐに発射される。
「艦首魚雷発射管開け!」
「艦対空ミサイル装填……完了、発射します」
六本のミサイルが放たれ、それらは正確に剣へと命中、爆散させる。だが、これで終わりではない。
「高エネルギー反応を感知」
「回避運ど──いや、駄目だ」
イルミスの右掌にエネルギーが充填されていく。それを避けようとして──その照準の先にある物に気付き、やめる。その手は斜め下に向けられており、俺が避ければ地上に──達也達に命中してしまう。
だが、シールドは使えない。インターバルは既に終わっているがエネルギーをそちらに向ければここまで進めた発射準備が全て無駄になる。
「……側部ミサイル発射管に重力アンカー装填」
「了解。装填完了しました」
考えた末、俺はある〝賭け〟に出た。
「目標、惑星円環! 小惑星を艦の周囲で回転させて盾にする!」
俺の指示で重力アンカーが次々と射出され、惑星の周囲にある紫色の環に向かっていく。その環を構成しているのは無数の紫色の岩塊であり、そこに突き刺さったアンカーは早速重力制御装置を起動させてその周囲の岩塊ごとこちらに降下させる。
それに気付いたのか否か、神の掌の光が強くなり、そして発射された。金色のビーム。これまで経験したどれよりも強力なそれはこちらに向かって突き進み──
「──防御成功。引き続き回転を続行します」
──それは、直前で割り込んだ無数の岩塊によって食い止められる。幾つもの岩塊が蒸発したが、止める事には成功した。
これは後から知った事だが、実は円環を構成しているのは巨大な魔石であり、魔力への耐性が非常に高いのだ。だからこそ、純粋な魔力によって構成された神の攻撃をも防ぐ事が出来たのである。
「加速器へのエネルギー注入開始」
「粒子加速器へ動力接続、タキオン粒子増幅開始」
そんな蘊蓄はともかく発射準備を進めていく。艦の周囲では未だ岩塊が回転し続け、向けられる剣や砲撃を迎撃している。爆音が轟き周囲が焔で赤く染まる。
「粒子加速開始。エネルギー充填率50パーセント」
正直仕組みなど全く理解していない。マニュアルが全て頭に入っており、それを淡々と進めているだけだ。
だが、今はそれでいい。ただ目の前のコイツを倒せればそれでいい。
「ターゲットスコープオープン、電影クロスゲージ、明度10!」
「ターゲット、動き出しました」
艦長席のコンソールから拳銃の様な形の発射機がせり出し、スクリーン状の照準器が持ち上がる。それを握り、イルミスへと照準を合わせる。
そこで何が起こるかを察したのかイルミスが動き出す。照準器を動かして位置を調整するが間に合わない。だが、こんな事で取り乱す俺ではない。
「アンカー射出、目標イルミス!」
「アンカー射出用意、完了。発射します」
艦首付近に二基装備されたアンカーが勢いよく射出される。それは噴煙を曳きながらイルミスへと向かっていく。彼は迎撃しようとするが、差し向けられた攻撃は岩で阻むか巧みな動きによって避け、それは彼の身体にめり込んだ。
だが、浅い。こんな物ではすぐに抜かれてしまうだろう。
「……頼むぞ」
しかし俺は確信していた。彼がやってくれる事を。
──────
「っ!!」
時は少し遡り、地上。そこではメイテルと達也が戦っていた。
二人の間にある実力差は絶望的であった。片や魔界を治める魔王、片やスキルを得て数ヶ月の男子高校生。彼が一閃する間に彼女は十回打ち込んでくる。
今彼が生きているのは、ひとえに洗脳のお陰で彼女の力に類稀な技量が乗っていないからであった。
彼女が力を入れて剣を打ち込む。彼は自ら後ろに飛ぶ事で衝撃を受け流す。だが、そんな彼に彼女は追い付き、再び剣を振るう。それを辛うじて受け止め、更に弾き飛ばされる。
そんな時、彼女が何かを呟く。瞬間、その眼前に直径2m程の赤紫色の魔法陣が形成され、そこから深紅の光線が放たれる。
「"プロテクション"!!」
その対象は当然達也。彼は咄嗟に防御魔法を展開し──それは三秒ともたずに破壊される。
だが、三秒あれば十分だ。体勢を立て直し、自らの剣を前方に構える。
「"接着"──」
あの時、あの天使との戦い。最後に掴みかけた何かをここで具現化する。そうしなければここに居る皆が死ぬ!
たった一秒にも満たない、その僅かな時で彼は全神経を研ぎ澄ます。
あの時の痛みを思い出せ。かつての蔑みを思い出せ。あの手、あの足、あの言葉、あの視線。
そうして燃えた憎悪の焔を現世に引き摺り出し、"接着"する。
「──"憎炎"!!」
どす黒い炎が彼の剣を包み込む。それを前に彼は深紅の光線へと突撃した。
身体が焼けるように熱い。それなのに無性な虚無感が視界を覆い尽くさんと追ってくる。だが、彼はひたすらに前に進み続ける。
「"フェリアス・ヴィリウェル・カリエード"」
その間に詠唱を行う。それはかつて、天使ですらも一瞬だけだが動きを止めるに至った魔法。
身体のあちこちに酷い火傷を負いながらも光線を突破した瞬間、彼は叫ぶ。
「"トリアルヴィン"!」
「……!」
不可視の弾丸が彼女に突き刺さる。瞬間、彼女の動きが止まり、驚愕で目を丸くする。
だが、これで終わりではない。あくまでも一時的に動きを止めるだけの魔法だ──操られているだけの魔王には悪いが。
「今のうちに手足を切り落と──!?」
と、剣を振るおうとしたその瞬間、上空から何かがめり込む様な音が聞こえてくる。
彼が反射的にそちらを向くと、そこではどういう訳か神の体にアンカーをめり込ませているミズーリの姿があった。
「駄目だ、あれじゃ浅い──ッ!」
その様子に、彼は夜空と同じ感想を抱く。そして、彼──斉藤達也という少年には、あれをどうにかする手段があった。
だが、今それをしている時間はない。魔王を止めていられるのは僅かな時間だけ、今のうちに無力化しなければ──
「──っ、僕、だって!!」
──決断は、早かった。
「──"接着"!!」
これまで出てきた魔法揃い踏み
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