最終決戦(中編)
──それはさておき、俺は俺でやるべき事がある。
『最後に問う。汝は神に逆らうか?』
「ああ、俺はお前を倒して地球に帰る」
『……不届き物に天罰を』
彼のそんな声が聞こえた瞬間、周囲の天使達が一斉に襲い掛かってくる。剣が、矢が、槍が、魔法が、ありとあらゆる方向から飛来する。
四枚羽根の天使は九人いる、あれが十大天使だろう。エディエルが死んだから九人なのだ。つまり、あいつらはアレと同等の力を持っている。二枚羽根の天使はそれよりかは劣るだろうがしかし強大な力を持っている事には変わりない。そして背後に控える神、あの力など未知数だ。
「マスター、只今帰投致しました」
そこでミズリが帰ってくる。彼女はサポートAIだ、この艦は俺と彼女、両方が居て初めて本当の力を発揮出来る。彼女が席に着き、それで俺達の準備は完了だ。
天使に囲まれる、きっとこの世界の住人ならば絶望する状況なのだろう。メイテルですらそうなのではないだろうか。実際、生身ならば俺も死を覚悟していた筈だ──
「全兵装使用自由‼ 各主砲、ミサイル、対空砲発射用意‼」
「了解。対空戦闘用意」
──だが、今俺は宇宙戦艦に乗っているのだ。
主砲が動く。砲塔が回転し、砲身がそれぞれ仰角をつける。艦首、艦尾魚雷発射管、側部のミサイル発射管の蓋が開く。ハリネズミの様に設置された対空砲がせわしなく動く。
それは自動で迫りくる目標を捉え──
「──発射ァ‼」
──次の瞬間、一斉に放たれた。
轟音と共に放たれた青白い主砲が天使を貫く。爆煙を曳いて飛ぶミサイルが高速機動する天使を正確に捉え、爆炎の中に沈める。無数に放たれる赤いパルスレーザーが放たれた矢や魔法を次々と迎撃していく。
その姿は正に鬼神。数で言えば数百倍もの差があったのにも関わらず、開始から僅か十数秒でその数は半分以下にまで撃ち減らされていたのだから。
生き残っていた十大天使が一柱、ガリエルは戦慄した。
「な、なんだ、あれは」
「ガリエル様! ハズニエル様、ウィンズエル様、コルニエル様討ち死に! ハリエル様とホンエル様の両名も消息不明です!」
「な……」
部下からの報告を受けて彼は絶句する。
一柱で一国を滅ぼすだけの力を持っている十大天使が、今の一瞬で五柱が殺されたのだ。到底有り得ない、有り得てはならない事だった。
「クッ……致し方あるまい」
彼は覚悟を決め、自らの〝真の姿〟を解放する。
蛇の様な下半身、人間の上半身に八本の腕。背からはドラゴンのそれの様な翼が生え、また頭部は石の仮面で覆われている。それが大天使ガリエルの真の姿であり、本来信徒の前ではイルミスの許可無く曝け出してはならない物だ。だが、彼はこのままでは全滅してしまうと判断しこの姿になった。
この姿になると防御力も攻撃力も大幅に向上する。彼は極大魔法を発動させ、瞬時に金色のビームを発射する。
先程エリスフィーズが放った物とほぼ同等のそれはミズーリの側部に命中し──
「──戦艦が簡単に沈むか!」
「なッ、みぎゃ」
──たが、効かない。正確には効いてはいるが、第一装甲板を僅かに破壊しただけに留まった。因みにミズーリには三重の装甲が張られている。
それに驚愕し、一瞬硬直してしまった彼に主砲が直撃する。貫通モードかつ三本が収束した陽電子ビームによって彼の身体は一瞬の内に蒸発した。
「被害報告!」
「右舷前部に被弾、損害軽微」
「よし!」
攻撃が命中した部分の被害を確認し、俺は戦闘指揮に戻る。とはいってももう残っているのは僅かであり、最初の一割も居なかった。
「第一、第二、第四主砲発射用意、目標、イルミス!」
そうして俺は、艦前方に設置されている三つの主砲を未だ何もしてこない神イルミスに指向させ、すかさず発射ボタンを押す。三本が三基、計九本の陽電子ビームが捻じれ、収束し一本の巨大なビームとなってイルミスに向かう。
果たして、それは命中した。爆発が起こり、イルミスの身体が黒煙に包まれる。
「……まじか」
だが、煙が晴れたそこには依然として無傷の彼の姿があった。
『愚かなり人間……』
脳内に再び声が響く。
『我は神。下界の穢人が何をしようが変化を与える事は出来ないのだ』
「……その割には部下の天使は呆気なくやられてる様だが?」
『あれは我の極一部が乖離し、意志を持ったに過ぎぬ。汝は我の〝垢〟相手に善戦しているのみ』
「へえ、垢、ねえ……気持ち悪い言い回しをするんだな、神の癖に」
ここまでの戦闘を見て〝善戦〟という言い方をしている時点で悔しさがにじみ出ている。また、そこまで言うのならば今ここで補充すればいいのにそれをやってこない。つまり、天使の補充には時間がかかるという事だ。俺は確実に神にダメージを与えている。
これは彼が知り得ぬ事だが、実際神は焦っていた。
まず、戦艦の存在そのものに。櫻井夜空には魔力が無く、そのスキルも〝神が与えた物ではない〟。斉藤達也の様に与えた上で謎の変異を遂げたのではなく、そもそも存在を知らないのだ。
故にここまでその動きを見る事は叶わず、その力の正体も分からなかった。が、ここに来てその力を〝熱心な信徒〟であるエリスフィーズ達の前で表した事で漸く知る事が出来、同時に確信したのだ。これは、かつてこの地にやってきたあの船と同じく滅ぼすべき存在である、と。
だからこそイルミスは自らの力の大半を使ってでも現世に降臨し、相対した。そして、手駒である天使が壊滅して唖然とした。
天使は垢の様な物、それは間違っていない。だが、垢を自らの意思で生み出す事が出来ない様に天使を作り出す事は不可能なのだ。実に数万年もの時をかけて増えた天使が、ものの数分で全滅した。こちらの方がより焦っていた。
だが、それを表に出す事はない。ただ毅然と、上位者の様に振舞っている。
さて、ここで彼が取り得る行動は二つ。一つはダメージを完全に遮断するギミックを解明する事。もう一つは。
「──タキオンレールカノン発射用意!」
──無効化出来ない程の火力をブチ込む事である。
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