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コントリール海の隕石

 そのシルエットに俺は驚愕する。 

 例えるならば長い直方体を縦に2つ重ね、そこに塔や砲塔を載せた様な物───とどのつまり、形は変だが戦艦、それが海底に横たわっている。その砲塔から生える砲身の様な物は殆どが千切れ、艦体のあちらこちらに孔が空いてはいるものの、概ねの形状は残っていた。

 水上艦の面影こそあるものの、明らかに水上で使うには適していないこの形状。恐らく───いや、確実に当たりだ。


「これが、"コントリール海の隕石"、か……!」


 俺の予想は当たっていた。

 この星───イルミスには、俺達よりも先に宇宙人が尋ねていたのである。


「どこか……入れそうな場所はあるか?」

「1時の方向に破孔を確認しました。そこからであれば侵入が可能だと思われます」

 

 彼女の言う通りの方向へ機体を進める。サーチライトが横たわる艦体表面を照らしていく。全体的な形としては平面だが、よく見ると細かな凸凹が付いている───その特徴は、城で見たあの破片と同じだった。

 

 重力制御装置を起動し、破孔から内部に侵入する。

 内部は様々な貝が付着し海藻が生えている。一見すると単なる地形にしか見えないが、その表面を覆う物を軽く払うと金属が顔を出してくる。

 間違いなく、そこは宇宙船の内部だった。


「……ん?」

「どうした?」

「あれ、水面じゃない?」


 達也が指を指した方向に進んでいくと、そこには確かに水面らしき揺らぎがあった。俺はシールドの遮断する物質に空気も含み、慎重に上がる。

 暗視スコープを着け、内部を見る。貝や海藻などは一切無く、幅2メートル程の未来的な通路が続いている。


「現在外気温3度、湿度99.8%。大気構成、窒素76.22%、酸素22.91%、アルゴン0.81%、二酸化炭素0.052%。有害物質は確認出来ません」


 数値上はシールドを解除してもよさそうだが、念の為にこのままにしておく。実を言うとシールドによって空気が遮断されている為、温度も一定に保つ事が出来るのだ。多分ここで解除したらヤバいくらい寒くなる。

 そうして通路の中を進んでいく。ひび割れた壁、垂れ下がるワイヤー。いかにも廃墟といった様子だが金属表面は錆びていない。

 エレベーターらしき場所に辿り着くが、当然そんな物は動かない。上部ハッチを開けてそこを上がり、出たそこは艦橋の内部だった。

 そこは四角い空間だ。

 前方に2つ、左右に1つずつ、中央に2つ、そして後方の1段上がった場所に1つの席とコンソールが設置されており、背後以外の3つの方向を見渡す事の出来る水平連続窓はヒビが入っているものの水が入るまでには至っていない。

 上部にはミズーリと同じ様な大型モニターが置かれ、しかし割れており何も映さない。

 そして最後に1つ付け加えると───1段上がった場所の席には白骨死体が座っている。不可解なのは頭蓋の額から1本の角が生えている事だが、宇宙人だからという事で納得しておく。


「ほねなのです?」

「多分……この艦の艦長だろうな。ミズリはコンソールの解析を、達也とイリィちゃんは他に何かないか探してくれ」

「了解しました」

「分かった」

「わかったのです!」


 彼、もしくは彼女の胸元に付けられた勲章の様な物を見て答える。俺はそれに近付き、席から慎重に下ろす。死体漁りはあまりしたくはないが、少しでも帰還への手掛かりを見つけられる可能性があるのであればするしかなかった。

 ナンマンダブと手を合わせ、遺体を漁る。右手には銃らしき物が握られ、側頭部には孔が空いている事からここで自決したのだろう。


「妙な形の銃だな」


 銃らしき物、とは言ったがそれは地球で使われているそれとは全く形が違っていた。地球の銃は銃身に対して下向きにグリップが付いているが、それは上向きに付いておりその先端にボタンがある。死体の指はそれを押していた。

 星ごとの文化的差異を感じつつゴソゴソと漁ると、ペンダントの様な物を見つける。それはロケットペンダントで、中の写真には細身で長身の青年とそれより一回り程小さな女性───両方とも額には角が生え、肌は完全な白、瞳は赤だ───が隣り合って映っていた。青年の方は軍服の様な物を着ているので恐らくこの遺体の若い頃なのだろう。


「マスター、再起動の準備が整いました」

「再起動出来るのか!? や、やってくれ」

「了解しました」


 これだけボロボロだというのにこれらを再起動する事が出来るらしい、その頑強さに感嘆する。

 ミズーリの機関からエネルギーを送って何やら複雑な操作を行い、ものの数十秒でその部屋に光が灯る。天井や床のライトが灯り、パネルには何やらよく分からない表示がなされ、機械音が鳴り響く。


 そんな中操作し続けた彼女は、遂に"それ"を発見する。


「マスター、星図らしきデータを発見しました。照合を開始します」

「マジか!!」


 そう、星図である。イルミスが一体この宇宙の何処にあるのかが分からない俺には最も重要なデータ。


「照合中……完了。我々の現在位置が判明致しました」


 そして、それは期待通りの働きをしてくれた。


「───うぇ?」

「───え?」


 俺と達也の声がシンクロする。彼女はいともアッサリと俺が一番望んでいた情報を話したのである。


「本惑星イルミスは地球より約5億2400万光年の位置にある10.42276-2.55308β超銀河団に所属しています」

「意味が分からないが、帰るとしたらどの位かかるんだ?」

「最速で二か月です」

「二か月……! よ、夜空君!」

「ああ……」


 達也が歓喜と驚愕を混ぜた表情でこちらを見る。それに俺は頷き、言う。


「──帰れるぞ‼」


 二か月、それは確かに長い時間ではあるものの果てしない、という程でもない。それであの日本に帰る事が出来るのであれば寧ろ短い位だ。

 ああ、ここまで長かった。ここで経験した様々な事が走馬灯の様に流れていく。状況がイマイチ分からず困惑するイリィを他所に俺達はその余韻に浸り──そして、まだ解決しなければならない事が数多くある事を思い出す。

 まず、イリィをどうするか。彼女は達也以外に帰る場所が無い。元の家族は分からず、また彼女も彼が行く場所ならば何処へでも着いていくと決めている様だ。しかし日本でその耳と尻尾は……という懸念を俺が漏らすと、達也が答える。


「まあ軽い幻覚魔法なら僕は使えるからそれで何とか出来るかな……問題は家族にどう説明するかなんだよね」

「そこは……まあ、何とかなるだろ」


 次に考えるのは他のクラスメイトや神について。あいつらを連れて帰るか、そして帰った後に神とやらに何かしら介入されない様にするにはどうすればいいのか。

 感情的になってみるとクラスメイトはここに放置していきたい。だが、先生はきっと彼らを見捨てる事はしないだろう。何とかして記憶やスキルを消す事が出来るならばいいのだが……

 また、神に関してはこちらからはどうする事も出来ない。奴らが何処に居て何が出来るかもよく分かっていないのだから。一先ずは相手が仕掛けてきたら何とかする、でいいだろう。


「マスター」

「ん? どうした」


 と、そこで未だコンソールを操作していたミズリが言う。


「動画ファイルを発見しました。再生致しますか?」

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