再会、そして決戦
「松本先生……」
「斉藤、よく頑張ったな」
さて、動画を見終わった俺達は魔界を訪れた。松本先生を迎えに行く為である。
達也は彼とかなり久しぶりの再会であり、そして先生はやはり〝大人〟の包容力で迎えてくれる。
そんな再会はともかく、俺は日本へ帰る準備が整ったと彼に伝える。彼は驚き、しばし逡巡する。
「正直……信じられないんだが」
「僕もです。でも、僕はスキルを──ミズリを信じています」
「……そうか」
彼はしばらく目を閉じ、意を決した様に開け、言う。
「分かった。俺も共に帰らせてもらう事にしよう」
彼は悩んでいたのだ。これまで世話になった村人達への恩をまだ返せていない、そう考えていたからこそ、自分が勝手に帰っても良いものかと。
だが、彼は教師である。自分には導かなければならない教え子が居る。斉藤達也という生徒を殺害しようとし、櫻井夜空という生徒を苦しめた者達を矯正する義務がある。
彼は村人達に感謝と謝罪を告げる。彼らもこれまで村に尽くしてくれた先生に感謝していた様で、喜んで背を押す所か村を挙げての送別会まで開いてくれたのだ。
多種多様な料理を囲み、酒を呷る。騒ぎは一晩中続き、朝日が昇る頃に出発する事になった。
「村長、皆さん、本当にこれまでありがとうございました!」
並んで見送る彼らに先生は頭を下げ、コスモエーゼルに乗り込む。エンジンを始動させ、機体がカタカタと揺れる。俺は村人達から先生への激励を聞きながら離陸させた。
ああ、心温まる良い光景だった。この世界がこんな光景で溢れていたら良いのに──きっと、次に向かう場所ではどうやっても見る事は出来ないのだろう。そして俺も、笑顔にはどうやってもなれないのだ。
どうにか穏便に済みます様に。そう願いながら俺は機首を王都ハルメスに向けるのだった。
この時、俺は慢心していた。クラスメイト達に対して〝面倒な事になるだろう〟とは思っていたものの〝負けるかもしれない〟とは全く思っていなかったのだ。
しかし、俺は思い知らされる事になる。
魔法という物の──神という存在の恐ろしさ、そして強大さを。
──────
『櫻井夜空を──殺しなさい』
そんな神託が下ったのはその日の朝であった。
悪夢──櫻井夜空によって人間界が滅ぼされる夢を何度も見て眠れなかった彼女、エリスフィーズの脳内に突如そんな言葉が降ってきたのだ。同時に、膨大な力も。
今ならば魔王ですらも一蹴出来るだろう、そんな自信すらも抱かせるその力は──しかし、櫻井夜空への恐怖を取り除くには至らない。ドンドンとドアが叩かれ、部下や如月が彼女を呼ぶ声が聞こえてもなお布団に籠り続け、顔を蒼白にさせて震えていた。
「いやです……私には……」
力無い声で微かに呟く。本来ならば何よりも最優先にしなければならない〝神託〟ですらも彼女を動かす事は出来ない。
だが、そんな彼女すらも動かす事態が発生する。
「──ッ⁉」
召喚者に掛けられた魔法──発信魔法。対象が何処に居てもすぐに分かるそれを、彼女は見て見ぬふりをしてきた。コントリール海に居ようが魔界に居ようが最早どうでもよかった──寧ろ、自分から離れてくれるならば喜んでいた程だ。
だが今、その反応がこちらに向かってきている。一直線に、王都へ。
「そ、そんな……」
彼女は最悪の想像をした。せざるを得なかった。無断で精神に侵入した自分へ改めて復讐しに来たのだと。
その〝恐怖〟は彼女のありとあらゆる物を押し流す。気付けば彼女は布団から飛び出し、引き留める声も聞かずに駆け出していた。
逃げる? 違う。そんな事は不可能だ。別の大陸どころか『世界の壁』すらも意に介さず動き回る彼から逃げる事など出来る筈がない。例え隠れていたとしても〝見つかるかもしれない〟という恐怖は彼女の精神を蝕み、やがて剣で自らの首を貫く事になるだろう。
ならば、彼女が取る手段は一つしかない。
「……」
彼女は西の空を睨み付ける。反応が近付いて来ている、そんな空を。そこへ杖を向け、魔力を高めていく。
神によって強化された魔力は金色のもやとなって可視化され、彼女の身体から湧き出てくる。全能感に脳が支配されていくのを理性によって抑えながら。ただひたすらに集中力を高める。
「エ、エリス! 急にどうしたんだ……そんな事よりも、君も受けたのかい? あの神託を」
「エ、エリスフィーズ様? どうされたのですか?」
部下達が追い付き彼女へ声をかけるが、応答はこない。不審に思った彼らも彼女の視線の先を見て──そして、発見した。
「あ、あれは……⁉」
そこにあったのは一つの影。この世界では〝ある一つの可能性〟を除いては絶対に見る事の無い物──飛行艇。皆が驚く中、彼女は叫ぶ。
「〝光の神よ、我に力を──〟」
それは、詠唱。彼女が使う事の出来る最強の魔法。
「──〝アルカンシェル〟‼」
瞬間、彼女の構える杖の先端が輝き、そこから七つ七色のビームが発射される。それは少し進んだ所で収束し、一本の金色の極太ビームとなって空に向かって突き進む。
それはまるで意志を持つかの様に空を悠々と飛ぶコスモエーゼルに向かっていき──
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